入学編7
翌日、ヨシキは朝の四時に家を出た。
最近、学校のほうが忙しくてあまりできていなかった鍛錬をするためである。そのために、彼は近くにある、あるビルの地下室へと向かっていた。
ヨシキは、あらかじめ与えられていたカードキーでそのビルのセキュリティーを抜ける。そして、魔術により隠蔽されている階段で地下にくだった。
「どうもです」
ヨシキは、階段を百段ほど下りて、現れた大きな鉄製の扉を片手で開けて、中に入る。そこには、数名の人物がすでに準備運動をしていた。
「あら、今日は来たのね」
「はい、大分と落ち着いてきたので」
ヨシキは、その中の一人の女性に話しかけられる。その女性は背がヨシキと同じくらいあり黒髪の長髪を後ろで束ねて、すでにバトルスーツに着替えていた。
ヨシキはその女性に近づき。横で準備運動を軽くする。といっても、ここまで走ってきたので、準備運動という点では十分だ。
そして、上着を脱いで部屋の端に置いた。
ヨシキは部屋を見渡す。
部屋の大きさは小さな体育館くらいの大きさであり、色彩は白がメイン。そのために、天井に埋め込み式で付けられている明かりが部屋全体に反射しているような印象だ。ものは何も置かれていなく簡素な雰囲気を放っている。
「バトルスーツ、着てきたのね」
「え? あ、はい。着替えるのが面倒だったので」
入り口と反対方向に二つのドアがある。そこは男子と女子の更衣室があり。入り口から見て右が男子、左が女子だ。
「不潔ね」
「え?」
ヨシキは思いもよらぬ言葉に思わず聞き返す。聞こえていなかったわけではないのだ。
「だから、不潔ね。今日はあなたと組み合いたくないわ」
「あはは、手厳しいですね」
現在ヨシキが話している人物、彼女の名前は水守 亜紀。警察官である。年は確か今年で27だったと記憶している。つまり、ヨシキよりも一回りは上だ。
「今日は全員で六人ですか?」
ヨシキは周りの人数を数えて聞く。
「今、隊長と副隊長が着替えてるわ。あの二人は不潔じゃない」
「・・・・・そうですね」
亜紀はかなりの潔癖症である。だから、今でも手にはゴム手袋、足には分厚い靴下を履いている。この部屋に入るときには靴は脱いでいる。
ヨシキが今から何をしようかというと、それは、この部屋に集まった人たちとの組み手である。それを五時から七時までの二時間、休まることなく行う。
そして、その相手はみな警察官か軍人、または表には発表できないような職種を人たちである。
どうして、一介の高校生であるヨシキがこのような場所に顔を出すことができるのかというと、彼もその内の一人だからだ。
「あ、出てきたわ」
亜紀のその言葉で、ヨシキは男子更衣室から出てくる二人組みをみた。
一人はバトルスーツの上から隆々とした筋肉が確認ができる大柄の男性、この場所の主催者の一人で名を岩崖 猛。そして、その後ろにいるヨシキよりも小柄な人物、彼もこの主催者の一人で名を又吉 守だ。
「おし、みんなそろってるか?」
守るが首をぽきぽきと鳴らしながら、部屋の中央に止まる。
それを見計らったようにして、それまでばらばらで動いていた全員がその前に綺麗に整列した。ヨシキも例外ではない。
「よし、では、これからまずは乱組み手を行う。そうだな、時間は30分と行こうか。もちろん、残り5分で俺たち二人も参加する」
その言葉に整列している六人が全員のどを鳴らす。
「よし、はじめ!」
その合図で、全員が身近にいる人物に攻撃を仕掛け始める。
乱組み手、それは読んで字のごとくである。部屋にいるすべての人間と組み手を行ってもいい。つまり、全員が敵でありその場の状況によっては味方にもなるというものだ。
これは本格的な遭遇線を想定したもので、過酷きわまるものである。しかも、制限時間が来るまでは永遠と誰かと組み手を行わないといけなく。しかも、相手が二人にも三人にもなる場合がある。そして、脱落というものもない。疲れて、動けなくなればまわりから徹底的に攻撃を受けることになるのだ。体力と技術、状況把握能力など多岐にわたる能力が必要とされる。
ヨシキはまず。横にいる亜紀と組み手をしようとする。が、
「不潔とは組みたくないって言ったでしょ?」
といわれて、逃げられてしまった。今日は六人だ。だから、まずは最初2、2、2、にわかれることになる。だが、亜紀は別のところに乱入していってしまった。
ヨシキは彼女を追ってもよかったのだが、不潔と何回も言われたのであきらめて、目の前で組み手をしている二人に割って入る。
まずは、こちらに背を向けている人物に向かって、後ろからの不意のとび蹴りをかます。
「うわ! って、お前か! ヨシキ」
「背中ががら空きですよ。重さん」
ヨシキが最初に攻撃を加えた人物は、重村 源蔵。大和陸軍の一人で階級は大尉である。なかなかの大物だ。その証拠にヨシキの不意をついたとび蹴りは、当たる寸前に体を捻られてほとんどダメージを与えられなかった。
「この若造が!」
源蔵が、ヨシキに一瞬で詰め寄る。そしてヨシキの顔面に手刀で空気を切り裂きながら放ってくる。それをヨシキは相手の手首を左手でつかむことによって防ぎ、右手を相手のわき腹に差し込み、そのまま足を掛けて体重を相手に預ける。そうすることによって、源蔵の体がヨシキを上にして地面に倒れこみそうになる。
だが、源蔵は空いている左腕をヨシキの首に巻きつけて、ホールドして手前に引く。それによって、源蔵に掛けていた足が離れて源蔵が倒れる寸前に体勢を整える。
「やるな」
「どうもです」
二人はいったん離れる。
ヨシキは危機を察知して腕をわき腹に構えた。すると、そこに後ろからけりが入る。
「俺のことも忘れてもらっちゃこまるね」
ヨシキに後ろからけりを放ってきた人物は、先ほどまで源蔵と組み手をしていた人物、荒谷 宋多、彼も陸軍に所属する軍人である。確か階級は少尉だったはずだ。
「忘れてませんよ」
ヨシキは微笑み。回転して宋多に延髄蹴りを放つ。
久しぶりの更新です。
遅くなって申し訳ありません!