表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガンマン  作者: ナナトル
2/4

進道 進は非常識に巻き込まれる

朝遅く起きた俺は顔を洗って歯を磨き、服を着替えてジーンズと白シャツ一枚の姿で朝食を取った。


朝食は、デパートの近くにある空き地で採集した天然(?)ウドにツクシ、ノビルを天ぷらにしたものとカロリーメイト(フルーツ味)を二本。

これらを適当に口に詰め、ビン製の飲むヨーグルトで胃に流し込む。


俺にとって食事は楽しみではない。

ただ食わなければやっていけない。

鍛え抜いた体に必要な燃料を取り込むためだ。


食事を終えテレビをつけると、昨日の仕事がニュースになっていた。

内閣の何たらがロシアマフィアがどうのこうのと何か熱く語っているが、俺は政治に興味がない……つまらん。

新聞の番組欄を見てもニュース以外ろくな番組もやっていない。


「チッ……今日はアニメは無しか。」


俺はテレビを消し、机の引き出しを引いた。

引き出しの中にはコルト45と弾薬箱が入っている。

この愛用になった銃を手に入れてから、一度も朝の掃除を損なったことがない。


俺は銃を軽く分解し、弾倉や銃身などを油が染みたハンカチで丹念に磨いていく。

完全に汚れが取れると、何とも言えないようもない満足感に包まれる。

分解したコルト45を組み立て、弾倉に弾をつめ戻し装填、安全装置がかかっているかを確認する。

装置を外すのは仕事の時だけだでいい。


色々と準備を終えて家から出ると早速、聡美が送ったと思われる外車が玄関前に堂々と停まっていた。


「おいおい……ここ、駐車禁止なんだけどなぁ。」


近所のおばさん達の視線を感じながら俺は頭をかきつつ、外車に乗り込んだ。

ドアを閉めると同時に車は発進した。


運転席にはムエイタイ風のムッキムッキマッチョな男が座って運転をしている。

この運転しているマッチョな彼は聡美の部下で信者で元自衛隊員だ。

俺達殺し屋を上司が命令した所に運ぶむさい奴なのである。


車で呼ばれるような用なんて言ってもどうせ仕事か、月に一回しか行わない顔合わせくらいだ。

はっきり言って面倒くさい。


んー、それにしても乗ってるだけって暇だし退屈だなぁ。


「なぁ、今晩ヒマか?たまにはお前と朝までパァッと飲みに」


「黙れ。」


……あ~怖い怖い。ヒマだからってコイツに話し掛けるもんじゃねぇな。


「あのさ」


「黙れ。」


……はい、限界が来ました来ちゃいました(怒)。

こんな、無礼なやつと狭い空間にいたら禿げるわ!


俺はドアを素早く開けると走行中の車から飛び出した。


アスファルトに激突する前に受け身をとって衝撃を逃がしながらゴロゴロッと転がり、落ちついたところで起き上がった。


OK、ほぼ無傷だ。

我ながら見事な受け身w

いやー、他の走行車がいなくて本当に運が良かったわ。


車が去った方から凄まじい怒鳴り声が聞こえるが、無視をすることにした。


「悪いな!今日は聡美さんに大事な用(パンツを買うこと)を頼まれてたの思い出したわ!!」


この嘘は聡美への昨日さんざんと言われたことへのお返しだ。


プはぁっwザマァ見ろ。

傷を負った男心を持て遊んだ罰だw。


本人には面と向かってでは絶対言えない文句を頭に浮かべながら俺は街へと歩き始めた。


さぁ、これから何してのんびりしようかな。

最近読めなかった漫画でも買おうかなぁ…


久しぶりの自由

……は数分で潰された。


「何か言い残すことはあるかな、進道 進君?」


「……いや、違うんすよハイ。別に逃げたわけじゃないんですよハイ。ただちょっと、ちょっと用があるのを思い出して……」


ん?ん?おかしいぞ。

つい三十秒前まで俺は街で人ごみの中を歩いてはずだ。

決して鳩尾に一発もらい四肢を縛られて路地裏に転がされてる時間などなかったはずだ。


「ほぅ、言ってみたまえ。その用と言うやつを。」


「えっと、………あれっ?ド忘れ」


ドボッ!と腹を蹴り上げられる。


「うブぅらいッ?!」


「君は逃げる時になぜ私の名前を口にした。」


鳩尾をヒールの履いた靴の踵で踏まれる痛みを必死に堪える。


「……いや、きゅ~に聡美さんが恋しくなりましてぇ。」


「なっ……!」


グリッと前より強く踏まれた。


痛ぁっ!?……しまった。

つい口説いてしまった……殺されるぅ!


痛みでぼやけた俺の視界に一枚の写真が差し出されていた。


「……何ですかこれ?」


写真には幼い女の子が写っていた。


……おいおい、まさか…


「次の仕事だ。」


「___ッ、はぁ~……」


さすがにため息が出るわ。

こんなに小さな子供を殺s


「この子を守れ。」


「はぁ?」


守れ?この上司は俺の職業を理解しているのだろうか?


「守るって……何か理由があるんですか?」


「この子は内閣総理大臣の一人娘だ。守れ……ただそれだけだ。」


「なっ!」


驚いた。

俺は一瞬自分がコソコソとやろうとした作業を止めるところだった……がっ!


俺は驚いた顔を維持し、左手首にはめている腕時計に細工した小さな糸鋸で聡美にバレないように手首の縄を音を出さずに切り始めた。


「俺の専門は殺しですよ。子守りじゃないっすよ。」


手首の縄が切れた。


とある中央部都市から離れた郊外。

とある地区の街角で、むさいマッチョな男が外車の後部座席のドアを開く。

中から両手首を鎖で巻かれた俺と鎖を引っ張ている聡美が降りた。


はい、隙を見て逃げ出しましたがものの数秒で捕まりましたとさ。

マジ、数秒で捕まるとか自信なくすわぁ。

聡美のやつ鎖で拘束しやがって……キツキツに絞めすぎて血流止まったらどうすんだコラァ!


と、心の中で叫ぶ(シャウト)


周辺の街並みは、物静かな高級住宅地と言ったところだ。

しかし、美しい建物を見るよりも俺は手首に巻かれている鎖をどう取り外せるかを考えていた。


「…………。」


ドスッ!


「っ!?」


聡美がいきなり脇を肘で小突くので前を見ると、極楽絵が描かれた鉄扉。

壁の向こうにはいかにも時代劇にでも出てきそうな和風な豪邸。


マッチョ男が呼び鈴を鳴らしてインターホンで豪邸内部と連絡をとると、鉄の扉がゆっくりと開いていく。


「ここから先は君だけで行ってくれ。」


「嫌です。」


聡美が鎖を緩めた瞬間、俺はキッパりひと言を言うと共に高速でゆるんだ鎖から手を抜き、扉と反対方向へ逃げようとしたがムサ男が中国製らしきマカロフピストルを構えて俺を威嚇して動きを封じた。


「とっとと行け☆」


横では聡美の冷たい笑顔。

俺は泣きそうになりながら言うとおりに敷地へ足を踏み入れる。


と、同時に後ろで鉄扉が閉まった。


「……マジかよ。」


ピピピピッ!ピピピピッ!


途方にくれている俺のポケットから着信音。


俺はケータイを取り出した。


「聡美さぁん、勘弁してくださいよ。」


手入れされた芝生を踏みつつ、豪邸の中へと向かう。


『仕事に集中しなさい。終わったら……そうだな、君に何か褒美をあげるから。』


「……褒美か。じゃあ、仕事が終わったら聡美さん。」


『なんだい?』


「俺と付き合ってください。」


『……~ッ!?』


俺が軽く冗談を言うと、電話の向こうにいる聡美は沈黙している。


あっちゃ~、怒っちゃたかな


『……わ、わかった。こ、この仕事が終わったら君とつ、付き合おう。頑張れ……進君。』


「なっ!」


ブチッ!


想像以上の展開になった。

もう一度聞こうと思ったが聡美はスマホの電源を切っているようで繋がらない。


「ん~。」


ふぅ……これは仕事を頑張らないといけないな。


なんとも言えない、不思議な気持ちなまま俺は豪邸の玄関にたどり着いた。

桜模様の扉は自動的に開いた。


扉を抜けるとすぐに応接間になっていた。

中央にある応接机の奥に一人の少女が椅子に座っているのを中心に九人の男達が立っていた。


「………。」


「待て。」


近付こうとすると男達の内、一人に止められた。


「お嬢様に余り近付かないでもらいたい。」


「……そうかい。」


俺を止めた男を合わせ、少女を囲む男達の姿は黒いサングラスに黒いスーツ。

テレビドラマに出てきそうな、まさに『SP』と言った服装をしていた。


コイツらは聡美が雇った同僚(殺し屋)では無さそうだ。

見た感じこの連中は確かにガタイはいい。

たぶん、戦闘の時は教科書どうりの動きをするだろう。


だが、あくまで『殺し』という観点から見ればあまりプレッシャーを感じない。


「なっ、おい!」


「……え~っと、お嬢ちゃんが俺を一日だけ雇う総理大臣の一人娘さんでいいのかな?」


男の横をすり抜け、できるだけ優しい顔で12か13歳であろう少女に近付き声を掛ける。


「うんっ!そうだよ。よろしく、おじ様!!」


「おじっ………そんなに老けて見えるのか?」


あまりのショックで頬が少し引きつる。

まだ、20代なんだけどなぁ……


それにしても元気のいい子供だ。

総理大臣と言えば厳しい人物で有名なのだが、娘は違うようだ。


「で、具体的に俺は何をすればいいんだ。」


俺は男達の方に向き直る。


「……ゴホンッ、お嬢様をある場所に連れて行くことだ。」


男達の中で筆頭らしき白髪の男が口を開いた。


「本来なら我々がお嬢様と車で同行するはずだったのだが……何者かに移動用の車を壊されてしまった。危険を感じた総理大臣は過去に命を救ってくれた恩人に助言をもらい君を雇ったのだよ。正直、気が進まないが君には我々の代わりにお嬢様を連れて行ってもらいたい。」


なかなか長い説明だった。

が、仕事は思ったより楽そうだ。

ホッとした俺がいた。


『気を悪くするかもしれないが、我々は君をあまり信用してない。よって、後からついていこうと思う。それでいいかね?』


『別に構わない。好きに見張ってればいいさ。』


てな感じで九人の護衛達には少し距離を置いてお嬢様に見つからないようについてきている。

んー、お嬢様には見つからないかも知れないけど……もうちょっと周りを気にして尾行してくんねーかな。

周りの目が痛いぞ……


「うわぁ~!すごいたくさんの人がいますね!!」


「今は少ない方だけどね。」


「もっと増えるのですか!?」


あまり家から出たことがない箱入り娘なのだろう。

まるで初めて見たかのようなはしゃぎようだ。


「…………。」


そう言えば妹の咲も小さい頃はあんなんだったな。


と考えていたら袖を引っ張られていた。


「ん?どうしたんだい。」


「あの……あたし、アレに行ってみたいです。」


少女が指をさした方向には最近できたばかりの遊園地の広告が掲示板に貼り付けてあった。


「そうかぁ……」


俺は渡されていた小型無線機を手に取った。


「おい、お嬢様が遊園地に行きたいってよ。」


『ダメだ。』


即答だった。


「あ~、………ダメだって。」


「そうですよね……」


シュンッと、テンションが下がっていく少女。


見ていてなんか悪い気がしてきた。


「なぁ、まだ時間あるだろ?行ってもいいんじゃないか。」


『ダメだな。』


こういう重い空気は俺は嫌いだ。

んなカチカチに守ってたらこのお嬢様、ダメになっちまうからな。


「……悪いな。」


『?』


俺は小型無線機を切ると俯いている少女の手をとった。


「えっ?」


「行こうか、遊園地。」


俺は少女を連れて走り出した。


うん、大丈夫。なんとかなるよな。

なるよね?




◯●◯●◯




赤、青、白、黄色の雪が道に降り積もる。

道を囲む数々のアトラクションなどから、機械を使って色のついた紙吹雪を吹き散らしているのだ。


前髪についた色紙を左手で払い右手は少女の手を離れないようしっかり握る。


遊園地の大通りはパレードで賑やかだった。

パレードの中心にいるマスコットキャラクターのネズミかイヌの着ぐるみが色々とパフォーマンスをすると、それを見た客達が喜びの声をあげる。

そんな騒がしいなかに俺と少女は混じっていた。


「初めて遊園地に来ましたけど、想像以上に楽しいです!ありがとうございます。おじ様!!」


「どういたしまして。」


少女は自分の髪についた色紙を払いながら俺に向かって微笑んだ。

子供の笑顔はいつ見てもいいもんだ。

妹、咲の小さい頃を思い出すなぁ……


時たま、後ろを振り向くとあの九人の護衛が距離をとって後をついてきているのがわかった。


……連れ戻しに来ないな。


少女、お嬢様の気分を害さないよう気をつけているようだ。

まぁ、ガンバレ。


「あっ、黒い流れ星!!」


ピピピピッ!ピピピピッ!


少女が空に指をさすと同時にスマホが鳴った。


「はい、しn『進君か?』」


切羽詰まったような聡美の声。


空から降る黒い点みたいな物が観覧車へと向かっている。


『そこから逃げなさい!!敵が……くった新……兵器がザッ、ザザ____……ブツ!』


空から降ってきた黒い物体は観覧車と激突した。

激しい爆発音が遊園地に響きわたる。


「わぁああああああッ!?」


遊園地は一瞬で大パニックへと陥った。

逃げ惑う遊園地の客。

叫ぶ声に、空気を切り裂くような悲鳴。


その時、観覧車から立ち上がる煙の中から一本の黒い縄か蔓みたいな物が現れたかと思うと、いきなり逃げ惑う客の群衆へと向かって素早く伸び、一人の客に巻き付いた。


「な、何でオレがぁああぁああぁああ!!」


得体の知れない蔓に巻き付かれた男の口からは絶叫。

俺はとっさに少女の耳を押さえようとしたがその前に男の悲鳴は途絶えた。

男は一瞬で頭から足の先まで完全に黒い物体に包まれてしまった。


「何だよあれは……」


「下がれ。」


いつの間にか後ろにいた九人の護衛が自動小銃(アサルトライフル)を黒い物体に向けながら俺と少女の前に立っていた。


「お嬢様を連れて早く逃げろ。」


白髪の男が他の護衛に合図を送り陣形を組む。


黒い物体は見た感じ玉子みたいな形に変形していた。


「……う、生まれる。」


俺の横にいた少女が呟いた。


「……生まれる?何が?」


パキャッ……ピキピキ!


黒い玉子にヒビが入った。

俺の背中に寒気が走る。

横にいた白髪の男も同じ悪寒を感じたのか、顔が白くなっていた。


……チッ、俺の勘がヤバいって言っているな。


俺は少女を抱えながら走った。

後ろから白髪の男もついて来た。

あくまでも少女から離れるつもりはないのだろう。


観覧車から少し離れたお化け屋敷の建物の角を曲がるときに黒い玉子が崩れ、中から人影が現れたのが見えた。


「射てっ!!」


白髪の男以外の九人が放つアサルトライフルの銃声が遊園地に鳴り響く。


少女を抱えた俺と白髪の男は後ろを振り向いて遊園地の出口を目指して走った。走りながらも念のためアトラクションの建物の間を左右にと走り抜ける。


ピピピピッ!ピピピピッ!


ちょうど出口が見えた時、スマホが鳴った。


『やっと繋がった!』


聡美の声だ。


『進君、今どこにいるんだ?』


「ただいま遊園地で爆走中です。」


『そう、』


世里に最後まで言わせずに握っていたスマホが手から弾き飛ばされ、右手が衝撃のままに右へと流れた。


あー、俺のスマホが……(涙)


「チッ!」


俺は即座にその場から離れコルト45を腰から引き抜いた。

白髪の男もアサルトライフルを構えた。


スマホが弾き飛ばされた空間には左から右へと伸びる黒い腕があった。

黒い腕の先端である指先には俺のスマホが貫通していた。


「こ、れは……」


左へ視線を移す。


路上に、先程見たあの黒い人影が立っていた。

丸くてつるつるした顔の表面に刻まれる赤い目。

見た感じで言うと玉子頭の悪魔が立っていた。

悪魔の左手は何かの肉片を握っていて血を垂らしているのを見て、残りの八人がこの世にいないことが否応なしにも理解した。


「まったく……何だよコイツ。」


回避不可能……戦うしかない、よな。


少女を構えた白髪の男に渡す。


「……お前」


「先に行っといてくれよ。奴と遊んでくる。」


「…………。」


白髪の男は少女を抱きかかえ、無言で俺を見る。


「あ……、おじ様。」


「頼むわ。」


俺の一言で何か言おうとした少女を抱えて白髪の男がその場から駆けだした。


路上には俺と悪魔の二人だけになった。


「ハァ……たくよぉ、いつから俺の人生にSFが介入することなったんだ?もう少しラブとかコメとか体験したかったんだけどなぁ。」


「………。」


返答はない。

改めて向かい合って気付いたのだが、こいつは結構デカかった。


改めてみるとこの悪魔(?)結構デカい。

3m位あるな……取り憑かれたと思われる男よりもデカい。


そもそもコイツがここにいるって言うことは、足止めしていた白髪の部下、八人が死んだってことになるよなぁ。

見た感じ、傷も負っているように見えるない……そうなると、八人が武装していたアサルトライフルの銃弾は効かなかったのだろうと考えられる。


はぁ……アサルトライフルが効かないと言うことは俺の拳銃(コルト45)で致命的なダメージを負わせることは難しいかもしれない。


「さてさて……どうする?」


考える時間はあまりなかった。


ブウッン!


無機質な腕が眼前に迫る。


「おわっ!?」


ギリギリなところで俺は身を屈めて躱す。


「このっ!」


躱しながら悪魔の顔面に銃弾を撃ち込んだが、仰け反るだけで手応えがまったく感じられない。


シャコン…


という軽い音が耳の横で聞こえた。


うなじがチリチリと焦げるような殺気を感じて、とっさの判断で後ろに跳ぶ。

頬に軽い切り傷ができていた。


「おいおい、マジかよ…」


かわした腕から鎌が飛び出ていた。


大振りではないが人の首を切り落とすことができるサイズの鎌だ。


「………。」


昔の人は言いました。


「逃げるが勝ちってなぁっ!!」


叫びながら銃を構える。

悪魔は相変わらず避けるそぶりも見せないが……

狙いはお前じゃねぇ!


弾倉に詰めてある弾丸を全て悪魔の上にある『それ』に撃ち込んだ。


「いったんお別れだ、化け物!!」


バキベキバキ……ッ!


鉄が砕ける音。


「……!?!?」


悪魔の真上にあった大型電光掲示板の留め金が俺の放った弾丸によって破壊され、悪魔めがけて落下した。


悪魔が下敷きになったと同時に俺は少女と白髪の男が逃げた方向とは違う方へと走り出す。

粉塵が舞う中、背後から聞こえてくる掲示板をどかす音を耳に捉えつつ、がむしゃらに遊園地内を走り続けた。


色鮮やかな遊園地の路地を縦横無尽に走る。

走りながらも今ある装備の確認と銃弾の補充(リロード)をしておく。


昔、俺はボードゲームのチェスにはまっていた。

役に立たない無能な(キング)を守りながらどう相手の王を倒すかを考えるゲームだ。

今の俺の状況をチェスで表すなら気味の悪い黒のほぼ万能型の女王(クイーン)と一対一で部下の駒もなく、戦わずなんとか逃げている白の(キング)、ってな感じだよな。


ドカアァッーンッ!


前方の遊園地のマスコットが描かれた壁が吹き飛び、黒いアイツ(悪魔)が姿を現した。


「おいおい……、チェックってやつかよ。」


三階建てのレンガでできた建物の裏で悪魔と対峙する。


悪魔は腕を振り上げた。


「オオオォッ!」


俺は、振り落としてきた腕をバックステップでかわし、銃弾を数発連射して悪魔の腹にぶっ放す。

悪魔の動きが一瞬止まるのを見てコルト45をしまい、腰に掛けている小箱からメリケンを取り出し両手に装着。


え?何でメリケンがあるかって?

手頃の武器だったんだよ気にすんなw


さて、手持ちの銃弾がダメなら接近戦ならどこまでいけるだろうか。

悪魔の動きを思い出しながら俺は考える。

軍隊格闘技の専門訓練を嫌々受け、数々の殺し合いを生き抜いた俺から見たら悪魔の動きは鎌が飛び出さなければ単純な動作で先を読むことができるだろう……まぁ、やるしかない。


「…………。」


悪魔の腕が再び振り落とされた。


シャコン


腕から八本の鎌が飛び出してくる。

縦に横に斜めにと様々な動きで襲い掛かってくる刃の群れを、俺はギリギリで躱し、避けきれない鎌は側面をメリケンで弾いてしのぐ。

そして、メリケンで弾いた腕、刃が生えていない箇所を右手で掴んだ。


シャコン…ザシュッ


俺の右手の甲を突き破って刃が生えた。

腕の決まった箇所に鎌が出てこないのを見て手が切れる覚悟はしてたが……さすがに


「いっ、痛えぇぇっ!」


予想より遥かに痛かった。


「痛えぇぇ!」


叫びながら気合いで腕を引っ張った。

悪魔は勢いよく前につんのめる。

その頭を涙目になりながらも俺はすかさず渾身の蹴りを打ち込んだ。

鉄板仕込みの靴に軍隊式の渾身の前蹴りで悪魔の顔の中心、鼻柱を蹴り抜いた。

後ろに吹き飛ぶ悪魔の腕を掴んだままの右手を再び強く引く。


ブシュッ!


「ぃっ…………!」


手の甲が裂け血が飛び散る。


無理やり吹き飛ぶ体を戻されバランスを崩した悪魔に向かって足を踏み込みつつ、左手のメリケンでアッパーを放つ。


俺の拳が悪魔の顎を打ち抜き、脳を縦に揺らしている……はずだよな?


「まだまだぁぁぁ!!」


刃から右手を抜き血塗(ちまみ)れの拳でボディフックを連打、悪魔ボディの硬さと無理やり行使した自分の拳が砕ける音と悪魔の体内で肋骨が数本折れる手応え。


この手応えは中に包まれたあの男の骨なのだろうか。


俺は一瞬だけ手を止めた。


「………ッ。」


悪魔は無言で立っていた。

人間ならかなりのダメージを与えたが、悪魔からでる雰囲気とにじみ出る無機質な殺気ではまだ倒れないだろう。


再び俺は感覚が無くなった右手と幾分かましな左手で悪魔の顔面を殴打し、一息もつかずに右足で鳩尾に鋭い膝蹴りを叩き込む。

よろける悪魔……さすがに悪魔も動け


ガシィッ!


「なぁっ!?」


悪魔が俺の足首を掴んだ。


ミシミシ……バキャッグチャッ!


肉と骨が潰れる音。

激しい痛みが体に走る。


「あぁぁぁぁッ!てめえぇ!!」


欲も俺の足を!


左手でコルト45を引き抜き悪魔の頭を掴み密着0距離射撃。

衝撃で仰け反る悪魔の顔面に手榴弾を投げ炸裂、勢いで足を放した悪魔と俺が左右に吹き飛んだ。


「ガフッ、」


地面を転がり、血を吐きながらも俺は急いで身を起こした。

対する悪魔は壁に叩きつけられたまま痙攣していた。

やがて、痙攣もおさまり赤い目は光を失った。

悪魔の姿が揺らぎ煙を立てて溶け始め、中から肉の塊になった男が現れた。

溶けた黒い液体は集まり、一本の筒になっていた。


「何だよこれ。」


地面を這いながら筒のもとに寄り、手を伸ばしす。


「筒?」


「それに触らないで欲しいな。」


後ろから若い男の声に俺の手は止まった。


「なっ!」


激痛の走る体を無理やり起こして後ろを振り返ると二人の男が路上に立っていた。


「うん、なかなか貴重なデータが手に入ったね♪」


「………。」


青色の白衣を着た若い男に長髪で黒バンダナを被った目が鋭い男がそこにいた。

どちらも日本人では無いことがわかる。


「な、誰だよお前ら。」


俺はなんとか立ち上がって男二人と向き合う。


「ん?僕かい。僕は」


「……PhD(博士)。」


初めてバンダナ男が口を開いたのは日本語じゃなかった。


「えぇ、いいじゃないか番犬君。今の君の主人は僕だぞ。勝手にさせてもらうよ。」


PhD(プーデ)と呼ばれた若い男がバンダナ男を睨む。


「……チッ!」


バンダナ男は不服そうだったが、黙った。


「悪いね、ちょっと待たせちゃったかな?」


若い男が俺の方を向き直る。


「まったく、この駄犬が文句言うから余計な時間を使っちゃったよ。」


「………。」


正直バンダナ男が可哀想というより、俺はこの状況が理解できない。


「あっ、そうそう」


若い男が俺に近づく。


「君はなかなか面白いサンプルだけど、後々の僕が行う研究とあの人の障壁になるかもしれないと僕は思うんだよ♪」


笑っている若い男の瞳には狂気が宿っていた。


「………っ!」


くそっ、体が動かねぇ!

俺は焦った。銃のグリップを握っていても腕が上がらない。


「そんな君には死・ん・で・もらうよ♪」


パチンッ!


パスンッ!


若い男が指を鳴らすと同時にバンダナ男が銃の引き金を引いた。


胸が急に熱くなった。


「……あっ、」


いま俺はを撃たれたのか?

俺の汚れたTシャツがさらに赤い自らの血でジワジワと汚れていく。

 

ドサッ……


力を失った膝が折れ、俺はうつ伏せに倒れた。

体が熱を失っていくのを感じている俺の首筋に指の感触。


誰か脈拍を計ってやがる。


「さすが♪ロシアの殺し屋界で名高いサンタナ・フォルニカ。あの人はいい犬をくれたもんだなぁ♪でもさ、やっぱり銃で撃つなら消音器(サプレッサー)って無粋だよね?やっぱりパアァッンって感じの方が僕はカッコいいと思うんだけど♪」


「……。」


フォルニカと呼ばれるバンダナ男は無言で俺の脈を計りそして、


「………お前を見過ごす。だから、俺の邪魔をするな。」


俺の耳元で小さな声で囁いた。


日本語だ。


お前、日本語喋れるれるのかよっ!?


「オーイ、もう死んだよね。だったらササッと試作品を回収して研究室に戻るよ♪」


「………。」


若い男の一声でフォルニカは俺から離れていく。


ま、待てよ。


声が出ない……徐々に体が冷えてきた。


二人がいなくなってしばらくの静寂の中、俺の意識は飛びかけていた。


やべぇ、貧血だな。


「進道君!?」


誰かが走ってくる音と、女上司聡美の悲鳴に近い呼び声が聞こえたかと思えば抱き付かれる感触。


あぁ、柔らけぇ……


そして俺は気を失った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ