1.曰く、始まりは常に突然である。
初投稿ですお手柔らかに………。
勝手がわかってないので色々拙いとは思いますが……ちまちま頑張れたらなぁと思ってます!!
おはようございます。素敵な朝ですね。
ところでちょっとお尋ねしたいのですが、目が覚めたら知らない天井どころか、何もかも知らない物しか視界に入らなかった場合は、どうしたらいいんでしょう?
寝起きの覚醒しきらない頭で、ぼんやりとあたりを見回す。
この身を包むのは深い、深い緑。頭上を覆う木々はさわさわと囁いて揺れている。
目の前には、今まで見たこともない程の蒼い空が、木々の枝葉で、小さな円に切り取られていた。
白い雲が魚のように、悠々とその中を泳いでいる。
地面を覆う草花は、土も見えぬ程、芝生の如く群生していて……。どうやら私はそこに、大の字になって眠りこけていたらしい。
少し顔を動かせば、見たこともないような白い小さな花が私の頭で潰されていた。
──森だ。
どう考えても、ここは森だ。
第一印象はそう……ゲームにありがちな「スタート地点」。
いや、ここがゲームの中だなんて、そんなありきたりな夢は、あまり期待していないのだけれど。
……というよりも、期待も何もありえないんじゃない? とは私の心の声である。
日本にもそういった “いかにも” なスポットがないわけではないだろうし、この無残にも潰された白い花だって、私が知らないだけかもしれない。
見たこともない花が咲いていようが、聞き覚えのない鳥の声が木霊しようがあり得なくはない、ないったらないのである。
だって、私は目が覚めるまで自室のベットで穏やかに眠りについていたはずなのだもの。
さて、これは果たして夢か現実か。
ゆっくり立ち上がってみても、身体がふらつくこともなく、意識が暗転するでもないのだから、限りなく現実のような気がするのだけれど。
だいたい、常識的に考えて。こんな麗らかな森の奥で一人で放置されるいわれはないし、こんなに混乱させられる覚えも私にはない。
それより何より……どうも私には、どこで何をして生きていたのかという明確な記憶が無いらしい……ようで。
頭の中にあるのは、薄ぼんやりとした生活の痕跡と、断片的な日本という国の記憶。それから、たった一つ、執心していたゲームのこと。ただ、それだけ。
今すぐお家に帰りたい、ここはどこなの? 助けてママ! ──と、泣き叫んだっていいはずなのに。私にはそれができなかった。
「だって……戻るって、どこに?」
自嘲気味に笑ってみても、何も解決などしない。
そんなことを呟いたところで、私が家に戻りたいと思えるほどの何かを持ち合わせていないことに、変わりはないのだ。
いや、持ち合わせていない、というよりも──。
そこにあるのは、その記憶を仕舞い込んでいたフォルダが全て抹消されてしまったような、妙な喪失感だ。
ぽっかり空いた穴に、霧が詰まっているような。
嗚呼、無くしてしまった、と。
私は静かにそう思った。
「…………というか、ママって………顔も思い出せないし──誰?」
すう、と一つ。大きく息を吸えば草いきれが鼻腔を刺激する。
これは本物。──ほんもののにおい。
その中に立つ、作り物みたいな私は、一体なんのためにいるのだろう。
人間を構成するのは、過去であり、記憶であり、自分を自分だと認識すること……だと思うのだけれど。
──じゃあ、それがない私は?
酷く曖昧な自分という存在を自覚した途端、私はとてつもない不安に襲われた。
起き上がって、ゆっくりと視線を自分の身体へと落としてみる。
正直、自分という形ですら曖昧で。だから何かを目に入れて、ぼやけて滲む記憶と同じものだと確認したかったのだ。
腰の辺りまで伸びた亜麻色の長い髪の、左右の毛先を赤いリボンがまとめている。
リボンは……そう。氷女王の紡いだ糸を、鳳凰の血で染め上げて織ったものだ。
着ているのは、白く、清潔そうなシルク地のシャツ。
これもただのシルクではない。魔術糸──しかも、白龍の鱗の粉末が織り込められた、防御良し、耐性良し、汚れ知らずの良品。さらに魔力向上付与の優れもの。
合わせて、暗い蘇芳色の膝丈スカートも、金剛蝶の繭とオニグモのボスから、死に物狂いで採集した糸を織って作った──状態異常と魔術耐性に優れた逸品だったはず。
さらにこのスカートの中には、忍者かスパイであるといわんばかりに、大量の暗器がインベントリよろしく収納されていることを、私はよく知っている。
足元には火竜の革と朱雀の羽で作った赤いショートブーツ。火属性への耐性付与はもちろん、魔力を流せば短距離飛行も可能である。これを相棒に、一体幾つのダンジョンを巡ったことか。
どれもこれも、一般人には到底手に入れられない素材とレシピの結晶である、と胸を張って言えるものばかり。
見知らぬものに囲まれた中、唯一見知った──数々の装備品に気が付いて、少しばかりの安堵を得た私は、直後「これは夢である」と確信した。
だってこれは、ゲームの中の私の、生き写しの姿なんだから。
そうです。私、夕凪 楓は、とあるゲームのメインアバターの装備で迷子になりました。
──思考の放棄を許可願いたく。