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レベル1からやり直してこい!?  作者: 参星
呪われた宝石編
55/109

55.曰く、カフェ・バー『箱庭』。


 壁に空いた四角い穴。

 その向こうから僅かな光が漏れ出して、かすかな音楽が聞こえていた。


 少し腰を(かが)めないと、頭をぶつけてしまいそうな程の高さ。その入り口を、四人は順番に這入(はい)っていった。


 まるで秘密基地みたいだ──とは、シキミの得た第一印象である。


 テーブル各々に揺れる蝋燭(ろうそく)の火が、シキミたちの影を何重にも写し取る。

 薄暗い店の奥、オレンジ色のダウンライトに照らされて、バーテン姿の少年が、一人グラスを拭いていた。


「……いらっしゃいませ」


 視線だけを寄越した彼の、覇気のない声が静かな店内に響く。

 丸い銀縁眼鏡の向こうから、黒緋(くろあけ)色の瞳が覗いて、値踏みするかのようにシキミを視る。

 銀の細いチェーンが、彼の頬を滑っていった。


「見慣れない顔だな。ソレも拾い物か?」

「お久しぶりです、マスター。……拾っちゃいました」


 ジーク達は何の躊躇(ためら)いもなく、まっすぐと少年の前へ向かっていき、鳩ノ巣よりもオシャレに仕上げられたバーカウンターへ腰を下ろしてしまった。

 そりゃあ、常連だというのだから慣れているのだろうけれど。

 慣れぬシキミはぎこちなく、チラチラと()()()()(うかが)いながら腰掛ける。


「で、何を?」

「カメオを」


 促されるまま、シキミはインベントリ──を重ねた巾着(きんちゃく)から、例のカメオを取り出してみせた。慣れたものだ。


「見せればわかると、お伺いしました……!」


 シキミの差し出したそれを、蝋燭に揺れる赤い瞳が()っと見つめて、彼は一言「驚いた」と言った。


「へ……?」

「見ればわかる……と、言われてはいたが。まさかあいつがコレを手放すなんて、と思ってな」

「や、やっぱり大事なものですよね……?」

「彫られてる顔」


 黒い地に浮かぶ、美しい少年の横顔は、あの()使()()に似ている。

 どこか夢見るような、遠い瞳。浮かぶ微笑は絵画に描かれる天使と同じ。

 慈愛と、悲哀に満ちた顔。


「あ、やっぱり天使君……?」

「あー……。まぁ、言いたいことは伝わる。間違ってねぇし」


 失くしたらブッ殺されるぞ、と脅され、シキミの頬が引き()る。

 私の代わりに持っていてほしいなぁ、という願望を込めた視線は、ジークの穏やかな拒絶の笑顔で一蹴された。


「ここにわざわざ顔を出した、ってことは、少なくとも話を聞くつもりはあるってことだな?」

「まぁ、そうですね。乗りかかった船ですし、他にやることと言っても……」

「ダンジョン行くぐらいだもんなァ…………」

生業(なりわい)とは言えちょっと飽きるわよね。流石に」

生業(なりわい)にエンターテイメント性求めるのってどうなんですかね??」

「あら、仕事は楽しい方がいいでしょ〜?」


 仕事は選べるものなんだ……、という妙な感慨と勢いに押され、シキミは、それもそうですね! と勢い良く頷いた。


 ──それが圧倒的強者の理論展開であることに、彼女はまだ気がついていない。


「新しいのが入っても変わらねぇな」

「そうでしょうか? 変わったような気がしてました」

「ンな簡単に変わるかよ。ま、やりやすくていいや」


 カウンターの向こう、壁にずらりと並べられた色とりどりのボトル。

 その内の一つ。何でもない物のように、少年が手を伸ばした薄緑色のワインボトルが、壁の奥へと押し込まれた。


「……ようこそ、()()()()()()


 絡繰(からく)り仕掛けの店内は、誰にも言えない、秘密の話にうってつけだ。


 壁の奥、何かが軋むような音がして、暫く。


 何かが外れたような音の後、壁に真っ暗な──それはまるでこの店の入り口が、もう一つ店内に現れたような──四角い穴が姿を見せた。

 その闇の奥に揺れる、(だいだい)(みどり)の妖しい炎が、地下(した)へと続く階段を朦朧(ぼんやり)と照らし出す。


「どうぞ奥へ。特別な()()()()をご用意します」


 にぃ、と弧を描いた瞳に浮かぶ弑逆的(しいぎゃくてき)な色。

 裏社会を生きる人間の凄みに飲まれ、シキミはただ、蛇に睨まれた蛙のように体を硬くした。


彼ら(ジークたち)が裏社会で遊び歩いてる間に、他の冒険者たちは身を粉にしてモンスターと戦ってるんだよなぁ…………。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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