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 ユーリと再会した翌日、自分の中では恒例の、朝(もう昼前だけど)の反省会である。


 中身はほぼテオバルトだと思ったら、体力はAランク冒険者だったんだよ。

 何なのアレは。絶倫ってやつですか。この世界の男は皆そうなの?

 明け方までの記憶が飛び飛びなんだけど。


 ちょっとは手加減しろ───っ。


 心の中で絶叫した。

 初めての初々しさは、どこに置いてきたのか問い詰めたい。

 ユーリは、出掛けていないけど。

 あ、名前は昨晩から呼び捨てです。


 彼は、Aランク認定の為一昨日から王都にいたらしく、泊まってた宿を引き払いに行った。

 しばらくココに泊まって、一度地元に帰ると言ってたけど、悪い予感しかしない。


 と考え事をしている間に、ユーリが帰ってきた。自分の荷物の他に、食材も色々買ってきてくれたらしい。


 そして、悪い予感ほど良く当たる。

 その後3日間程、ベッドから殆ど出られなかった。

 甲斐甲斐しく、世話してくれるのはありがたいけど、こっちは足腰立たないのに求めてくるのは止めて欲しい。


 断ろうとすると、上目遣いでションボリする。ワイルドな顔つきなのに、そんな様子が可愛くて、つい応じてしまったら、学習しやがった。くぅっ。あざとい。


 すっかり、負け続けてしまった…。


 ユーリと出逢って、避妊魔法を初めて使った。知ってはいたけど、今まで必要無かったから。


 何と、ユーリは、私とテオバルトの子孫らしい。初めて聞いた時はギョッとしたけど、よく聞いてみると2番目の子の最早把握できてない玄孫の子あたりらしい。法律上結婚できるらしいけど、何か頭が痛くなった。


 そして、途中にエルフの血が入ったりして、かなり魔力が多いので、自然妊娠もできるかもという事で、念の為魔法を使った。


 ユーリは『子供ができても良い』と渋ってたけど、もうしばらく付き合ってからにしたい。

 だって、ユーリの事はまだ殆ど知らないんだよ。


 当人は、容姿が違うだけでテオバルト本人だ、ぐらいの言い方するけど、古い知人に20年ぶりに会うのと、新しい人生を送ってきた人に会うのは全然違う。


 私は、全く違う世界で転生して、前世の私と今の私は繋がってても別人だと感じる。だけど逆に、同じ世界で前世の自分と今の自分は同一人物だと認識して生きていれば、そうなっていくのかな?


 ユーリの感覚が自分と違うからといって否定は出来ないけど、試してみたいとは思わない。むしろ、全力で拒否したい。

 前世、今世、来世の3代分の記憶なんて背負えないよ。


 …なんて、今世がまだまだ残ってそうなのに考えても仕方ないね。


 まずは、ユーリとどう付き合ってくかとか、ここ数日仕事休んじゃったけど指名依頼とか大丈夫かなとか。

 そういう、身近な事を考えていかないとね。


 特にユーリは、油断するとどんどん距離を詰めてくるから。

 王都に住むのも、私の部屋(ここ)に一緒に住みたそうだったけど、冒険者向けの長期滞在用の宿か、単身向けの部屋でも借りなさいと言ってある。


 今まで恋人と同棲した事はないし、泊めるぐらいなら良いけど、二人で住むにはここは狭い。

 結婚して子供の部屋も考慮すると、王都の庶民向け住宅街で家を借りた方が………って、うわぁ。結婚前提に考えてるし。

 我ながら、絆されるのも時間の問題だろうなー。


 結局、出会って数ヶ月で結婚を決め、1年後には、家族向けの家を借りて引越す事になった。

 うん、ひとえにユーリの情熱の賜物です。


 子供達に結婚する事を伝えたら、相手が元テオバルトである事も早々にバレた。

 と言うか、ユーリが言って回っていた。


 中身がテオバルトだと知った子供達は、


「父様って本当にロマンティストだよね〜。」


 と皆、呆れたように苦笑していた。

 特に反対意見も無かった。もう、皆いい大人だしね。


 それに、当人はロマンティストのつもりかも知れないけど、一歩間違えばストーカーだからね。それも、死んでも追いかけてくるんだから、その執着たるや……。


 この世界の『前世持ち』が、ストーカーになっていない事を、内心で祈った。



 ユーリの家族にも挨拶に行った。

 こんな超姉さん女房って受け入れられるのか、かなり不安だったのだけど、会ってみたら、熱烈大歓迎された。


『偉大なご先祖様』として。


 なんでも、前世がテオバルトである事は両親も知っていて、私達は、ベルナー家の平均魔力量を大幅に引き上げた中興の祖とされているらしい。


 そうだった。ユーリが私達の子孫だという事は、その親もそうに決まってた。よく聞いてみると、ユーリの母親が私達の血筋、父親も血は繋がってないけど、ベルナー家の分家筋なのだそうだ。

 確か母親の方は、赤ちゃんの時に会った事があるはず。


 でも、まだ生きてるのに先祖扱いって…。


 直系の子孫でも、代を重ねれば結婚も合法とか、生きてる人間を先祖扱いとか、長寿がケタ違いだからなんだろうけど、それなりに長く生きてきた筈なのに、私だけがこの世界の常識に馴染めないなと、改めて思った。




 さて、互いの家族に挨拶もしたことだし、結婚の届け出だけで済まそうと思ったら、ユーリとその両親、子供達に迫られて、結婚式を挙げる羽目になった。


 結婚3回目で式なんかやりたくないと言ってみたが、ユーリは初めてだとか、ユーリの両親に言われると、引き下がるしかなかった。


 子供達とユーリの両親と、冒険者仲間数人の本当にこぢんまりした式で何とか収まった。


 ユーリは終始満面の笑みで、テオバルトと違う所もあるんだなと、ちょっと新鮮な気持ちになった。

 こうやって、ユーリの中にテオバルトと同じ所や違う所を発見しながら、一緒に生きていくんだなと楽しみに思う。


 なんて、かわいらしい事を考えられたのは始めだけだった。

 夫婦になったら、何かの箍が外れたように求められて、抱き潰される日々が続いた。

 夜にどれだけ言っても止めないので、昼間に厳重注意した。


 一応、言い分を聞いてみると…。

 結婚するまでは一緒に住まないと言われたので、抱き潰すと介抱できない。

 満足するまですると、抱き潰してしまう。

 だから、結婚したら思う存分しようと思っていた。

 と、言われた。


 …………。

 私は頭を抱えた。

 ユーリは22歳になったばかり。若いのだ。

 それに、夫婦生活に片方だけ不満を募らせるのは良くない。

 でも、毎回存分にされると、仕事どころか日常生活もままならない。


 悩んだ末、通常は抑えること、「存分に」は翌日休める時に、私の許可を取ってからという事になった。


 本当は、例え毎回ではなくとも、Aランク冒険者の体力で満足するまで、なんて事を受け入れるのは、恐ろしい。


 我慢させたところで、他の人に行くという事もユーリに限ってないだろう。


 でも、「好きな人と幸せになりたい」から結婚したのだ。自分のだけでなく、相手だけでもなく、二人で。


 …後は、なるべく早く落ち着いてくれる事を祈ろう。

 私だって、嫌なわけではないんだよ。



 さて、その後ユーリがいつ頃落ち着いたかは、思い出したくない。

 こっちだって、身体強化とか回復とか結構魔法に頼ってるのに、である。



 子供にも恵まれた。ユーリとの子供は3人で、自然妊娠できるぐらいの魔力差の割には少なかったと思う。

 エルフや妖精族が寿命が長いのに、爆発的に人口が増えないのは、魔力が大きいと子供ができにくいとか、魔力差以外にも要素があるのかもしれない。


 出産の時は、毎回ユーリがオロオロしていた。

 確かに、テオバルトとの子供の出産からはかなり時間が経ってるけど、この世界の常識で言えば、見た目年齢=身体年齢だから、私は初産でもない30代という事で、そこまで心配する事もない。

 いざという時は、ユーリに治癒魔法や回復魔法をかけてもらえば良い。


 とこっちは思っているのに、ユーリは相変わらずオロオロ。

 まだ陣痛がひどくない内に、


「テオバルトの時の方が落ち着いてなかった?」


 と聞いたら、周りにベルナー家の人間もいるから、落ち着いてるフリをしてたって事が分かった。


「それでも、テオバルトの時から数えて、5、6、7回目だよ。そろそろ慣れるんじゃ?普段はテオバルトと同一人物だと言って憚らないんだから、経験も蓄積されたよね?」


 と問えば、


「昔からお産は何が起こるか分からないし、本当にいざという時しか何もできないし、ウンウン唸ってるのが見てられない。」


 のだそうだ。


 まあ、ねえ。

 前世の記憶に比べれば、魔力の多い私のお産は軽い方だと思うけど、陣痛はあるから、「痛い、痛い」言うのは仕方ないよねぇ。


 これでも、前世では普通になってた立会い出産はやめておいたんだけどね。



 こうして生まれた3人の子供達は、残念ながら濃い髪や瞳ではなかった。

 この世界は本当に濃い色合いの人が少ない。

 地球なら濃い色が優性遺伝子なのにね。


 色合いは私似だけど、顔立ちは皆ユーリに似ていた。

 パーツの大きいハッキリした顔立ちで、良かった良かったと言っていたら、末の男の子が、「お母さん似が良かった!」と泣いて怒るので、ちょっと驚いた。


 え〜?この顔地味じゃない?

 別に歪んでる所は無いし、前世に比べたら彫りも深いし、悪いとは思わないけども。


 ユーリの濃い藍色の髪と瞳は、何年経ってもドキッとするし、ハッキリしたワイルドな顔は、昔は可愛かったけど、今はちょっと渋みが出て、ますます格好良くなったし、絶対お父さん似のほうが良いでしょと言ったら、上の子は呆れるし、末っ子は更に怒るしで、大変だった。


 末っ子で男の子なんて、本当に甘えん坊だよね。


 そんな話をユーリにしたら、しばらく上機嫌だった。










 幸せな幸せな人生だった。


 皆から取り残されて、独りぼっちで長い時を生きていかなきゃいけないのだと、怖かった。


 でも蓋を開けてみれば、愛する人を得て、沢山の人と出会えた良い人生だった。


 勿論、先に逝った人達を見送るのは寂しかったけど。


 それももうすぐ終わる。

 やっと私の番が回ってきたのだ。


 ユーリには、「治癒魔法や回復魔法は絶対かけないで。」と言っておいた。


 もう十分生きた。僅かに生きながらえる為の魔法は必要ない。

 泣きそうな顔をするユーリを置いていくのが少しだけ心残りだけど。


「テオバルトとユーリのおかげで幸せだったよ。ありがとう。」

 と何度も伝えた。


 きっと来世の私には、記憶は残らないだろうと思う。未練がないから。

 次の私は、どんな人になるんだろう。

 この世界に来て一番良かったと思うのは、次を夢想できる事かもしれない。


 テオバルトにまた会えるのかな?

 新しい出会いがあるのかな?


 神さま、もうすぐ報告に行くよ。

「魔力はあんなにいらなかったけど、幸せになれたよ。誘ってくれてありがとう。」って。





お読みいただきありがとうございます。


本編はここで終了です。

明日、テオバルト・ユーリ視点を投稿します。長くなったので分けましたが、2話まとめて出します。


もし、少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマーク、評価ボタンを押して下さるとありがたいです。


あともう少しお付き合い下さいませ。

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