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レベル1からやり直してこい!?  作者: 参星
呪われた宝石編
74/109

74.曰く、瑠璃の瞳。

 

 月明かりに照らされて、幾分か彩度を落とした長い髪が、屋根から屋根へ。遥か遠くへ消えてゆくのを、エレノアは()っと見つめていた。


 子供でもないのだから、心配することもない。放っておけば良いだけなのに、何故か心は浮ついて落ち着かない。

 (しばら)く、部屋の中を行ったり来たり。時折窓の向こうを見つめては、溜め息を()いたりなんかして。

 何度かそれを繰り返して、あまりの馬鹿らしさに思わず頭を抱える。


「あー……もうっ。…………勇者の王冠(ウィルトス・コロナ)!」


 流れ、霧散する小さな魔力。ほんのちょっと背中を押すだけのこの魔法は、魔法というよりおまじないに近い。だが、きっと彼女に届くだろう。

 支援魔法の正確さは、エレノアの強みの一つなのだから。



 初めて彼女(シキミ)に会った時。ギルドの机にたむろっている所を見た時は、驚いた。

 見慣れた二人に囲まれて、オロオロしている姿は、何だか酷く頼りないモノに思えてしまって。


 とても、希薄だったのだ。

 気配、存在、立ち居振る舞い。色んなものが素人臭くて、無垢で、少し浮世離れしていて、変わっていて──そして、やっぱり薄かった。


 思わず覗き込んだ、彼女の長い前髪に隠された瞳には、夜の空が煌めいていて。そこには、一切の曇りが無かったものだから。あぁ、また(ジーク)の拾い癖が出たのね、と静かに察した。

 目は、嘘をつかないものなのだ。


 汚泥に(まみ)れた世界から、いつの間にか拾い上げられていて。それからは、エレノアにとってジークは父であり、兄であり、師であり、憧れだった。


 彼にとって一番目の、拾い物の私。


 拾われて(しばら)くしてからは、テオドールという弟分まで拾ってきて。その頃(ようや)く、ジークという人間の "収集癖" に、モノとヒトの区別がないことを知った。


 (ジーク)自身にも、その選別の基準はわからないらしい。だが、彼が拾ってくるモノに、悪いモノは無かった。

 (むし)ろ選ぶのは良質な──良質過ぎるモノばかり。……もちろん、自惚れるようだが、自分だってその一つであると信じているし、逸品であるという自信もある。


 これを、本能で選んでいるのだとしたら……それはきっと彼の才能(ギフト)


 だから今回も、彼女を拾って世話をするという、彼の選択に間違いは無い。

 だからあの時──この "鳩ノ巣" の前で、ちょっとした意地悪を言ってみせたのは、本当にエレノアの我儘(わがまま)傲慢(ごうまん)だった。


 己の瞳は、朧気(おぼろげ)な善悪を視る。

 害、無害を視る。

 大して当てにならない才能(ギフト)。占いのようなもの。……だけど少しだけ、それに頼ってみせた。


 結局、結論から言えば。彼女はやっぱり()()()()で、文句の付けようが無いくらいに無害だった。

 この瞳に映るのは、変わらず輝く不思議な星空の瞳と、汚れきった少女だけ。影も、ブレも、歪みも無く。少し怯えながら、真っ直ぐに立つ少女だけ。


 この不思議な()()()が、本当に新しい仲間になって、更にパーティーまで作ってしまったのだと思ったら、途端に愛おしくなってしまった。

 そう簡単に、身内以外の他人を信用なんかしない……と、そう思って生きてきた割に、中々どうして呆気無い。

 堅牢だと思いこんでいた、城塞の陥落は早かった。


「あ~あ。こんな事でやきもきしちゃうなんて、馬鹿みたいね……はぁ」


 言われたらついていったのに……などという恨み言は、影に潜んだ密偵さん以外は聞きっこないだろう。


 ベットに身を横たえて、静かに目を閉じる。

 街に魔力を張り巡らせて、駆けていったシキミを追いかけようとして──やめた。


 ジークの選んだ子だ。何をするつもりかは知らないけれど、大丈夫。きっと上手くやるわ。


 口元に、ゆるりと笑みが浮かぶのを、エレノアは隠さなかった。(なま)めかしい唇は、弧を描いて止まる。


 勇んで飛び出して、タダで帰ってくることは……まぁないだろう。一体どんな事件を引っさげてくるのやら。

 ここしばらくなかった高揚感に、改めてジークの慧眼(けいがん)を知る。


 ──きっと、明日から忙しくなるわ。

 ゆっくりと夜の中に意識を溶かして。エレノアは多分、幸せな夢を見た。


「勇者の王冠 (ウィルトス・コロナ)」

対象者に小さな勇気を与える魔法。

少し背中を押すだけの、初級中の初級魔法。

だが、その小さなひと押しが、大きな一歩につながることもあるのだ……ということを、術者は忘れてはならない。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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