国外追放&婚約破棄された公爵令息とその後の恐怖
「貴様の様な軟弱者なんかが王族の一員になるなんて許されない!」
オレを責める声が闘技場に響き渡る。どうしてこんな事になったのだろうか……。
オレの名はアルム。公爵家の次男に生を受け、王族の血を引く貴族として教育を受けてきたのだが、何でオレは公衆の面前で怒られている?
オレの親は王族で公爵家と婚姻を結んだから一応王位継承は末席だがある。と言っても下から数えた方が早いのだが。
そしてオレを責めている者は王位継承権上位の王太子の息子でありオレと同い年の王孫だ。
「幼き時よりの知り合い、私と同じ教育を受けているのに、無能のアルムのせいで私の教育が遅れてしまったではないか!貴様のせいで私は恥をかいているのだぞ!」
闘技場の貴賓席でオレに悪態を打つバルデハイム王国のベルファルト殿下。金髪のイケメン青年がオレをまるで親の仇でも見るような顔で責めたてる。
オレは幼い頃より同年齢の殿下と一緒に勉強をしている。王族に同年代の友人を作る為だ。そして将来、側近になる事になっている。オレは幼い頃から両親に「殿下に恥をかかせないようにしなさい」とか「殿下を持ち上げなさい」とか言われたので、殿下よりも勉強が出来ないように、殿下の下につくように調整していた。剣術だってそうだ。殿下に勝たない様に適度に手を抜いて負け続けた。
子供の時は殿下はオレを出来の悪い弟の様に扱っていたが、年を経る毎にその扱いが酷くなって、無能・低能・盆暗・愚図など言ってくる。これでも学園では殿下に次ぐ二番手なんだけど。
それに勉強が遅れているのは殿下の覚えるのが遅いからだ。オレに罪はないぞ。
「剣術だってそうだ!お前は貴族の一員であるにも拘らず準決勝で負けるなんて!なんて無様な事をしている!こんな奴が私の側近になる予定とは情けない!」
今日は王国の剣術大会でオレは参加していた。殿下は準決勝を勝ち進み、オレは先程負けてしまった。殿下が準決勝で勝ったから殿下を持ち上げる為にワザと負けただけだ。それにオレは騎士ではないし剣術は苦手なんだよ。それなのに勝手に闘技大会に出場させられたのだ。今までのオレの相手は現役の騎士で殿下の相手は学生の騎士だった。絶対に組み合わせを細工しただろう!お蔭で運良く勝ったように見せる為に苦労したんだぞ!
そして今回オレが負けた相手は同じ殿下の側近で騎士団長の子息で殿下よりも強い奴だ。負けないと殿下よりも強い事がバレてしまうから態と負けたのだが。
奴め!寸止めしないで体に当てやがった。そしてオレを見下して笑いやがって!ムカつく!
「魔法だってそうだ!魔法が使えないくせに私の側近になるとは不敬だと思わないか!この低能が!」
この世界には魔法という非科学的なモノが存在する。この世界のほとんどの人間は魔法を使える事が出来て、火種を付ける簡単な魔法から災害レベルの高等魔法まである。
貴族の一部は親に習いある程度魔法が使えるし、騎士達は身体強化魔法や自分に合った魔法などを使える。
魔法の得意な者達は王国魔法師団に入り魔法の研究や戦争に参加したりしている。
しかし魔法が使えない人間もいる。というか魔法を発現出来ない人間と言うべきなのだろうか。魔法を自分の内側では使う事が出来るが、外側に発動出来ない者達だ。身体強化の魔法は出来るが簡単な火種の魔法すら使う事が出来ない者達は、魔法が使えない低能と言われて差別されている。
身体強化の魔法が使えるから低能ではないと思うのだが。
オレは身体強化の魔法しか使えなく親族友人達から低能呼ばわりされている。一部の者達からは励まされ、同情されているが辛い。
「貴様なんかがどうして私の妹の婚約者なのだ!そんな者に妹は勿体ない!不敬だと思わないのか?この底辺め!」
オレは殿下の双子の妹であるミリアリア様の婚約者だ。これはオレ達の両親が決めた政略結婚だ。なんでも国王から打診されて両親は受諾。そしてオレはミリアリア様の婚約者になったわけだが、ひどい扱いを受けた。
ミリアリア様は子供の頃から我儘で、オレを召使の様に扱ってくる。「お茶を入れなさい」とか「城下町にある有名なお菓子を買って来なさい」とか「このドレスに合った装飾品を用意しなさい」等など。
勉強も二人と一緒にしていて、こっちはわざと手を抜いているのに。
「この程度が分からないのですか?本当に愚かですね。その程度で将来私の横に立つつもりですか?貴方の様な愚か者が私と同じ空間で息をするのも不敬だと思わないのですか?努力という言葉を知っていますか?精進という言語を理解していますか?貴方は無能なのですから人の千倍は努力しないといけない事はわかりませんか?本当に反省しているのですか?反省しても結果を出さなければ何の意味もない事は知っているのでしょう?せめて何か一つでも私に勝てる事は無いのですか?本当に無能の愚か者ですね。どうして両親は貴方なんかを私の許嫁にしたのでしょうか?理解に苦しみます」
……オレも理解に苦しんでいるよ!一度両親に婚約解消を願い出たが。
「王女殿下との婚姻は陛下から打診されたいわば勅命。それに逆らうような事は出来ん。それに国王はお前を信頼して婚約者にしたのだ。信頼を裏切る事は許されない」
「ミリアリア様は照れているのよ。陛下や両親にいつも貴方の事を話しているそうよ。貴方との婚約をとても喜んでいらっしゃるわ。何が不満なの?」
勅命だから、陛下から信頼されているから、相手が喜んでいるから婚約解消できない。そんな事を言われても納得できない。ただ王女殿下の幼馴染だから陛下から信頼されて、公爵家次男で都合が良いから婚約者にしたんだろう!陛下の側近が噂していたぞ!「仮で婚約者になった公爵家の無能の子供。いつでも破棄できるから丁度良い」って言っているのを耳にしたんだ。その事を言ったのにオレの両親は何も行動しない。
要するにオレはミリアリア様を狙う男どもの壁になっているんだ。ミリアリア様を狙う男どもの悪意が全部オレに来るように。
その結果、オレや殿下達や貴族が通う学園で悪者にされている。陰口を言われたりして間接的に狙われている。私物が紛失したり、物が上から落ちて当たりそうになったり、本がズタズタにされたり、悪い事が起きたらオレのせいにされたり。陰険な嫌がらせを受けている。
心が折れそうになっても、陛下や両親の信頼を裏切らない様に頑張っているが、いつまで心が持つか……。
「そして貴様は敵国と内通していたな!ここにいるお前の従兄のクルックがその証拠をつかんでいる。この売国奴が!」
……敵国と内通?誰が?どこの敵国と?……まさか先日同盟を打診された国の事?確かにその国の人間と文通していたけどそれの事なの?
ついでに従兄のクルックはミリアリア様を慕う馬鹿の一人で、何故かオレを恨んでいる。どうせ嫉妬に狂っているだけだろうと思って今まで何もしなかったが、そいつがどうやって証拠を掴んだ?まさかオレの部屋に勝手に入って手紙を盗んだのか?
「アルム。いや罪人アルムよ。お前の部屋に隠していた手紙から敵国と内通していた事は明白だ。そのような者に公爵家を継ぐ資格は無い!おとなしく捕まり罪を償え!」
やっぱりオレの部屋に勝手に入って私物を物色したのか!それにオレは次男だから元々公爵家を継げないぞ?
クルックよ。なにを勝ち誇っている?公爵家を継ぐのは長男だぞ?
「アルムよ。抵抗しても良いぞ?今度は手加減無しで半殺しにして、地べたに這わせて命乞いをさせてやるからな。抵抗しなくても地べたに這わせてやるよ」
先程、剣術大会でオレに勝った騎士団長の息子のラーブスが、ニヤニヤと笑いながらオレに近づいてくる。ちなみにラーブスもミリアリア様を慕っている。
そしてオレの周りを剣術大会出場者の者達が武器を持って取り囲む。……百人くらいいない?闘技場は広いから百人くらい入るけど、過剰暴力だと思わないのか?一人を捕縛するのにそんなに数は要らないだろう……。
闘技場の観客たちもオレを責めている。学生やその家族までオレを責めている。城下の平民までもオレを責めている。そこまでオレは嫌われていたのか。悲しくなる。疲れたよ。
……こんな奴らの為に命を懸けて頑張っていたのか?公爵家だから王国に忠誠を誓わなければならないのか?
……ベルファルト殿下を持ち上げるのは疲れた。ミリアリア様の我儘に付き合うのは疲れた。両親の為に王国に尽くすのも疲れた。陰口叩かれるのも疲れた。嫌がらせをしてくる奴らの相手は疲れた。オレの事を知らない奴らにまで嫌われるのは疲れた。
「アルムよ!罪を認めて捕まれ!国外追放で許してやろう。私の慈悲に感謝して命がある事を喜べ!こんな無能にかける最後の慈悲だ!」
……我慢するのに疲れた。こんな奴らの相手するのは疲れた。
国外追放してくれるならそれに乗っかろう。殿下からの命令だ!それを守ってやるよ!
しかし今まで仕出かした事の恨みは晴らしてからな!
「そこの者達。アルムに頭を下げさせろ!頭を地面につけて土下座させて殿下に見せろ!」
剣術大会に参加していた学生がオレを捕まえて座らせようとしたがオレの体はピクリとも動ない。自分の体に身体強化の魔法を使って身体能力を上げたので、力を入れて阻止する。相手はオレの片腕をつかんで座らせようとするがビクともしない。そんな力でオレを動かせるものか!動かしたかったらその数倍の力を入れろ。
「何をしている!早く地べたに付かせろ!」
ラーブスの命令で何人もの人間がオレに纏わりつくが全然動かない。こいつら本当に身体強化の魔法を使っているのか?もう少し効率的な魔法を勉強しろよ。
段々とうざったくなったので掴まれた腕に力を入れてハエを払うように周りの人間を払う。オレの周りの人間は吹き飛んで、囲んでいた闘技場の囲いの壁まで飛んで行った。……少し力加減を間違った。まぁいいや。
その力をみて驚く騎士達。そして静かになる観客達。
「国外追放の件。ありがたく頂戴する。だが敵国との内通くらいでは刑が軽すぎるから更に罪を重ねてやるよ。反逆罪くらいなら国外追放されてもおかしくないからな!」
言い終わったオレは周りに居た騎士達を殴り蹴り飛ばす。囲いの壁まで殴り飛ばしたり、観客席まで蹴り飛ばしたり、ベルファルト殿下のいる貴賓席まで投げ飛ばした。……殿下には当たらなかったか。当たったら面白かったのに。
騎士が剣をもってオレを倒そうとしたが剣が皮膚に当たってもケガもしないし血も出ない。身体強化で皮膚を鉄の様に固くしているからな。
「オレに血を流させたければその千倍の力で切りつけろ」
そう言って観客席に蹴り飛ばす。観客を下敷きにして気絶する騎士達。
「遅い!もっと早く動け!この鈍間が!その千倍の速さで動け!」
そう言って貴賓席に投げ飛ばし。……従兄のクルックに当たった。でもベルファルト殿下には当たらなかった。
「魔法を使ってもいいが騎士に当たっているぞ!その程度の判断力で魔法を使うな!味方を巻き込む魔法なんぞ迷惑でしかない!」
魔法を使っている奴に瞬時に近づいて殴り飛ばし気絶させる。お前のせいで殴る人間が減ったじゃないか!
逃げるなよ!瞬時に移動して闘技場の入り口を壊し「これで誰も逃げられない」と言いながら暴力をふるう。
子供と大人の闘いよりも戦力差はあり、まるで赤子と完全武装の騎士との闘いのようになっている。相手の剣が捉えられない早さで動き、ワザと当たっても傷一つ付かない。殴れば囲いの壁まで吹き飛ばし、蹴れば観客席まで吹き飛ばす。百人はいた闘技場の騎士達が減っていき、両手で足りる数を残すのみ。とても素晴らしい手加減で誰も死んでいない。オレって凄いね!
「さあ覚悟は出来ているか?頭を地面につけて土下座して命乞いをするなら半殺しで許してやるぞ」
オレの得意魔法は身体強化だ。幼い頃から魔法が使えないから身体強化を極める為に頑張った。そうして鉄よりも固い皮膚、人間の限界を超えた力と速さと反射神経を手に入れた。オレの力に剣が耐えきれないから、剣術ではなく武術を習い体を鍛えた。
その後、武術を習い始めた頃に刺客から国王を守ったことがあり、その信頼を得てミリアリア様の婚約者になったらしいのだが、もうどうでも良くなった。こんな国に居る意味はもう無い!国外追放をしてくれるのなら有難く頂戴してやる。文通友達の所に転がり込んでゆっくりと余生を生きてやる!
「何をしている!早くその無礼者を殺せ!反逆者だぞ!」
「そうだぞ!王国に弓引く反逆者だぞ!ベルファルト殿下の命令だぞ!早く斬りかかれ!」
オレが一歩近づくと二歩後ろに下がる生き残り達。どうした?どうしてかかってこない?ラーブル何を怯えている?さっきまでの勢いはどうした?他の騎士達も怯えてないでかかって来いよ。
「何の騒ぎだ!どうなっている!」
観客席の方から声がする。ラーブルの父親である騎士団長様だ。闘技場には死屍累々の騎士達。観客席で気絶している騎士達と巻き込まれた観客。貴賓席では怯えている貴族や気絶している騎士。そして気絶しているベルファルト殿下と従兄。
「誰か説明をしろ!」
「父上!アルムが反逆を起こして我々を殺しにかかっているのです!」
「騎士団長!私は国外追放の罪になったのでそれ相応の罪を負う為に頑張っている最中です」
また一人観客席に騎士が飛ぶ。よし!これで観客席側の外につながる入り口を全部塞いだぞ。少し時間がかかったな。蹴るとどうしても命中率がさがる。今後の課題だな。
「反逆?国外追放?どういう意味だ?」
「ベルファルト殿下の命令でアルムを捕まえようとしたのです!父上!早く手伝ってください!この無能を捕まえるのを手伝ってください!」
「敵国と内通していた罪で私は国外追放になりました。騎士団長、今までお世話になりました」
今度は貴賓席に投げ飛ばす。おし!貴族に当たってノックアウト!
「お前達!動くな!騎士団長として命ずる!整列して跪け!もうすぐ陛下が来られるのだぞ!この状況を説明するために……。アルム!何をしている!蹴るな!整列しろ!」
「オレは国外追放されるので命令を聞く理由がありません。どりゃ!」
「殴るな!国外追放なんて誰が言った!お前にそのような事を言う人間はこの王国にはいない!」
「そこで気絶している殿下が言いましたよ。闘技場に居る全員が証人です」
「本当か!」
周りの者に聞くと怯えながら頷いている。そして騎士団長はその者達から事の顛末を聞いている。その隙にオレは闘技場の騎士達を殴り飛ばす。
「最後の一人になったな。ラーブス。覚悟は決まったか?地べたを這って土下座して謝るのなら四割殺しで済ませてやるよ」
「な、な、なんで無能のお前がそんなに強いんだよ!」
「手を抜いていたからに決まっているだろう。親の命令で殿下よりも勉強が出来ないフリをしていたんだ。剣術だってお前が殿下よりも強いからお前にワザと負けてやったんだ。ほら手と頭をついて謝れ。ごめんなさいと言ってみろ。悪い事したら謝る。子供でも知っている事だ」
「だれが謝るか!この無能が!」
「止めろ!ラーブス!アルムに手を出すな!彼は王位継承権を持ち、ミリアリア様の婚約者だぞ!お前は誰に物を言っている!アルムが謝れと言ったら即座に謝れ!」
「しかし父上!こいつは無能の愚か者です!王位継承権があるとはいえ底辺だし、婚約だって親のコネを使った仮の婚約ではないですか!」
「愚か者はお前だ!誰に向かってそのような事を言っている!この馬鹿者が!子爵の子供が公爵家の御子息になんて事を言っている!貴様の様な馬鹿が居るからアルムが苦労するのだ!愚か者が!闘技場に居る者達に言っておく。アルム殿は公爵家の御子息だ。何を思ってお前たちはアルム殿を害した!お前たち全員上位貴族を侮辱した罪で罰してやる!」
「親子の話が終わったところでオレの番だな。さあ半殺しになる心構えは出来たかな?」
一歩一歩近づいていきどうやって半殺しにしようか考える。
「アルム殿!これ以上罪を重ねないでくれ!その馬鹿は後で殺しても構わないから今は落ち着いてください!」
「嫌だよ。これ以上耐える事はしたくない。今までずっと耐えてきたんだ。せめて今日だけは心のままに行動をする」
恐怖で襲ってきたラーブスがオレに切りかかるがそれを避けてアッパーを放ち宙に浮かせ殿下のいる貴賓席に蹴り飛ばす。よし!今度はうまく飛んだ!
さてと、後は国外退去だけだな。
「では騎士団長。私は国外退去の命令をされたので出ていきます。さようなら」
身体強化の魔法をフルに使い目にも止まらぬ速さで闘技場から出ていく。そして家の屋根から屋根へ走り城門を飛び越えて文通友達のもとへ走る。
―――――― その後 ―――――
「それでいつまでここに居るんだ?毎日毎日ゴロゴロしていい身分だな」
「いままで休みなく働いていたから良いだろう。少しくらい」
「お前の国では少しという意味は一ヶ月以上なのか?全くオレは毎日働いているのに」
「頑張れ~」
「やかましい!それで今日来た件はお前の国の事だ。聞きたいか?」
「別に聞かなくても良いよ。どうでも良いし」
「……全く。ベルファルト王孫は王位継承権の剥奪で一生塔の上で監禁。騎士団長の息子のラーブスは片腕片足切断の刑を受けて放逐。そしてお前の従兄のクルックと叔父家族は貴族籍剥奪で国外追放だ。こちらには来させないから安心しろ」
「叔父上やその家族も?」
「今回の計画はお前の叔父が考えた事だ。前にお前が両親を暗殺者から救った事があっただろう?その黒幕はお前の叔父だ。計画を潰されてお前を恨んで今回の計画を立てたそうだ」
「今回の計画がオレの国外退去なのか?」
「正確にはお前の家族の全員が国外追放にする予定だった。まずはアルムを孤立させて味方を少なくする。そして罪を着せてアルムを罰しその両親にまで罪を被らせる。そして公爵家を乗っ取る」
「そんなに上手く行くのか?」
「お前を孤立させる事は出来た。お前には味方が居なかっただろう。親や仲の良い兄も王都にはいなかったし、お前を慕っている屋敷の者も暇を与えられて王都には居ないからな」
「……王都の屋敷にはほとんどいなかったらどうでも良いよ。屋敷よりも王宮に居た方が多かったからな」
「その王宮でも味方は少なかっただろう。ツンデレ姫のせいで」
「あれがツンデレ?ツンツン迷惑女の間違いだろう」
「お前にはツンで家族の前ではデレていたからな。そのせいでお前は王宮で働く者達には人気がなかったからな」
「王宮でも学校でも人気は無かったよ。殿下達のせいでな!」
「怒るな怒るな。話を戻すが今回クルックがオレ達の手紙のやり取りを見つけて敵国と内通していた事がわかり計画に出た」
「文通の手紙を読むなんて個人情報は何処に行ったんだ?」
「お前の手紙は恨みや愚痴ばかりじゃないか。オレの書いた手紙を読まれたんだぞ!少しは隠す場所を考えておけよ。ちなみ何処に隠していたんだ?」
「ベッドの下」
「エロ本を隠すレベル!」
「エロ本?」
「何でもない。まあオレの手紙で敵国と繋がっていた事がわかり、クルックが殿下に伝えた。その褒美としてミリアリア王女殿下との婚約」
「良かったな。これで行き遅れなくて済むぞ。婚約破棄したら行き遅れるって言うからな」
「計画が成功したらな。しかしお前のチートのせいで見事に計画は失敗。国王陛下自ら取り調べて陛下は大激怒!これほど怒ったのは生まれて初めてらしいぞ。良かったな」
「貴重な経験をしたんだな。しかし年寄りが怒って大丈夫かな?そのままポックリ行きそうな……」
「怒りに身を任せて闘技場にいた騎士や貴族、観客までもが罪を被った。最初は全員死罪だったが罰金刑に落ち着いたそうだ。貴族は金貨千枚、騎士や観客は金貨五百枚。確かお前の国では金貨二枚で一年間生活が出来る金額だよな」
「無理すれば金貨一枚で二年は生活できるぞ。……陛下本当に怒っていたんだな」
「当たり前だろう。命の恩人を恩ではなくて仇で返したんだから。その陛下の怒りは今でも凄いらしいぞ」
「その陛下を殺そうとして刺客を送った奴は何処のどいつだ?」
「私だ。でもお前に阻止された。何度も送っても全部阻止しやがって。オレが鍛え上げた奴らを返り討ちした奴が言うな」
この文通友人。敵国の王太子で何度も陛下や上層部に暗殺者を送った極悪人。
最初は偶然、暗殺者を見つけて阻止し、陛下に家族を守る為に護衛役に抜擢された。その時たしか八歳くらいで殿下の友人になる前だったな。
そして護衛兼殿下の友人となる為に両親に陛下が説明してオレは王宮に移り住んだ。
月に一回くらいのペースで暗殺者を返り討ちにして陛下の家族を陰ながら守ってきた。それを知っているのは陛下と王太子殿下と騎士団長と宰相のごく一部の人達。宰相や騎士団長も暗殺の対象だったんだよね。それを阻止し続けてオレは四人と仲良くなった。
そして二年くらい前にやって来た暗殺者がこの王子だった。
「オレの手下どもを返り討ちにした王国の盾よ。今度はオレが相手だ!」
この王子も身体強化の魔法を極めている奴だった。なにより技が多彩で苦労をした。
「昇竜アッパー!」
「百裂拳!」
「イズナ落とし!」
「流星拳!アンド彗星脚!」
「奥義!殺撃森羅鳳凰雷鳴絶翔破!」
王宮で戦うと被害が広がるので王都の近くの森の中で戦った。二人で三日三晩戦い続けた。オレ達は激闘を繰り広げて戦っている最中に何故か友情が芽生えオレ達は手を取り合い和平の道を探し始めた。
クルックが盗んだ手紙は陛下も読んでいた和平案の内容だったんだが、どうして敵と内通文書になったのだろうか?捏造したのかな?
「それから王国との同盟の話だが撤回された。お前が居ない王国なんてすぐに滅ぼせるからな近いうちに滅ぼす予定だが良いよな」
「陛下や宰相たちを暗殺しなければ良いよ」
「わかった。捕まえるだけにしておこう。それからお前の婚約者だが」
「元婚約者な。オレには婚約者なんて居ない。」
「その元婚約者はどうする?お前を待っているそうだぞ?」
「待たせとけば良いさ。オレには関係ない」
「……部屋の入り口で待っているんだけど」
何処の部屋の?部屋の外に誰が居る気配がする。王子がドアを開けるとミリアリアが座っている。オレの日記を胸に抱きながら。
「お前が私物の回収を頼んだだろう?そしたらこの姫様がお前の日記を大事に持っているんだ。どうやって奪おうか考えていたら「日記ごと私を奪いなさい!」って言われてそのまま回収したそうだ」
じっとオレを見る元婚約者。すごく怖い。こんな恐怖は生まれて初めてだ。
「この姫さん、ツンデレだけじゃなくてヤンデレやストーカーの匂いがする。三つまとまっている女性なんて珍しいからお前に届けたぞ」
……何か喋ってくれ!何この子!マジで怖い!
「では仕事があるから後は二人で話し合ってくれ」
王子は逃げたというよりも面白がって部屋を出る。きちんとミリアリアを部屋に入れてドアを閉めて……鍵までかけやがった!外側からどうして鍵がかかるんだよ!
どうにかやって逃げようと思ったがミリアリアの視線がオレの行動を阻害する。マジでこの姫さん怖いよ!
どうすればいいんだ!
部屋の外でオレの文通友人が笑っている声が聞こえた。
その後の物語は気が向いたら書くかも……。