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レベル1からやり直してこい!?  作者: 参星
呪われた宝石編
66/109

66.曰く、モノにも魂は宿ると申しまして。

 

 シキミは一人、部屋の中で悶々としていた。


 ただただ納得いかない。その一言に尽きる。

 胸に渦巻くのは、人を殺したかもしれないという恐怖より、思い至ってしまった一つの可能性への恐怖だ。


 悶々と湧き上がるその感情は、しかし、シキミが頭の中で勝手に組み立てたものに他ならない。


「んん……もうこうなったら現場百遍(げんばひゃっぺん)……っと」


 窓枠に、ブーツをしっかりと装備した足がかけられる。(おもむろ)に開いた窓から、冷たい夜風が吹き込んだ。

 髪が乱れて、長い前髪が巻き上がる。決意に満ちた瞳が星空を映して、(またた)く。


 そのまま、シキミの身体は空を飛んだ。

 何も言わずに、まるで逃げるように出てきた、その後ろめたさを(ねぶ)るように、冷たい風が頬を撫でる。


 屋根から屋根へ、軽い足音が宵を叩く。


 握りしめた手には、ジークから預けられたままの "魔魂探知眼(アモニアグラス)" がしっかりと収まっていた。

 シキミは今からこれを持って、心中事件のお屋敷へと向かうのだ。



 最初から思い違いをしていた。これをかけて見えるのは、あくまでも魔力によって呼び起こされた記憶。

 エレノアは「()()」と言ったけれど、それは決して「魂魄」の事ではなかった。


 インベントリに入れたことで見られるようになった、道具(アイテム)の詳細な情報。


 この眼鏡で()()──もとい「記憶」を見るためには条件があった。


 ひとつ、見たい記憶と縁深い所に居ること。

 ひとつ、恐れないこと。


 ──ひとつ、見たいと思うこと。


 つまりそれは、幽霊(きおく)が現れることを信じる……ということ。


 結局のところ、魔力は「願うところ」にしか働かないと、そういうことなのだろう。

 シキミはずっと「見たくない」と思っていた。だから、見られるはずがなかったのだ。


 知っていただろうに、言わなかったジーク達のそれを、意地悪と取るべきか、優しさと取るべきか。

 怖がって見ることがなかったのだから、結果としては優しさであったのだけれど。彼らのことだ、幾分かの揶揄(からか)いを含んではいたに違いない。……酷い話だ。



 屋敷の中は相変わらず、(くら)くて寒くて恐ろしい。

 あの家族団欒(だんらん)の談話室も、今は人の気配を失って、死んだように静かだ。


 部屋の入り口に立って、眼鏡をかける。一段暗さを増した視界に負けないように、一つ、大きく深呼吸をした。


 (ねが)うのは、ただ一つ。ただ、見ること。

 見たいのは、事件当時のその姿。その有様。その形。


 私は、屋敷の記憶が──()が見たい。 


 この眼鏡が、人の記憶の残滓(ざんし)()()呼び起こせない──なんてことは、何処(どこ)にも書いていなかった。

 ……正直、できるかどうかは一か八。だが、抜け道を探し、試すのもプレイヤーの大事なお仕事だ。


 瞳を閉じて、また息を吸う。

 怖いと思う心ごと、一気に吐き出す空気と共に、心に小さな勇気が灯る。

 その瞳は開かれて、映る世界を見据えた。


 ──欲しいのは、マッティアの最期とその続き。()()()()()()()、事の顛末。


 ふと、空気に血の匂いが混じった様な気がして、シキミの口は小さく引き結ばれた。


この発想は日本人(異世界人)かつ、抜け道探しのプロ(プレイヤー)だったからこそ見つけられた「可能性」のような気がするのでございますよ。


でも夜遊びには気をつけようね!!(突然何???)


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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