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レベル1からやり直してこい!?  作者: 参星
序章、あるいは開幕篇
28/109

28.曰く、拠点名「鳩ノ巣」

 

「そういえば、ジーク達は何処に泊まっているの?」

「今ですか? 鳩ノ巣ですよ」

「えっ、あそこ鳩ノ巣って言うんですか」


 嬢ちゃんマジか、と目を剥くテオドールに、シキミはなんかすみません、と小さく頭を下げた。

 もはやこの一連の流れは様式美化しつつあるような気がする。──出会って間もないのだが。



 太陽は地平に落ち、橙色の光が月にその役割を譲りだした頃。

 恙無(つつがな)くパーティー申請を行ったシキミたちは、揃って冒険者ギルドを後にしていた。


 今日、他国へ向かう依頼から帰ってきたばかりだというエレノアは、それはもう意気揚々と、シキミたちと同じ宿を希望したのである。


「あそこ小さいけど、四人泊まれるくらいの部屋はあったわよね」

「今は他の宿泊客もいなくて俺達の貸し切り状態ですし、部屋はあると思いますけど」

「あっ、俺も泊まるの確定なのか」

「嫌なの?」

「嫌じゃねェけども!」


 あそこ結構いい値段じゃなかったか、というその言葉に、シキミは時が止まったかの如く固まった。


「そ、それ……! 私さっき聞こうと思ってたんです!! ほぼ無一文ですよ私! 宿泊費払えるかもわからないんです!」

「俺が払うからいいんですよ?」

「甘やかさないでください〜!!!」


 甘やかしても良いことなんてないんですよ、とはシキミの本心である。

 親しき仲にも礼儀あり。依存は大変よろしくない。

 特にお金は、常にトラブルの元だ。


「そうは言っても、新人じゃあ稼ぐのは難しいわよ?」

「わかってはいるんですが……心苦しくて……!」


 律儀ねぇ、と感心されながら、シキミは緩々(ゆるゆる)と坂を下ってゆく。


 街灯なのだろう。等間隔に設置された支柱の天辺が淡く光って、道行く四人の影を淡く照らし出し始めた。

 冒険者の街の割に、ここアズリルはかなり治安が良いように見える。もっとこう、道端に酔った男女がゴロゴロしているか、喧嘩の怒号が聞こえるかだと思っていた。


「出世払いでいいんじゃねぇか? 返すタイミングはジークが決めりゃいいだろ」

「良いんじゃない? ジークがそれで良ければ」

「良いですよ」

「良いんだぁ……」


 帰り道、あっさりと決まってしまった返済予定に、この緩さがジークさんだよな、などと勝手な事を考える。


 カツカツと、靴の底が石畳を叩く音が四つ重なって鼓膜を叩けば、この音が聞ける幸福をシキミは噛み締めていた。



 歩くこと(しば)し、"鳩ノ巣"の入り口から漏れる優しい光が道路を照らしている。

 がやがやと聞こえる賑やかな話し声に、そういえばレストランも兼ねていたのだっけと思い出す。


「夕食もここでいいですか?」

「異議なし。席取ってていいか?」

「お願いします」


 そそくさと店内に入ってゆくテオドールに、続いてジークが光の中へと姿を消した。

 後に残った女二人。行かないのか、と見上げれば静かな青色がぼんやりとした光を(たた)えてこちらを()っと見つめている。


「お金を返すまで手元に置いてもらえる、って安心したかしら?」

「──え?」


 平坦な声に、空気が冷える音がした。

 否、血の気が引いた音だったかもしれない。


 そんなこと、考えてもみなかった。

 単純に、私の我儘だったのだから当然だ。打算もなければ計略もない。

 それなのに、優しかったはずの瞳が、今は鋭く値踏みしているように見えて恐ろしい。

 否、私は甘んじて()()()()()()()()()()()。それはわかっているのだけれど。


「か、考えてもいなかったことです! そんなつもりじゃ──」


 ぐるぐると頭の中を巡るのは、意味をなさない言葉の羅列。取り繕おうとすればするほど、その言葉たちは嘘くさく、本心から乖離(かいり)していってしまう。

 それでも必死に弁明の言葉を紡ごうと、口を開いた瞬間。

 ふるふると肩を震わせだしたエレノアに、シキミの心が追いつかない。


「…………ふ、ふふ。ふふふっ。──冗談よ、ごめんなさい。ちょっと揶揄(からか)いたかっただけ。最初に言ったでしょ、ジークの目は確かだって」


 厳しい視線とは一転、我慢できないとばかりに笑いだしたエレノアの姿に、半ば放心状態のシキミはただ無言で呆けるので精一杯だった。

 全速力で駆け抜けたあとのように、心臓が喉元でバクバクと鳴っている。


「怖がらせちゃってごめんなさいね? 疑っているわけじゃないわ」


 あんまりにも素直だから、本当に揶揄いたくなっちゃったのよと美しい人は笑う。


「その幼い、無垢な素直さはあなたの良い所でもあるし、とっても悪い所でもあるわね。イジメたくなっちゃうわ」

「え…………えぇ……? お気持ちは十分わかりますけど、酷いですよう」

「ごめんなさいってば。お詫びにご馳走してあげるから、入んなさいよ」


 とんとんと背中を押され、二三歩踏み出したシキミの頭に、たおやかな女性の手が乗せられる。

 そのまま小さくかき混ぜられて、途端、血と泥でごわごわしていた髪の毛や服、全身が、綺麗さっぱり元通りになっていた。


 まるで何事も無かったかのように、お先に、と言って光の中に入って行ってしまった彼女の背中を、シキミは慌てて追いかける。


 ──良く、わからない。わからないけれど。


 多分、合格したのじゃなかろうか。彼女の中の、何かに。

 ジークの目を確かだと認めた上で、それでも確かめずにはいられなかった、彼女なりの合格ライン。


 私の合格を決めたのは彼女の魔法かもしれないし、スキルかもしれないし、本能かもしれないけれど。


「……えへへ」


 なんだかよくわからない事ばかりで、慌ただしいばかりの日々。

 これはこれでなんだか楽しいし嬉しいぞ、とシキミの単純な心は大歓声を上げていた。




どのキャラもパキっとわかりやすいわけではなく、腹に一物抱えてるような感じですね〜っ。

でも、人間そんなものだと思ってます。


少しずつお話動かせてるこのドキドキ感。

私にもどう転ぶかわかってません(え?)

多分未来の私がなんとかします。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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