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故郷の壊滅に伴って、魔王の存在が確認された。
やがてあの人は勇者に認定されて、魔王を殺しに来るだろう。
なんの理由がなくたって、いずれできる。勇者と魔王は、必ず争うものだからだ。
魔王となる前の我──今はもういない私は、魔王に連れ去られたと思われているらしいということを、風の噂で聞いた。
広義では、間違っていない。
確かに私は魔王に連れ去られ、喪われてしまったのだから。
『ねぇ、本当にいいの?』
「良いも悪いも、決まりは決まりだ」
『ねぇ、私の片割れ、私の宿主』
「それはもう、過去の話」
魔王とは、其れ即ち概念である。
最初から世界にあり、影とともに蠢き息をする。
世界の怨嗟を吸収し、魔王という概念体は、大きく、強くなる。
魔王はこの世界の模倣子なのだ。
口伝えで伝染し、それが形を取った、生まれながらに死んだ生命体。
かくあれかしという、人の心の闇によって、魔王は生きていた。
どす黒い心の澱を溜め込んで、そうやって育った魔王は、やがてこの世界に生きる器に憑依する。
──その器が、我であったというだけの話。
憑依された魂は歪み、捻じれ、消失する。
最早、憑依された者は魔王以外の何物でもなく。魔王であった以前のあらゆる全ては消え、二度と戻らない。
こうして、魔王である己が何かを思考できるのは、単純な話、この鏡のせいでもあるのだ。
押しつぶされ、消えてしまうはずだった魂の欠片を握りしめた──二つめの魂。器の同居人。
魔王になって後、過去、未来、そして現在──そうしたもの全てを喪うことは悲しいことだと思っていた。
だが、今になって思考う。
──忘却は救いなのだと。
忘れられていたならば、あの人がきっと悲しむだろうなどと……苦しむだろうなどと考えて。
……そんな考えで、役割を全うすることを躊躇う──などということは、きっとなかったはずなのに。
「噫。どうして、どうして────」
どうして我なのだ。
どうして我が、こんな。
生けとし生ける者の悪意を、苦しみを、哀しみをありとあらゆる罪業全てを一身に受けて。
生きながら焼かれるように、それでもなお生きなければならないのだ──?
応えの無い問いは、部屋の隅に転がり落ちて、答えを探して蠢いた。
──どうして?
ここまで読んでいただきありがとうございました。





