入学編5
「何が起きたんだ?」
「普通に最後は蹴りを入れただけでしょう。そんなこともわからないの?」
「かなり早かったですよね。」
「いや、それはわかるわ。なんで、蹴りを入れることができたのかったことだよ! 曽我のほうは、防御系の魔術を展開してただろう? しかも、何個も。」
「いやあ、それは私にも詳しくはわからないわ。魔術を無効化するものでも展開してたんじゃない?」
「お前、それができたら、みんな苦労してねえだろうよ。もし、ヨシキがそれを実行していたとしたら、お前、あいつのところに魔術系の記者だけじゃなくて、国の人間、下手したら外国からも人がこぞって来ることになるぞ。」
「冗談よ。多分、単純に防御系の魔術を超える攻撃力があったんじゃないかな。それと、トラップ系の魔術が反応できないくらいの高速で攻撃を加えた。」
「私もサユリちゃんに同意見です。特に難しいことはしていないと思います。」
ヤン、サユリ、美由紀の前では、ヨシキの模擬戦がたった一分もかからないうちに決着を迎えていた。
勝者は、ヨシキ。
ヨシキは、まず、俊介の最初の攻撃を高速でかわし、背後に回り、人蹴り。そして、その後は天井に避難して天井の鉄骨にぶら下がり、相手の視界から消える。それから、また背後に回り、今度は回し蹴りを背後から高速で決めて、俊介のバトルスーツのダメージ限界が来て、ヨシキが勝利した。
戦いは極単純であるが、その戦いを見たものはヨシキのすごさを感じたに違いない。
「大丈夫か?」
「ああ、君の蹴りはすさまじいね。」
地面にて、少しの間気を失っていた俊介を、ヨシキが手を貸して立たせる。
「そんなことないよ。あの防御系の魔術の数は恐れ入った。」
「はは、発動する前に通り過ぎられたり、防御の意味なく攻撃をしれられたら元も子もないけどね。」
俊介に、もうヨシキに対する怒りはなかった。
彼の言に、おごりや周りの人間に対する嘲笑はなかった。
そして、対峙した人間のみがわかる彼の、本当の実力、周りのものは、彼の動きが全体を見ているので捕らえることができるが、俊介は最初しか視界に捉えることができなかった。これは脅威である。
しかも、俊介の全力の防御を軽く破る攻撃、すべてが超一級だ。
「完敗だよ。」
「俺も、いい刺激になった。ありがとう。」
2人は、そこでガッと、固い握手をした。
「曽我さん!」
演習場の戦闘エリアに、俊介が連れていた二人組みが入ってくる。
「やあ、二人とも」
「大丈夫ですか? 曽我さんが負けるなんて、絶対こいつ何か反則をしていたに違いありません! 今すぐ、この試合の取り消しをしましょう!」
「いや、これは僕の力不足だよ。ヨシキ君は、実力者だよ」
「そんな・・・。」
「不正はない」
そのとき、審判をしていた諏訪部が発言する。
「この俺が言うんだ。それを、お前らは疑うというのか?」
「い・・・いえ」
「滅相もないです」
諏訪部の圧に二人は大人しくなる。
それを見て、俊介はやれやれといった顔をする。
「それじゃ、ヨシキ君、これからはお互いを高めるライバルとしてよろしく頼むよ。といっても、今の僕じゃ君のライバルにはなり得ない気はしなくもないけどね。一応、僕も世界魔術大会の出場を狙っている身だからさ」
「そうなのか」
「うん。それじゃ、また・・・。」
俊介は、そういうと、二人を連れて、演習場を出ていく。
ヨシキは、彼に対する評価が変わった。最初は、成績稼ぎをするような人間だと、思っていたが、もしかしたら、それは勘違いだったのかもしれない。何か別の意図があったような気がしていた。
「やったな!」
「流石じゃない」
「私、、びっくりしました。あれほどの戦闘は始めてみます」
ヨシキの背中が次々と、叩かれていく。
「少し、疲れたよ。流石、名門曽我家の人間だ。こっちも気を抜くようなことはできなかった。」
「あんだけ、圧倒しといて、よく言えるな」
ヤンが頭をわしゃわしゃとしてくる。
「やめろよ」
照れくさそうにヨシキが手で払う。
「それにしても、何なのよ。あれは、言っちゃなんだけど、2過程の人間の力量だとは思えなかったわ。」
「まあ、俺は少し特殊だからな。とりあえず、そこんところは後でね。ちょっと、シャワーでも浴びて、着替えてくるよ」
「こりゃ、ダークホースが現れたな」
二階席から、三人の人間がヨシキと俊介の戦闘を見ていた。彼らは、模擬戦が行われると聞いて、今回の新入生がどれほどれほどのものか、確認しに来ていた。
「そうね。まさか、入試成績三位の曽我君を、あんなあっさり倒す生徒がいたなんてね。あの子の入試成績はどう?」
そういわれて、タブレットを持った幼そうな容姿の生徒がタブレットを操作して確かめる。
「下から数えて・・・・三番目ですね。特殊入学の3人の中の一人です」
「ふーん」
この三人の中で一番の長である雰囲気の人物が微笑む。彼女はこの中で一番、色っぽく、美しいという表現が似合う。
「彼を自治会に入れてみてはどうかしら? 特殊入学というなら、彼女と同じでしょう?」
「そうだな。おもしろいかもしれない。それなら、うちにくれないか? 彼の戦闘力があれば十分活躍できると思うぞ」
この人物は、長身で、一見細身に見えるが、そのラインは十分に女性らしさをかもし出していた。
「いいわね。それじゃ、彼を自治会の強行班に任命します。のんちゃんよろしくね」
「承知しました、会長」
のんちゃんと言われた女性は、その容姿に似合わないきびきびとした対応を見せる。
「これから、面白くなりそうね」
「ふー」
ヨシキは、演習室に備えつけられているシャワールームにて、体の汗を流していた。
先ほどの模擬戦、一見、ヨシキの圧倒に見えるが、そんな簡単なものではなかった。しかし、これはヨシキだけが感じたものであり、相手の曽我にも、もちろん、審判の諏訪部にもわかっていないものであった。
最初の初動、ヨシキが俊介の攻撃を、かわしたとき、あれをかわすのに、ヨシキはコンマ数秒かかった。相手の曽我が魔術を発動したのと同等の速さだ。
あの曽我と同等の速さで魔術を発動できているのだから、みなは何を気にしているんだというだろう。ヨシキも相手の曽我が世界で活躍する相手なら、その魔術発動時間に満足できたのかもしれない。しかし、相手は、自分と同じ新入生、学年は同じでも、年は下だ。その人間と、自らの魔術発動時間が同じ、それでは、だめだ。
なにせ、彼は、2過程しか、行えない。その中で、一つの、魔術の発動時間はより重要となってくる。
ヨシキは、過程が少ない人間には珍しく。魔術の威力が大きく、発動時間は早い部類だ。それが特殊入学に繋がったわけではないが、これも彼の特殊な能力の一つである。
自分はまだまだ精進しなければならない
ヨシキは、この模擬戦で再度思った。
ガチャ
ヨシキは、シャワーを終えて、体を拭く。
結果を残さなければ・・・。
それが今、自分にできることであり。しなければいけないこと。あいつを呪縛から解き放つためにも・・・。
「それで、お前のあれは、なんの魔術だよ」
シャワーを終えて、三人との待ち合わせ場所である、入学式の後にも行った喫茶店でヨシキは三人からの集中砲火にあっていた。
「あれは、ただの身体能力を上げるための魔術だよ」
「それは私も使うけど、あれほどの速さと、威力を出せる人間なんて見たことないわよ」
「私もです」
「いやいや、別にウソなんてついてないって、でも俺が少し特殊な鍛え方をしてるから、あれだけの出力を出せてるんだよ」
その言葉に、三人の表情があきらかに輝きをさらに増した。
「特殊って!?」
ヤンがいの一番に発言する。
「じゃあ、そもそもの話しから行こうか。なんで、過程が少ない人間が、魔術の威力も発動時間も比例して、劣等生になってしまうと思う?」
「それは・・・あれ? よくよく考えればなんでだ?」
「あんたやっぱり馬鹿ね。単純に干渉能力が足りないからよ。だから、威力も発動時間も比例してだめなのよ。そもそも干渉できないと何もできないでしょう」
ヤンがまたサユリに絡みそうだったので、ヨシキはさっさと話しを進める。
「その干渉能力は何で決まる?」
それに美由紀が答える。
「それは、生命エネルギーの量ですね。それが少ないからこそ、干渉できない。つまり、沢山あればあるほど、干渉する媒体が増えるということですね」
「そう」
ヨシキはうなずく。
「生命エネルギーが、魔術のすべてといっても過言じゃない。これは才能と同じだ。まあ、ある程度の量まで行くと、後はそれぞれの努力で過程の差も出れば、他の項目の差もでるけど、優等生と劣等生を決める境目を決めるのは、生命エネルギーだ」
「だからこそ、疑問なのよ。その特殊な訓練を早く教えてよ」
サユリが痺れを切らし始める。
が、ヨシキはあわてない。
「まあ、まって、皆はあまり知らないかもしれないけど、生命エネルギーってのは、量だけじゃないんだ」
「さっき、量がすべてだって言ってなかったか?」
「ああ、それは干渉能力には量がすべてだ。だけど、それが少なくても、魔術の威力と発動時間を上げる方法がある」
そこで、ヨシキはコーヒーを一口飲む。
三人は、ヨシキの次の一言を待っていた。
「いわゆる、濃度だ。生命エネルギーには濃い、薄いの濃度がある」