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初投稿です。よろしくお願いします。
カラーン、カラーン…。
教会の鐘が、どんよりと曇った空に響く。
今日は、元旦那の葬儀だ。
親族の席には、再婚した奥さんとその連れ子の男性、もう一人の青年は、再婚した後にできた子供だろう。更にその奥さんと子供。
あの時の子供がこんな立派な大人になって、子供までいるとは。
改めて、過ぎた年月の長さに驚く。
あの人も、子供と孫に囲まれて、きっと良い人生だったに違いない。悲しむ親族達を見て、そう思えた。
あの時の決断は、やっぱり間違いじゃなかったよね。
参列者達と共に、棺に花を手向けた。皆近所の人達だ。この街で生まれ育った私は、皆を知っているが、誰も私に気付かない。
唯一、幼馴染の女性が私に目を向けるが、口元に人差し指を当ててみせると、小さく頷いてくれた。今は、別の土地で暮らす私に、この葬儀の連絡をくれた彼女には感謝している。元旦那には、もう長いこと会っていなかったが、最後のお別れができて良かった。
さて、ここで、少し自分の事を語ろうと思う。
私の名前は、リーリア・ファイデ。74歳。と言っても、前の世界の基準なら、20歳を少し過ぎたぐらいに見える。この世界には色々な種族がいて、寿命もバラバラなので、外見と年齢は全く比例しない。
前の世界、とは地球で、私は転生者だ。
前世では、普通に結婚して、子育てして、寿命で死んだ。のだが、普通じゃなかったのは、死後、異世界に勧誘された事だった。
この世界の神様が言うには、人口が増えなくて困っているので、あちこちに声を掛けているらしい。しかし、了承してくれるのは、何故か日本人ばかりらしい。
さもありなん。
日本では、異世界転生のマンガや小説が流行ってるから、ではなくて、宗教観の問題だと思う。一神教の信者なら、当然異世界の神様なんて存在しないと言いそうだし、多神教でもその中のどの神様かを信仰しているなら、異世界にはその神様はいないだろうし。
八百万、何処にでも神様がいて、どの神様かを特に信仰している訳じゃない日本人には、異世界の神様も受け入れやすいんだと思う。(日本人の中にも、特定の神様を信仰している人がいる事は知っているけども。割合の問題として。)
前世を全うして未練の無かった私は、勧誘に応じ、どんな所か神様に詳しく説明してもらうと…。
・魔法がある世界。
・便利な魔道具があるので、文明レベルは現代日本とそう変わらない。
・魔物がいる。ただし、この世界で生きていける能力は確約する。
・前世の記憶は保持。
・日本の現代知識を使っても良いが、急激な変化にならないよう、為政者の子供には生まれない。また、逆に生まれてすぐ死ぬような、劣悪な環境にも生まれない。
おおっ、魔法。「私も魔法使えるんですか?」と聞いたら、「もちろんです。」との返答。楽しみ。
文明レベルはありがたい。ファンタジーなら中世みたいなイメージだけど、衛生とかニオイとか、地味に辛い。
魔物と聞くと怖いけど、生きていける能力があると言うなら、頑張ってみよう。
所謂転生チートって無いのか聞いてみたら、どのぐらいの能力かは、ランダムなので、神様は初期値の底上げだけしか手を出せないんだそうな。
前世の記憶があるのが、まあ、チートと言えるのかな。でも、王子や王女に生まれて内政チートは無しと。まあ、チートやれる程の知識も無いな。
生まれてすぐ死ぬと、これらの条件が全部消えて詐欺になっちゃうから、最後の条件も妥当だね。
それと、異世界転生に応じた人全員に神様から貰えるスキルが、全言語理解。
赤ちゃんからスタートとはいえ、全く知らない言語を一から憶えるのは大変だし、記憶があるのに周囲が何を話してるか分からないと辛いからだそうだ。これで、どんな国に生まれても大丈夫。
…と、意気揚々と転生した訳だけど、聞いてないよ!って事は山程あった。
まず、前世で年をとって死んだ記憶があるのに、赤ちゃんからスタートして、精神年齢的に大丈夫なの?という疑問は、全然大丈夫だった。
例えるなら、沢山本を読んだ子供のような感じで、知識が多い分少しだけ大人びてるぐらいで、子供は子供だった。
しかも、神様が熱心に勧誘してるだけあって、異世界転生者は珍しいものの、それなりの数いるし、この世界での輪廻の中でも前世の記憶を持つ人が時々いるらしい。
だから、子供の反応がちょっとおかしくても、前世持ちかなと思われるだけなんだって。
親に気味悪がられて…なんて事も無く、普通に可愛がって貰えた。
でも、聞いてないよ!の中には、嬉しくない事もあった。
この世界には、魔法がある=皆魔力を持っている。魔力が無い人はいないらしい。でも、その多寡はかなりの差があった。
この差は、種族が大きく関わっている。
この世界の人間の魔力は中の下。エルフや妖精はかなり多い。魔族の中にも魔力の強い人が多い。この世界で一番魔力の多いのは、龍。獣人は、魔力は少なめだが、狐族は多めだとか。
そして、この世界では、種族間の混血も進んでいる。純血種同士では絶対子供ができない異種族でも、間に人間が入ると混ざるらしいのだ。どんな種族とも混ざれる種族、それが人間、ってどんな遺伝子してんのよ、この世界の人間。
そして、混ざって混ざって混ざった結果の人間が私、リーリア・ファイデだった。
この世界では子供は5歳になると、神殿の鑑定石に触らせて、スキルや能力の確認が行われる。
小学校の入学前検診みたいなものだ。
6才から3年間、小学校低学年ぐらいの読み書き計算、簡単な歴史(神話や物語程度)、魔力操作の基礎等を習う。
その3年間の間に鑑定結果を活かした進路を決める。大抵は、そのまま上の学校に行って、あと3年もう少し難しい勉強をして、その後は、家業の見習いとか、何処かの工房に弟子入りとか社会に出る準備をする。
では、最初の3年で進路を考えるべき少数の者とは、どんな子供かと言うと、ステータス値がずば抜けて高い者、特殊なスキルを持つ者だ。
どんなステータス値も【現在値】/【最大値】で表示される。
例えば、知性の最大値が高い者は、高等教育機関へ。強さや素早さの最大値が高ければ、兵士や騎士の訓練機関へというように。前世なら、スポーツ選手という道もあっただろうけど、この世界は人口が少ないのと、魔物との戦いのために、娯楽にまで優秀な人材を割く余裕はないようだ。
その中で、一番注目され、将来つぶしが利くのは、やはり魔力だ。
皆が持っているだけに、その応用範囲は広い。
対魔物戦の戦力としてはもちろん、新しい魔法の開発、魔道具の開発等だ。
だけど、それだけじゃ無い。
魔力が多い種族は長命だ。これは、身体強化、修復、調整に魔力が使われるかららしい。
そんな、前世なら生命科学のような分野も、魔力の多い者が研究している。
さて、私も5才の時、当然鑑定を受けた。
親と一緒に神殿に行き、ワクワクしながら自分の順番を待った。
魔法を使えることは分かっていたが、魔力が多かったら、魔道具の研究とか楽しそうとか、無邪気に考えていた。
ここまでくれば、お分りかと思う。
魔力は多かった。というか多すぎた。
5才児の平均が【100/500】に対して、私は【504/99999】だったのだ。
え、待って。桁間違ってない?いや、チート無いって言ってたのに…と思っていたら、隣の母親が倒れた。
私だって、この結果がどんな意味を持つか知っていれば、絶望して倒れていたに違いない。
前世の記憶があっても、この世界では5年分の知識しか無かったのだから、仕方がない。
翌日、神官様がわざわざ、私の家までやって来て、説明してくれた。鑑定結果を複写した紙を持って。
本来、この紙は鑑定後に貰えるのだが、母の倒れたゴタゴタで、貰い忘れてきたのだった。
母がショックを受けるぐらいの、良くない話だと覚悟していたせいで、私まで倒れずに済んだが、気が遠くなる話だった。
神官様曰く、魔力が多いのは、混血により魔力の多い種族の要素が重なったからだろうとの事だ。この時の話をまとめると、
・魔力が多いと、身体が勝手に身体強化に魔力を使うので、怪我もしにくいし、病気にもなりにくい。
・魔力の多い者は、寿命の長い種族の要素を持っているので、長生きする。成長に従って現在値は増えるので、寿命に関しては最大値に依存する。
・私の最大値は、エルフや妖精の平均値よりも高く、龍に迫る数値なので、寿命に関しては、予想がつかない。
・男女の魔力量に差があると子供ができにくい。
・人間は、他種族と混血することができるが、やはり魔力量の差があると子供ができにくい。それでも人間同士よりはできやすい。
…神様!聞いてないよ!
病気や怪我が少ないのは良い。
でも、寿命が長いとか、子供ができにくいとか、どういう事⁈
人口増やす為の勧誘で、女性を連れてきたなら、できるだけ子供を産んで欲しいんじゃないの?
そりゃ、女は子供を産むのが全てとは言わないけど、一人が長生きするより、子孫を増やすべきなんじゃ?
あ、でも、神様は底上げするだけで、能力はランダムだとか言ってたよね。確かに、うちは父親も母親も種族としては人間だけど、先祖には色んな種族がいるって言ってたっけ。特に父親は「俺の先祖には龍がいたらしいぞ〜」と自慢していたけど、眉唾物だと思ってたよ。龍なんてレア種族だからね。今となっては、嬉しくないが。
という事は、この両親の下に生まれてきたのが原因か。受け入れるしかないんだね。
しかし、こんな話を5才児にするのか?と不思議に思っていたら、鑑定結果に、【異世界転生者】って載ってたわ。
前世持ちなら理解できるから、本人に話しましたと神官様が言っていた。
結果の他の項目についても、説明してくれた。だいたいどれも、人間の平均より少し高めで、知性は結構高め。少し高いのが神様の底上げ部分だね。知性が高いのは、前世持ちとしては普通だそう。
そして、スキルの欄に【全言語理解】【状態異常魔法無効】【全属性全魔法使用可】というスキル。
【全言語理解】は聞いていた通り。
状態異常は、毒とか睡眠とか混乱とか石化とか。その魔法はかからないけど、毒薬とか睡眠薬とかは効く。
全魔法使用可は、見聞きする機会さえあれば、どんな魔法も習得できるスキル。
【状態異常魔法無効】は、後天的にでも取得できるので、持っている人はいるが、【全属性全魔法使用可】は、かなりレアらしい。
うん、分かった。これアレだ。人口を増やす要員じゃなくて、魔物を減らして、皆が安心して子育てできるようにっていう方をやれって事だ。
そして、3年後、王都の魔法学校に行く事が決まった。
お読みいただきありがとうございます。