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車の中で、マントルは考えに考え、1つの結論を得た。
「クビになっても仕方がない。トランスフォーム教団の記事だけは中止しよう。でも、そのためにはお金を返さないといけない。5万円はギュンター社長に借りるしかない」
マントルは車を降り、会社へと向かった。
午前中はいなかった社長は、マントルがいない間に戻っていた。社長室でギュンターを前にすると、マントルはひざまづいた。
「社長、私は大変なことをしてしまいました」
マントルはギュンターに封筒を差し出した。
「この前の取材の時、私は取材先からお金をもらい、その中から5万ビットを使ってしまいました」
ギュンターは困った感じで首を曲げ、封筒を見つめた。
「その上、後で、知ったのですが、その取材先は、社会問題になっている宗教団体でして、そんなところを掲載したら大変です。だから、もらったお金をそのまま、返すべきだと思うのですが・・・」
そう言うと突然、ギュンターの表情が変わった。
「何だね、それは?安っぽい正義感かね?それとも君は、先方からお金をもらって、提灯記事でも書いたのかね?」
マントルは驚いて答えた。
「いえ、違います。私は事実を事実として書いただけです」
ギュンターは立ち上がった。
「事実を事実として書いた?なら、よろしい。今、この国には、それができない輩が多いんだ。みんながみんな、事実を捻じ曲げても、主義主張、正義を通そうとする。それがすべての不幸の原因だってことを、誰も分かっていない」。
それはマントルが初めて見る激昂したギュンターだった。
「宗教も政治も含め、この世界は今も正義であふれている。でも、その正義は誰が決めるのかね。戦前、君のお爺さんプルーム氏は、罪もないのに、国家によって刑務所に入れられた。それだけじゃない。大勢の人が国家の語る正義の犠牲になったが、それが正義かね?国家にすら正義などないのに、どこに正義があるのかね」
マントルはひざまづいたまま、動くことができない。
「君のもらったお金は、広告費として処理するよ。記事も掲載する。君の取り分は、広告費の2割だ。いいね。そして、君にもし守るべき正義が1つあるとしたら、私にウソをつかないことだ」
ギュンターは広告に関しては、広告代理店のモーガンと打ち合わせをするようにと言い、封筒をマントルに差し戻した。社長室から出て、マントルがすぐにモーガンに電話をすると、次の日の午前中に、近くの喫茶店で会うことが決まった。
本当に記事を掲載していいのか、マントルには分からなかった。