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テオバルトが頑張ります。


矛盾点を指摘していただいたので、一部加筆しています。大筋は変わっていません。

 私は、テオバルトに抱きしめられながら、キスされて、ただ呆然とフリーズしていた。


 触れるだけのキスの後、深く舌を差し込まれ、散々好き放題された頃、やっと思考が戻ってきて、離れようとしたら、更に力を入れて抱きしめられ、下半身も押し付けられた。

 なんで、コイツ興奮してんの?


 力ずくで引き剥がす事もできるけど、怪我させるのは、気がひける。

 何とか顔だけ離して、低く呟いた。


「ちょっと。これ以上勝手な事するなら、怪我するよ。」

「──っ。待て。ちゃんと話す。」


 奴も、正気に返った様だ。しかし、謝らないつもりか?後で、覚えてろよ…。


「私の家がどんな所か、お前は知ってるか?」

「ベルナー家か。確か、魔力第一主義の一族で有名だね。」

「ああ。一族の人間にとって異性というのは、魔力の多い子供を残せそうか、そうでないかの区別しかない。其処に感情は必要無い。」

「また、殺伐としてるね。」


 話し始めたテオバルトは、さっきまでが嘘のように、硬い表情になった。


「もし、好意を持った相手と魔力の釣り合いが取れない場合は、諦めるしかない。一族にとって、無駄でしかないからな。」

「無駄って…。幸せにはなれるよね。」

「子供が出来ない、又は魔力の低い子供しか出来ないと、親戚中から責められる事になるな。それでも幸せになれるか?」

「まあ、辛いだろうね。」

「お前を、そんな所にひき込めないだろう?」

「は?私?」


 素っ頓狂な声を出した私に、奴は非難の顔を向ける。


「だって、今までそんな素振り無かったじゃない?それに、奥さんだって。君の所は円満家庭だったでしょうが。」

「先程も言ったが、絶対に子供ができない魔力差があるのに、異性を口説くなど、相手に失礼だろう。結婚も出来ないのだから、本気とは言えん。妻については、そもそもこの国は、重婚が合法で、全く問題無いが。」


 えー。そういう考え方になるのか。

 結婚する気も無いのに手を出すのは、遊びみたいな?


「その話の流れでいくと、君は私に好意があるという事になるんだけど?」

「その様に話しているつもりだが?」

「全然、そうは見えなかったんだけど。」

「殆ど、諦めていたからな。」


 テオバルトの声が一段低くなった。どうやら、本気らしい。


「で、さっきの方法に繋がる訳か。」

「私の専門分野ではないが、元々研究はされていた。私が所長になってからは、重点課題として梃子(てこ)入れしていた。」

「私情?」

「そのぐらいの旨味が無くて、こんな面倒な仕事やってられん。」


 開き直ってやがる。

 でも、長い付き合いなのに、そんな研究の話を聞いた事は無かった。


 それを今言い出したのは、研究が完成とは言えなくても可能性が見えた事と、私がその方法を聞きに来たからか。

 あー。奴の背中を押したのは、私だな。


 この状況、どうしよう。

 私を好きな男が、私としたいと言っている。ここは、まあ良い。でも、子供ができたら、コイツは結婚するつもりだよね。いや、これは私が今までの男に言ってきた事と同じか。


 考え込んでいると、テオバルトにさっきよりかなり遠慮がちに、抱き寄せられた。


「やっと、ここまできたんだ。可能性があるなら、諦めたくない。」


 普段、無表情か顰めっ面のクセに、そんな切なそうな顔をされたら、どうしたら良いか分からなくなる。


 無言になった私に痺れを切らしたのか、テオバルトはいつもの調子で話しだした。


「お前の月経周期を教えろ。」

「え?」

「月経周期だ。次の月経はいつだ?」

「確か、来月の8日ぐらい…。」

「ズレは?何日ぐらいの誤差がある?」

「えっと、早まる事はほぼ無くて、遅れるのも1日ぐらい。」


 勢いに押されてつい、素直に答えてしまった。何か、まだ予想外の出来事に頭がついて行ってない。


「正確だな。それだと排卵予定日は、明後日か。お前、明日から7日間は仕事を休みにして、明日の午前中に此処にまた来い。魔力を2万以下、できれば1万ぐらいまで減らして来いよ。1週間此処に居てもらうから、泊り込みの準備もな。じゃあ、今日はもう帰れ。私も用意がある。」


 と強引に帰された。

 後から考えれば、まだ同意した訳でもないのに、指示に従う必要は無かったのだけど、この日の混乱が大きすぎて、頭が働いてなかった。


 私は、ギルドに行って10日程休むのに問題が無いか確認した。指名依頼は最近殆ど無いし、他に先々まで受けている仕事も無い。

 職員にも暫く休む旨を伝えておいた。緊急連絡なら、伝達の魔法もある。仕事の方はこれで良いだろう。


 魔力は、睡眠時に一番回復する。

 朝起きてから、午前中に8万以上を消費?

 テオバルトの奴、無茶言うなっつーの。


 いかん。何か、あいつ相手だと口が悪くなるな。付き合いの長さと、向こうの遠慮無しの言動がそうさせるんだろう。


 朝早めに起きて、身仕度を済ませたら、まずはうちの魔石(家庭用魔道具用)に魔力を注ぐ。次に大家さんの家に行き、暫く留守にする事を伝えると共に、大家さん宅の魔石も補充。


 自分に身体強化・結界を掛け、まずは地元に転移。「ついでに寄っただけだから。」と、驚く両親に言い訳しつつ、2人に身体強化を掛けた。コッソリ大量に。

 次に、役所に行って貯蔵用の魔石に補充。主に魔物避けの障壁や、街灯に使われている物で、毎日必要だから、凄く感謝された。

 更に次は、街のギルドに行って、非常時に使う魔石に補充。怪我人が出て魔力が足りない時も安心。


 似たような事をアルの街、王都で繰り返した。


 それでやっと7割ぐらい減った。王都は規模が大きいだけあって、結構使えた。

 大勢を連れて空間転移とか、強大な攻撃魔法とかだと、もっと簡単に消費できるんだけど。


 残りは、仕方がないので郊外で、物理・魔法・光学の結界を張ってから、何発かの極大魔法で消費した。

 人や動物を巻き込まないように、小さい範囲で。

 強い魔法が使えるからって、何処でも使える訳じゃない。


 こうして、なんとか9割近くを消費して、研究所に行こうとしたが、踏み止まった。

 魔力消費しながら、ずっと気になっていた。


 テオバルトが妻帯者だと知っていた。

 今まで、相手をしてもらってた人達には、彼女や奥さんがいないかあれだけ確認したというのに。今回だって、同じじゃないの?自分が嫌だったから割り込みたくないと思っていた筈だ。


 それなら、テオバルトはまず除外しないといけない相手だろう。


 でも…。

 ヒヤリと恐怖が心を撫でる。


 例えば、旅に出て本当に誰かに出会えるだろうか。魔力が高くて、面倒な条件設定に付き合ってくれる人。エルフ族や妖精族でも、こちらの魔力が高すぎるから。

 龍族なんてどこにいるのか見当もつかない。出会えもしないのに、条件設定はいらないとか、何の救いにもならない。


 でもこのままなら、皆に置いていかれて、ただ魔物を倒す為だけの人生。


 嫌だ!怖い。寂しい。

 何も残さず、ただ一人で長い時を最期まで過ごすなんて。


 そこに落とされた、「可能性」という言葉にジワジワと侵される。


 テオバルトは、実験に関わる事に嘘は言わない。例え自分に不都合であっても。

 だから、妊娠の「可能性」も、奥さんがいても「問題ない」という発言も本当なんだろう。


 そう考えてみても、踏み出せない私は、ベルナー家へと向かった。

 午前中に来いと言われたから、テオバルトは研究所だろう。あいつのいない所で話したい。


 突然の訪問にも関わらず、エリーゼちゃんは快く会ってくれた。エリーゼちゃんは魔法学校の1つ下の後輩で、テオバルトの奥さんだ。

 外見は40代ぐらいかな?上品なご婦人になっていた。


 突然の訪問に謝罪をして、本題に入る。

 今回の実験で子供ができる可能性がある事や、それをどう思うかを率直に聞いてみた。


 テオバルトが可能性があると発言した事に驚いていたが、彼女の答えは簡単だった。


「頑張ってくださいませ。成功をお祈りしておりますわ。」

「本当に?嫌じゃないの?」

「本当ですわ。もし、実験が成功したら、もう一度ここに来て下さい。理由もお話ししますから。」


 家の事情で、嫌と言えないだけかも、とジッとエリーゼちゃんを見ていると、彼女は苦笑してこう言った。


「信じられませんか。では、1つだけ事情をお話ししますわね。いずれ近いうちにテオバルト様は結婚する事になります。一族の若い女性に魔力の高い子供を生ませる為に。それをテオバルト様が本当に(・・・)受け入れるかは別ですが、努力したという体裁は必要ですから。」

「エリーゼちゃん、いや、エリーゼさんがいるのに?」

「ふふふ。学生時代を思い出しますわね。外見から判断できると思いますが、私はもう子供を生める年ではありませんから。だからこそ送り込んでくるのですが、テオバルト様の寵が移ったと言って権勢を振るおうとする女より、リーリア様の方が、余程良いですね。」

「そういうもの?」

「事情は色々ありますけれど、それも、身内でないと話し難いので、本当に成功を祈ってますわ。それに、失礼ですが、子供が欲しいのですよね?テオバルト様が言うのなら、それなりに可能性があるはずです。それを諦められますか?」


 その言葉に、私はグッとおし黙る。


「ほら、テオバルト様がお待ちなのでしょう?向かってあげて下さいな。」


 有無を言わさぬ笑顔で、追い返された。


 エリーゼちゃんには、見透かされてたな。

 結局、自己満足なんだ。奥さんに許可貰ったって、自分を納得させたいだけ。

 彼女に言われた通り、「可能性」を諦められない。

 それでもダメだったら…と考えかけてやめた。


 諦められないなら、「可能性」のあるうちは進むしかないんだから。



 ようやく決心のついた私は、ギリギリ昼前に研究所に向かった。


 所長室に着いた途端、「遅かったな。」と言われた。

 相変わらずの無表情だ。


 私はなるべく平静を保って言った。

 エリーゼちゃんに会った話はひとまず置いておく。


「仕方ないでしょ。穏便に魔力消費するのに、どれだけ手間かかると思ってんの。」

「まあ、研究所(ウチ)の魔石はこの後必要だから、今は補充させられんしな。」

「はいこれ。今現在の鑑定結果。残りの魔力1万ぐらいになってるでしょ。」


 私は、自分に鑑定を掛けて、紙に写した物を渡した。


「あぁ、確かに。お前、昼食は?」

「まだ、食べてない。」

「此処の食堂の物で良いなら、この部屋で食べるか?」

「うん。それで良いよ。お願いします。」


 此処の食堂は、実験で来てた時にも、よくお世話になった。自分で行っても良いけど、顔見知りの所員さんに「今日は何の実験ですか?」とか聞かれても答えられない。


 すると、「待ってろ」と言って、出ていってしまった。

 どうやら、自ら食堂へ行ったようだ。大人しく待ってると、トレーを2つ持って帰ってきた。いつもは秘書さんらしき人に頼むのに、何だろう。この甲斐甲斐しさは?


 所長室の応接セットでご飯を食べながら、何か話題を探すが、見つからない。

 気まずいような、フワフワして現実味が無いような。ハッキリ考えると、居たたまれなくて逃げてしまいそうだ。


 無言の昼食を終え、所長室の奥の扉へ連れて行かれた。

 そこは、テオバルト曰く『仮眠室』だそうだが、ビジネスホテルよりも広いスペースに、小さなソファ、テーブル、広めのベッド、バストイレ洗面所があった。さすが国立の施設の一番偉い人の部屋だ。


「お前には悪いが、この部屋で7日間過ごしてもらう。此処は警備もしっかりしてるし、魔力消費もできるからな。」


 まあ、十分生活できそうな場所ではあるんだけど、なんかこの後の事を考えると、えーと…。

 さっきあれだけ決心したというのに、否定の言葉が出そうになる。


「設備的には十分だと思うよ。あのさ、勢いに流されて、ここまで準備しちゃったけど、やっぱり、」

「待て。それ以上言うな。強引に話を進めた自覚はある。だが、可能性があるなら、試してみたい。俺が相手では、どうしても駄目か?」


 あー。ズルいなあ。普段は尊大・無表情のクセに、そんな必死な顔しちゃってさ。

 もう、知り合ってから何十年も経つのに、昨日から知らない顔ばっかり見せられてる。


 なんか、こっちまで、切なくなるっていうか、放っとけない気がしてくる。あー、もう。


「分かった。私だって、自分の子供が欲しいし、他に好きな人がいる訳じゃ無いしね。」

「そうか。」


 今度は、明らかにホッとした顔してる。普通の人みたいだよ、君。



 私は、最後の準備である基礎消費魔力を切る作業にかかる。

 自分に詳細鑑定を掛けて、目の前に浮かんだステータス画面を確認。

 身体強化に数百、自己修復に数百といった感じで常に使われている分をオフにする。


 私にとっては、千や2千は大した量じゃないけど、普通の人1人分以上の魔力を身体の防衛に使っているようなものだ。受精というのが自分以外の物(異物)を受け入れる事だと考えると、防御が強過ぎてはいけないという事なのかな?


 準備が整った私は、朝からバタバタしてたので、先にシャワーを使わせてもらった。

 ベッドに座って待ってると、後からシャワーを浴びたテオバルトが近付いてきた。


 間が持たない。何を言えば…。


「あ、あの、」

「好きだ。」


 ドクンッ


 胸が痛いくらいの鼓動が自分から聞こえた。

 私は、何も続けられずに、目の前の男を見上げた。


「ずっと好きだった。」


 そう言いながら、私を抱き締め、性急なキスをしてくる。

 ダメだ。ドキドキしてきた。


 近くで見ると、本当に綺麗な顔をしてる。

 金髪碧眼の、いかにも上流階級出身のエリートって感じだし、同じ年だけど、私の感覚では、30代半ばから40代前半ぐらいで、落ち着きと渋さが出てきた感じ。


 全然、好みでも何でもなかった筈なんだけどな?


 ベッドに押し倒されて触れられるけど、凄く丁寧でもどかしい。

 それを訴えてみたら、基礎消費魔力を切った私は一般人より更に弱い状態だから、という答えが返ってきた。


 この世界の人は、その多少の違いがあっても、皆魔力を持っている。だから、どんなに少なくても基礎消費魔力があって、それを使ってない状態が怖くて仕方ないのかもしれない。

 でも、魔力なんて夢物語だった日本の記憶のある私にとっては、別にそう気になるものでもないんだけどね。

 もちろん、普段より、病気や怪我に注意しないといけないのは、分かってるけど。


 とはいえ、私はそれなりの経験のある大人なんだから、そこまで遠慮しなくて良いと伝えると、少しの間をおいて、激しく求められた。

 一瞬睨まれたような気がしたけど、それからは心も身体も翻弄されて、その事を覚えていられなかった。



お読みいただきありがとうございます。

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