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モーガンは60代くらいの話やすい感じのオジサンで、ギュンターの古くからの知り合いだそうだ。社員ではないが毎日のように会社に顔を出していて、ブラケットによれば「不可思議倶楽部」の広告は、大手広告代理店経由のものも含め、モーガンが一手に取り仕切っているということだった。
「ギュンター氏から聞きましたよ。もらったのが30万ビットで、封筒にあるのが25万ビット。ただ、あなたの取り分は30万の2割で6万ですから、もう1万、あなたの収入になるってことですね」
喫茶店で封筒を手にしたモーガンは、そう言うとマントルを見て、ニヤリと笑った。
「でも、やはり心配なんですよ。問題のある教団を紹介していいんでしょうか・・・」
マントルが言うと、モーガンはその封筒をカバンに入れ、
「あなたは知らないんですね。この話は、教団が記事で紹介してほしいとか、そんな単純な話ではないんですよ」
マントルにはモーガンの言っていることが分からなかった。が、
「でも、宗教は怖いですね。私も教団で、守護霊が高級霊だとか言われ、半信半疑ですが、そうなのかな、って思ってしまいました」
と、独り言のようにつぶやくと、
「マントルさん。あなた、本当に霊に高級、低級なんて、あるとお思いですか?」
と言って、モーガンはマントルを見つめた。
「人間だって、自分が高級だなんて言ってる奴に、ロクな奴はいません。社会的な身分が高い奴だって平気でウソをつく。そんな人間が死んでなるのが霊なんですから、霊に身分があるわけない」
モーガンの言葉は明解だった。だがマントルには、モーガンにしろ、ギュンターにしろ、宗教関係の雑誌に関わる人間として見れば、その言葉は意外に思えた。
「マントルさん、若いあなたには分からないかもしれませんが、ギュンター氏は、パンゲア生まれなんですよ。私は、その後の短命のロディニア王時代の生まれですから偉そうなことは言えませんが、今のゴンドワナ時代の初期に生まれた、先の戦争に被害者意識しか持てない、言ってみれば戦争孤児たちとは根本が違います。彼が宗教に関わるのは、宗教が好きだからじゃなく、むしろ、2度と宗教とか正義をのさばらせないため、私は、そう思っています」
その後、
「広告の方は、すべて私がやりますので、あなたは、しっかりとした記事を書いてください」
と言って、モーガンは喫茶店を出て行った。その時は、残りの1万ビットはもらえなかった。どうやら後日のようだ。