54.曰く、秘密の入り口。
「夜にばかり活動してると、昼夜逆転しそうじゃないですか……?」
「もう結構逆転してんぞ」
「起きたの昼だしねぇ」
ふあ、と大きな欠伸を一つ。
シキミたち白銀の糸の一行は、薄暗い夜道を連れ立って進んでいた。
大通りに連なる街灯には、魔法の光が灯っている。
路に面した飲食店から、光と共に賑やかな声が漏れ出していれば、まだこの街の夜は長い。
カフェ・バー『箱庭』。
名前の通り、昼はカフェ、夜はバーの飲食店。
値段はそれなりだが、出すものは値段以上の一級品。味良し値段良しの言わずと知れた名店で、このアズリルの街で知らぬ者はいない──のだということをシキミは今知った。
「まぁ、何だ。憧れの名店みたいなもんだよな」
「通えるようになったら一流……みたいなイメージあったわよね」
「ジークさんたちは行ったことあるんですか?」
「ある……というより、もう常連に近いですね」
「あっ、ですよね〜」
お小遣いとして銀貨をぽんと投げ出したり、龍の鱗をお土産だと言い張ったりするような人間が、そんな飲食店に通っていないはずがない。
どうやら、冒険者たちのステータスとして利用されるその店は、何も飲食店だけの素直な経営はしていないそうで。
街灯に照らされたジークの瞳が、悪戯っぽく煌めいた。
それがまるで内緒話をする子供のようで、そんな顔もするのかと、その意外さに思わず眠気も覚めた。
「あのお店の商品は、何も飲み食いするものだけではないんです」
「そ、お酒や料理よりずぅ〜っと高いけど、買えるのよ。確かな情報が」
『箱庭』通いが "一流冒険者の証" だと称されるのは、そこに通えるだけの金銭があるという事、情報を買うという事が必要な立場である事……を、示すから。
「箱庭の面白いところはな、常連一人一人に違う合言葉がある……ってとこだ」
「あ、じゃあ認められないと……?」
「そういうこと。……情報売る側が客を選ぶってんだから、なかなかだろ?」
「男心擽ってますねぇ」
「男心かどうかはともかく、ドキドキはするだろ」
と、ちゃっかり擽られているテオドールをよそに、シキミ達は大通りを外れてゆく。
情報屋にとっては、客も商品の内だろう。
誰がどんな情報を得たか、それだって立派な情報だ。
それを自ら制限してゆくなど、下手をしたら死活問題だろうに。
情報収集に余程の自信か、ツテがあるのか。あるいは、認められないほどの雑魚の情報など要らぬと、そういう──自負、なのだろうか。
裏通りは入り組んでいて、明るい光も人の声もない。
細い路地裏に立つ商売女の、値踏みするような視線を何度か感じては、慣れぬ空気にビクリとする。
そんなことを意にも止めない三人は、意気揚々と進んでゆくものだから、シキミは慌てて歩調を合わせた。
「どんな面倒事があるのか、ちょっと楽しみになってきました」
「その言葉は私にグサグサ突き刺さりますッ……!」
「まー、なんだ、ほら、なんとかなる」
オイオイと泣き真似をしてみたり、テオドールの下手な慰めを受けたり、ちゃっかりエレノアさんと手を繋いだり。薄暗い夜の道にあって、なんだかやたらと騒がしい四人組は、一つの古ぼけた壁の前で立ち止まった。
「ここです」
「壁ですけど??」
目の前には薄汚れた壁──と、長方形の凹みが一つ。胸のあたりまでしかない、小さな窪み。
その端に手をかけたジークは、躊躇うことなく──それはまるで引き戸を引くように──引いた。
月明かりに照らされてなお、街灯の届かぬ薄暗い夜の中。
ぼんやりと浮かぶ壁の、その中央に、屈んでようやく通れるほどの四角い穴が空く。
「い……入り口……」
ね、言ったでしょう? と振り返るジークの、したり顔が夜闇に弾けた。
ジークさんおちゃめ回です。
またしばらく更新遅れるかもしれませんが、がんばります!!!
ここまで読んでいただきありがとうございました。





