タイトル一文字。 同音異字から連想する物語、あいうえお順に書いてみた。
「あ」 -亜・蛙・吾-
「あ」行
「亜子」
カレが私の名前を呼びすてにして、少しドキリとした。
呼んだのではなく読んだのだか。名前の話をしていた時のこと。
「どうい由来?」
「苗字とのバランスとか含め画数で決めたらしい」
「じゃあ、結婚したら運悪くなるかもしれない?」
「そうだ。いい苗字の人と結婚しなきゃ」
少し間があって、カレは続けた。」
「亜子の亜っていう字、なにかに準じるとかって意味だよね。亜熱帯とか、亜脱臼とか」
「え、じゃあ、私、子供に準じるってこと?」
「そうだ」
「子供に準じるって、子供以下ってことでしょ……何??」
同じような画数の苗字を持つ代名詞としての「カレ」。
たわいもない心地よい時間を過ごして、次の約束もなく別れた雨の帰り道。
私は物足りなさを補うように二人の一日を思い出していた。
しかし、どういうわけか顔がはっきりと思い出せない。
どんな目だったか
どんな鼻だったか
どんな口だったか
眉毛は?耳は?歯並びは?…思いだそうとするとモヤがかかる。
カレの顔はだんだん雨の中に霞んでいく。
見知った顔なのに思い出せない。
数メートル先に蛙がいた。私はできるだけ奴との距離を置いてその道を渡る。
私は蛙が嫌いだ。
テレビに映ると画面が変わるまで目をそらし、本に載っていたらページを飛ばす。
そのカテゴリー自体が受け付けないので、デフォルメされたキャラも許せない。
本物に出会ったらこの上ない恐怖である。
なのに、奴がどんな姿をしているかよく知っている。
絶対に描かないけど、絵に描けと言われたら詳細に描けそうだ。
あんまり見たことないはずなのに、ちゃんと思い出せる。
この差はなんだ。
思い出したいのに思い出させない想いは、会いたい気持ちなのかもしれない。
この「どんな」を確かめるために、もう一度、そしてもっと近くにと。
別段、好きでもなかった「カレ」に対して、不思議な感覚が生まれた。
好きには満たないけど、好きな人への想いに似ている感じ。
亜子、吾子(=あなた)を想う。好きに準じる。
「亜好き」
なんて。