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レベル1からやり直してこい!?  作者: 参星
呪われた宝石編
107/109

107.曰く、知らぬ顔の星空。


 ただヒトという種を蔑むようなその言葉を契機に、少女の姿は次第に変貌していった。


 両腕は大きく歪に変わり、背には三対の大きな蠅の羽が震える。

 下顎の代わりと言わんばかりに生え揃い、蠢く虫の(あし)は、今や少女の身体より大きく、長く。

 眼孔には真っ赤な複眼が(はま)り、下半身は小さく縮んで、遂に虫の腹となる。


 口から伸びた虫の(あし)にぶら下がるように、少女(ベルゼブブ)蛇腹(じゃばら)の腹を揺らして嗤った。

 それはどこまでも(おぞ)ましく、冒涜的な姿だ。



「お父様の邪魔をするならば死ね」


 四方八方へと振り下ろされた(あし)の一撃は重く。ナイフで防いだはいいものの、シキミの腕は押し負けそうになる。

 ブルブル震える薄い銀色一枚隔て、禍々しい黒が迫り来る。

 (あし)から突き出している、小さな棘一つに触れたって死んでしまいそうなほど、恐ろしい。


「ぅおも……ッ!?」

『──やはり私を出しなさい! 一撃でも食らえば死にますよ!』


 もう我慢ならないとばかりに、それまで沈黙を貫いていた神器(ウィスタリア)の焦った声が、頭に響く。

 切羽詰まったそれに急かされるように。シキミは彼を喚ぶべく、大きく一つ息を吸う。


 ──が、しかし。

 シキミの叫びは、言葉になる事はなく。

 へ……? と、気の抜けた音になって消えた。



 シキミのすぐ目の前、幾重にも重なる不思議な光の帯が、ベルゼブブを覆う。

 不気味な翠色の線と図形の重なりは──どこからどう見ても、巨大な魔法陣である。


「……何? こんな時に呼び出し!?」


 これじゃ殺せない──! と、悲鳴にも似た叫びを上げる彼女を嘲笑うように、陣は一層その輝きを増してみせた。


「駄目……! 邪魔できないようにされてるわ……!」

「エレノアでも駄目ですか」

「あなたが駄目なら私も駄目に決まってるじゃない!」


 引き戻そうとでもしたのだろうか、あるいは、動きを止めた今こそと、攻撃をしようとしたのだろうか。

 焦ったような二人の様子に、いずれにせよ、一切の干渉を ”何か” に阻まれているらしいということだけはよくわかる。


 突き立てようとしたナイフは、障壁(バリア)のようなものに阻まれ、弾かれてしまった。

 テオドールの大剣も、その障壁を貫くことはなく。ガチン、と嫌な音を立てて弾かれる。


「駄目だなこりゃ」

『いったぁい……! 酷いのだわ! 微妙に痛いのだわ!』


 シェダルは、それを見て素直に諦めたらしい。

 構えた鎖鎌をだらりと下ろし、悩ましげに眉根を寄せる。


「……わからないことだらけだ。──おい、虫のバケモノ。何故、人を害する。何故俺達の国を襲った?」

「ハァ? 何それ」


 眩い光の向こう。姿をヒトの形へ戻し始めた少女が、心底馬鹿にしたような顔をする。


「……魔王が見つかるかな~? っていう軽い実験と、実験場がたまたまここだった。それだけ」


 というかそもそも、石の量産をすることが本当のお仕事だったんだし、とため息が揺れる。

 陣の輝きは一層増し、少女の輪郭を(ぼか)してゆく。


「これだけ人間に広まった……広めることになったのは、まあ成り行きみたいなものだし。──私達が怨むのは、個ではなく全。人でなく、生命を。国でなく、世界を」


 ──だから、この国を壊してやろうとか、そんなちっぽけな話じゃないのよ。


 もう光は、夜に現れた太陽の如く周囲を明るく照らしている。

 闇に慣れた瞳が、悲鳴を上げる。


 思わず閉じた目蓋の向こう側で、少女の笑い声は高らかに響き渡った。

 やがて小さくなってゆく声と、光。


「またどこかできっと会うと思うよ。次はちゃんと殺してあげるね」


 収束してゆく光と共に、少女──蠅の王(ベルゼブブ)は跡形もなく消え失せていた。

 まるで初めから何事もなかったかのように。……否、戦闘の爪痕はしっかりと残り、見えなかったはずの星空は、崩れた壁からしっかりと覗いているのだけれど。


 後に残ったのは、(まゆ)のようになった木の根に閉じ込められている男と、一言も発することができない五人。


「……考えていた以上に厄介かもな」


 やっとのことで絞り出されたシェダルの一言は、どこからか近づいてきた、ワアワアと騒がしい人の声にかき消されてしまった。


「ようやく侵入(はい)れたァ!! おい無事かシェダル!」

「……どこほっつき歩いてたんだシャウラ。もう終わったぞ」

「結界みたいなものがあって入れなかったのよ。肝を冷やしたわ」

「お姉さん……無事でよかった! 死んじゃったら、お墓に飾るお花は何がいいかなって、考えちゃうところだった!」

「う~ん。天使君それはちょっとどうなの??」


 彼らの声で、次第に現実の輪郭が鮮明になってゆく。思い返せば、まるで夢の中にいたかのような気持ちになってくる。

 本当は何も起こってなんかいなくて、あの悍ましい虫のような少女は幻覚で──そもそも魔化だのなんだの自体が妄想の産物で……そんなはずはないのだけれど。


「こいつァ派手にやったな。後処理が大変だって、ハンスにまたグチグチ言われんぞ」


 木の根の繭を(おもむろ)に燃やしながら、シャウラは面倒臭そうな視線を寄越す。


「ちょ……! 燃やし──!?」

「悲鳴も聞こえねェんだから、もうお陀仏だろ」

「え……えぇ……?」


 ドン引くシキミを他所に、轟々と燃える塊と、空気を伝わる熱。

 燃え落ちた灰に、ひとまずの終幕を知る。


 それにしてはすっきりしない結末に、シキミは静かに星空を仰ぎ見た。


ここで宝石編お終いにするか、もう一話続けてお終いにするか迷いどころですね。


長かったですがとりあえず一段落です!!

スッキリしない終わり方ですが、得てして現実なんてそんなもの。まだ続きますので、どうぞお付き合いの程を…………


追伸

更新遅れちゃってごめんなさい!!!

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