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レベル1からやり直してこい!?  作者: 参星
呪われた宝石編
105/109

105.曰く、イヤな予感ほどよく当たる。


 暗闇の中で三日月が嗤う。

 虫の羽音は止むことなく、細かい振動を伝えていた。


「そんな風に隠れてもムダだよ。もうバレてるって」


 嘲るような声に、チッ、とシェダルの舌打ちが応える。

 いつの間にか人の姿に戻っていたらしい。長身の痩躯(そうく)が、隣で鎖鎌のようなものを構えていた。


 一方シキミは、部屋の中──少女の喜色に歪む瞳から、目が離せないままであれば。身体はピクリとも動かず、まるで蛇に睨まれた蛙のよう。

 他の三人は、突然の宣戦布告に、にわかに殺気立っている。


「下手な小細工はいらないようで、何よりですね」


 穏やかな声は、一歩前へ。

 シキミの目の前で開かれた、白い豪奢な扉の向こう。対峙した五人と二人の間に、緊張の糸がピンと張った。


「な……! なんだね君たちは!!」

「裏切り者に名乗る必要が?」


 冷ややかなシェダルの視線に、男はぐっと息をのむ。

 大事そうに、石の詰まった袋を抱える姿はなんだか滑稽だ。


「男の方はどうでもいいな。どうせ、お家がどうのこうのの逆恨みで、一矢(いっし)報いてやろうとでもいうんだろう? 問題は女──お前は何だ?」

「通りすがりのか弱い女の子だよ。お兄さん」

「ハッ! 冗談は顔だけにしろ」


 どう頑張っても怪しいその少女は、何処までも馬鹿にした笑みで闖入者(ちんにゅうしゃ)達を見つめている。


「主犯はこのおじさんで、私は本当に何の関係もないよ。おじさんは戦争がしたいらしいけれど」

「ほぉ?──いずれにしても、話は地下牢でたっぷり聞いてやる」

「おことわりィ──」


 続く言葉を待たずに、シェダルの手から、小さな鎌が放たれた。

 銀の軌道は、少女を切り裂きながら弧を描く。


 為す(すべ)もなく真っ二つに裂かれた人影は、ずるり、と()()ると霧散した。


 羽虫の霧が、輪郭を失いながら溶けてゆく。

 霧は(しばら)く飛び回ると、少し離れた場所に、再び少女の姿を形作った。


「馬ァ鹿」

『マスター! 伏せなさい!』


 真っ赤な瞳とかち合った瞬間──神器(ウィスタリア)の焦ったような声が響く。

 半ば反射的に頭を下げれば、少女の指先から発せられた衝撃波が、頭上を通り過ぎ、廊下の壁を破壊して消えた。


「テオ! (オトコ)魅せなさい!──かの者を助けよ(アウクリシア)!」

「おう任せな、一撃必殺!」

『行くのだわ!』


 爆音を契機に、反撃の時来たれり──とばかり。あっという間にテオドールが前へ出てゆく。

 彼の掲げる大剣が、エレノアの詠唱によって一層激しく、紅く燃え。姿を現したサラマンダーが、楽しげにくるりと宙を舞って。小さな火の粉が落とされた。


 少女とテオドールの(あいだ)。攻撃を阻む壁のように立ちはだかる虫を、熱が焼く。

 有機物の燃える、焦げた嫌な匂いが漂い、黒い煙が視界を狭める。

 虫はどこからか湧いて、キリがない。


「──龍の息吹よ(リフルト)


 追撃とばかりに、ジークの詠唱が爆風の鎌鼬(かまいたち)と化す。

 びりびりと空気を揺らす濃い魔力の気配に、シキミは思わず身震いした。


 素人でも感じる「凄さ」など、もはや「凄い」を超えた何かであることは間違いがなく。

 その人外じみた強さだけが、肌を伝って骨身に沁みる。


切り裂け(ハーケン)

「げ……ちょっと! オンナノコ相手に寄って集って、五対一は卑怯でしょう!?」


 上がる悲鳴に、顔色一つ変えることなく行使された攻撃魔法は、虫も煙も──壁すらも、何処か遠くへと消し飛ばしてしまった。

 大きくあいた壁の穴から、素知らぬ顔の月夜が窺う。


 椅子から転げ落ちた男は、()()うの(てい)で逃げ場を探す。


 そのすぐ側。

 地に伏せ、小さな切り傷を作りながらも。ゆるりと起き上がった少女の口元には、未だ余裕の消える気配はない。

 

「あはは、なんちゃってぇ〜。……でも、物凄ォい有利なわけじゃないからなぁ」


 ──ほぅら、責任取んなさいよね。


 足元を這いつくばる、貧相な男の目の前に、真っ赤な石が投げ付けられた。


「ひ……」

「おじさんの欲しがってた石だよ。たくさん()()()()


 男の、強張った頬がピクリと痙攣(けいれん)する。

 あ……とか、う……とか。音に成り損なった母音を垂れ流して、彼は()っと毒々しい赤を見つめ続けていた。


「い……厭だ……死にたく、ない。きいていない、こんな──」

「シツレイしちゃうな。死ぬって確定したわけじゃないよ。おじさんが適合者なら、魔族として一生暮らせるんだし」

「やめろ…………!」


 後ずさる男と、それを追い詰める少女。

 地面に落ちた──林檎のように紅い、親指ほどの石。


 何が起きるのかと──起きてしまうのかと、(いや)な予感ばかりが、シキミの頭でぐるぐると渦を巻く。


「──いいから持てよ」


 壁際まで獲物を追い詰めた捕食者は、まだ幼さの残る顔を、ぐっと男に近づけた。

 小さな手は、男の前髪を力強く握り。睦言(むつごと)でも囁かんばかりに瞳を覗き込むと──またどこからか取り出した赤い石を、男の口に()じ込む。


「ぐ……んむゥ……!」

「ほら、もっと怖がって、助かりたいって思わないと、立派な魔族さんになれませんよぉ」


 あの赤い石の輝きは──確かにエイデンの持っていたカフスのそれに似ていて。


『あれは厄介ですね。助かりたい──など、ほぼすべての生物が持つ生存本能ですよ。……本能で起動してしまうのであれば、逃れようもありません』

「怖いと思うと起動する……?」

『言葉を繋げて考える限りは……ですが』


 大抵、嫌な予感は当たるんですよ──と、堕天使(あくま)は小さく溜め息を()いた。


シキミちゃん、呆然。

戦闘シーンは楽しいんですが、難しいです。

漸く一章の終わりが見えてきた感じがするんですが……(ようやくかよ)


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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