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レベル1からやり直してこい!?  作者: 参星
呪われた宝石編
103/109

103.曰く、意外と原始的な方が良かったりするんです。


 冒険者ギルドへ、屍者(ししゃ)慟哭(どうこく)が詰まった袋を提出し、無事に依頼は達成された。

 ひとまず規定の金額がギルドから支払われ、シキミ達はギルドを後にする。

 追加報酬に関しては、後日依頼主からギルド経由で送られるらしい。


 通算、三袋と少し。

 少なくとも四百は超えるゾンビを、あの短時間で倒したのかと思えば、その討伐スピードたるや尋常のものではない。

 やはり人外の集まりとしか思えないのだが、その集団に混じっている己のことに関してはそっと目を瞑った。

 世の中、考えずとも良いことはたくさんある。



 ──それから、数日後。

 いつも通り、夕食を食べようと部屋から食事処に降りれば、既に集まっていた三人と、猫が一匹。


「おかえりなさい、シキミ。お仕事が入りましたよ」

「ただいま戻りました。あ、例の依頼主見つかったんですか!?」


 慌てて駆け寄れば、澄ました(シェダル)の目が、ランプに照らされきらりと光る。


「どう考えても敵の本丸ではないんだが、ボスにとっては都合のいい相手だ。叩き潰しに行く」

「ちょっと、ちょっと! 私達の事利用する気満々じゃない!?」


 エレノアの憤慨した声に、国の為だと思って付き合ってくれ、と猫が苦笑する。見事な芸当だ。


「都合がいいってことはやっぱり貴族か?」

「その通りなんだが……本丸でない以上、尻尾切りの様に魔物でもけしかけられてはたまらない。……ということで、保険だ」

「保険として足ると認識していただけたのは幸いですね」

「ジークさんポジティブですね!」

「シキミには負けます」


 さしたる緊張感もないまま、四人と一匹はそのまま疑惑の現場へ赴くことになった。


 シキミはといえば、敵本丸ではないと聞いて(いささ)か気が抜けている。……というよりも、このメンツで油断するなという方が難しいような気がする、とはシキミの談である。

 過剰戦力とも思えるような保険をかけるのが、そのまま敵の脅威に比例することにならなければいいと、彼女は静かに祈っていた。



 鳩ノ巣から再びスクロールを使用し、運ばれたのは貴族たちの暮らす屋敷が多い貴族街の一角。

 先導に任せ、揺れる尾についてゆけば。足を止めたのは、そこそこ大きな屋敷の裏手である。

 くるりとこちらを振り返って、シェダルは()()()と鳴いた。


「ベアルト子爵邸へようこそ。ここが匂いの示す場所だ」

「か……仮にもこの国の貴族が裏切りですか……?」

「まあ、さもありなんってトコだな」


 嬢ちゃんから見てこの国はどう見える? と(おもむろ)に尋ねられて、シキミは少し慌てた。正直、自分のことに忙しすぎて、国のことなど気にかけたこともなかったのだ。


「えっと……ぉ、……活気があっていい国ですよね……」

「合ってはいるな。……というか、コレを記憶のない嬢ちゃんに聞くのは、ちょっとばかし意地悪が過ぎたか」

「この国は、歴史こそ長いけれど……ここまで発展して活気づいたのは、つい最近のことなのよ」



 それまで、列強の影に甘んじ、毒にも薬にもならない小国だったアウルム王国は、現王レオンハルトの手に()って生まれ変わった。

 早くに親を失い、幼くして戴冠(たいかん)したレオンハルト──つまり、ヴィクトルの父親は、真っ先にこの国の貴族社会を変革した。


 旧態依然──血筋と、もう何百年前かわからない先祖の栄光をカサに着て、仕事をしない名ばかりの人間達をあの手この手で失脚させ、新進気鋭の人材を取り立てる。

 こうして煩わしい石頭な重荷を捨て、この国の目覚ましい発展は、他国の予想を超えるにまで至った。


 だが、こうした大きな波には、その分犠牲や、反発があるもので──。


 どうやらこの子爵は、その "旧態依然" の生き残りであるらしい。

 いくら覇王といえども、流石に一代では、数百年間こびりついていた汚れを落としきることはできなかったらしい、とシェダルは言う。


「俺たちの目的は、結局のところ。ボスに、できるだけまっさらな国を差し出したいだけなんだ」

「陛下も、内政だけに従事し、頭を悩ませるわけにはいかなくなってきてしまったのですね。故に、足元の掃除はおろそかになりがちである──と」

「あぁ。そのための俺達だ。ボスも、それがわかっているから俺達を使う」


 明るく、穏やかに見えて、この国を覆う暗雲は未だ暗く厚い。

 いつ晴れるとも知れぬそれを、露払いとして退けてゆく。


 ──これは、その一手(いって)なのだという。


「国家平定の為のお仕事ですか……。エッ、これ結構責任重大なのでは??」

「魔王が関わるかもしれないという話題まで出されておいて、責任が軽いとでも思っていたのか? お花畑か?」

「楽観主義です!」

「なお悪い」


 呆れたようなシェダルの声に押されるようにして。シキミ達は、そこそこ広大な敷地の中へと侵入する手筈を整えてゆく。


「これ、使うのは久しぶりなのですけれど」


 そう言って微笑むジークが空間収納から取り出した、鉤爪付きの太いロープに、シキミの頬が引き攣った。



もっとハイテクな装置が出てくると思ったシキミちゃんなのであった。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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