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マントルが打ち合わせのために出社し、デザイナーのブラケットと話している時、電話が入った。「社長の代わりに出てください」と言われ、マントルが電話に出ると、それは「トランスフォーム教団」という所からの、取材申し込みだった。翌日、マントルはピルパラ郊外にある、豪奢な教団本部に訪れることになった。
「我が教団は、およそ30年前、白亜国の隣ベルム国において、教祖に神が降臨されたことにより始まりました。その日以来、教祖は数々の啓示を世に示しています。啓示によれば、人類には破滅の時が、刻一刻と近づいています。私は1人でも多くの白亜国民の救済ためにお力をお借りできればと、お電話をさせていただきました」
目の前にある、ほとんど白一色の巨大な祭壇に圧倒されつつ、マントルは今一度、先ほどもらった名刺を確かめた。そこには「白亜国総支部長、アーヴィング」と書かれていた。
「念のために言いますが、こちらの活動の紹介はできますが、宣伝はできません。それでもよろしいですか?」
そう言うと、アーヴィングは顔に満面の笑みを浮かべた。
「マントルさん、あなたは分かっていらしゃらないようですね。この世に偶然などありません。あなたが本日、ここにいらしたのも、高級霊によるお導きなのですよ」
マントルはきょとんとした表情を浮かべるが、話は続く。
「来るべき終末、この世で魂の成長を成し得なかった者は、浄化され消滅してしまいます。そして、それを救えるのは、これまでの輪廻転生で磨き上げた魂の持ち主のみ、ほんの限られた人々です。マントルさん、実はあなたも、そのお一人なのですよ。教団に属しているいないは関係ありません」
そう言うとアーヴィングは、数多くの資料をマントルに提示した。どうやら今回の取材のメインは、ベリアシアン山の山麓に、もうすぐ教団の大規模な礼拝堂が建設される、という事のようだ。
「終末の時が近づくにつれ、地球全体の波動が上昇しつつあります。私どもは、その波動を集結させ、白亜国を救済する拠点が、聖地ベリアシアン山にあると考えています」
マントルには、だんだんアーヴィングの言葉そのものが、神の啓示のようにも思えて来た。
「あなたの守護霊に、パルスとおっしゃる高級霊がいらして、あなたを常に導いておられます。心に留めてください」
マントルはたくさんの資料を受け取り、教団を後にした。資料は大きな封筒にひとまとめにされ、マントルに手渡されたのだが、その時、別に小さめの分厚い封筒も渡された。帰りの車の中で何気なくマントルが封筒の中身を見ると、それはお金だった。車を停めて中身を確かめると、それは1万ビット札30枚の大金だった。