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入学編3


 国立魔術英明学園 第3演習室


 「はあああああああ!」


 学園三年の女生徒が、おおきな声を出しながら、演習室のあるプールから、魔石を媒介して放たれた魔術式により、水を形状変化させた竜を出していた。


 これは、魔術による自然界干渉を行った際の、干渉形状変化の授業の演舞である。


 「ほええ。これは俺にはできない芸当だぜ。」


 「あの女生徒は、三年生の中でも成績上位者で、よく、魔術月報に載っている人だからな。」


 魔術月報とは、魔術関連のことだけを載せた新聞のようなものである。


 それには、世界での、魔術研究の成果や。魔術関連の大会の成績などが、大人、子供、学生、社会人にかかわらず紹介されている。


 ヨシキは、その月報を幼いころから、欠かさずに読んでいたが、それで、今演舞をしている井上 理沙については何度かみたことがあった。


 「確か、今見せている演舞の形状変化についてのインタピューが載っていた気がするな。なんでも、彼女は有名な家出身でもないのに、自身の努力であれほどの形状変化をマスターした、みたいな記事だった気がするよ。」


 「ほーん。そりゃすごい。でも、あれって、かなり発動に時間がかかってたよな? あれだと、実践じゃ意味ないんじゃないか?」


 確かに、魔術での、評価項目の一つであるが、それほどの大きな範囲で、あの正確さでいえば、かなり早い部類に入る。


 とはいえ、ヤンのいった通り、実践では、かなり遅い。これでは、すぐに相手の攻撃を受けてしまう。


 実践でのことを考えて、相手を評価するのは、流石軍隊志望といったところか。


 「あれは、見栄えをよく見せるための演舞だからな。別に形状変化は、あんな派手なものばかりじゃないよ。例えば、相手の地面を陥没させるような攻撃も形状変化の一種だ。それくらいなら、範囲も小さいし、あの人なら一瞬じゃないかな。」


 「マジか。」


 「あんたって、本当に、脳筋なのね。あれが戦闘のためのものじゃないくらい、すぐにわかるでしょうよ。それに、あの人のすごさもね。」


 「それに演舞って、どれだけ、見栄えをよく見せるかってものですからね。演舞では、重要なのは発動時間ではなく、正確性ですものね。」


 「そうだな。」


 ヤンはサユリだけでなく、美由紀にも指摘を受けたので、珍しく言い返さなかった。


 目の前では、理沙の演舞がすべて終わり、現在、拍手を受けていた。


 「ありがとうございました。この授業では、主に扱いやすい水を使って、形状変化の練習を行います。形状変化は、魔術の基礎をすべて抑えてあるので、基礎から学びたい人にはおすすめですよ。私も、最初は、できなかったけど、努力してここまで来たので、ぜひ、いろいろと悩みがある人は履修して欲しいと思います。」


 (魔術の基礎か・・・。これは、履修決定だな。俺はそこから始めないといけない。)


 「ヨシキは、こんな授業いらないだろう? 世界魔術大会で優勝を狙ってるんだ。これくらいお茶の子さいさいって感じだろ?」


 「いや、俺は魔術からっきしできないよ。」


 その一言に、ヨシキ以外の三人が、驚いた顔をする。


 一呼吸おいて、ヤンがたずねる。


 「いやいや、またまた、お前、からっきしって、どれくらいだ? できないっていっても、八課程くらいはできるんだろう?」


 「いや、2課程が今は限界かな。」


 それにまた、三人が驚いた顔をする。


 ヨシキはまあ、そうだろうなと思った。この反応は予想の範囲内だ。もしかしたら、失望をされたかもしれないが、いずれわかることだ。嘘をついても仕方がない。


 ヤンが最初にいった。八課程とは、ヨシキがいった2課程というのは、魔術の熟練度のことである。


 最大は、世界魔術大会で三連覇を果たしている。西欧州連合代表のアンディー ションの二十課程が確認されている。


 これは、同時にいくつの魔術式を行うことができるのかというもので、しかも、魔術式を行うだけでなく。その干渉能力、規模がBランク以上であること。


 このランクと言うものは、それぞれの、作用の大きさのことであり。干渉能力とはどれほど離れたところに作用できるか、Bランクは30メートル以上先に作用できることであり。干渉規模は、その作用がどれだけの規模で起こるのかであり、このBランクはその魔術によって、行われる事変改定の表面積が、100平方センチメートルであることが条件である。


 そして、この課程がどれほどできるかが、魔術師の一つの指標であり。この魔術英明学園の平均課程は8であるといわれている。しかも、明確には明かされていないが、最低でも5課程はできないと、魔術学園は入学ができないといわれている。


 しかも、世界平均が3課程であるとも言われているので、学園だけでなく、世界的にも平均以下の数字がヨシキの魔術展開過程の数字である。


 だから、三人が驚きを隠せないでいるのだ。


 「失望したか? 俺は、いわば、この学園、いや、この魔術の世界では劣等種になる人間だからな。」


 三人は黙っている。


 ヨシキは流石に、これで友達はいなくなったかなと覚悟を決めた。


 少しでも、高校生らしい生活をできたので、満足だ。別にこれで離れられても相手を責めたりはしない。


 なぜなら、ヨシキはそれに慣れているし、今の世界は魔術がすべてだ。仕方がないことを理解している。


 「ヨシキ・・・、お前・・・。」


 ヤンがそれを言った後、急にヨシキの肩に手を回してきた。


 「やっぱ。おもしろいな! ますます気に入ったぜ!!」


 「私もよ!」


 2人の声が大きかったので、周りの生徒に白い目で見られる。


 ヨシキが、わけがわからないという顔をしていると、美由紀が笑みを浮かべて言う。


 「わたし達はおそらく全員、周りからいろいろといわれてきた人間だったのでしょうね。だから、ヨシキさんの言葉に嘘はない。本気で世界一を目指しているのがわかったし、さきほどの言葉で、これまでどういう人生を歩んできたのかも想像ができました。だから、2人ともうれしんだと思いますよ。」


 「うれしい?」


 「ええ、なんというか、今まで捜し求めてきた。終生の仲間を見つけたようなものでしょうか?」


 そんなものなのかね。ヨシキは思った。


 ヨシキはまだ、2人に体を揺さぶられながら言う。


 「2人とも、周りに迷惑がかかるから、もうやめてくれ。」


 「ええ、いいじゃねえか。なあ?」


 「そうよ。最初にあんな発言しといて、いまさら回りなんか気にしてんじゃないわよ。」


 ヨシキは頭をわしわしされている。


 そんな三人を美由紀は笑顔で見つめていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「2人のせいだからな。」


 現在、ヨシキ、サユリ、ヤン、美由紀の四人は、教室にて、反省文を書いていた。


 先ほど、演習場にて騒いでいた四人に対するバツであり、ヤンとサユリの2人が、ヨシキに対する茶化しをやめなかったので、教員が来て、四人の連来責任として、放課後に反省文の提出を命じられてしまった。


 「まあ、いいじゃない。こんなものはちゃちゃっと終わらせてさ、早く帰りましょう。」


 「ああ、そうだな。早く帰ろうぜ。」


 「まったく、反省をしろよ、2人とも。」


 ヨシキがそういい。美由紀のほうを見ると、彼女は、もう反省文を書き終えていた。原稿用紙三枚をびっしりと埋め尽くす文字に、ヨシキは少し驚いた。


 その顔をサユリが見て、彼が考えていることがわかったのか、ニヤニヤして言う。


 「美由紀はね。こう見えて、中学のころから反省文の常連だったんだから、多分、私よりも書いてきたと思うわ。」


 「え? 本当?」


 ヨシキの問いに、美由紀が微笑む。(といっても、ヨシキと話すときは大抵、ほんど微笑んでいること今日を通してわかった。)


 「まあ、そうですね、何を書けばいいのかは、もう暗記するほどには書いてきましたかね。」


 「・・・・・・、そうなんだ。」


 ヨシキはあまり触れないほうがいいと思い。深入りはしないことないした。もしかしたら、実はものすごい不良だったりしたのかもしれないと、そんな邪推な考えを起こしたからだ。





 「よし! 終わった!」


 反省文は美由紀の次にサユリが終わり(流石、美由紀の次に中学時代、反省を書いてきただけはある。)ヨシキが終わった。ヤンはまだ、半分にも到達はしていなかった。


 「ああああ、何を書けばいいんだああ。」


 「もう、俺のを見て、それを元に何かを書くようにしろよ。」


 「本当に、あんたってだめね。」


 「まあ、まあ、サユリちゃん。」


 「くそっ! 仕方がない。すまんヨシキ見せてくれ!」


 「ちゃんと、ある程度変えて書くのよ。それじゃないと、変にヨシキ君にペナルティーが来るかもしれないんだから。」


 「わかってるよ! 俺は、自分で書くのは苦手だが、人のを見て、自分なりに工夫するのは得意なんだ。」


 「何よその特技、最低ね。」


 四人がそんなやり取りをしていると、三人組の男組みが彼らの教室であるF組に入ってくる。


 魔術学園は、どの学園も一学年六クラスで、一クラス三十人で構成されている。


 学年があがってのクラス替えもランダムに行われ、成績優秀者をばらけさせることにより、クラスのある一定人数が必ず出席するようにしてある。これは、学びやである学校でクラスメイトとともに学ぶというものを大事にしているからの光景である。(といっても、授業はそれぞれ違うので、クラスの人間と会うのは朝礼のときと終礼のときだけであるが。)、それと、クラス対抗の行事を行うためにでもある。


「おい!」


 三人組のうちの一人がサユリに話しかける。話しかけるといっても、高圧的にであるが。


 サユリはその態度がいやだったのか、聞こえないふりをして無視をする。


 「無視してんじゃねーぞ!」


 その男は、サユリの態度が気に入らなかったのか、彼女の腕を掴んだ。(このときヨシキは、随分と器の小さい男であるなと思った。)


 「触らないで!」


 サユリは、その腕を一瞬で相手の拘束から逃がす。


 その行動は、何か体術を行っている人間の身のこなしであるのを、ヨシキは見逃さなかった。


 「てめー!」


 腕を解かれた男が、声を張り上げる。


 「終わった!」


 そのとき、ヤンが自身の反省文を終わらせて、背筋を伸ばす。そして、自身に視線が集まっているのに気が付く。


 「なんだ、なんだ? 俺の顔に何かついてるのか?」


 「あんたの顔は、いつも通り、ほおけた顔してるよ。」


 ヤンの天然発言のおかげで、サユリの不機嫌さは解消された。だが、相手の男子のほうはますます顔が赤くなる。


 ヨシキが、何か手を打たないといけないかなと思い。サユリの前に出ようとしたとき、その男の肩に手が置かれる。

 

 その手を置いた人物を見て、男は、平静を取り戻したように見えた。


 「やあ、君が、真方くんかい?」


 ヤンを見て言う。


 「いや、俺じゃない。ヨシキはこっちだ。」


 ヤンがヨシキを親指で挿す。


 「ふーん。君か・・・。」


 その、やわらかい雰囲気を持つ男は、ヨシキを上から下まで、見る。


 そのときヨシキは自身を嘗め回されているような感覚を受けた。


 「そうか。ねえ、真方くん。」


 「なんだ?」


 見たところ、同じ一年生であるのを、制服のネクタイの色からわかったので、ヨシキはため口を使う。


 制服のネクタイの色で学年の判断ができる、ヨシキ達一年生は赤、二年生は青、三年生は緑である。


 「僕と模擬戦を行ってくれないかな? 世界魔術大会優勝を狙っている君とぜひ、戦ってみたくてね。」


 


 

 

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