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異世界で奴隷生活始めました:Retake  作者: 海峡 流
第零章 奴隷が主人を得るまで
6/43

怠惰なフクロウ、それに魔法

「ぐ…」


 一つしかない窓から差しんでくる光で目が覚めた。


「いっつ…」


 体には正体不明のだるさと痛みが…

 そうだ!エリス様は!?

 と思ってあたりを見渡すが牢屋には俺一人しかいなかった。そのことに若干の不安と安堵を覚える。するとぐぅぅー…と腹が鳴った。…昨晩の食事は量が圧倒的に足りなかったからな…


 具体的には、冷めたスープ(らしきもの)と硬いパン(スープに浸さないと食べれない)だった。うぅ…元の世界の食事が懐かしい。


うちは母と妹が毎日交代しながら食事を作っていたんだが、二人とも料理がうまかった。料理好きな二人は絶対に当番を譲ることはしなかったが、実は俺も料理が結構うまい…つもりである。


あの二人には及ばないが。あー…真理は元気にしてるかな…?

 料理もせめて奴隷なんて身分じゃなけりゃあなぁ…


 なんて思ってると看守の男が食事を持ってきた。


「…壺をかせ」


 …あぁ…どうやら中身を空にしてくるらしい。食事前にやらなくても…と思ったが大人しく壺を渡した。男は眉一つ顰めずにそれを受け取るとさっさと牢屋の前から立ち去って行った。


 食事のメニューは昨日と同じ。

 …人生ままならないなぁ…

 ちなみに食べ終わる頃には体の痛みも消えた。まぁその代わりに体の芯に違和感のあるような感触を感じ始めたのだが。


 何もすることもないし、食事の後で眠たくなったので目を閉じた。

 昨日は眠った気がしなかったからなぁ…

 そうして俺の意識は再度眠りに落ちた。


********************

「うぅーん…」


 今度は鉄格子をガシャンガシャンを揺さぶる音で目が覚めた。

 音源は看守の男だ。


「…食事だ」


 そういっていつものごとく食事用の穴から食事を檻の中に入れてきた。メニューは朝と同じ…

 …スープとか新しく作ってますよね…?この状況でアタルとか冗談じゃねぇぞ…

 

 看守は食事を受け取り渋面を作ったように目を細めると俺をじっと見て、何もすることがないなら運動しろと言ってさっさと戻ってしまった。


 しかしなんだろう。俺の目をじっと見られた気がする。

 たしかに体は動かせた方がいいよなぁ…

 というわけでレッツエクササイズ。寝起きだから腹もあんまり減ってないしね。運動した後で食べよう。


 そう思ってとりあえず腕立て伏せをしてみたのだが…

(…軽い?というか全然きつくない?)

 

 そう。全然限界が来ないのだ。五百回までは一応したが疲労はおろか息さえ上がっていない。

 その勢いでスクワットもやってみたが同じ。


 これは…身体能力が大幅に向上してる…?


 心当たりは一つだけ。俺にベルフェを憑りつかせるとかいうあれだ。エリス様のやった。

 まぁ正確にはやったかどうかわからないんだけどね。気絶してたし。

 とりあえずご飯を食べて窓にはめている鉄格子をつかみながら懸垂もやってみた。まったくきつくない。

 …なんか楽しくなってきたな…なんて思って看守が来るまでずっと体を動かしていた。


 食事を流し込む羽目になったのはご愛嬌ということで。


***************:****

 パッと。目が覚めた。ここにきて、長い時間を無為に過ごすことに苦痛を感じ始めた。まだ二、三日しか経ってないはずなんだけどな…


 光は差し込んできておらず、真夜中のようだ。そういえば昼間には鐘が七回ぐらいなっていた気がする。正確じゃないかもしれないが…多分あれが時間を知らせる鐘なんだろう。


 そんな感じで思案にふけっていると…


「ばぁ!」 


 ビクゥっ!と全身がこわばる。いきなりエリスの顔が暗闇に浮かび上がったからだ。ほら、懐中電灯を下からあてるやつ。あれ。


「い、いきなり驚かさないで下さいよぉ…」


 と我ながら情けない声が出てしまった。アッハッハという快活な笑い声が聞こえてくる。そういえばこういう声って外に漏れないんだろうかなぁ…


 そんな疑問が顔に出ていたのだろうか。エリス様はこの牢屋に防音の結界を張っていると教えてくれた。 


「まぁそれはさておきだよ。ベルフェとはもう話したかい?」

「…?話したも何も姿さえ見てないんですが…」


 そういうとエリス様は眉間に手を当てやれやれと首を振った。何やっても様になるなこの人…いや神か。


「むぅ…敬語はなくていいって言ってるのに…まぁそんなとこだろうとは思ってたけどね…あー…じゃあちょっと声に魔力を乗せる感じで【ベルフェゴール】って言ってみて」


 魔力…?


「いや、やり方わかんないです。まず魔力ってなんですか?あと敬語は自然と出ちゃうんですよ…勘弁してください」


 とか言う割に敬語は下手だと思うが慣れてないのでしょうがない。


「…はぁ…敬語でいいよ、もう…で魔力だっけ?あぁそうか。そりゃわかんないよね…じゃあまた僕が色々と教えてあげよう…フフフ…」

「よ、よろしくお願いします…」


 な、なんで笑ったんだ…


「まず魔法には属性がある。まぁ属性がないものもあるからそれを含めれば全部で七個属性があることになるね。水と火、風と土、闇と光は互いに対になって打ち消しあう性質を持ってるんだ。ここまではいい?」

「はい」


 まぁ俺が想像していた通りだ。もはやテンプレだよな…


「次に個人には適性があるんだ。魔法のね。あとでも話すけど魔力っていうのは絵をかくときに使う絵の具みたいなものって考えてて」


ほう…


「しかも絵の具は自分の中で混ざってしまう。どういうことが言いたいかというと、適性属性が少なければ少ないほど強力な魔法を使えるってことなんだ。わかる?」


「…?つまり火属性の魔法と水属性の魔法の適性がある人よりも風属性だけ使える人の魔法の方が強力っていうことですか?」


「まぁ属性が少ない人ほど使える魔法位階が多いってことなんだけど…概ね合ってるかな。あ、ちなみに魔法位階っていうのは魔法のグレードみたいなものね。したから第十位階、第九位階…といって上は第一位階、超位階ってな感じだね。数字が少ないほど魔法が強力になるんだ」


「なるほど…じゃあより強力な魔法を使うためにはその属性のできるだけ純粋な魔力が必要ってことですか?」


「おおー!うんうん。そんな感じだよ!あ、ちなみに無属性魔法はどんな魔力でも書けるけど生来使える魔法と使えない魔法があるんだ。まぁそっちの世界でいう『持って生まれた才能』って感じなのかな?だから奴隷とかでもいい無属性魔法が使える奴隷は高値で取引されるんだよねー…」


「…そういうのってパッとわかるものなんですか?」


「うん。ステータスの【スキル】のとこに書かれてるね。どんな人でも一つは持ってることが多いし」


 …持ってない人がここを通りますよっと…

 ちょっと盗賊の人に同情してあげようと思った。ミジンコサイズの同情だけど。


「んッン!それじゃあ話を戻そうか。どんな魔法を使うにしても魔力を意識して使わないと発動しないんだ。さっきの絵の例えで行くと筆を走らせるにしても絵の具がついてないと意味がないってことだね。魔法は原則として詠唱が長ければ長いほど高い位階になっていくんだ。もちろん詠唱省略も可能だし、二つ同時に魔法を使うことも不可能じゃない」


おお!なんか強そうだ。


「だけどそうしたテクニックには魔力の使い方にコツが必要なんだよ」


ダメじゃん!と思ったが話には続きがあるらしい。


「だけど君は違う。稀代の大悪魔ベルフェゴールを自分の中に住まわせているからね。ちなみにベルフェのいる君の中の概念世界っていうんだけど、そこは魔力が貯めてあるプールのようなものと思ってくれればいいよ。魔力は使えば当然減るし、休まないと回復しない。ベルフェの存在はもう一個それが追加されたようなものなんだ。OK?」


「はい。大体は。でも具体的に魔力というものを使う感覚がわかりません」

「うん。それじゃあ本題だけど…さっきからたとえてるように魔法っていうのは『現実世界』に自分の空想を描くようなものなんだ。詠唱や魔方陣なんかもいわばイメージをしっかりとしたものにするためにあるにすぎないんだよ。まぁそんなに単純な話でもないんだけどね。じゃあ…いきなりだけどカナタって好きな動物はいる?」


「好きな動物ですか…」

「できれば肩に乗るようなやつ」


 猫がぱっと思い浮かんだけど肩には乗らないよなぁ…蝙蝠…も却下だな…


 あ!フクロウとかどうなんだろう。


「フクロウとかどうですかね?」

「フクロウか…なかなか趣味いいんじゃない?それじゃあカナタの好きなフクロウを目の前の空間に描きつつ【ベルフェゴール】ってちょっと体の中の《気》みたいなものを声に混ぜながら唱えてみて?なぁに、最初はできないかもしれないけど一回できればこっちのもんさ。やってみよう!」

「はぁ…」


 ということで初めての魔法を使う。もちろん人生初!当たり前ですけどね。


 エリス様に「形から入らなきゃね!」とか言われて牢屋に転がっていた布きれをローブのように纏って、手を前にかざす。(ちなみに腹を抱えて笑われた)

 …よし。


「ベルフェゴール」


 …シーン。何も起こらない。


「あぁ違う違う。もっとこう…体の芯から何かをオエッと出す感じで…」


 どんな感じだよそれ…

 と、若干の怒りを覚えつつも再度トライ。


「【ベルフェゴール】」


 すると今度はうまくいったらしく、腕からなにやら黒い光のようなものがでて眼前に集まり始め、それは次第に黒いフクロウの形をとっていった。

 おおお…なんかすごいワクワクするな…


「おお。成功なんじゃない?さすがカナタだね」


 まぁそれはそうとしてそのフクロウは本当にベルフェ自身であるらしく…


「…眠い」


 と言って翼を広げ、地面に突っ伏してしまった。…やっぱ猫とかの方がよかったんじゃあ…


「で、ベルフェ?カナタの中の居心地はどうだい?」

「…概ねいい感じ。何より楽できるのが…イイね…」

「それはよかった。カナタもこれで大体わかっただろ?魔法は大体全部あんな感じだから…あ!ちなみにカナタはベルフェと元々の概念世界の広さのおかげでタイトル詠唱が割かし簡単にできるけど周りはほとんどできないから悪目立ちしないようにね」

「…はい?」


 それってダメなんじゃ…

 この世界の魔法は自由度が高いようです。

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