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レベル1からやり直してこい!?  作者: 参星
呪われた宝石編
42/109

42.曰く、高ランクはお土産の格から違う。

 

「──で、慌てて逃げ帰ってきたのか。そりゃ災難だったな」


 ガシガシと乱暴に撫でられる頭に視界を揺らしながら、その変わらぬ対応に少しだけ安心する。

 宿に差し込む穏やかな夕陽は、夜空と共に待ち人を連れて来ていた。


 ほぼ二日ぶりの黒を中心に連なる背中に「お帰りなさい」と駆けよれば、つい最近始まったばかりの ”()()” がまた始まった。

 いない間どうだったと話を促されれば、正直話せる事件など昨日のゴブリン騒動ぐらいのもので。


「まさか当たり所が悪くて地滑りが起きるなんて思わないじゃないですかァ……生きててよかった」


 ──取り合えず、そういうことにした。


 シキミの遭遇したハプニングの話はそこそこに、自然話題はジークたちのダンジョン攻略についてへと変わってゆく。

 ダンジョンの攻略についての知識など皆無のシキミは、ダンジョン攻略がどれほどの難易度なのかわからず、話される諸々になるほどと相槌を打つだけなのだが。”如何にも冒険者”という話題は聞いているだけでも面白い。


 やれナントカの肉が美味かった、道中の景色が美しかった、珍しい魔物がいたというきらびやかな話の数々を聞けば、まるで夏休みのキャンプかピクニックのようである。


「そもそも今回の依頼はどんな内容だったんですか?」

「新しいダンジョンが発見されたので、その攻略ですね。後で依頼達成報告もしに行きます」

「攻略したんですか! すごい!」

「凄いだろ? 嬢ちゃんにお土産もあるんだぜ」


 手ェ出しな、と言われるがまま差し出した手のひらに乗せられたのは、大きさも形も柄の無い団扇(うちわ)のような物。

 硬質で半透明なそれは、夕陽に照らされてなお淡い銀色に輝いている。


「こ……れは?」

「最下層にいたボスからとってきました」

銀竜(ぎんりゅう)(うろこ)だから値打ちものよ?」

「薄いし、耐久性抜群だからそのうちナイフにでもしてもらうんだな」

「──??? りゅう?」

「おう、銀色のドラゴンな」


 何のことはなさそうに手渡されたそれは、どうやらとんでもないシロモノのようで。

 重さを感じないほど軽かった(うろこ)は、途端手の中でズシリと重くなった──気がした。

 キャンプだ何だととんでもない、本気(マジ)の討伐だ。


「ち……ちなみにおいくら程で……」

「さあ? 金貨数枚でしょうかね」


 ポロリと零された値段に体が震える。一体これで何年暮らせるというのか。持っているのも怖いが、かといってテーブルにポンと置いてしまうのも(はばか)られる。

 持っている手のひらが見える程薄く、透けるような美しさがひたすらに怖い。

 もっとこう、道端で拾ったちょっと綺麗な石とか、美味しい肉とかでよかった気がしないでもない。


「一枚だけじゃあそう馬鹿みたいな値段にはなんねえし、仕方ないとはいえ一人にさせちまったお詫びな」

「流石に置いてけぼりは可哀想だもの……ねえ?」

「いや確かにちょっと拗ねたりしましたけども………!!!」


 出がけに渡した銀貨といい、分不相応なお土産といい、人は強くなるとどこかの基準が狂う(バグる)らしい。

 まあ持っておいて損はないから、となんでもなさそうに笑う彼らは、一周回って馬鹿だった。


「どっかしまっとけよ、って言いてェけど……そういや空間収納持ってねえんだっけ……?」

「何よ、そんなことも聞いてなかったの?」

「あー……。空間収納……って、これ、ですかね」


 その言葉に、シキミはそっと取り出した巾着(きんちゃく)を振ってみせる。彼らが帰ってきてからこのかた、いつ出そう、いつ出そうと思っていた神器使用のための伏線。

 それはニシキと昨晩から何度も練習した、空間収納の真似事だ。

 薄紅色(うすべにいろ)に金糸で縫われた青海波(せいかいは)。インベントリの中にたまたま入っていた、大した効果のないファッションアイテム。その紐を緩めた口から、シキミは惨劇の太刀(ニシキ)の柄を取り出してみせた。


「持ってたの?」

「持ってたみたい……です?」


 神器の呼び出しによって、背後には精霊(ニシキ)がそっと立っている。だが、それに気が付く人はいない。彼らの視線はシキミの手に集まったままだ。精霊とインベントリのディスプレイは、本当に人の目に映らないらしい。


 巾着の口に乗るように広がった、半透明のディスプレイ。そこに手を突っ込めば、あたかも巾着の中に手を入れているような動作が完了する。


「武器もあったのか」

「あったんですが……この袋含め、果たして本当に私のものなのか……」

「まぁ、持ち主はともかく。ソレ、使えるの? ちょっと不思議な魔法の力を感じる……気がするけど」

「それがその……微妙です。慣れればなんとかなりそう……なんですが」


 まだどうにも、と苦笑したのは、真実心の底からの言葉だ。一癖も二癖もある神器たちを掌握(つかいこなす)などいつになるかわかったものではない。


 果たしてどういった反応になるのか、恐る恐る(うかが)った視線の先。「戦えそうでよかったですね」と朗らかに笑ってみせたジークのことを、シキミはまだ掴めずにいる。


 知識(きおく)がない分、神器よりよっぽどわからないと思いながら、シキミはエヘヘと不器用に笑ってみせた。



主人公より強い仲間が好きすぎるッッッ!!!!好みだ!!!!!(自己紹介)


追伸

霧果つる空と題しましてシリーズ化いたしました。もしよかったら奇譚の方も時折覗いてやってくださいな。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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