進道 進とオカマと彼女とマフィア
どうも、朝起きて見える天井の染みが顔に見えてしまう作者です。
やっと、明確な敵キャラ出せました。
辺り一面が真っ暗な空間の中、俺は一人立ち尽くしていた。
夢かなと俺が思っていたら前方に灯りがともった。
近づいてみるとそれは……祭り提灯の明かり灯りだった。
夏祭りの雰囲気をかもし出す数々の出店の一つに自然と目が向く。
あれは射的ゲームの屋台だ。
屋台の中、母親の横で一人の男の子が銀玉鉄砲を構えている。
どこか見覚えがある顔だと思えば
………俺、だな。
「進は相変わらず的に玉を当てるのが上手いわねぇ。」
「当たり前だよ!」
ここまで見たらもう、ここは夢の中にいることがわかるのは明らかだ。
しかし、この夢の光景……とても懐かしい思い出を見せてくる。
「だって」
幼い俺が何かを言う前に視界がぼやけてやがて全てが見えなくなった。
「………っ、」
気持ちよく俺は覚醒した。
「………ん?」
腕が動かない。
体の横で固定されている……な、何だ?
瞼を開けると、白い天井と聡美の顔が視界に写った。
「あっ、目が覚めたか進道君。体の調子はどうかな。」
「ん~まぁまぁ、です。」
「まぁまぁじゃないでしょ!君の両手、特に右手の指の骨折に手の甲には大きな穴、全身の至る所に痣や打撲。そしてギリギリ心臓の横を貫通した弾痕。今の君は面白いほど重傷者だよ。」
まぁ、とりあえず心配してくれてるみたいだ。
俺は病院のベッドに寝かされていた。
体のどこかを動かそうとしても、やはりびくともしない。
分厚い包帯で指先から足先まで拘束されている。
しかし、首は動くようだ。
俺はゆっくりと首を聡美の方に向けた。
「………ッ!?」
巨大な果実いや、聡美のG級クラスの胸が目の前に現れたのだ。
おお!こ、これは!!
目覚めたばかりで気分がもうろうとしていた俺の意識が、聡美の巨乳を見て完全に本調子となった。
じ、G級以上の胸が目の前にある!
俺は力を込めて腕を手を指を動かそうとした。
が、動かなかった。
くぅ……む、無力だ。
「まず君に任務成功のおめでとうを言うよ。」
あの少女は無事に逃げたか。ん?あと誰かいたような…
「そこで早速デートと言う約束だか、」
聡美の目が意地悪く光る。
「うん……その体だと無理だな。」
この時、俺は泣いた。
もちろん号泣だ。
※※※〇※※※
全治三ヶ月。
まぁ、あんなのと戦ってこれで済んだのだ。
よしとしておこう。
入院ライフは快適だった。くだらない特番を作ることにかけては天才的な日本のテレビ局のおかげで退屈はしなかった。
『民間人が知らない巨大組織、組織の狙いとは!?』
とか、
『遊園地に現れた黒い切り裂き悪魔を追え、取材班決死のリポート!!』
とか、
『脅威のロシアマフィア、日本到来!?』
など色々あった。
何個ぐらいは身に覚えがあるやつもあった。
家族にはバイクで電柱に突っ込んだと言うことでごまかした。
だから今現在こうして街を歩き回るまで不自由は無かった。
ただ一つ言うとすれば…
最初の一回以来、聡美が会いに来なかったと言うことだ。
「おいおい……そこ一番肝心なことだろうがっ!!」
周りの通行に人達が何事かとこっちを見ている。
非情に恥ずかしいことなのだが、叫びたくなる。
聡美のやつ退院三日目なのに全然連絡もない。
「さすがにおかしいだろ。」
しかし、連絡をしようにもできない。
聡美はいちいち携帯を変えてるからだ。
だから、こちらからの連絡手段はないに等しいと言ってもいい。
だが、捜す手段はある。
そう、あるのだが……う~ん、しごく嫌なんだけど……くっ、仕方がねぇ。
「ハァー。」
自然と口からため息が出る。
俺は重い足どりで歩き始めた。
街の西側にある小さな通り。
風俗店のたまり場である通称『ピンク通り』その通りのさらに最西端の店、すっげー派手な外装の店『ラブリー・エンジェル』に入る。
さて、いきなりだが……情報屋という職業は実在する。
この店にいる奴は情報屋の最高峰だ。
「スミマセ~ン。開店時間はまだ、てっあらぁ♡進道ちゃんじゃないのぉ!」
野太い声が響く。
「退院してアタシに会いに来てくれたのねぇ!」
「………。」
目の前で情報屋が自分の体を太い腕で抱き寄せている。
「何がほしいの、お酒?手料理?それともア・タ・シ?」
「悪いなノブ子、俺には綺麗な『女』の恋人がいるんだよ。」
「失礼しちゃうわぁ。アタシだって『漢』よぉ♡」
なんか、もう疲れてきた…
『オカマバー・ラブリー・エンジェル』この店の正式名だ。
そして目の前にいるムキムキなオカマ、略してオカマッスルが情報屋の最高峰で有名なノブ子だ。
「おいノブ子、俺が何でここに来たか知ってんだろ?情報がが欲しい。」
「聡美ちゃんの居場所ねぇ、良いわよ教えてあげる。報酬は進道ちゃんのアツ~イチッスで♡」
「銃弾ぶち込むぞ、筋肉お化け。」
「進道ちゃんには出来ないわよそんなこと。だから……ね?」
ノブ子が少しずつ俺にじりじりと寄ってくる。
背筋がゾワゾワする。
だからコイツは苦手なんだよぉ。
俺は迷わずコルト45を抜き出した。
「あぁ~んもぉ、はいはいわかったわよ。」
銃口を額に向けられて、俺に抱きつこうとしたノブ子が止まった。
「それで聡美ちゃんの事なんだけど、あの娘ちょっと特殊な仕事で出てるわよ。」
「特殊な仕事?」
ふーん、聡美が動くほどの事か……
「悪いけどアタシはあの娘に恨まれたくないのよ。こっから先は進道ちゃんの雇い主に聞いてちょうだい。」
「………。」
その雇い主に会えねぇからわざわざここまで来たってのに。
「……今のスマホの番号と住所は?」
「あるわよ。」
ノブ子が懐から折り畳んだ紙を取り出した。
まったく……用意のいいオカマだな。
俺は紙を受け取った。
「ところで進道ちゃん。あなた彼女がいるって言ったわよねぇ?」
突然ノブ子が話し掛けてきた。
「あぁ、そうだけど。」
「あら、おかしいわねぇ。アタシが知ってる情報だと進道ちゃんはフラれたばかりじゃなかったかしら。」
「うぉっい!なぜ俺がフラれたことを知っている!?」
「Sk〇peの友達からよ。」
「はぁ?」
なぜ俺の個人情報がS〇ypeに乗っているのか、いや誰だよ情報を書いた奴。
………ハッ!?まさか、俺の母親か!あり得るぞあのババァ!?
「んでぇ、進道ちゃん。あなた本当に彼女いるの?」
「当たり前だ!俺の彼女は……っ危ねぇ!」
俺は今死地に飛び込むところだったことに気付いた。
「彼女は何なのよ?」
「いやぁ、あの…」
バァアン!!
運良くここでドアが開いた。
助かった、まさに神のご加護……少し乱暴だけど。
「見つけたぞこの野郎っ!!」
店に怒鳴りながら入ってきたのはナイフを持ったチンピラ風な男だった。
「……えっと、どなた?」
「あ~、あの顔は進道ちゃんが潰した『龍音組』の手配書に小さく写真が張ってあった下っ端ねぇ。」
よーするに敵討ちってやつか。
「テメェのせいでオレはどこ行ってもお払い箱だ。テメェのせいだ!ぶっ殺してやる!!」
あぁ、面倒くせぇなコイツ。
「いい機会じゃねぇか。極道なんかやめて真っ当に生きろよ。」
「それができたらここにいねぇよ!!」
確かにその通りだ。
「ちょっとアンタ達、ヤるなら店の外でやんな!」
ノブ子が大声を出す。
今ここで怒らせるのは面倒だ。
とりあえず、外に…
「うるせぇっ!このオカマ野郎っ!!」
店内の空気が凍った。
おふぅ……やべぇ。
「お、おい!今すぐノブ子に土下座して謝れ!!そうすれ」
「はぁ?何言って…オブふっ!?」
下っ端男は最後まで言えなかった。
丸太サイズの腕が男を壁まで殴り飛ばしたからだ。
「野郎じゃなくて漢だ!オカマを嘗めとんのかワレェッ!!」
………うわぁ。
うん、巻き込まれるのはゴメンだ。
「ノブ子、俺もう行くわ……ありがとな。」
俺は急いで店から出た。
ドアの向こうから声が外まで聞こえてくる。
『オカマの素晴らしさ、その体に教えてあげるわよぉぉぉぉ!!』
『ひいぃぃぃぃっ!?』
仇討ちってもんはいつだって虚しく終わるものだ。
俺は名も知らないチンピラに同情した。
合掌。
※※※〇※※※
私は護衛を連れてかないで深夜のネオンサインが輝く街中を歩いていた。
酔っ払い、オタクや客引き、犯罪者まがいのヤンキー達に下品な好奇の視線を向けられるが私は気にしない。
いつもは部下に任しているが、私だって実戦用の格闘訓練はだいぶ積んでいる。
それに、脇のホルスターには実弾が装填されたガリルMARをぶら下げているからもし変な奴にからまれても、どういうこともない。
私は『青空』という酒屋に入った。
店内にはライトアップされたステージがあって、そのステージの上で男三人がギターを弾き、歌っていた。
カウンターに待ち合う予定の人物がいたので私は隣に腰を下ろす。
「ワインを一つ頼む。」
とりあえず注文。
「時間通りだな。」
待ち合わせの相手は私が雇っている殺し屋で彼氏(?)の進道 進だった。
「なぜこの店なの?」
私は疲れた調子で言う。
「別に意味はないけど、嫌いじゃないだろ?」
「普通…。」
「何シケてんですか。せっかくのデートが台無しですよ。」
「ここでデートねぇ…」
老人の、鋭い目付きをしたバーテンダーが注文した赤いワインを私の前に置く。
横で進君は黒ビールの瓶にストローを入れて吸っている。
つくづく思うが、変だなぁ進君は。
だと今さら思う。
少しだけワインを口に含んで飲み込み、舌の動きを軽くしてから私は言った。
「…で、進君は」
「『君』をつけないでほしいな。恋人なんだから。」
「……進は仕事中の私のいる所と今使っているスマホの番号、どこで知ったのかな?」
「愛の力です。」
私は進の右頬を叩く。
無表情で。
「…スンマセン。」
進が白状した。
「ノブ子からです……「ちっ」…スンマセン。」
「…ハァ、最悪。」
オカマの名前を聞いて私は舌打ちをした。
進は自分が言われたと思い落ち込んでいる。
オカマの情報屋。
昔は業界最強の殺し屋と吟われた男。
そして、私の母親を捨てた男。
私の父親で憎むべきだが信用できる腹が立つ男。
「……まだノブ子には付き合っていることを話してない。あのオカマ筋肉マンは怒ると怖いから。」
そう言って進が頭をかいててへぺろと舌をだす。
私はそんな彼の額に軽いデコピンをした。
「俺は聡美が心配なんだ失いたくない。だから、手伝うよ。」
「へぇ。自分から仕事を志願するって、君にしては珍しいね。」
「あたりまえだ。何でたってお前の彼氏だからな。」
「!?」
と言って進は私の手を握って笑った。
今この時、本当にドキッてしまう私がいるのが恥ずかしい。
顔に出ないよう平常に平常に………
「ところで、聡美の仕事ってどんな仕事なんだ?」
「ん~、ゴホンッ。」
気をとりなおす私。
「ロシアの大型マフィアの首領を暗殺。」
「ぶっ!?おいおい、かなりヤバイ仕事じゃないか!?」
「そうね。」
確かに難易度が高い仕事だ。
正直、請け負ったことを後悔している。
今さらやめることはできない。
後には戻れない。
「もうやめることはできないよ。」
「俺が行く。俺一人で首領を殺る。だから世里は殺らなくていい。」
「………。」
何も言えなかった。
彼がこうも私のことを愛しいと思っていることを嬉しく思う。
「大切な彼女を守ることが「彼氏の仕事って言うのかな?」」
私は少し先を読んで言ってみた。
「………ハハッ。」
進が私を見て笑う。
「その通り!」
私は彼にしてやれることをしたいと思う。
「じゃあ、そんな君に最高の武器を用意してあげるよ。」
朧月が照らすわずかばかしの月光の中、完全武装の俺が港の夜道を歩いていく。
敵が使用する経路はだいたい目星はついている。
なにしろ大型マフィアだ。
数が多いければ多いほど精神的に安心するかもしれないが、逆にその大所帯が目立つ。
俺は適当に建物の屋上に登ってM24 SWSを手に取り狙撃姿勢をとる。
しかしなぁ……彼女の前だから格好付けたものの、相手が大型マフィアだ。
手の汗が半端ないってマジで。
やがて、光学照準器に車が写った。
黒塗りのベンツ、いかにもマフィアですって感じだ。
金持ち……ブルジョアめ!
車の中から何人かの男達がぞろぞろと出てきた。
人数は1、2、3……8人。
そして、とうとう9人目の奴が出てきた。
白いスーツを見を包んだ細身の男だ。
俺とそこまで歳の変わらない二十代に見える若々しさ。
間違いない、聡美に渡された写真の人物だ。
あいつがイーゴリ、イーゴリ~、イーゴリ何とかだ多分………
とにかくチャンスだ。
そこまで護衛の数は思ったより多くないし頭上、屋上にいる俺に気付いていない。
距離もそれなりにあるし射撃をミスってもなんとかなる。
照準を合わせ、イーゴリの頭に狙いを定めてライフルの引き金に指をかけ力を…入れて引くことができなかった。
「!?」
スコープ越しで見るイーゴリの顔は俺を見て笑っていた。
否、笑顔とは言えない気がする。
奴の視線を感じると思った瞬間、身体中にミミズが這い回るような嫌な感触に襲われた。
「ヴっ……」
重圧感による激しい吐き気。
今まで味わったことがない感覚に戸惑う。
なんだコイツ?明らかにヤバイだろここから早く逃げ…
『もうやめることはできないよ。』
引き金から指を離そうとしたら、聡美の声が頭に響く。
もし、俺がこの依頼を放棄したら聡美が代わりに来るかもしれない。
あんな奴を、あんな怪物を聡美と合わせる訳にはいかない。
うん、俺が殺らなくちゃいけない。
俺は再びスコープを覗いた。
イーゴリは何のつもりかその場に立ち続けてこちらを見ている。
マジで俺のことが見えてるみたいだどんな視力してんだ化け物か?
「てか、狙われてるのに顔色変えないって……俺を試してるのか?」
そう呟きながら俺は今度こそライフルの引き金を…引けなかった。
「……くそっ。」
首筋に冷たい鉄の感触がする。
イーゴリに気を取られ過ぎちまったようだ。
「…………ふぅ。」
俺は眉間に深いシワを寄せる。
横に視線だけ向けると、全身黒づくめのやつが、すぐ隣にいて銃口を俺の首筋に当てていた。
まさに、狙撃に集中していたところに隙を突かれた格好だ。
全身黒ずくめでわかりにくいが、からだの輪郭的に女。
左手に銃を持って構えたそいつは、女だった。
「お嬢さんとデートの約束、したっけかな?」
試しに俺は訊ねてみた。
ふざけた口調なのは許して欲しい。
「今すぐ武器を置け。」
はい、冗談通じません……ヤバイわ。
首筋に銃口を突きつけられる、殺し屋稼業を始めての危機ってやつ。
多分だか、この女の言うとおりにしなければ即射殺だろう。
普通はな。
俺はライフルから大人しく手を離すと同時に、素早く右足で横にいる女の脛を蹴る。
「くっ!?」
女が驚いて銃の引き金を引くがあらかじめ予想をしていた俺は首を左に捻り銃弾を反らす。
しかし、銃弾のほうが少し早かったのか首の皮膚を少しだけ持っていかれた。
首から血を滴しながら俺は動作を止めないで女の左手首を掴んで捻り、銃を手放させる。
女が俺の手から逃れようと足掻きながら俺の頭に向けて回し蹴りを放つが頭を反らして躱す。
俺は抵抗する女の体勢を崩し、合気の要領で投げ、屋上に叩きつけて拘束し、首を掴んだ。
呼吸管と血管を圧迫し、抵抗ができないようにする。
「ごめんな、俺そこまで優しくできなくて。」
「……い、言っておくが」
苦しそうに女が口を開く。
「そこに立っている位置はイーゴリ様から丸見えだ。もちろん、彼の部下達もお前を見つけてる。」
「いやいや、まだイーゴリにしかバレt「あんな所に誰かいるぞっ!!」……おふぅ、マジかぁ。」
今見つかった。
お前らどんだけ優秀なんだよ!
イーゴリの周りにいた部下達が銃を取り出してこちらに向かって走ってくる。
そして、射程距離に入ったのか俺の方に向けて発砲してきた。
殺意の籠った無数の弾丸に、俺はつい反射的に女の首をへし折り盾にして弾丸の雨から身を守った。
「ちっ、人質にするつもりがしくったな。」
俺の周囲で大量の弾丸が跳ねる。
真横でタイルが砕け、盾にしている女からは血と肉片が飛び散る。
今のところまだ俺には弾丸は当たってないが、俺の動きは一時的に封じられた。
弾丸の雨の中、部下に連れられたイーゴリがベンツに乗せられ逃げて行くのが見える。
逃げるベンツを守るように残りの部下達が銃弾を撃ち続ける。
「くそっ、逃がさねぇ。」
俺は左手で女の盾を支えたままM320を取り出し、逃げて行くベンツの横にある高層ビルに照準を合わす。
何発か銃弾が女を貫通して俺の足下でタイルに穴を開ける。
後で遺体を丁寧に処置してもらわないとな。
「………よし。」
照準が合った。
俺はグレネードの引き金を引く。
グレネードの銃口から飛び出た40mmミサイルが一直線に高層ビルに向けて飛んで行った。
着弾、派手な炎を巻き上げ高層ビルが音をたて倒壊していく。
逃走中のベンツにコンクリートの雨が降り注いだ。
しかし、このM320に用意した40mmミサイルは1つしか用意していないから連発できないが痛いかな。
崩壊した高層ビルの周りで瓦礫に埋もれたベンツを助け出そうと俺に向けての発砲をしていた男達が大慌てで瓦礫に向かう。
悪いがその救出劇は止めてもらうぞ。
先ほど使わなかったM24SWSを使おうと思ったが、流れ弾が当たったのか、銃身の所々が歪んでいた。
もし、このままライフルを使ったら弾詰まりか、暴発するかもしれない。
「……ちぇっ、使いそびれた。これって俺が修理費出さないといけないのか?」
ライフルを人目につかないところに隠して、俺は下へと急いだ。
うちの組織の工作員が後で回収してくれる……よな?
一階に降りた俺は入口から出ないで陰からそとを覗く。
イーゴリの部下達が同じ位置に固まって瓦礫を取り除いてるのが見えた。
まったくコイツら、全くのド素人だな。
首領を助けないといけないから焦るのはわかるが……こりゃぁ、俺を完全に忘れてるぞおい。
俺はジャケットの懐に手を入れ手榴弾を取り出す。
ピンッ!
指で手榴弾の栓を引き抜いた。
「……そいっ。」
俺は瓦礫撤去作業を行っている男一人に狙いをつけて男の頭目掛け投げた。
「痛ぇ、………ふぁっ!?」
コツンっと、頭に当たり落ちた手榴弾を男が手に取って驚愕した時にはもう遅い。
手榴弾が爆発した。
更に、チュドーンっと手榴弾とは別の爆発が起きた。
どうやら瓦礫に埋もれたベンツに引火したようだ。
爆風が俺の顔を撫でる。
俺は辺り一面に広がる火の海になった現場を眺めていた。
「はぁ、……疲れた。」
急に疲れてがどっときて、思わずその場で腰を降ろした。
しかし、何かおかしいよな。
と、俺は火の海に包まれた瓦礫の山を見ながら思った。
あれだけの圧力を放ちながらこうも簡単に殺られるとかおかしいだr
ドンッと、立ち上がった俺の背中に衝撃が走る。
いきなりのことなので俺は地面に突っ伏した。
「ってぇ!何だいきなり!?」
少し背中が重いと思いながら急いで体勢を立て直す。
―まだ、生き残りがいたのか!?
振り返ろうとしたが後ろを見る余裕がなかった。
ピッピッ…
背中から小さな機械音が聞こえる。
「!?」
咄嗟の判断。
俺は右手で自分のジャケットの襟を掴んで素早く閃かせ、ジャケットを脱ぎ捨てなるべく遠くに投げた。
俺自身はジャケットから離れるために走る。
投げる時に見えたが、ジャケットには接着型爆弾が貼り付いていた。
爆弾が爆発。
周りの建物が揺らぐ。
俺はなんとか近くあったレストラン看板の裏に飛び込んで爆発に巻き込まれないで済んだ。
「あー、危ねぇ危ねぇ。」
俺はコルト45を腰から抜きながら看板の裏から顔を覗かせ、爆弾が投げられたであろう方向に視線を移す。
道路の向かい側、貯水タンクの横で見覚えのある黒バンダナの男が立っていた。
手には前回に俺を撃った銃、多分だけどロシア産のAK-308。
「邪魔をするなと言ったたはずだが。」
「……ロシアの殺し屋。サルタナ・フォルニカがお前の名前だろ?」
言っとくが、ダジャレじゃないからな?
「…………。」
「悪いがお前のことを色々と調べさせてもらったぞ。」
主にノブ子がな。
そう、俺は仕事に行く前にノブ子の所へ行っていた。
嫌だったけど、仕方がなかったんだっ!!
「お前がどのような契約をして今の仕事をしているかまではわからなかったけど、まさかマフィアとつるんでたとはな。」
俺は、看板の裏から駐車場に止めてある車の陰に移りながらフォルニカに近づく。
「…………。」
「別にさ、俺はお前の仕事を邪魔するつもりはない。仮にも命救われた恩がある。だがよぉ……」
俺は動きを止めた。
「俺のやってる仕事の邪魔は許さないぜ?」
車の陰に身を隠しながらコルト45で牽制射撃をする。
フォルニカはまるで弾丸が見えるかのように自分が当たるであろう弾丸だけを身を屈めて軽々と躱す。
「そうか……なら、お前を殺すまでだ。」
今度はフォルニカがアサルトライフルを発砲。
しゃがんだ俺の頭上で車の窓ガラスが砕き、散った。
撃ち合っているうちに、俺のコルト45の弾倉から弾が切れた。
「ちっ、弾切れか。」
急いでズボンのポケットから銃弾を取り出そうとしたが、
スカッ、スカッ……ア,アッタ。
「………え?」
なんと、コルト45の銃弾があと二発しかなかった。
他の予備は全てジャンバーと共に爆発したのだ。
ナ、ナンテコッター(汗)
俺の動きが止まったのを見て、フォルニカが貯水タンクから離れて予備動作無しの猛ダッシュで近づいてきてそのまま飛び掛かって来る。
俺は咄嗟にベルトに挟んでいた最後の手榴弾を掴み、フォルニカに投げつけた。
しかし、フォルニカは体を捻り躱す。
手榴弾はフォルニカの横を通り抜け、貯水タンクに当たりそして爆発。
「!?」
背後の爆風と水飛沫に反応したフォルニカの動きが止まった。
風に吹かれ爆煙が俺とフォルニカの間に入り視界を塞ぐ。
この僅か数秒の空いた時間に俺はコルト45をしまい、腰から別の二丁の拳銃を引き抜いて乱射。
この距離で無数に撃てば被弾を恐れて動きが止まるはず………!?
「なっ、んだと!?」
フォルニカの動きは俺の予想を大きく上回っていたのだ。
爆煙を突き抜け、無数に飛び交う弾丸の間を縫ってフォルニカが俺に向けて走っ来るのだった。
その手にはアサルトライフル無く、両手に黒塗りのダガーナイフを装備していた。
爆煙から飛び出たフォルニカは獣のような低い姿勢をとって走る。
「この命知らずがっ!」
俺はフォルニカに拳銃を向けるが、既に間合いが縮まっていた。
ちょまっ、速くね?
「シィィッ!」
フォルニカが二本のナイフを交互に振るう。
俺は後転で薄皮一枚でか躱わす。
躱しながらも回転中の姿勢から的確にフォルニカに向けて弾丸を撃つ。
が、素早く流れるように動くフォルニカを捕えることができない。
至近距離過ぎて、逆にに当てずらい。
「……フフ、お前の焦りを感じるぞ。」
俺の顔を見てフォルニカが笑うが、黒バンダナの下にあるその瞳は笑っていなかった。
「離れろよ。」
フォルニカの顔面に向けて拳銃を撃つ。
「…………!?」
弾丸をヌルリ躱わし、踏み込んできたフォルニカに合わせて俺は右手の拳銃を手放し、フォルニカの肩を掴み、驚く腹を蹴り上げた。
「うぐっ!」
フォルニカの動きが完全に止まったこの一瞬、俺は左手の拳銃も手放し、両腕のホルスターからファイティングナイフを二本抜き出し、後ろに飛んで距離をとる。
ナイフを逆手持ちにして構えた。
「ハァァッ!」
「シィィッ!」
距離を積めながら俺のナイフとフォルニカのナイフが立て続けに激突して火花を散らす。
俺の右を受けるフォルニカの左。
フォルニカの右を身を低くして避ける俺。
「ハッ!」
俺の左右連結攻撃。
ナイフをクロスさせて見事な防御をするフォルニカ……だが、いくら身体能力が高くても隙はできるもんさ。
フォルニカのナイフの刃を俺の刃で受け止めた瞬間、俺はナイフの柄を捻ってフォルニカの腕を浅く切りつけた。
が、俺の右肩から血が吹き出る。
フォルニカのナイフが俺の肩にめり込んでいた。
色々とフォルニカの方が上だったが、一進一退の傷だらけの激しい攻防が続く………が、
「………っ!?」
突如、フォルニカの顔がひきつった。
俺の攻撃に力が増したのに気付いたらしい。
まぁ、驚のも無理もないがぁ、別に俺の力が増した訳じゃない。
種も仕掛けもございますw
最初はフォルニカ有利の削り合いだったナイフ・コンバットも徐々に形勢逆転してフォルニカだけが傷ついていく。
何でったて俺のファイティングナイフの刃には強力な麻痺薬が塗ってあるからな。
ただ普通に殺り合っていたら身体能力が化け物のフォルニカに対して俺が不利なのは見えていたから、小細工するのは当たり前よ。
卑怯だって?いいんだよ勝てば。
「終わりだ。」
ついに、俺のナイフテクニックがフォルニカを上回った。
右手に持つナイフがフォルニカの左手の甲に突き刺さる。
激痛に耐えきれず、フォルニカが左のダガーナイフを手放した。
俺はすかさず右手の甲にも左手で持つファイティングナイフを突き刺す。
ダガーナイフと共に血がアスファルトに落ちる。
「……ぐぅっ、なぜだ?」
「認めたくないがお前の身体能力は神がかっていた。普通に殺りあっていたら俺が負けてだろうな。だが、…まぁ、いいか。」
俺は二本のジャックナイフを両腕のホルスターにしまった。
もうこいつに武器は必要ない。
楽しませてもらったサルタナに敬意を払って素手でケリをつけることにする。
立つのが精一杯のサルタナに距離を積め、サルタナの右頬に固めた拳をねじり込む。
頬から顎にかけてのラインに拳がまともに入った。
いくら体を鍛えようと顎に食らえば脳は揺れる。
「・・・・。」
膝をつくサルタナ。
口から血を垂らし、平方感覚がまにならないはずだが目は死んでいなかった。
「その執念は認めよう。」
俺は上に跳んだ。
俺の膝がサルタナに迫る。
「安心しろ、殺しはしないさ。」
グシャリッ!
という音が膝に広がった。
俺の着地と同時にサルタナは仰向けに倒れた。
「・・・・・はぁ、連戦とか勘弁してほしいぜ。」
サルタナに向けて合掌して切り傷だらけの体で歩く。
崩壊した高層ビルはいまだ火の海に包まれていた。
遠くからサイレンが聞こえてきた。
そろそろ潮時だ。
火の海を背に足を動かした。
……この時の俺は完全に油断していた。
いつもならこんなことは起こるはずもないはずだ……多分。
ドスッ!
気が付いた時には俺の腹から白銀の刃が生えて…いや、後ろから刺された。
そこまで気付いた時には刃は抜かれ、血が宙に噴き出る。
「なん、だとぉぉぉぉぉっ!?……ガフッ。」
あまりの痛みに、口から血反吐を吐き出し膝をつく。
痛みのために強制的な呻き声が口から漏れた。
「騒ぐな愚民。男なら我慢するのが当たり前と言うものなのだろ?」
血が溢れ出る腹を押さえながら俺は顔を後ろに向けた。
………天使。
そんな言葉が頭に浮かぶ。
俺の瞳に頭から足の爪先まで純白で身を包む人影が火の海から湧き出るかのように映った。
いや、こいつは天使なんかじゃない。
鼻と目がないツルツルな顔。
あぁ、俺はこいつを見たことが…いや、似てるようなヤツを倒したことがある。
「な、何で…白く…なってんだ?」
「白く?…あぁ、そう言う愚民は試作品を倒したと言う殺し屋か。ふむ、生きてたのか。」
俺は前の仕事で黒い悪魔じみた奴と戦った。
目の前にいる奴はそれとどことなく似ている。
「貴様ご戦ったあれは試作品だ。完成品のこれとは比べ物にならないものだろ?」
確かにこの白い奴は黒い奴に比べて美しさがあった。
卵形の頭はどちらかという雫型で体は羽衣を着ているかのようなラインが彫られている。
明らかに黒い奴との違いがわかるのはその顔だ。
見ためは何もないツルツルな仮面だが、その仮面の奥で笑っているかのように感じる重圧感。
黒い奴が放つ機械的なプレッシャーと違う。
この気持ち悪いプレッシャーは…
「お前……イーゴリなのか?」
「やっと気付いたか愚民。ずいぶんと気づくのに遅れた殺し屋君?」
俺は右腕をイーゴリに見えない位置に隠してひねった。
ファイティングナイフがホルスターから外れ柄が右手に収まる。
「はっ、マフィアが純白の天使とか…笑わせるじゃねぇの。」
左手で腹を押さえながら俺は血を口の横から滴らせながら笑ってみせた。
「ふむ、私も皮肉だとは自はしているのだがな。」
そう言いながらイーゴリは少し俺から離れた。
大丈夫、まだナイフの範囲から抜けてない。
「で、貴様には一応選択肢がある。一つはこの場で散って終わる。」
イーゴリが手を伸ばすと手首から先が銃の形になった。
「そしてもう一つは、私の部下になる。愚民だが、ある程度実力のある人材は欲しいのでな。」
条件としては破格だな。
命を狙った俺を仲間にするとは恐れ入る。
こっちの方がギャラは高そうだ。
「………ちっ、わかったよ。入らせてもらう」
ただし、
「俺をボスにするならなっ!」
右手のファイティングナイフを閃かせてイーゴリに斬りかかった。
切れるとは思ってない。頼む、怯んでくれ!!
だが、ジャックナイフの刃はイーゴリの左手に受け止められていた。
「実に…残念だ。」
イーゴリの右手首先の銃口が光った。
「さようなら、そしてまた会おう哀れな殺し屋。」
衝撃で感覚が消え、俺の意識は途絶えた。