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言い回しを変更しました。ストーリーは変わっていません。
テオバルトが仕事の確認に部屋を出ていった。
私は、大きく息を吐いて、緊張を逃した。
何十年もの付き合いの、大して親しくはないが、気のおけない友人だった奴が、全然知らない男に見える。
考えれば考える程、深みにハマるヤツだ、コレ。分かってるのに、他に気をそらす事が出来ない。
悶々と考えてたら、結構時間が経ったみたいで、また食事を持ってテオバルトが戻ってきた。
ホント、これどうやって手配してるんだろ?
まだ温かい夕食をいただく。
「期限付きとはいえ、不便をかけるな。」
「…いや、きちんと食事出してもらえてるんだから、十分だよ。」
こんな殊勝な態度、見た事ないよ。驚いて、一瞬言葉に詰まっちゃったし。
はあ〜。この実験が終わったら、コイツの態度も元に戻るのかな?調子狂うわ〜。
夕食を終えて、入浴や、着替えを済ますうちに、また緊張してきた。
今夜もう一度、受精の可能性を上げる為にするんだったよね。
その時、テオバルトから、魔石を渡された。
「お前、昼間もそれなりに魔力回復してるだろう。それに注いで、減らしておけ。」
おや?やっぱり実験に関する事は、いつもの態度になるんだ。ちょっと安心した。
大きめの魔石を3つぐらい一杯にして、自然回復分を消費した。
ついでに、詳細鑑定を掛けて、魔力の現在値と、基礎消費魔力がちゃんと切れてるか確認した。
実験には、厳密な条件設定が必須だから、奴が真剣に取り組んでいると言うなら、こちらも協力しよう。
テオバルトに、魔力の現在値と基礎消費を確認した事を告げると、
「じゃあ、始めよう」
と言って、ベッドに押し倒された。素っ気ない言葉とは裏腹にその手つきは優しい。
その態度に思わず笑いを零すと、軽く睨まれた。
「随分、余裕だな。」
「まあ、それなりに経験あるからね。」
と軽口を叩くと、よりキツく睨まれた。
「お前は、昨日もそんなような事を言っていたな。俺に他の男の話を聞かせたいのか?」
あれ?この世界は重婚が普通だ、とコイツが言ったんだから、嫉妬とか独占欲とか無いのかなと思ったんだけど?
疑問が顔に出てたのか、答えが返ってきた。
「複数の相手がいても、自分に対する愛情があれば良いと言う奴もいるが、俺は嫌だ。」
なんだ。結局、個人の問題か。
ただ、(気持ちの種類は違うみたいだけど)奥さんのいる人間の言葉じゃないよね。
まあ、真剣味は伝わったから、苦笑しながら、「もう言わないよ」と言った。
でも、奴の何かを煽ってしまったようで、この夜は夜明け近く迄、寝かせてもらえなかった。
朝、と言うか一応午前中に目が覚めると、テオバルトは居なかった。
ちょっとホッとして、シャワーを浴びて身支度を整えた。
私は昨夜の自分を思い出して、悶えた。奴が頭脳労働者である事に油断していた。
そう、奴は私と同じタイプだったのだ。私程ではなくても、身体強化に成人1人分ぐらい魔力を使ってる筈。ヘタしたら、確率アップの為に身体強化を上掛けしてたかもしれない。
対して、今の私は、基礎消費を切って素の状態。何にも鍛えてない女性の体力しか持ってない。
一晩、体力持ちませんから!もう無理って何回も言ったのに(泣)
これ迄の人生で何度目かの言葉を心の中で叫んだ。
男って、あの時の体力どうなってんのよ〜〜〜っ⁉︎
はあ、まあ良い。後は、魔力を消費しながら、大人しく生活すれば良い筈だ。
…と思っていた私の思惑は、僅か1日も経たずに崩れたのだった。
私が目覚めてる事に気付いたテオバルトに連れられて、貯蔵用魔石へ魔力を注いだ。
魔石を並列に繋いであり、かなりの容量がある。実験に積極的に使ってる事もあり、私の滞在中に満タンで入らないという事態にはならなさそうだ。
テオバルトとは、今日もよく目が合う。何か用かと聞いても返事はない。午後からは、特に忙しい訳ではないが仕事だと言う。仕事人間の奴らしいと思うが、何だか歯切れが悪い。
何時でも即答で、自分の恥ずかしい恋バナも淡々と話したクセに、今更何だろ?
必要ならその内話すだろうと、追求しない事にした。
午後からの暇つぶしに図書室から本を借りてきた。さすが国立研究所だけあって、学校の図書室並の蔵書があった。数日間なら読む本に困らないな。
…と思っていたんだけど、その必要は無かった。
夕方戻ってきたテオバルトが、
「お前が手元に居るのに、我慢できる訳がなかった。」
とか言い出したからだ。
むしろ、排卵日の関係で、1回目と2回目との間隔は、実験の条件として守る必要があるから我慢できたのだそうだ。そして、「魔力を低い状態に保ち、安全に過ごす」以外の条件が無い3日目以降、奴の箍がはずれた。
結局、残りの数日間ベッドの上から離れられず、体力の続く限り、爛れた生活を送る事となった。
最終日夕方、スゴく名残惜しそうなテオバルトに何とも言えない気分になった。
この1週間で奴に対する認識は、全く変わった。
私を好きだというのも本当らしい。クールで、嫌味ったらしいと思ってたのに、甲斐甲斐しく世話を焼くし、心配性で過保護だし、手元に囲いたがるし。
…優しく微笑むし、切ない顔するし、熱のこもった目で見つめてくるし。
我ながら単純。絆されたんだよ。やだーもう。
実験の経過としては、着床が始まれば、基礎消費魔力はあった方が子供を守る助けになるらしい。私は、研究所を出る前に、基礎消費魔力を元に戻した。
着床が始まって定着するまで、更に数日かかる。確定できるのは、5日後。
「5日後の朝に、絶対此処に来い。」
と何度も念を押されて、家に戻った。
そして、5日後。
当然ながら、研究所に行く前に、詳細鑑定を掛けてみた。
自分でできるんだから、そりゃ見てみるでしょ。
こういう時、魔法って本当に便利。次の月経を待って、来なければ病院で診断を受けるっていう手間が無い。まあ、詳細鑑定なんて、持ってる人少ないけど。
果たして、私の状態は【妊娠】。
テオバルトが話を持ち掛けてくるぐらいだから、成功する確率はそれなりに高いのだろうと踏んでいたが、それでも、ジワジワと喜びが溢れてくる。
私は、この世界の異分子であり、この世界の生き物に混じる事ができないのかもしれないと、密かに怖れていた。
この世界の人間から生まれていながら、バカな事をと思おうとしても、どうしても拭い去れなかった気持ちが晴れていく。
私は、もう一度喜びを噛み締めてから、研究所に向かった。
テオバルトも待ってるだろうから、「早過ぎる」と怒る事もないだろう。
受付から、職員さんに所長室に案内してもらっていると、途中でテオバルトが走ってきた。
奴が走ってる所なんて、初めて見たよ。
隣の職員さんは、もっと驚いたようで、固まっていた。
受付から、連絡でも行ったのか、入口に感知魔法でも張ってあったのか?
職員さんに案内のお礼を言って、テオバルトと歩き出したけど、振り返ると未だ固まっていた。余程、衝撃だったのかな?
テオバルトもテオバルトだよ。走ってきたところで、廊下でできる話でもあるまいに。所長室で待っとけば良いものを。
おかげで、会ったらどんな顔したら…とか思ってたのが馬鹿らしくなってきたよ。すっかり落ち着いたから良いけど。
ということで、所長室に着くなり、詳細鑑定を自分に掛けて、紙に複写して渡した。
テオバルトが、紙と私とを何回も見比べるので、頷いてみせると、静かに泣いていた。
私はギョッとしたけど、何て言って良いか分からず、見なかった事にした。
だって、手を取り合って喜ぶべきなのか、泣く程?とからかうべきなのか。
子供がずっと欲しかったのは、私の事情であって、相談したのは僅か半月足らず前だから、ここに互いの深い共感とかは無い。
私をずっと好きだったのはあっちの方で、知ったのはやっぱり半月足らず前で、絆されたとはいえ、長い年月を越えてやっと叶った想いへの共感も無い。
私の想いは私の物、テオバルトの想いはテオバルトの物で、他人には測れないんだから。
落ち着いた頃を見計らって、これからの事を相談しようと持ち掛けた。
結婚…はするよね。これはテオバルトが絶対譲らないだろう。
子供を誰が何処で育てるかは、ハッキリさせとかないと揉めそう。
何より、エリーゼちゃんと話し合いに行かないと。冒険者相手の時は、散々相手が居ないか確認してたのに、結局妻子がいる事より子供ができる確率を取ったんだから。
そこだけが、ずっと引っかかっていた。
テオバルトに、エリーゼちゃんと会える様に頼んだら、「今から家に来い」と言われた。
「は?今から?それに、君、仕事は?」
驚いて、ぎごちなく答えたけど、今日会えるなら、その方が良いかも。日を置くと、余計気まずくなりそう。
テオバルトの方も、ここ4日落ち着かなくてずっと仕事してたらしく、秘書さんに早く帰れと言われていた。
どうやら、今日の結果次第で私を連れて来る事は、相談済みだったらしい。
ベルナー家に到着すると、すぐにエリーゼちゃんが、出迎えてくれた。
「ようこそ、お越し下さいました。リーリア様。先ずは御懐妊おめでとうございます。」
「お邪魔します、エリーゼちゃん。いや、エリーゼさん。」
「ふふ。呼びやすい方で構いませんよ。どうぞ、こちらへ。ご案内しますわ。」
エリーゼちゃんは、自ら応接室へ案内してくれた。凄くにこやかだけど、心中はどうなんだろう?
私は、2人にテオバルト抜きでエリーゼちゃんと話したいと伝えた。
テオバルトは渋々、エリーゼちゃんは張り切って了承してくれた。
客間で、お茶の用意を終えたメイドさんが出ていき、2人になると、エリーゼちゃんが話し始めた。
お読みいただきありがとうございます。
リーリアさん、更に絆されました。そして妊娠。ちょっとご都合ですが、タイミング、体調などの条件が揃えば確率は50%という説もあるので、ご容赦を。