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レベル1からやり直してこい!?  作者: 参星
呪われた宝石編
98/109

98.曰く、黒く輝く招待状。


 飛び立ったときと同じ。平野の、比較的街に近い場所。

 そこまで運んでくれたグリフォン達に別れを告げ、白銀の糸(アルゲントゥム)一行は、鳩ノ巣へと向かっていた。



 なんだか少し、懐かしくも思える宿屋の扉を潜れば、変わらぬ笑顔の女将さんが、「人が来てるよ」と手招く。

 その声に合わせ、ぬ、と部屋の影から現れた男に驚きもせず。お茶は部屋に運ぼうか? と言える豪胆さは、なかなか真似できるものではないだろう。


「こればかりは運だと思っていたが、ツイている」


 少しばかり喜色を滲ませたシェダルが、黒い手紙を示すように振る。

 少しばかり光沢のある封筒が、ちらちらと弱い光を反射した。


「我らが雇い主サマからお言伝(ことづて)だ。……"会いたい" と」

「喜んで。手土産を持ってお伺いしますと、伝えてください」


 訝しむように小首を傾げ、探るような視線が投げられる。

 やがてその視線は、ジークの手にした袋へと移り。彼は、察したように頷いた。


「何処に遊びに行くつもりだと思ったが、なるほどそういうことか」

「お気に召していたさだけるかどうかは……また別ですが」

「ボスのことだ、何某(なにがし)かの収穫にはするだろう」


 差し出された黒い手紙には、真っ赤な封蝋が()されていた。

 八首(やつくび)の蛇を模した、恐ろしくも不思議な紋である。


 手紙の中。長々と形式的な言葉で綴られていたのは、要するに『迎えをよこすから宿で待て』という一言であった。



 その日の夜。

 言葉通り、宿で待機していたシキミたちの前に、シェダルが再び現れた。

 手にしていたのは、小さな巻物。羊皮紙で作られたようなそれは、きっとスクロールだろう。


「転移ですか? 厳重ですねぇ」

「当たり前だ」

「……そうですか。まぁ、それもそうですね」

「…………下手な詮索はやめろ」


 こんな夜更けに歩いていって、果たして夜のうちに着くのだろうか──などと、無用な心配だったらしい。


 スルスルと紐は解かれ、複雑な文様が顔を出す。

 いくつも重ねられた円と、奇妙な文字。幾何学模様の集合体は、何度見ても幻想的で美しい。


 開かれたその紙に、全員が手を置けば、ジワリ、と()み出す魔力を感じる。

 全員から魔力を吸って、その役目を果たさんとする魔法陣が、眩い光を放ち始めた。


 この強い光と、吸い込まれるような感覚は、迷宮(ダンジョン)にあった移転陣のそれと似ている。


 浮遊感を感じた、次の瞬間。

 シキミが立っていたのは、豪奢だが落ち着いた、広い部屋の中であった。

 第一印象で言えば、貴族の別荘のような──生活感も人気(ひとけ)もない。豪華なだけの部屋。


 応接間だろうか、あるいは、謁見の間だろうか。

 貴族関連の事など全く知識がないものだから、この広い部屋をなんと称すべきなのか、よくわからないのだが。


 壁にかけられた燭台に灯る小さな火が、ゆらゆらと揺れている。影が、淋しい空間の中を伸びたり縮んだりしていた。


 月光差し込む大きな窓を背に、椅子が一脚。それはまるで、王座であるかのように堂々と据えられている。


 ──そこに、悠々と腰掛ける影があった。



 逆光のせいか、その表情や仔細は全く窺えない。

 座る影の周囲には、七つの人影が。それはまるで、王に侍る従者のごとく──あるいは、騎士のごとく。


 ずらりと並んで立っていた。


「──手間を取らせてすまなかった。諸事情あって、こうも回りくどくなってしまった」


 王座の影が、口を開いた。

 暗闇に慣れた視界の中。幽かな光を背にした彼は、どうやら目元を隠す仮面をつけているらしい。顔の上半分を覆う、羽のようなシルエットが特徴的だ。


 響く声は、まだ年若い青年のもの。

 幼いような柔らかさを残しながら、芯の通った "上に立つもの" の声だ。


「仕方ありませんよ。御身分が御身分ですから」


 月の明かりに真正面から照らされて、ジークの人外じみた美しさは、一層凄みを増していた。


 黒檀(こくたん)の髪は、白々と輝きを反射して。まるで硝子(がらす)細工みたいだ──と、シキミはそんなことを考えている。

 この奇妙な空間に、心までのまれてしまうような……そんな心地がしていた。


 不思議な輝きを宿した瞳を、(ゆる)りと(たわ)ませたジークの、懐かしそうな声が。やがて、ぽつりと落とされた。


「お久しぶりです……()()()殿()()





いつ出るんだ、とリア友からせっつかれていた王太子殿下です。

出たよ!!!(大声)


ようやくお話がここまで進みました。まだ続きます(ですよね)

お付き合いのほど、どうぞよろしくお願いいたします。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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