裏山登山
結局俺は魔法を出すことが出来ず、5年も過ぎてしまった。
今は小学6年生か、大人の意識がある状態でこんな長い間
小さな子どもとして生活するのはしんどいな。
子どもみたいに派手に走り回る気にもなれないし、魔法も撃てない。
もしもこれが死ぬ前の世界だったらいじめの対象になってもおかしくない程だ。
しかしこの世界の子ども達はそんな真似はしなかった。
そういう意味では過しやすい世界だな。
まぁ、魔法を出せないんだから不便なことに変わりは無いがな。
「ソール君! 遊ぼうよ!」
「ルーリア、昨日も遊んだろ?」
「良いじゃん! さぁ! 遊ぼう!」
ルーリアの奴、今日もか、些細なきっかけだったが、それで5年間も一緒に居るとはな。
毎日の様に話しかけてくるし、家にまで来る。これが友人という物か。
ありがたいんだけど、毎日来られると少ししんどいかも知れない。
「ソール、今日もルーリアちゃんと一緒に遊ぶのかい?」
「まぁ、そうなるかな」
「そうか、気を付けろよ」
「分かった」
「兄ちゃん! ミナも一緒に遊ぶ!」
妹のミナが家から出てきて、俺達の会話に乱入してきた。
部屋の中から、俺達の会話を聞いていたのか。
それにしても髪の毛の色が茶色で短いからか俺のお下がりが良く似合うんだよな。
短パンだし、さぞ動きやすいだろう、ま、服装的に女の子らしくは無いがな
でも、一応ピンク色の帽子だからそこは女の子らしい気がする。
「み、ミナは来なくても・・・」
「うん、良いね! ミナちゃんも一緒に遊ぼう!」
ミナはまだ小学3年生だ、あまり俺達と一緒に遊んでも体力的に厳しい気がするし・・・
でも、ここで駄目といったらミナが泣くかも知れないし・・・うーん。
「ソール、ミナとも遊んでやってくれ、怪我をしないようにしっかり見てやれよ?」
「あ、うん、分かった」
父さんが言うなら仕方ない、ミナの面倒は俺が見るか。
「じゃあ、行くか」
「うん!」
「よし! 今日も思いっきり遊んじゃうよ!」
そして俺達は一斉に家から出た、父さんは笑顔で手を振ってくれている。
さてと、今日は何処に行くんだ? いつもこう言うときはルーリアが先導するからな。
俺はあまり散歩をしないから、場所に詳しいわけじゃ無いしな。
まぁ、ジョギングはしてるけど散歩とは違うから色んな場所を知ってるわけじゃない。
取りあえず、いつも通りに公園で一息ついて、行き場所を言うんだろうな。
「ふぅ、取りあえずここで行き場所を考えよう」
「そうだな」
やはり予想通り、公園で一休みか、ここで目的地発表かな。
「それじゃあ、言うよ、目的地は・・・学校の裏山!」
「学校の裏山か、お前にしては安全そうな場所を言ったな」
「裏山!」
「あはは、だってミナちゃんもいるし、普段通りの危ないのは出来ないでしょ?」
「普段から危ない場所に行くなよと」
ルーリアの奴はいつも危険な場所を言う、川の近くだとか
岩場の近くや、路地の裏とか危ない場所ばっかりだ。
幸いルーリアの魔法が強くなったお陰で今まで無事だったが
正直女の子に守られるって複雑だ。
それも小さな女の子、はぁ、早く俺も魔法を使えるようになりたい。
「さぁ、行こう!」
「おー」
そして俺達は裏山の中に入っていった。
登山ルートはハッキリしているし、山頂までは楽だろう。
ルートから外れることが無ければ安全に山頂まで登れるはずだ。
「うーん、空気が美味しいね!」
「まぁ、朝の空気は美味しいからな」
それにしても、なんでこんな朝早くに山を登るんだか。
「なぁ、なんでこんな朝早くに登山なんだ?」
「裏山は朝早くに山頂まで行ったら綺麗だって聞いたからだね」
「おぉ、綺麗な景色! ミナ楽しみ!」
そうか、朝早くに登ったら綺麗な景色を拝めるのか。
だからこんなに朝早くにな、うん、面白そうだ。
どんな景色なのか気になる。
「はぁ、はぁ、そ、そろそろ疲れてきたかも・・・」
「まだ登りだして1時間だ、バテるの速いって」
「そうそう!」
「な、なんで2人は元気なの? い、いや、ソール君は分かるよ?
運動神経良いから。
でもさ、何でミナちゃんもまだまだそんなに余裕そうなのかなぁ?」
「それはだな、ミナも俺も毎日家族とジョギングしているからだな」
「え、えぇ~!?」
「父さんも母さんも一応兵士だし、鍛えるためにだってさ。
で、ついでに俺達もジョギングだ」
「楽しいよ!」
本当は一緒にジョギングなんてするつもりは無かったんだがな。
確かミナが一緒に走るって言い出して
それに巻き込まれてだったっか、確か1年前くらいかな。
「はぁ、はぁ、じゃあ、私も頑張ってジョギングしないと
2人に付いていけないね、あはは」
「そうだな、まぁ、今回は一緒に休んでやるよ」
「そうしてくれると嬉しいよ」
俺はルーリアの隣に座り、持ってきた水筒のお茶を飲んだ。
やっぱり冷たいな、俺の水筒に入れているお茶はいつまで経ってもぬるくならないんだよな。
そういえば、いつも水筒に向かって魔法の練習をしていたっけ。
それからだな、冷たいままなのは。
もしかして、俺の魔法って冷気を出す魔法だったりして?
だとしたら水がぬるくならない理由も分かる。
父さんも氷の魔法だから、俺が扱えたとしても違和感は無いだろう。
今度誰かに試してみよう、もしかしたら冷えるかも知れないし。
「さて、そろそろ回復したし、行くよ!」
「あぁ、分かった」
「やっとだ~!」
俺達は再び立ち上がり、山頂を目指していった。
少しして、ようやく山頂が見えてきたな、長いような短いようなそんな感じだ。
「おぉ、さ、山頂だ!」
「あぁ、綺麗だな、この景色」
その景色はかなり綺麗なものだった、いくつもある山に、軽い霧がかかっている。
そこに太陽の光が当り、霧を照らし、山を照らし、後光って感じだな。
「おぉ! すごく綺麗だ!」
「うん! 来てよかったね!」
「そうだな」
そんな会話をしていると、後ろの方から木を揺らすような音が聞えてきた。
「な、何だ?」
「他の人かな?」
「ミナ、分かるか?」
「ちょっと待ってね」
俺の言葉を聞いたミナは目を瞑り、精神を集中させた。
ミナは周囲の状況が分かる魔法を使えるらしい。
現状では人間や生き物の様に体温がある存在しか感知できないらしい。
他にも認識出来る範囲が狭いという弱点もある。
でも、人間か魔物か動物かは認識できるそうだからこう言うときには役に立つ魔法だな。
「分かった! ま、魔物!」
「な!」
ミナがそう言うと同時位に草むらから1匹のかなり力がありそうな魔物が出てきた。
「な!? 何で!?」
「ここは魔物なんていないんじゃ!」
この周辺で魔物が姿を現すことはある!
しかし見張りがあるから基本的に魔物はいないはずだ!
なのに何でこの魔物がここに!?
「がぁ!」
「任せて!」
ルーリアは大きな石を出し、魔物に向けて飛ばした
最初は落ちていただけだが今は飛ばせるんだったな
その射出速度はランチャーとかの弾速と同じくらいだと思う。
あくまで見立てだが、それ程の勢いだ、流石の魔物もこれは耐えれないだろう。
「がらぁ!」
「え!?」
しかし、魔物はその石をはじき飛ばしてしまった! こ、これは不味い!
このままだと助からない! ど、どうする!? 俺は魔法を撃てない!
ルーリアの魔法は効かない、ミナは攻撃用の魔法じゃ無い!
「ぐがぁ!」
・・・これは、やばいかもしれない!