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レベル1からやり直してこい!?  作者: 参星
呪われた宝石編
39/109

39.曰く、アリスはこうして導かれる。

 

 おはようございます。良い朝ですね。

 草木を揺らし、その青っぽい香りを孕んだ風が大変心地良い、素晴らしい天気です。


 原初の森を背に、ラナキア平原を横断した先の方。ギリギリDランクエリアに指定されている、山の(ふもと)の林の中。

 シキミは、木々の隙間から覗く青空を吸い込むように大きく伸びをした。


 なんだかんだで拗ねたり落ち込んだりしていた気持ちは、酒の力か女将さん達の励ましの賜物か、はたまた新たな悩みの種のせいか。もうすっかり跡形もなく消えている。


 木々の(こずえ)を飛び回る、やけに大きい鳥の影が、シキミを包み込んで過ぎて行った。


 今日は初の一人仕事。

 採集とはいえ、保護者(Aランク)同伴なしの初依頼に気合が入るのは当然であろう。

 薄茶色の瓶を抱えて、東奔西走。あちこちに群生するヨモギのような葉を、一つ一つ丁寧に()んでゆく。

 ぷちりと茎が断面を覗かせる度に、なんとも言えない青臭さが鼻を突くのが面白い。


 そんな折、視界の端を掠めてゆく、小さな毛玉が気にかかった。


「う……兎だよね……?」


 ついこの間、兎の魔改造のような魔物 "レビィラビット" と、散々死闘を繰り広げたトラウマ体験の根は深い。

 たかが兎ごときでこうもビクビクするのは冒険者としていかがなものか、と心の中の冷静なシキミは訴えかけるのだが、そんな言葉一つで何とかなるならこんなにビクつかない。

 いっそのこと、パイにでもしてしまった方がトラウマ克服にはいいのでは、と思ったところでシキミの(あいぼう)が元気よく賛同してくれた。


「よかろう……齧歯類(げっしるい)め、夕飯にしてくれる……!!………あれ、兎って齧歯類だっけ?」


 まぁ、ウサギ肉は美味しいというし、と意識を食に移せば、恐怖心は割と霧散した。

 ご主人であればどんな獣肉だって美味しくしてくれるに違いない。──今ここに、本日の夕飯は決した。



 しかし、毛玉(うさぎ)の捕まえ方など、猟師でもなければ興味もなかったのだから知る由もなく。脳裏に浮かぶのはソウゲンアナウサギを手掴みしたテオドールの姿。

 …………果たしてあれは正解なのだろうか。


 ものは試しと追いかけてみたが、数歩近付いた所であっさりと逃げられた。

 それでも、身体能力の上がったシキミ(アバター)の目は、しっかりと逃げる獲物の姿を捉えて逃さない。

 林の奥へと逃げる兎を見つめながら、さて奥に侵入(はい)って良いものか、と逡巡したシキミは、しかし食欲と好奇心にあっさりと負けた。


 林の木々を(くぐ)って抜ける。

 複雑に絡まりあった根に足をとられながら、それでもシキミは追いかけた。──引っ込みがつかなくなっていた、とも言う。



 幾重にも重なる木々の奥、兎の向かう先にはぽかりと空いた穴が、大口を開けて待ち構えていた。

 切り立った崖の、土砂崩れでもしたのか土肌も(あらわ)なそこに、穿(うが)たれた穴は黒々としていて恐ろしい。

 だが兎は、化物の腹に飛び込むように、その先の見えない穴の奥へ、躊躇うこと無く飛び込んだ。


「えぇ…………この中入るの……?」


 白いうさぎに誘われて穴へ、とはなんだかアリスのようであれば。アリスもお腹が空いていた可能性があるな、とファンタジーの大御所に対して不敬が過ぎることを考えながら、シキミは渋々と一歩踏み出すことに決めた。



 洞窟の中はひんやりとしていて、少しばかり獣臭い。

 時折耳を打つ、水滴が岩を鳴らす音は高く澄んで心地よいが、いかんせん湿っぽい。

 じめじめとした薄暗がりの中、外の微かな光を背にシキミはゆっくりと顔を上げた。


 遠ざかる白い毛玉を追った先。獲物(うさぎ)の消えていった闇の中。

 そこにはいくつもの赤がちらちらと(またた)きながら、()っとこちらを睨みつけていた。


 兎にしてはやけに大きい巣穴だと思ったが、なるほど群れているなら仕方ない。

 これだけいて、しかも洞窟の中であれば。袋小路の獲物を捉えることが比較的容易であることは自明。──至って単純明快な解である。


 追い立ててやろうと手を伸ばした先、獣の気配の一層濃くなった闇の中。

 ギシャ、と響くしゃがれた唸り声に、得もしれぬ不快感が湧き起こる。

 背すじをぞわりと撫であげるようなそれに、シキミの足はジリジリと後退を始めていた。


 一歩、二歩。伸ばした手のひらと、屈んだ腰をそのままに、入り口へ──光の方へと身体は進む。

 たった数分、あるいは数十秒の緊迫した時間は、数時間にも感じられた。漫然と進む。永遠にも等しい時間の中で、地を()る足から立つ音が、外の風を感じて止まった。


 シキミとは別の、二足歩行の生き物がじりじりと近寄る気配に、シキミの額に嫌な汗が伝う。差し込む光に照らされた先にいたのは──



「ご、ゴブリン…………?」


 それは、異世界御用達(テンプレ)のファンタジー生物。

 苔色の肌は薄汚れ、子供ほどの背丈に乗った頭には、アンバランスな程に大きな尖った耳と大きなかぎ鼻が付いている。

 濁ったような目はこちらをひたと見据え、威嚇するようにギシャァと鳴いて、錆びついた剣が腹を掠めた。


「いや……えぇ……。は??? ゴブリン!?!? なんで!?」


 慌てて身を(よじ)り、間一髪。

 鈍色(にびいろ)の粗末な斬撃を目で追って、(しば)し。まるで魔法が解けたシンデレラの如く、シキミの足は慌てて地面を蹴りあげる。


 (こご)った空気を吐き出すように、(ごう)と風の音が通り過ぎれば、千里を翔ける火雀(かざく)のブーツは、その持ち主を難なく洞穴(どうけつ)の外へと連れ出した。



ヤッターー!!次は戦闘回だ!!!!


が…………………がんばります。


追伸、素敵なレビューや感想いただきまして、本当にありがとうございます。

ブクマや評価含め、このお話を楽しんでくださっている皆様にあらためて最大限の感謝を。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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