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短めです。
夕食を食べながら、ユーリ君からもっと話を聞く事にした。
「あの、王都には今日初めて来たの?」
「いや、王都の魔法学校を卒業し、その後冒険者学校にも行った。今は、カルーザに住んでいるが、Aランクに昇格したから、王都に越そうと思っている。」
は?
王都にいたのに、会いに来なかった?
やっぱり、私の事はもう過去の思い出?
いや、さっき確かプロポーズされたよね。
あ!前世を思い出したのが最近とか…。
「そうなんだ。それで、どうして王都にいた時に会いに来なかったの?もしかして、最近前世を思い出したとか?」
「いや、生まれた時には前世の記憶があった。」
「っ。だったら、どうしてっ?」
あ、しまった。口調が抑えられなかった。
そんな私を、ユーリ君は苦笑しながら見つめた。
「お前、俺を見てどう思う?」
「え?一瞬黒に見える、髪と目が素敵?」
「………。それは、嬉しいが、年齢的な意味だ。」
あ、照れた。
ちょっと赤くなって、目を逸らされた。カワイイ。
えっと、年齢?
どうして会いに来なかったか、という問いに対して、何でそんな話題になった?
確か、21才と言っていたと思うけど、見た感じは、もっと若い。
「成人して、すぐぐらいに見えるね。今世も魔力量が多いの?」
魔力量に多寡があっても、成人まではあんまり差が出ないんだけど、凄く多いと成長もややゆっくりになるから。
「ああ。テオバルトの頃よりな。で、今の俺は、恋愛対象になるか?」
「まあ、年の差は凄いけど、成人してるなら良いと思うけど?」
…あ。何かユーリ君の言いたい事が分かったような。
「気付いたか?お前、もし、俺が魔法学校に上ってすぐ会いに来たら、どう思った。」
「嬉しかったと思うよ。可愛かっただろうねぇ、その頃のユーリ君。」
「でも、可愛い子供だと、思うんじゃないか?」
「当然思うねぇ。だから、子供のうちは会いたくなかったと。」
目の前のユーリ君は、ちょっと怒った顔をした。
「会いたくなかった訳じゃない。王都にいた間に、何度も会いに行こうか迷った。だが、お前の中で『子供』だと認識されたら、俺がどれだけ真剣に求婚しても、微笑ましく思うだけだろう?」
確かに、子供の頃に出会ったテオバルトは一緒に育ったから、自分が大人になれば、相手も大人だと自然に思う。でも、自分が大人で相手が子供の時に出会うと、成長した姿を見て立派に育ったと思っても、どこか子供のように思ってしまう。親戚の子供なんか、まさにそう。
で、私から恋愛対象外と認識されないように、会いに来るのを我慢していた、って事か。
でも、私が勝手にした事とはいえ、期待しないようにと思いながら待つのは、結構辛かった。
「会いに来なかった理由は分かったけど、せめて何か連絡とかさ。何の手がかりも無く待ってなんていられないよ。」
「『王都にいるけど会えない』なんて連絡しても、お前の事だから、探し出してしまうだろう?それに、何のあても無くても、待っててくれたんだろう?」
ユーリ君は、そう言って目を細めた。
さっき、ギルドでそう言っちゃったから、否定もできないけど、何か悔しいような、嬉しいような複雑な気分になる。
「待ってたよ。」
私は、拗ねた口調で目を逸らし、そう答えた。
でも、勝手に涙が溢れそうになる。
「もう泣くな。」
優しく抱き寄せられて、触れるだけのキスをされる。
一瞬あとに、ギョッとした。
中身がどれだけテオバルトに近くても、目の前の青年は、今日会ったばかりの人だった!
「ちょっ、あの、ユーリ君?いくら、テオバルトの記憶があっても、君は別の人なんだから、前世にこだわる必要ないんだよ。」
と言うと、抱き締める腕にギュッと力が込められた。
「ギルドで愛しているとハッキリ言っただろう。この気持ちは、俺の物だ。きっかけは前世の記憶だから、こだわっていないとは言えないが。」
熱のこもった目で見つめられて、本気のようだ、と思った。
こうして、大人になっても持ち続けたなら、その気持ちは本物なんだろう。
「分かった。そこは信じるよ。でも、私はちょっと混乱してる。初対面なのに、話せば懐かしいから。」
「難しく考えるな。別人になった今の俺は、受け入れられないか?」
不安そうな表情をするユーリ君。テオバルトも結構、顔に出るタイプだったよね。
彼からちょっと離れて、ジッと観察してみる。
藍色の髪と瞳。整った顔立ち。テオバルトの頃の『エリート』って感じじゃなくて、ちょっとワイルド系?
背は私よりは高いけど、この世界では普通かな。でも、さすがAランクまでスピード出世しただけあって、日焼けしていて逞しい。
…ハッキリ言って、テオバルトよりも外見は好みです。
最初に結婚した人は職人で、力仕事だから逞しかったし、その後に関係したのは冒険者ばかりだったから、言うに及ばず。
テオバルトの方が例外だったんだよね。本人には言ってないけど。
「どっちかというと、好みだと思うよ。でも、いきなり結婚はちょっと無理。まずは付き合ってみる?」
「ああ。それで充分だ。」
ユーリ君は、ホゥと息を吐いて、もう一度私を抱きしめた。
好みの男に熱烈に迫られてると思えば、付き合ってみるのもアリかなぁと思うんだけど、私、ちょっとチョロ過ぎ?
なんて考えてたら、ユーリ君が嬉しそうに軽いキスをくれた。若いからか、素直な表情は可愛い。
あー。でも年の差スゴイなぁ。この世界では、年の差カップルも年の差に見えるカップルも普通だから、本人が良ければ良いんだろうけど。
まあ、いっか。
この腕の中は、不思議と落ち着くし。
私は、軽いキスを返した。
すると、角度を変えて何度もキスが繰り返され、だんだん深くなってくる。
ああ、こんなキス何十年ぶりかなぁと思ってたら、ヒョイと抱き上げられた。
思わず、首にしがみついたら、黒い…じゃない、藍色の瞳が至近距離にあってドキリと胸が鳴る。
ええい、嬉しそうな顔するんじゃない。
何か妙に恥ずかしい。
でも、そのまま寝室の方へ歩き出されて、慌てて言い募る。
「待って。今日会ったばっかりなのに。」
「付き合うというのは、こういう事も含まれているんだろう?」
首すじをペロッと舐められて、ニヤリと笑われた。
ワイルド系イケメンは、こんな表情も似合うわねぇ。…じゃなくて、手が早過ぎるでしょ。
「せめて、お風呂入らせて。今日仕事だったから。」
「…分かった。一緒に入ろうか。」
はあ、やっと止まった。
しかし、危機はまだ去っていない。
お風呂で心を落ち着けようと思ったのに、何で一緒?
でも、これ以上言って、『じゃあ清浄(の魔法)かけよう。』ってなって寝室になだれ込まれても困る。
この際、寝室のお付き合いを含めるのは良いとしよう。お互い大人なんだから、早いか遅いかの違いだ。
せめて、心の準備をする時間をちょうだいっ、という私の気持ちは全く通じず、洗面所に連れて行かれた。
こういうのは、チマチマ脱ぐ方が恥ずかしいから、サッサと脱いで浴室へ入る。
後から入ってきたユーリ君をなるべく見ないように、目を逸らしながら、「あれの中身はほぼテオバルト。だから見られても恥ずかしくない。見ても恥ずかしくない。」と心の中で唱えた。
って、そんな訳あるか!
そりゃ、テオバルトの記憶があるなら、私の裸なんて目新しくもないだろうけど、こっちにとっては初めて会った男だ。明るい浴室で直視できる訳ないし、チラッと見えたユーリ君は既に臨戦態勢だ。
私は、手早くシャワーを浴びると、浴室から飛び出た。
「タオルの場所変えてないから、適当に使って。」
と声をかけて、寝室に逃げ込んだ。
遅れて寝室にやってきたユーリ君は、ちゃんと腰にタオルを巻いて来たので、一安心。上半身裸ぐらいなら、全然大丈夫。
例え、タオルが一部盛り上がっていても、薄暗い寝室では見えない、ことにする。
ユーリ君は、ちょっと困った顔をしていた。
「あの、ゴメンね。イヤな訳じゃないんだよ。ちょっと恥ずかしいのと、緊張してるだけ。」
「俺も緊張している。この体では、初めてだからな。」
「え、初めて?」
「好きな女がいるのに、他所に行こうとは思わないだろう。今世では、普通の家庭で生まれたおかげで、義務的な相手もいない。」
それは、あからさまに前世の事ですよね。
「今世で、他に好きな子とかいなかったの?幼馴染とか、同級生とか。」
「友人ぐらいならいるが。さっき、俺の気持ちを信じると言ったんじゃなかったか?」
あ、拗ねた。
だって、前世に影響されすぎじゃない?
『待ってろ』っていうテオバルトの言葉を守って、会いに来てくれただけで十分かなと思う所もある。
「ゴメンね。うん、覚悟決めた。付き合ってみようって言ったの私の方だったね。」
そう言って軽くキスしたら、噛みつくようなキスが返ってきた。
そこからはベッドにもつれ込み、それはそれは、しつこ…ゴホン、熱い夜を過ごした。
お読みいただきありがとうございます。
本編は次話で終了。その後テオバルト視点2話で完結です。
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あと少しお付き合い下さいませ。