2.曰く、そう簡単には進まない。
私、夕凪 楓には、かれこれ五年ほど続けているスマホゲームがあった。
──ということだけは、やけにはっきりと覚えている。
リリース当初、それこそβ版や事前登録からやっているのだから古参中の古参であると自信と誇りを持って言えるだろう。
『世界創生』──通称『創世』と呼ばれたそのゲームは、広いワールドマップと、アバターメイキングの圧倒的自由度から、大層な人気を博していた。
……それで。この、今身に纏っている装備は、正しくその『創世』で使っていた装備なわけで。
「ゲーム……の、世界……?」
いや、まさかね。
ポツリとこぼした声は、虚しく虚空に消える。
当たり前のように、応える声などあるはずもなく。在るのは草木、花、森。
果てしない自然。──神は我を見放し給うた!
そうやって現実からゆっくり意識を逸らした後。
私はやはり、どこか見覚えのある、いつの間にかやけに現実的になってしまった創世の装備について、深く考えるのを早々に諦めた。
ゲームのことしかまともに覚えていないとはいえ、あくまでも私は、ゲームではない世界で生きていたわけで。そして、それが現実だったはずで。
目を閉じようが頬を抓ろうが、空は青いし緑の香りは豊かなままである。
相変わらず私は『創世』のメインアバター『シキミ』の装備になったまま、どことも知れない森の中で呆然と立ち尽くしていた。
これでステータスとか出たら笑えるなあ。絶対ゲームの中に転移してるじゃん、それ。
そう思った瞬間、脳裏に強制ともいえる勢いで浮かんだのは見慣れた創世のステータス画面。
そっと目を閉じ集中すれば脳内で勝手に展開される白いディスプレイに、他人に入り込まれているような不快感と "やっぱり" という諦めが湧き上がる。
「これはチートスタートテンプレ展開の気配……?」
──そもそも、ゲームだと思っていたこの世界が最初から現実だったりしてね。
胡蝶の夢、脳裏に過るその単語はうすら寒い気配を纏う。
そんな恐ろしい想像を振り落とすように、ざっと流し見たステータス画面に見慣れない表記を見た気がして、私は脳内でスクロールする手を止めた。
背中につと、冷たいものが伝う。
嘘だぁ、だって。
──嘘でしょ?
KPもMPも、他のステータス値やスキル、技もすべてゲームと同じ。記憶の通りのその中で、燦然と輝く「Lv1」の文字。バグかな? と思わず声が出た。
攻撃力や防御力といったステータス値はゲーム時代と変わることなくえげつないのだが、しかしレベルは1である。
Lv1なんて今時チュートリアル五分で脱却できるだろうに。
だいたい、ゲーム本編はLv3とか4とかから始まるものであって。…………いや、世界はゲームではないというのはごもっともなのだが、変なところにゲーム要素を入れるなら全部反映してほしかった。
──もうなんかここまで来たら異世界でいい。異世界転生でいいです。
え? ゲームの中だろうって? ゲームだって画面の向こうは異世界なんだよ。
なんだかもう、夢とか現実とか考えるのも疲れてしまった。楽になりたい。思考を放棄して諾々と現実らしきものを享受したい。
現実世界で迷子になっちゃったカナ? 人生も迷子だもんね。と独り言ちて、幽かな希望は心の中で白骨死体よろしく朽ちてしまっているのである。
清々しい空気も、この新?世界から馬鹿にされてるようで今はただ腹立たしい。
もう一度ゆっくり目を閉じて、脳裏に浮かぶステータスのレベルの欄をしっかりと心に刻み込む。
力んでも拝んでもピクリとも動かない文字列たちは「うっかり殺してしまったお詫びにあなたに力を授けましょう──」などと言ってくるポンコツ転生女神より性質が悪かった。
吐けども吐けどもため息はため息。
ああ、神よ。レベル1からやり直してこいということですか──?
果たしてこの連続投稿がいつまで続くのか。ストックはもうないです…………。
評価が最新話の下にしかないのはなんでなんでしょうね!!!読んでくだすってる皆様!もしよかったらよろしくお願いします!!
毎話に評価ボタン欲しい。不親切設計か???
ここまで読んでいただきありがとうございました。