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レベル1からやり直してこい!?  作者: 参星
呪われた宝石編
82/109

82.曰く、君も今日からCランク冒険者!


 冒険者ギルドは相も変わらず、荒くれ者たちで賑わっている。


 無骨、粗暴と言われるような立ち居振る舞いの人間が多い中。妙に洗練され、所作の美しい白銀の糸(アルゲントゥム)は、いっそ異質で良く目立つ。


 突き刺さる視線を肌に感じながら、シキミは、脳裏に浮かぶ『カリスマ』や『一流冒険者』『格が違う』といった文字に静かに殺されていた。



 そんな、周囲の空気や視線などものともせず。

 「まずはシキミのランクを上げてしまいましょうか」と、ギルドに着くなりジーク達が向かったのは、依頼ボードではなく、受付カウンターの方。


 言われるがまま、首に下げていた冒険者カード──銅色(あかがねいろ)のドッグタグを取り外し、手のひらに握り込む。

 既に何人かが並ぶカウンター前で、白銀の糸(アルゲントゥム)は静かに順番を待っていた。



 シキミ自身、すっかり忘れていたのだが。シキミは()()Dランク。……まだと言ったって、冒険者になってからそう日は経っていないのだが。


 エイデンの一件は、実績の一つとしてシキミのランク上げを助けてくれるらしい。


 あまり素直に喜べないような、複雑な思いが胸に湧き上がる。

 草原や森の魔物ならともかく、人が死んだ結果としての昇格とは、またなんとも言えない後味の悪さがあるのだ。


 要は、ある程度戦えるという事がわかれば、その示し方は何でもいいのだろう。DからCへの昇格など、その程度。

 だが、それは大きな一歩でもある。──少なくとも、シキミにとっては。



「あっ! この間の新人さん……! ランク上げの申請ですかっ? お早いですねぇ」


 そう声を上げたのは、見覚えのある金髪の受付嬢。

 まるで、夏の日差しのような彼女は、今日も今日とて絶好調らしい。

 咲き誇る向日葵(ひまわり)の笑顔に、シキミは若干仰け反った。


「は、はい! よろしくお願いします」


 促され、差し出したプレートは、受付嬢の手によって水晶の上へと落とされる。

 一体何をと思った瞬間、水晶の表面に波紋を刻んだプレートは、そのまま水晶の中へと沈みこんでいた。


 水の中であるかのように、チェーンがふわりと揺らめいて、ちらちらと照明を反射する。

 それに見惚れていれば、水晶は一際強い光を発し、ほんの一瞬目が眩んだ。


 やがて、どこからか「チンッ!」という懐かしい電子音を響かせて、光は収まった。相変わらず銅色(あかがねいろ)のプレートは、水晶の中で浮いている。

 せっかく神秘的なのに、音だけが勿体無い。


「はい! これでシキミ様はCランクになります。おめでとうございますっ!」

「ありがとうございます……!」


 受付嬢の細い指に掬われて、プレートが顔を出した。

 色は変わらないのだけれど、その色が一層輝かしく見えてしまうのは、あまりにも単純だろうか。


 手渡された、ほんの少しの重量に、ちょっとした高揚感が顔を出す。なんであれ、昇格そのものは嬉しいのだ。

 この世界の "冒険者" として、漸く居場所ができたような。自分の在るべき、所在のようなものを認めてもらえたような……。


 何者でもないシキミは、冒険者のシキミに変わりつつあった。

 

「ドロシーさん、ありがとうございました。ついでにお伺いしたいのですけれど……」

「ハイッ! 何なりとっ!」


 受付嬢──ドロシーは姿勢を正し、何故かキメにキメた敬礼をしてみせる。

 巫山戯(ふざけ)ているのか、素なのか。なかなか判断に迷うが、その瞳は真っ直ぐ真剣だ。


屍者(ししゃ)慟哭(どうこく)を大量購入したい──という依頼、まだありますか?」

「ちょっとお調べしますねっ! 屍者(ししゃ)慟哭(どうこく)ならCランク依頼でしょうか? 憶えてますぅ?」

「流石ですね、恐らくCランクで間違いありません」

「ありがとうございますっ! じゃあ、ファイルはコレですね……えっと、ししゃのどうこく…………」


 カウンターの引き出しから、分厚いファイルが引っ張り出され、カウンターの上に開かれる。

 依頼書の写し(コピー)なのだろう。(テンプレート)の中に記載された、様々な素材や魔物の名前が現れては消えてゆく。

 ドロシー嬢は、それを慣れた手つきで(めく)ってゆき、やがて一つの頁で手を止めた。


「…………今の所、屍者(ししゃ)慟哭(どうこく)を求める依頼はこれのみですねっ!」

「シキミ、どうです? ……と言っても、一件しか無いのであれば、ほぼ間違いはないのでしょうけど」


 指し示された依頼書は、タイプされているのだろう、筆跡の読めない画一的な文字達が、枠の中を整然と並んでいる。


「『古代王の霊廟(れいびょう)で、屍者(ししゃ)慟哭(どうこく)を採集してきてほしい。──数の制限は無し。できるだけ一度で大量に欲しいので、"一〇〇個/袋" を一単位とし、一袋から購入する。一袋銀貨二〇枚。──追加報酬要相談』……多分これです、合ってます」

「成る程……なかなかの好条件ですね」


 覗き込むジークの眉が、僅かに(ひそ)められる。

 他の二人の表情も、(いく)ばくか硬く。いよいよ以て、事態は悪い方へと進み始めているようだ。


「そうねぇ、ちょっと破格のお値段だわ。屍者(ししゃ)慟哭(どうこく)なんて、普通に買われても銅貨十五枚ってところでしょ? そうなると、一〇〇個集めて売ったら銀貨十五枚。……銀貨五枚の上乗せね」

「沢山欲しいならわざわざ冒険者ギルド(ココ)を通って割高な金払わなくったって、普通に注文すりゃいいのに……って、そうできねぇ理由もあんのか」

(アッチ)もそれなりに警戒してるって事でしょ」


 小声で交わされる言葉達は、一層 "依頼者" への疑惑を深めてゆく。

 破格とすら言われるその報酬。金ならいくらでも出せる、と暗に示しているようなカネの使い方。


 ──少なくとも、チンピラがやら破落戸(ゴロツキ)やらといった、下層の連中が主導できるものではない。

 裏には金を持った、権力者がいる。


 ……そう考えるのが妥当だろう。


 その “裏” に辿り着ける可能性は限りなく低いが、見逃す理由にはならない。

 受けてみて、それから考えたっていいだろう──そんな会話をして、白銀の糸(アルゲントゥム)の意向は決まった。


「依頼、お受けします。手続きをお願いしても?」

「はいっ! 独占(モノポライズ)公開(フリー)、どちらになさいますか?」

公開(フリー)で構いません。……よろしくお願いします」



 手続きの書類はジークに任せ、シキミ達はギルドの外で彼の帰りを待つ。

 今日も青々と美しい空に、人々の喧騒が響く。


 この裏で。

 この奥で。


 知らぬうちに暗躍する、恐ろしい影があるかも知れないのだと思えば、日常とは、なんとも呆気なく崩れ去るものであるらしい。


 これから向かうは「古代王の霊廟(れいびょう)」とやら。

 名前からして嫌な予感しかしないのだが、今更逃げられる訳もない。


「つかぬ事をお伺いしますが、古代王の霊廟(れいびょう)って、どんな魔物が出るんですか?」

「アンデット系だな」

「中々しぶとい奴が多いから頑張るのよ! ひたすら殴るのがオススメね」

「見た目は」

「ちょいグロ」

「つ、詰んだー!?」


 悲痛な叫び声が響き渡る。何事だとこちらを見つめる往来の視線に、しかし彼女の意識は向かわない。


 アンデットなんて言ったら、ゾンビとかゾンビとかゾンビとか、つまりは死体(ゾンビ)だ。

 腐りかけた肉を叩くような感触がするんだろうか。思わず想像してしまって、頭身の毛も太る思いがする。


 依頼の事なんか思い出さなきゃよかったな、とシキミはちょっとだけ後悔した。

独占モノポライズ公開フリーは次回あたりで説明するんで……!!ッス!さぁせん!(なんのノリ?)


80話オーバーでようやく名前出てきた受付嬢ちゃん。名前でかなり迷ったんだよ。ホントだよ。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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