↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/7

4



 魔王様がカナディアルに降り立ってから、300年の月日が流れていた。

 誰もが同じ気持ちだっただろうが、女王様ご誕生を待ち侘びない日はなかった。ご誕生は今日か今日かと、焦がれない日はなかったのだ。

 そんな折、女王様がこの地に降り立った。

 最初の邂逅は、結界の外から。

 女王様の魔力は素晴らしく、だがそれ故に、オールウェイル以外が近づく事が出来なかった。

 それが歯痒くて歯痒くてどうしようもない程悔しくて。

 この手で触れられる日を。

 目の前で、そのご尊顔を拝見できる日を。

 今か今かと待ち侘び続けた。

 早く早くと焦がれる気持ち。

 300年もの間待ったというのに、女王様──フィナ様が誕生してからは、1日が千年に匹敵するかのような感覚に、気が狂いそうになる。

 フィナ様に次ぐ力を持オールウェイルは、すぐにその手を伸ばせたというのに。

 俺の中のフィナ様を求める心が悲鳴を上げる。何故、オールウェイルばかりが。奴がナンバー2だからか。ナンバー2だからなのか。

 どうして俺がそうじゃないんだ。

 どうしてどうしてどうして。

 俺は5番目なんだ。

 そんな疑問ばかりが沸き上がっては、積もりに積もっていく。フィナ様を求め過ぎた心が病んでいく。わかってはいても、止められない。

 心がどうしようもなく病んで、沈みきろうとしていた直前、視界がいっきに開けた。

 フィナ様がご誕生されてから15日目の午前。フィナ様の執務室に呼ばれた。

 今までは、オールウェイルと、フィナ様のメイドになったディンティしか行く事の出来なかった場所だ。フィナ様が誰と会えるか。それはアスターニェが判断する。悔しいが、オールウェイルの判断に間違いはない。

 結界の外からそのお姿を拝見するならまだしも、フィナ様の魔力が馴染む前に、力のない存在がフィナ様にお会いすれば、自我が消える。

 あまりに強大で強烈な力に耐え切れずに。

 そうならないように、オールウェイルが調整するのだ。

 高鳴る心臓を前に、抑える術など知らず、俺はフィナ様の前に──立つ。焦がれていたフィナ様。

 輝く黄金色の髪と、何処までも澄んだ碧い瞳。

 まだ幼さの残る顔立 ち。それ は、これからゆっくりとだが、成長していくという証。

「初めまして」

 可憐としか言いようのない、心地の良い声音。いつまでだって聞いていたい程、身体の芯を痺れさせて酔わせる。

「アリアーフィナールです。至らぬ所ばかりで、沢山ご迷惑をおかけすると思いますが、助けていただけると嬉しいです。

 あ……女王ではなく、フィナ、と呼んでいただけると、その……嬉しいです……」

 照れくさそうに視線を落とし、頬を朱色に染める女王さ……フィナ様。

 恐れ多くも、名前でお呼びする事を、女王様自らお許しいただけるとは。あまりの感激に、今度こそ見てわかる程身体が震える。

 何処までも。何処までもついていきます。フィナ様。

 フィナ様。フィナ様。俺のフィナ様。フィナ様。

 お慕いしております。

 ずっとずっとお会いしたかったんです。

 俺は、今日という日を忘れないでしょう。

 フィナ様に直接お会い出来たこの日を。

 お声を、直接聞けたこの日を。

 忘れる事はありません。

 そんなフィナ様からの、直接のご命令。お願いと、臣下に向けて頭を下げてしまう。そんなフィナ様は、今日も愛らしい。

 だがしかし、やはりオールウェイルの存在は疎ましい。

 フィナ様と、ナンバー2であるオールウェイルとの間には越えられない壁があるが、ナンバー2からナンバー8までの実力差は、そこまではない。

 オールウェイルとて、生まれた直後からナンバー2として存在していたわけではないのだ。

 ギリギリと奥歯を噛み締め、オールウェイルを睨み付ける。

 これ以上フィナ様の前でいざこざを続けていれば、フィナ様は本当に、その言葉の通り、クライスに調査を頼むだろう。そうなるわけにはい かない。

 フィナ様の命俺に。俺だけに向けられたものだ。

 しかし調査か。自身の領で起こった事だ。元々情報は集めてはいるが、未だに原因究明には至っていない。

 インハーレードに与えられた執務室で、部下に持ってこさせた書類の山を1枚1枚捲りながら、顎に右手拳を当てる。

 俺が生まれてから600年。ビアンナ領でこんな事が起こった事はない。

 500年前の、前女王様が崩御された時もなかった。

 人界側が止めているわけではないのに、通れない。

 原因は不明。

 フィナ様が御生まれになった事が、関係するのか?

 あまりのタイミングの良さに、そんな疑問が脳裏を過ぎる。いや、だがそんな事があるわけがない。

 フィナ様と人界との間に、関わりはない。あるとすれば、魔王様の方だ。人界と戦を幾度となく繰り広げているのだから。例えそれが、一方的な蹂躙であったとしても。

 この一ヶ月。短い時間ではあるが、人界との関係は良好。フィナ様が穏健派だという事に、一番安堵しているのは、人界の王たちである事は間違いない。

 フィナ様のご誕生により、魔王様が人界に対して停戦の宣言をした。これにより、勇者が召喚される事もないだろう。

 魔王様に殺されるだけとはいえ、勇者召喚には金銭がかかる。

 その上、魔王様の手によって人界は半壊。それがもうないのだ。少なくとも、フィナ様の気が変わるまでは。

 そんなフィナ様の気分を、人界側が害するはずがない。

 となると……何だ? 何が起こっている?

 フィナ様のお手を煩わせる事にならなければいい。

 どちらにしても、フィナ様のお心を乱す今回の件は、俺の手で解決する。五大公にして、ランドディアナンバー5のロケールナ・バレーの領に喧嘩を売り、フィナ様のお心を乱した事を償わせようか……。

 さぁ、覚悟をしておけ。




「ふぃ……」

 思わずと言った感じで、間抜けな声が口から漏れた。今日のお仕事は案の定あっという間に終わって、こうして優雅に3時のティータイムを楽しんでいるわけで。

 いつも仕事の合間に3時の休憩はあるんだけどね。でもいつもは、執務室でお茶とお菓子を頂くだけで、こうして自室でティータイムを楽しむという事はない。休日は別で。

 今日はもうやる事がないから、自室に戻ってきて、ディンティにここに運んできてもらった。

 はぁ……今日もお茶とおやつが美味しい。

 特に好き嫌いはないから、毎日違ったものが出てくる。今日は中華で、色鮮やかな桃マンが美味しそうな湯気をたてていたりしてね 。出来立て ほやほや。それと、ジャスミンティが美味しい。

 勿論アンマンと豚マンも食べてますけどね。2口ぐらいで食べきれる色とりどりのサイズの点心が山ほど。

 あれもこれも食べたいけど、味わって食べないと勿体無いから、ゆっくりゆっくりと食べていく。結局は食べるわけだけど。こうして一口一口噛み締めて食べるのは、実はほぼ毎日だ。

 だってすごく美味しいんだもん。

 でも、料理長にはまだ会えてない。手紙は送ってみたけどね。けど、会えるようになったら、直ぐに会ってお礼を言いたい。いつも美味しいご飯とおやつをありがとうって。本当は直ぐに会いたいんだけどなぁ。

 会えないってもどかしい。

 アスターニェが言うには、城の魔族に会え るのには、まだ半月ぐらいかかるとか。

 けど、後一ヶ月も経てば、街にだって行けるっていうから、それまでの我慢だね。しかし、女王の魔力ってすごいんだね。今会えるようになった8人以外と会ったら、魔力中りさせちゃうんだって。よくわからないけど。

 兎に角、会っちゃまずいという事だけはわかった。

 そういうものだと納得した。時には、こういう納得の仕方もある。

 ハァ……しかしお茶が美味しい。

 ダイエット要らずだから、高カロリーな点心だって、ばくばくと食べれてしまう。なんて良い生活! いいよいいよ。ダイエット要らずな生活って、それだけでテンションが上がるよね!

 一日2回のおやつと、天井知らずな高カロリーの食事を食べても、太り心配がないんだよ。

 しかしこの後どうしようかなぁ……。

 異世界と繋げてあるから、自室でインターネットだって楽しめるし。それとも、先日出た新刊でも読もうかな。買ってきてもらったんだよね。

 あくまでも給料の範囲の買い物だけど。キィラと違って。

 この本は、少し前借りをさせてもらった分で買ったんだ。地球の。かつての私の部屋からは、怪しまれない範囲でしか持ってこれなかったから。

 けど、お金は持ってこなかった。

 家族に残したかったんだよね。少しながらの備蓄でも。

 でも、責任は勿論大きいけど、女王の給料ってすごいんだよ。地球でも買い物をしたいから、日本のお金と、ここのお金を半分ずつでもらう予定。けど、手取りが50万!

 ほぉぉぉぉお。半端ない。

 ダイエット要らずと同じぐらい、テンションが上がるよね。そしてそのお金は、なんと、全部自分の事に使えるんだ。家賃だって光熱費だって食費だって水道料だってかからない。

 電話会社にも、プロバイダーにも払わな いでネットが見れる。

 とりあえず前借りは3万だったけど。でも何もかからないから、これで十分過ぎる程十分なんだよね。まだ自分で買い物にも行けないし。ネットで調べてお金を渡して、買ってきてもらった本が3冊。

 ベッドにごろんと横になって、読んじゃおうかな。

 すごく贅沢だけど。

 今日はお仕事もないし。よし、読もう!

 トレーにお茶と点心を載せて、いそいそと寝室へと移動する。ベッドの横にあるサイドテーブルにトレーを置き、その後ふわふわのベッドへとごろんと飛び込む。

 あぁ、なんて心地が良いんだろう。

 うーん。ごろごろー。ごろごろー。ごろご……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。