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 テオバルトがこの世を去った。


 魔力量からすれば、もっと寿命が長いのかと思っていたけど、案外早く逝ってしまった。

 その事に、悲しみと共にほんの少し安堵を覚えた。


 外見からして、奴が先に逝く事は覚悟していたし、初めの結婚の様に逃げたりせず、最期迄一緒に居られたから、悲しいけれど私としては、納得してる。


 安堵したのは、魔力量が寿命に比例する訳じゃなく、どうやら種族にもよる様だと分かったから。


 テオバルトは、私という例外を除けば、人間では史上何番目かの魔力量だった。(子供達が生まれるまでは)

 妖精やエルフに迫る程で、計算上なら4〜5百年とかになるんだけど、実際は2百年。

 私の魔力量から換算すると、千年以上になる。でも、種族は人間だから5〜7百年?


 2百年でも、親や幼馴染は既に亡くなってると言うのに、今の外見は、私の感覚ではまだ30代前半といったところ。

 あとどれ位生きなくてはいけないのだろう。気が遠くなる。


 もちろん、子供達や最近知り合った友人知人もいるから、孤独という訳じゃない。

 でも、置いていかれるのは、寂しい。


 ただ、1つだけ気になる事がある。

 テオバルトは、何度も「必ず戻って来るから待っていろ。」と言っていた。


 生き返るという意味ではない。『前世持ち』として転生して、私に会いにくるという意味だろう。

 確かにこの世界では、時々、前世の記憶を持った人が生まれるから、普通に前世や来世というものが受け入れられているけど、自分で望んでなれるものなのだろうか?


 なんとなく、テオバルトなら、執念で神様を説得しそうだと、思ってしまうけど。


 あまり期待せずに待っていようかな。

 無理だったとしても、幸せな来世がテオバルトに訪れますように、と祈った。




 とはいえ、全く期待しないと言うのも無理な話で、前世持ちの人々の話を集めた本を読んでみたりした。


 私のように、異世界からの転生者は殆ど神様に会った事があるのに対し、この世界での前世持ちは神様に会った事が無い人が殆どだった。

 これは、全員会ってるけど、記憶に残らないのか、話す必要がある人を神様が選んでいるのかどちらだろう?


 転生時期もバラバラだった。

 死亡した直後に、母胎に宿ったと思われる(死亡時から妊娠期間を経て誕生した)人もいれば、数年後に誕生した人もいて、何とも言えなかった。


 そもそも、テオバルトが生まれ変わっても、記憶が無ければお互いに分からないだろう。


 もし、言い残した通り記憶があったとして、会いに来てくれるのは、何年後ぐらいだろう。小さい内は無理だよね。


 奴の事だから、魔力か知性が高くて、王都の学校に進むに違いないから、どこの街に生まれても、その時には会えるかな?

 でも、他の国に生まれたらどうするんだろう。

 それに、やっぱり、もう私の事はどうでもいいと思うかもしれない。


 経験があるから分かるんだけど、転生は前世とは違う親、違う環境で生まれるから、同一人物にはならない。

 ただ、1人分の記憶の影響は大きくて、考え方も似てくる。


 大人になってから前世を思い出すと、『かなり昔の自分』と思えるんだけど、子供の頃は、よく知っている他人という感じだった。

 転生した元テオバルトは、前世と今世は違うものとして、私の事も思い出になるのかもしれない。


 …考えれば考える程、待つのは無謀な気がしてきた。

 たまたま、前世持ちとして生まれ、たまたま、それがこの国で、たまたま、私に興味を失わない?


 何という確率の低さ。

 それでも、ほんの少し期待するのは、やめられないのだった。




 テオバルトが亡くなってからは、ベルナー家へ顔を出す事も殆ど無くなり、気ままな一人暮らしに戻った。


 偶に子供達が顔を出すが、簡単な近況報告で帰っていく。


 2番目の子は、一族の長になるつもりだったからか、早くに結婚して、孫、曾孫どころか玄孫の子迄いるので、もう、把握しきれない。一応、生まれる度に報告がくるので、メモしてあるけど。


 他の子達は、結婚してたりしてなかったり。


 一番目の子がもうすぐ130才(!)とか、スゴイよね。しかも、外見だけなら、子供達と私に殆ど差が無くて、兄弟姉妹?って感じ?

 もう、ワケが分からない。


 皆、テオバルトを失って私が落ち込んでないか、心配してくれてるみたい。


 私には、冒険者っていう『やると決めた事』があるから、大丈夫。

 この世界に魔法がある限り、魔物もいなくならないけど、なるべく強い魔物を減らして人的被害が少なくなるように、頑張るのだ。



 そんな生活を10年程続けた頃、ふと、テオバルトが死んでからも10年経った事に気付いた。


 私は、俄かにソワソワしだした。

 もしすぐ転生したら、王都の学校に上がる頃じゃない?


 あれだけ、『絶対戻る』と言っていたんだから、本当に記憶を持って転生できていたら、すぐ会いに来てくれる筈。


 そう思っていたのに、その年は、元テオバルトらしき人は訪ねてこなかった。


 転生まで時間がかかったのかも、と数年待ってみたが、やはり待ち人はやって来ない。


 外国に生まれた可能性も考えてみたけど、ギルドを通じて連絡を取る事や、時間はかかるが手紙など、いくつか手段はある。

 それを思いつかないテオバルトではない。

 …となると、『前世持ち』として転生する事は叶わなかったのだろう。


 待ち始めて8年程経ったところで、私は待つのを諦めた。



 それからは、人生2度目の、魔物への八つ当たり生活を始めた。


 前の時は、色々と上手くいかない人生に対する鬱憤だった。


 今回は自分に対する不甲斐なさというか、考え無しな自分への恥ずかしさだ。


 転生したテオバルトを待つのを諦めた後、冷静になって考えた。

 私は、会いに来た元テオバルトとどう(・・)なりたかったんだろう?

 ただ、もう一度会いたいという事しか頭になくて、そこを何も考えていなかった。


 王都の学校に上がったばっかりの、9才かそこらの子供とどうするつもりだったんだ…と考えた時、猛烈に恥ずかしくなった。


 今も、その恥ずかしさを魔物にぶつけている。


「わーんっ、ショタだよぉ。犯罪だよぉ。私は変態じゃない〜っ!」


 思い出す度に、悶えるような恥ずかしさが湧き上がってきて、攻撃魔法を魔物にぶつける。

 はあ。取り乱してしまった。


 まあいい。このまま、八つ当たり生活をしばらく続けて、魔物討伐に本腰を入れよう。



 そんな生活を数年続けたある日、討伐完了報告の為にギルドに戻ると、数人の青年が受付に集まっていた。


 背中しか見えないが、新人っぽくはないから、地方からAランクの認定を受けに来た冒険者かな?

 Bランクまでは地方で昇級できるけど、Aランクは王都ギルマスの認可が必要だから。


 彼らの方を(そして私の方を)向いていた受付嬢は、説明が終わったらしく、こっちに声をかけてきた。


「あ、リーリアさん。彼ら、Aランクに上がったばっかの子達なんで、何かアドバイス…」


 と言い終わらないうちに、その中の1人が振り返って、スゴイ勢いでこっちに走ってきた。


 あっ。黒目黒髪?

 一瞬ドキッとしたけど、藍色かな?

 でも、こんな濃い色珍しい…。


 と、ボンヤリ見ていると、その青年が叫んだ。


「リーリア・ファイデ。お前を愛している!俺と結婚してくれ!!」


 …は?

 目の前の青年、いや少年?まだ成人して間もない感じだけど、見覚えはない。

 初対面でプロポーズ?


 私を含め、ギルドにいる全ての人間がポカーンとして、動く事すらできない。


「おい、聞こえているなら、何か返事をしてくれ。」


 もう一度声をかけられて、やっと我に返った。

 マジマジと見てみたが、やっぱり知らない人だ。

 でも、私の名前を知ってるし、人違いでもなさそう。


「あの、初対面だよね?どうしてプロポーズされたか、分からないんだけど?」


 青年は、ハッとした顔をして、話し出した。


「俺の今の(・・)名前は、ユーリ・クライン。今日Aランクに上がったばかりの冒険者だ。ずいぶん待たせたが、その理由を聞いて欲しい。」


『今の』を強調した?

 それに、私を待たせていたのは、…。


「っ、テオバルト?」

「ああ、そうだ。元、だがな。」


 ああ、口調も似てる。

 でも、本当に?

 こんな事、嘘や冗談で言ってるなら(たち)が悪すぎる。そんな風には見えないけど、待っていた時間が長すぎて素直に信じられない。


「君がテオバルトだって、どうしたら確かめられる?」

「名乗っただけで信じられる訳もないか。じゃあ、俺しか知らないような事を聞いてみれば良い。」


 奴しか知らない事。

 他人が調べても分からない事。人に話した事もダメ。初夜の会話とか、はここで話したくないな。

 あ!アレどうだろう。昔一回だけアルに話したけど、誰に言われたかは喋ってない。


「かなり昔の話だけど良いかな?」

「ああ。前世の記憶は殆ど覚えている。」

「じゃあ、学生の頃、先生達の魔法実験の時に、魔法を使う私を見て、君は何て言った?」


 それを聞いて、青年は苦笑しながら答えた。


「確か、『魔法発動の時、派手派手しくて目を引かれるから鬱陶しい。』と言ったな。」


 そう。確かにそう言った。アルに話した時はちょっと省略したけど、テオバルトは『ウザい』なんて言葉使いはしない。


「よく覚えてたね。」

「言った事を後悔していたからな。お前が大規模魔法を使う姿は、万人が美しいと言うだろう。俺もよく見惚れていた。だが、手に入らないのに見てしまうのが辛くて、あんな事を言った。だが、傷付いたお前の顔を見て、酷く後悔した。」

「そりゃそうだよ。私には魔法しかないのに、周囲に鬱陶しがられたら、何もできないし。」

「済まなかった。」


 こうやって、素直に謝るのもテオバルトらしい。一見、尊大な感じだけど、持ち上げたり、へりくだったりする表現を省いて、ただ率直に話してるだけだったんだよね。


 本当にもう一度、テオバルトに会えたんだ。

 そう思うと、喜びや安堵、それに待たされた怒りや寂しさが湧き上がってきて。


「ずっと待ってたんだからねっ。」


 目の前の青年に抱きついて、それだけ言うのが精一杯だった。後はもう、子供のようにわんわん泣いた。

 いい歳してとか、皆見てるのにとか、冷静な自分が何処かで言ってるのに、止める事ができなかった。


 やっと泣き止んだ頃には、ギルドの応接室にいた。

 受付の前で、ベテラン冒険者が大泣きしてたら、目立って業務も滞るから、連れてきてくれたんだろうね。

 今日Aランクに昇格した人達も解散したらしい。


 私は、当初の予定の業務報告をして、職員に騒がせた事を謝った。

 その間ずっと、元テオバルト(ユーリ君)の腕を掴んで離さなかったら、職員や本人にも微妙な顔をされたけど、知らんぷりを決め込んだ。

 だって、手を離して居なくなったらイヤだし。


 ユーリ君には、とりあえず私の部屋(うち)に来てもらう事にした。

 帰り道で夕食を買い込む。

 久しぶりの再会で、私の手料理を出すのも、テオバルトに作ってもらうのも良いかもと思ったけど、今夜は話をするのを優先して、すぐ食べられる物を買った。


 ウチに着いてお茶を出し、向き合う。


「改めて、初めまして。ユーリ君。」

「ああ。初めまして。ユーリ・クラインだ。…此処は変わらないな。」

「うん。ここも私も変わりはないよ。子供達もね。玄孫とかその子供とかは増えたけど、もう、把握しきれないよ。それで、君の事を教えてくれる?」


 部屋を見回していたユーリ君は、こちらを向いて頷いた。


「今日Aランクに昇格した冒険者なのは、伝えたな。歳は21才。出身はカルーザ。西の方の中核都市だな。知ってるか?」

「名前だけ。行った事はないよ。国境からも遠いし、強い魔物もあんまり出ないから。」


 …ん?21才?

 テオバルトが死んで確か22年だった筈。

 って事は、すぐに転生したんだよね。

 しかも国内。

 何で、会いに来なかったんだろう?




お読みいただきありがとうございます。


テオバルトの死からのユーリにバトンタッチ!

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