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一匹狼は理不尽な世界と踊る  作者: 明月
一匹狼は森を駆ける
8/8

一匹狼、混乱の坩堝へ



――さて、この状況をどうしようか?


俺の……大きな「狼」の姿を見たのだから普通は逃げるだろうと思ったのだが、何故か向こうにいる「女性」は動こうともしない。恐怖で固まってしまっているというのであれば、あんな呆れた顔なんて絶対にしないだろう。


俺から見てもあの女性は"美人"だ。だからこそ、こんな場所にいるのがおかしいと言える。鍛えている男なら、狩人として生活しているような人間ならこの場所にいて他の生物を狩っていると考える事もできる。だがあれは間違いなく「女性」だ。



それに、絶対におかしいことがある。それが何かと言えば……


ここは湖だし、俺が泳げるほどの深さがある。俺の大きな体でも四肢が海底に届かないほどの深さなのに、どうしてあの人はそこに立っていられる(・・・・・・・)んだ? その時点でもうおかしいのに、その女性は月の光とは言い難い"輝き"を放っているようにみえる。よくよく観察してみると――



――女性自身が輝いていることに気付いた。


さすがに、それに気付いて驚かずにはいられなかった。水に浸かりながら口が空いてしまったため口内に冷たい水が一気に流れ込み、そこでやっと冷静さを取り戻す。


とりあえず女性を視界に入れながら、岸へと上がることにしよう。視界に捉えておけば何かあっても行動ができるだろうし、今はこれが精一杯だ。水の中にいては狼の体は何の役にも立たないだろう。


出来る限り急いで岸に登り、体を震わせて水を飛ばす。水が毛皮に着いたままだと動きが遅くなり、襲われた場合に不利になる……と懸念しての行動だったが、どうやらあっちに攻撃の意志はないようだ


その代わり何かブツブツとつぶやいているように見える。少しして考えがまとまったのか、一度頷くと俺の方へゆっくりと向かってくる。ただ、その様子は「歩いてくる」のではなく、まるで……いや、確実に「水面を滑る」ようにして向かってきていた。



――こんな状況は予想していなかった。


俺が飛びかかれば届いてしまう距離、女性はすでにそこまで近づいている。そこまで来て女性は「……さて」と呟き、俺と目を合わせてきた。俺にはこの女性が何を考えているのか全くわからない。きっと混乱が顔にも現れてるんじゃないか?


それに、何で俺は女性が「さて」と言ったことを認識(・・)できたんだ? 狼の体になったのだから言葉が通じないことは覚悟していたが、今はっきりと言葉が理解できたしもしかすると言語能力はそのままなのか? 俺が話せないだけで理解は出来るのか?


と、混乱の坩堝に叩き込まれた俺を見るや、彼女は何故か俺から目を離す。


そして女性はゆっくりと体を動かし――完全に俺へ背を向けた(・・・・・)



本当に、全くもって意味がわからない。コイツは今まさに狼に背を向けているんだぞ? 自殺行為にも程があるだろう。もし俺ではなく別の危険生物だったら真っ先に飛びつかれて終わりじゃないか。これじゃあ、今度は俺が呆れた顔になって女性を見る番だな。


――思わず「ハァ?」と言ってしまったくらいだ。


まぁ言葉にはならず「グルゥ?」みたいなマヌケな声が出ただけだ。

だが、それを聞いたのであろうか、女性の体に突然変化が現れる。


変化……と言うのは生ぬるいかもしれないな。なにせ、女性が水面に泡となって消えた(・・・・・・・・)のだから。本当に、それは一瞬のことだった。それと同時に俺の後ろから(・・・・)声がかかる。



「――さぁ、知性もあるようだし対話と行きましょう」



うおっ、いつの間に後ろへ来たんだコイツは?!


耳も、鼻もかなりいいはずなのに近づいていることが全くわからなかった。それだけじゃない、さっきまで目の前にいたはずのアレはどこに消えたんだ?!


「ふむ? かなり混乱しているようですが、大丈夫ですか?」

「お前一体何者だ? それに、さっき消えた姿は一体? それに何故言葉が――」

「"お前"とは随分な物言いですね。まぁ私は寛容ですから許しましょう」



彼女は今、無表情だ。それがたまらなく怖く感じる。

もし彼女が寛容でなかったらどうなったのだろうか? 考えたくもないな。



「私はこの湖に宿る精霊であり、水を司る者。名を『ヴァサス』と申します」

「水の……精霊?」

「さっき消えたのは私の"分体"。言語理解は"精霊であるから"可能なだけです」

「精霊であるから可能……だって?」


「まぁ、時間は今から幾らでも取れますし、そう急くことはありません。

 色々と話すことはありそうですが、それより先にこれだけ言っておきます――」



ヴァサスが両手を広げ、俺へ向かって笑顔を見せる。ただ、その顔に浮かぶのは純粋な笑顔ではない。そこに……笑顔の裏に混じるのは憐憫の情。


彼女は月を仰ぎ――



「――ようこそ、新しい世界へ。赤月に導かれし迷い人よ!」


ここまでお読み頂きありがとうございます。

主人公のセリフの書き方を迷ったのですが……とりあえず普通に書きます。

これから先の展開では、認識できない場合「……? ……!!」のように三点リーダで伏せる形にしたいと思います

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