一匹狼の独白
俺の名は「風巻一狼」。
しがない会社員で、独身。周りからは――
――『一匹狼』
そう、呼ばれている。昔からのことで、別に否定するつもりもないし、それ自体嫌だと思ったことも一人で居ることで被った被害も殆ど無い。己にとって一人でいることはむしろ得だとすら考える人間の一人だ。
「人間」というものは常に群れたがる生き物だと、俺はつくづく思う。いくら少数であろうと「グループ」を作って行動することが基本、学業においても初期から「仲良しごっこ」が好きで、教育により「集団」を作ろうとしている。
……確かに「協調性」を重んじるのは良いことだ。
それだけなら俺も納得できるし、統率する側からも楽になるから願ったり叶ったりだろう。だが、そこで発生する「連帯責任」という物が本当に気に入らない。それが納得いかなくて、結局「協調性を欠く」と判断された事もあった。
俺だって昔は仲良しごっこをしていたこともある。まぁ、打算込みでの関係でもそれはそれで楽しかったとは思っているが、すぐにそれも終わることになった。原因となったのは結局のところ連帯責任とかいう"理不尽"のせいだ。
――小さい頃、つるんでた集団が馬鹿やらかして大怪我をした。
俺が「止めたほうが良いのでは」と何度も提案したのに聞き入れずそのざまだ。俺は勿論保護者とかにその馬鹿を止めた旨を言ったし、俺に非がないことも明らかだったはずだ。そのことを懇切丁寧に説明したことをよく覚えているよ。
だが、俺がその中で大人しい人間だったこともあるのだろう。
きっと、他の人間が手を付けられない気性だったのだろう。
相手の親が何らかの力を持っていて、上の人間も強く言えなかったのだろう。
そのせいで俺ばかりにしわ寄せが来た。
「君がもっと強く言っておけば――」
「お宅が止めればうちの息子は――」
「君にも『責任』があるのだよ――」
「問題を起こしたのは当人の問題でもあります――」
「今回のことは『連帯責任』ということに――」
……ふざけるな、何が『連帯責任』だ。
俺は連帯責任だと決めたことについて、責任者に勿論異議を申し立てたさ。どうしても納得いかなくて真意を問おうと。そうしたらそいつはなんて言ったと思う? 俺は愕然としたね。
――止められなかったのは事実。君が"我慢"すれば丸く収まるんだ
力を持つ者同士の軋轢を生まないために、集団というものを保つために、己の体面を保つために。俺がそのことについて「我慢」すれば、諦めて折れれば良い、そう言ったんだ。だから……俺は必要以上に他者へ干渉することを止めた。全て馬鹿らしく思えたんだ。
まぁ……結局のところ、俺が気に入らないことは"理不尽"なんだ。人と関わることで被る理不尽が気に入らない。本来受ける必要のない叱責が嫌い。他人の思惑に巻き込まれることで被る不利益が嫌い。そういうわけだ
あれからというものの、基本一人で過ごすことになった俺にはいろんな声が聞えるようになった。別に霊的なものとかそんなのではない。周りにいる「集団」に属している人間からの声だ。
曰く、お前は協調性がない。
――違うな、わざわざ付き合う必要性を感じないだけだ。
曰く、なんだか近寄りがたい男。
――それは結構。俺もわざわざ近寄る必要性を感じないね。
曰く、周りに人が寄り付かない悲しい男。
――悲しい? それはとんだ間違いだ、俺は清々しい気分だ。
曰く、空気が読めない男。
――読めない? 安易に集合へと迎合する輩と別の視点なだけだ。
……まぁ、ざっとこんなもんだ。
別に俺とて全ての人間を嫌っているわけではない。俺が嫌いなのは"集団でないと何も出来ない弱い人間"だ。事実、俺にも友人がいたしそいつらは「自立」できていると俺は思うよ。
そうだな、日本に蔓延る「同調圧力」みたいなものを跳ね返せるような人間。心に一本芯が通っていて、自分の意見を曲げることがない人。周りから、集団から見たら「おかしい」と思われるような人間が俺の友になっていた。
皆が皆、自分だけで完結できる人達。馴れ合いのような「集団」に属さずとも生きていけるような強い人間でありたい、そう思う人達――その中に俺は居た。まぁ、今じゃ皆バラバラになって音沙汰なしばかりだが。
そういう訳で、結局のところ俺は今も「一匹狼」のままだ。職場でも最低限の干渉だけで済ませている。周りからの評価は「仕事はできるが近寄りがたい」だったか? まぁ俺にとってはまさに理想的かもしれないな。
――さて、俺に対して与えられた仕事は全て完遂した。
今日の仕事はこれで終わりだしさっさと引き上げることにしよう。形式上、同僚やまだ残って仕事をする人達に挨拶はしたが……反応は無し、か。くだらない事を思い出していたせいもあってか、何だか疲れてしまった。
そうだな、明日も理不尽に巻き込まれないことを祈ってゆっくり休もう。風呂にゆっくりと浸かって、思い出してしまった嫌なことも流してしまおう。さぁ、自宅に向かって重い足を運べ!
……それにしても今日は、寒い。
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