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30万ビットは、マントルの先月の収入の2倍以上の金額だった。マントルはお金を返すことも考えたが、高級霊の導きでもらったお金を返すのも気が引けるし、何より家にいるイスアのことを思うと、お金を返す気にもなれなかった。かと言って、30万ビットの大金をそのままイスアに渡す理由も思いつかない。
家に帰ったマントルは、パソコンに向かって仕事を始めた。パソコンは会社から支給されたものだ。夕食が終わると、クリープの世話で夜昼ない生活をしていたイスアは、すぐに横になった。
マントルは翌朝、イスアに、1万ビット札4枚を差し出した。
「これ、臨時収入。この前買った宝くじで当たったんだ」
すると、イスアは目を丸くして、それを受け取った。
「ある人によると、僕には高級霊がついてるそうだよ」
とマントルが言うと、
「高級霊にしては微妙な金額ね」
とイスアは笑った。
お昼近くになって、マントルがふと見ると、イスアがベビーカーを押して出かけようとしている。
「ちょっと薬屋さんとか行って来るね」
マントルが、
「臨時収入があったんだ。今日は派手に、ピザ&ワインでどう?」
と声をかけると、
「じゃ、そうしようか」
と微笑み、イスアは出かけて行った。午後になって、イスアは手に買い物袋を下げて帰って来た。イスアがアントルに差し出したのは、発売したばかりのコンピュータゲーム機だった。
「クリープが外に出たいって言うけど、当分、出張はないの?」
「今回の締切が終わったら、また、あると思うけど・・・」
「じゃ、それまでゲームでもして、時間潰そっかな」
ゲーム機は少し前からマントルの方がほしがっていたものだった。マントルは、イスアにはとても敵わないなと思った。
しばらくして、電話が来た。カメラマン助手ランコーンからの電話だった。「不可思議倶楽部」は最初の数ページがカラー印刷になっていて、そこのページだけはカメラマンのジンドラーに依頼している。ランコーンは彼の助手で、次号の写真についての打ち合わせをしたい、という内容だった。
マントルは、考えもせず、
「じゃ、明日、お昼頃でどう?たまにはランチでも、おごるよ」
と言って、慌ててイスアを見たが、イスアはクリープと夢中で遊んでいるようだった。その夜は、ピザ&ワイン、そしてゲームで、いつもにも増して賑やかに暮れて行った。