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レベル1からやり直してこい!?  作者: 参星
呪われた宝石編
64/109

64.曰く、戸惑いと夕暮れ。

 

 あの感触が、どうにも忘れられない。


 握っては開く両の手に、未だ()()()の体温が残っている気がする。



 騒動が、エイデンの死によって一応の収束を迎えた直後。おっとり刀で駆け付けた衛兵達による調査を受けたシキミ達は、(しばし)しの聴取を終え、何がなんだかわからないうちに解放された。


 スピード解決と言わんばかりの解放の速さは、どうやらシャウラが一枚噛んでいたらしい。

 駐屯所から放り出されたシキミ達を、彼は自慢げな顔で待ち伏せていた。


「お勤めご苦労サン。お疑いも晴れて何よりだぜ」

「もう少し時間がかかるかと思いましたけど、早く済んで良かったです。……今日はもう疲れましたから」

「特にお嬢さんがな。……アッハハ! さすがバケモノ見習い! テオのやつが踏み台にされてンのなんか初めて見たわ!」

「うるせぇな!」


 ケラケラと響く笑い声と交わされる軽口は、事件のあとの重々しい空気を僅かながら軽くした。

 しかし、笑顔の再開もそこそこに、彼の琥珀色の瞳は真剣な光を帯びる。


「ま、なんにせよ──だ。カフスの件も含め、訳のわからねぇコトが多すぎる。……依頼主(リーンハルト)にも伝えておくから、また来る」

「えぇ、お待ちしています。……こればかりは、面倒臭いとも言っていられないような案件かもしれません」

「そうじゃねぇことを祈ってッけどな」


 それから二三言、私達と言葉交わしたシャウラは、夕暮れの(だいだい)に溶けるようにどこかへ消えた。

 私も、思い出したように「汚しちゃったシャツのこと、謝っていたと伝えてください。いつ会えるかわからないから」なんて言ったはいいものの、何も今でなくても良かったのでは……と思うにつけ、つくづくタイミングが悪い。



 何度も握っては開く、凝っと手を見つめるシキミの頭の中で、様々な思いと考えが渦巻く。(まと)まらない、ぐちゃぐちゃとした思考回路は、まるであの戦闘を思い出すことを避けるように、あちこちに飛んでは消える。


「良くやりました、シキミ」


 ジークの手が、ゆっくりと頭を掻き撫ぜて離れる。

 手袋越しの体温が、一瞬留まって消えた。

 戸惑いを塗りつぶすような優しさに、今はただ、足元を()っと見つめる事でしか返せそうにない。


「……はい」

「気に病むことはありません。どうやら本当に、魔力中毒のようですから」


 魔力中毒とは、要するに魔力の許容量超過(キャパオーバー)のことであるらしい。

 魔力を貯めるタンクの中に入り切らない魔力があふれると、その魔力が身体に異常を生じさせる。


 エイデンは正に、突然暴走を起こし、その結果として死んだ。

 シキミ達は運悪く、何らかの要因で(もっ)て壊れてしまった彼の、その瞬間に居合わせただけ。


「災難だったわね……。あんなふうに突然暴走するなんて。私、見たことも聞いたこともないわ」

「本調子になる前で良かったな。覚醒みたいな事されてみろ、あんなんじゃ済まなかったぜ」


 口々にかけられる慰めの言葉。

 それは多分、ある意味初陣(ういじん)であったシキミを気遣うからなのだろう。


 だが、シキミの中にあるのは戸惑いや、恐れよりもまず「何故」の言葉一つであった。



 彼の暴走のトリガーは、きっとカフスボタンだ。

 彼が暴走して死んだのは、私がカフスボタンのことを指摘したからだろうか──? でも、どうして?

 暴走する必要はなかった。商人らしく、白々しい笑みで「商品アピールの一つです」と、言うだけでも良かったはずだ。


 それなら、彼がマッティアを殺したのか──? だから、思わず暴走してしまうほど動揺した──?

 それも、あの何かを言いかけたエイデンを見たあとでは、腑に落ちない。違う気がする。


「カフスボタンは……見つかったんでしょうか」

「いいえ、見つかっていません」

「……あの石が鍵なのかしらね?」

「鍵って、何のだよ」

「バカねぇ、それがわかったら苦労しないわ」


 あのカフスが──あるいは赤い石が繋ぐのは、持ち主の二人だけ。


 そしてその二人は──


()()()()()()()……」

「ええ、でもそれだけです。──今は未だ」


 シキミの中で不吉な像を結んだその言葉は、水面に揺蕩(たゆた)う浮舟のように、不安定に揺れていた。



メンタリストジークって言った人誰ですか。先生怒らないから素直に名乗り出てください(笑)


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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