100.曰く、円卓の美形騎士団。
ジークの瞳が、ちらとシキミを見て微笑んだ。
──そうだった。彼らに協力すると決意して、お願いしたのは私だった。
視線で促され、もう一度膝をついたシキミは、思いついたままに返答の口上を述べる。
「先程は、その……失礼いたしました」
そう言って深々と頭を下げれば、ふん、と鼻を鳴らす音がする。
お前のせいだぞ! と思わなくもないが。まぁ、彼の敬愛するご主人様に苛立ちをぶつけてしまった己も、まったくの無実ではないなと思えば、堪えることも容易い。
加えて、何やらお怒りらしい神器達の声が飛び交っていれば、いつ出てくるものかとヒヤヒヤし通しで、腹を立てるどころの話ではなくなってきていた。
周囲が騒がしいと、自分は途端に冷静になるものだ。
「──お話、承りました。いずれ、魔王とも相対するかもしれないとのお話。白銀の糸もご助力いたします」
「ふふ、良い。顔を上げ、楽にしろ。先生に頭を下げさせ続けているのも、いささか心苦しい」
ややトーンの上がったその声に、恐る恐る顔を上げれば。王太子は、幾分か柔らかい雰囲気を纏っていた。
その隣で、相変わらず威嚇するような視線を飛ばしているのは犬の人──エティと呼ばれた彼である。
「エティ君もあまり変わっていませんね。……駄目ですよ、所構わず吠えたりしたら」
「う……うるさいな……!わ、わかって、ます!」
どうやらジークには頭が上がらない……というより、強く出られないらしく。やや伏目がちに、ついさっきまでの刺すような翠色は鳴りを潜めた。
なるほど強者に従うのは犬の本能か、とか。ジークさんは一体どこまで影響力があるんだ、とか。そうしたくだらない思考だけが、頭の中をぐるぐると回る。
シキミはもうこの展開に、八割ほど置いてけぼりを食らっていた。
「しっかし……『箱庭』に加えてカイユさんトコの坊主まで手の内か。……上手いこと転がされたな、リーダー」
「ジークが知らなかったなんて、本当に珍しいわ」
「皆さん黙っててごめんなさい。冒険者の依頼を受けられるのは、原則冒険者だけだから……」
「ちょっと意外でしたが、気にしてませんよ。……というよりも、これでは俺達の行動が筒抜けですね」
申し訳なさそうにする、ルイの言葉に返すジークの声は、嬉しそうな響きを持っていて。
それは、まるで弟子の成長を喜ぶ師のような──否、実際そうなのだろう。
「先生の教えの通り、使える人材を徹底的に取り込んだ。──どうも、貴方の好みが移ってしまったようだ」
「大変素晴らしい審美眼かと。……ふふ、謙遜すべきでしたね?」
「謙虚なフリをするのは貴方の悪い癖だな」
うふふ、あはは。
朗らかな笑いに包まれながら、繰り返される戯れあいのような言葉の駆け引き。
棘はないが、聞いているこちらは理由もなく肝を冷やしてしまう。
「しかし、上手くお隠れでしたね」
「貴方に教わった変装が功を奏した」
「市井に遊びに行くだけだと思っていたんですが」
「馬鹿を言え、貴方がそれだけの為に教えるわけがない」
「買い被りですよ」
「どうだかな」
まぁ、こんな所で長話をしていては始まらない、と立ち上がったヴィクトルが、シキミ達を別室へと誘う。
どうやら、師弟の確認作業は終束したらしい。
シキミはといえば、なんとなく、この国は安泰だろうなという思いでいっぱいだった。何があっても倒れない気がする。……というよりも、タダでは倒されないタイプだ。コレは。
案内された別室には、大きな円卓が用意されていた。
円卓とは「この場においては対等な立場である」と相手に示すのに丁度良い舞台装置である。
ヴィクトルの配慮と取るべきだろうか。
従えるつもりはない、あくまでも協力関係である──ということを言外に示すような、そんな気配りが見え隠れする。
人数分並べられた一脚に、示された通り座れば。なんだか自分も、かのアーサー王の配下の騎士になったような、不思議な気分が湧き上がる。
平等を謳う割に、おかしな話ではあるのだけれど。
先程よりも明るくなった室内で、見渡す限りに連なる美形の群れに、シキミは僅かに痛む頭を抱えた。この中に居座る己とは、場違いも甚だしいとすら思えてくる。──決して不細工なアバターではないというのに!
全員が腰を下ろしたところで、漸く本題が始まった。
「ところで、手土産があるとシェダルから聞いたのだが」
口火を切ったヴィクトルの、深藍の瞳が緩りと微笑む。
「えぇ、はい。……もう察していらっしゃるのでしょうけれど」
そう言ってジークが取り出した袋は、屍者の慟哭が詰め込まれているそれだった。
王太子の右隣を陣取るジークがそれを手渡せば、じゃらり、と石の擦れる音がする。
「これで何かの助けになるでしょうか?」
「──それは課題ですか? せんせい」
「さぁ、どうでしょう?」
挑戦的な笑みが、ヴィクトルの笑みを歪ませる。
そんな一連のやり取りに、ジークが「先生」だったらしい頃の二人の姿を見つけてしまって、シキミは静かに色々と察した。
彼の周囲にいた普通の人々は、どれだけ胃を痛めただろう。
ハンス──と、耳慣れぬ名前と共に立ち上がったのは『箱庭』の彼。
あの弑逆的な赤い瞳が、ちらりとシキミを捉えて弧を描く。
「アレを頼んでいいか」
「ハイハイ、仰せのままに。王子サマ」
あの時と同じバーテンダーの服で、王太子に歩み寄る姿とは、一見すればチグハグな絵面である。だがしかし、彼の纏う雰囲気が、その違和感を見事に消し去っていた。
暫く胸元をゴソゴソと漁ると、出てきたのは硝子の小瓶。
小洒落た貴婦人の香水瓶のような、透明なそれの蓋を開けると、彼はそれを、徐に袋へとぶちまけた。
初手からガンガンヘイトためまくってるエティ君ですが、そのうち彼も愉快な仲間と化すので「あ〜こいつどうなるんだろうな」ぐらいの気持ちで見守ってあげてください。
辛辣なわんこは性癖なんです。許してください(私を)
書いてて楽しいんです!!!辛辣なわんこが!!!すき!!!
あと魔王みたいな性格で地位のバリクソ高い男が仲間になるのメチャクチャ好きなんですけど性癖ですね
何はともあれ、いつの間にか100話到達しておりました。
ここまでお付き合いくださっている皆様、追いかけてくださっている皆様には感謝しかありません。
まだまだ続きますのでよろしくお願いします!!
ここまで読んでいただきありがとうございました。





