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会社での打ち合わせの後、マントルはランコーンを会社近くのビジネスホテルのレストランに誘った。そこは以前にギュンターと訪れた場所で、バイキング形式のランチは、いろいろな料理を好きなだけ食べることができる。2人共、山盛りの皿を何枚か載せたお盆を抱えて、空いている座席に腰を下ろした。
ランコーンはマントルより2つ歳下で、写真の専門学校を卒業して、そのままジンドラーの助手になり2年ほどだ。
「俺、心配なんすよ。10年後にカメラマンって存在しますかね?」
その声に、マントルが唐揚げを口に入れながら顔を向けると、
「今、露出の勉強してるんですけど、正直、自動で撮ってもキレイなんですよ。もっと技術が進歩したら、写真なんて誰でも撮れるようになるじゃないかな。それと比べるとライターはいいですね」
マントルは慌てて唐揚げを飲みこんだ。
「ちょっと待て。文章こそ誰だって書けるじゃないか」
「そりゃー、そうですけど」。
マントルは彼が、運転したり、機材運びをしたり、怒鳴られたりする姿は見るが、撮影しているのを見たことがない。そこで、
「まあ、人にはみんな守護霊というのがついてるそうだから、それを信じで気楽にやればいいさ」
と慰めると、
「キュリーみたいなこと、言いますね」
ランコーンの反応は意外だった。
「同級生の女の子なんですが、変な宗教にハマってしまって、家に無断で借金は作るわ、友人や親戚に高額のツボを売りつけるやらで、裁判沙汰の大騒ぎになってるんですよ」
そう言うとランコーンは、
「コーヒー、取って来ますよ。マントルさんも飲みます?」
と席を立つ。マントルが「うん」と首を振ると、ランコーンは席を離れ、しばらくしてお盆にコーヒーを2つ載せて戻って来た。マントルはランコーンが席に座ると同時に、質問を向けた。
「そんなこともあるんだ。・・・ちなみに、何と言う組織?」
ランコーンは少し声を低くして答えた。
「どこって、霊感商法とかで週刊誌にも載ってるとこですよ。・・・確か、トランスフォーム教団だったかな・・・」
その瞬間、マントルはカップを落としそうになった。
ランコーンと別れたマントルは、人目を避けるように、駐車場に行き車に乗り込むと、膝の上にカバンを置き、封筒の1万ビット札の数を数え始める。・・・3度数えても、それは25枚だった。
「ハハハ、もう終わりだよ」
マントルは車の中でバカみたいに笑い出した。