16.曰く、首輪は緩めでお願いします。
まあるい石窯パンは、カリッとした香ばしい茶色の中に溶けるように優しい白を隠し持っている。
どんどん食べなよゥ、じゃないと大きくなれないからね! と、些か私の年齢層を間違えていそうな女将は、私の目の前の白い皿へ、分厚いベーコンを焼いては乗せ、焼いては乗せを繰り返す。
噛めばパリッと音がする香ばしい焦げ目と、しっかりとした肉の味は、パンの優しい甘さと相まっていくらでも口に運べてしまう。
「お、おいひいれふ……しあはせれふ……」
頬が落ちるとは、まぁよく言ったものである。肉汁の甘さに舌鼓を打ちながら、蕩けそうな頬を片手にシキミは満足げに腹をさすった。
拝啓、親愛なる──よく覚えていないからこの際親愛かどうかはおいておいて──お父さん、お母さんへ。
私、転生先で飛べない豚になりそうです。
「今日はとにかく初めてですから……。この街に慣れるのと、依頼を受けてみることから始めましょうか」
結局シキミは満足するまで食べ、そのせいでやや重くなった腹を抱えながら、緩やかな坂をえっちらおっちらと登っていた。
もう暫く歩けばギルドの入り口が見えるだろう。
「はい!よろしくお願いします!……ところで、師匠と呼ぶか先生と呼ぶか、どちらがお好みですか?」
「ジークでお願いします」
弟子にした覚えはないですよ、と言われてしまえばそれ以上何かを言えるわけでもなく。
しかし、下に見ているわけではないよ、ということであればその言葉も嬉しくないわけではない。
いや、必要以上に馴れ馴れしくするな、ということかもしれないのだが。
今の所微笑むか、困ったように微笑むかしかしていないような彼から、その考えを読み取るのは難しい。
どちらかというと後者の割合のほうが高い気がするなぁ、と勝手に考えて勝手に凹んだ。立場が逆なら私もそうしていたのだろうから、責められるものではないわけだが。
「俺の友人……いや、親しくさせてもらってる、が近いでしょうか。その人たちに会えたら、きちんと挨拶もしておきましょうね」
「はい師匠!」
「ジークです」
前言撤回。ちょっと距離の取り方が不思議なだけの人だ。多分。
下と見て突き放すつもりもなければ、同列と見なし、ことさら真綿に包むように甘やかす気も無いようで。
ある程度手綱を握り、あとは自由にさせる。──首輪とリードをつけて散歩をしているような、彼からはそんな距離を感じる。
つまるところそれは、人間と動物のディスコミュニケーションに近いわけだが。──私は犬か。
あながち間違いでもないな、と一人頷いていれば、もう随分と先に歩いていってしまった黒い背中を慌てて追いかけた。
シーンの都合上めちゃくちゃに短いのですが……できるだけ今日中に続き出したいと思っているので平にご容赦を………。
レビュー、感想、たくさんいただきました。ありがとうございます。
引き続き頑張ってまいります!!!
ここまで読んでいただきありがとうございました。





