第二章 急接近
「おーい崇ー!こっちこっち!」
教室の隅で昇が手を振っている。崇は二人が取っておいてくれた席に座った。
「どうだった?あの子は?」
悠樹が興味深げに聞いてくる。昇も同様だ。
「悠の言うとおりだったよ。倉石 七海。確かに耳が聞こえない子だった。」
「でしょ?俺の情報網に穴は無いよ!」
悠樹は自信満々の表情で腕を組んでみせる。
「それで?どうしたんだ?」
昇は悠樹を完全に無視して前のめりになって崇に詰め寄る。
「どうしたも何も。アドレスを交換しただけだよ。」
「崇が!?女の子とアドレス交換したの!?マジで!?」
昇は思わず立ち上がり、教室中に聞こえんばかりの大きさでリアクションをとる。
「昇、声がでかい。」
辺りを見回すと、皆チラチラこちらの様子を窺っている。
「あ、わりー・・!つい興奮して!でも初めてじゃないか!?崇が自分から積極的に女子と接点を持つ
なんて!」
「そうか?女子のアドレスならそれなりに知ってるぞ?まぁ悠には適わないけど。」
悠樹は再び自信満々の顔を見せる。
そして昇は再び完全に悠樹を無視し、話を続けた。
「そりゃそうだけどさ、それって皆女子の方から聞いてきたやつだろ?」
「まぁそうだな。」
「いやーようやく崇も女に興味もつようになったかー!うんうん!頑張ってね!応援してるから!」
悠樹はニヤ付いた顔で崇の肩に手をかける。
「べ、別にそんなじゃないって・・。」
「照れるなって!悠と違って崇の恋は全力で応援するからさ!」
昇もまた目をキラキラさせて崇の肩に手をかけた。
「だからそんなんじゃ・・。」
否定はするものの、先ほどまでのうっとおしさは感じられなかった。
「ちょっと待ってよ!なんで俺の時は全力出してくれないのさ!?」
我に返った悠樹が昇の発言に食いついた。
「だって悠自体が全力じゃないだろ?」
あっけらかんとまるで興味なさそうに昇が切り返す。
「そんなことはないよ!いつだって全力さ!ただちょっと飽きやすいだけだよ!」
どうしょうもないことをドヤ顔で決めてみせる悠樹。
そんな二人のやり取りを見ながら、崇はふと七海のことを考えた。
確かに自分からアドレスを交換しようなんて初めて言った。
今まで出会った女子とは明らかに違う何かが七海にはある。それも認める。
耳が聞こえないとか、可愛いとかそういったことは抜きにしても、やはり自分の中に引っかかる何かがある。こんな感情は初めてだった。
この日、崇は午前中のみの試験だったが、昇と悠樹は午後にも試験があったため、崇は三人で昼食を摂ったあと、夕方からバイトがあるため先に一人で帰宅することにした。
崇のバイト先は大学と自宅のちょうど中間にあるコンビニである。
そのコンビニを選んだ理由の一つは、知り合いに会う確率が低いということだ。
そしてもう一つ、崇は自宅、バイト、学校という自分の生活を成り立たせている大きな枠組みをきっちり分けておきたかった。
その方が気持ちの切り替えがスムーズに行うことが出来る。
そのため、昇と結城にさえバイト先はおろか自宅の住所まで明かしていない。
休日に三人で集まる時も、必ず崇の方から出向いて行き、宅飲みをする時はきまって悠樹の家を真っ先に提案する。
そこまでしなくてもいいと思うが、崇はそれくらい徹底してやらなければならなかった。
なぁなぁになることが一番嫌だからである。昇たちと別れたあと、崇は大学の駐車場に向かって歩いていった。
普段から崇は車で行動することが多い。家の車であるが、父親が普段車を使わないため、ほぼ崇が自由に乗り回すことができる。
黒崎家は崇と父親である賢吾との父子家庭である。他に兄弟はなく、母親は崇が小学校1年生の時に病気で亡くなっている。
それ以降、賢吾は再婚することなく、崇と二人で助け合いながら生きてきた。駐車場に着き、車に乗り込むとまず一度自宅に帰り、車を置いてから電車でバイト先に向かった。
バイト先までは電車で3駅先である。
繁華街というわけではないが、駅前ということもあり、そこそこ客は来る。
大学入学と同時に始めたため、今年で二年目だ。崇は日勤帯から夜勤までこなしている。
「おはようございます!」
「おー、黒崎君!悪いねー、急に入ってもらっちゃって!」
「大丈夫っすよ!大学も試験だけなんで!」
「勉強大丈夫かい?」
「問題ないっす!」
バイト先での崇は挨拶をしっかりとし、明るくハキハキと応対する姿勢が高く評価されており、店長を始め、バイト仲間からの信頼も厚い。そのため、急な欠員が出た場合、大抵崇に連絡がくる。崇も出来るだけ応えるようにしていた。これは父親である賢吾の教えでもあった。
この日は夕方5時から夜の10時までのシフトに入った。
「じゃあお先失礼します!」
「お疲れさん!ありがとうね!これ飲んで!」
店長から缶ビールが2本渡された。毎晩晩酌をする崇には嬉しいご褒美だ。
「うっす!ありがとうございます!」
バイトの疲れも吹っ飛んだ崇は、目の前にある駅に向かって歩き出した。
ホームで電車を待っていると、ふと七海のことを思い出した。
(こんな時間になっちゃったけど・・、メールしてみるか。)
崇は携帯を取り出し、七海にメールを送ることにした。
(や、やべー・・、何書いていいかわかんねーな・・。)
自分から女子に対して特に用件もなくメールをするのが初めての崇は、文面に困った。
とりあえず当たり障りのない文章にしてみる。
<お疲れ!今日急遽バイトが入っちゃってこれから帰宅!こんな時間になっちゃってごめんな!>
(まぁ、こんなもんかな・・。)
送信ボタンを押し、携帯をしまう。それからすぐに電車が来た。
電車に乗りながら、何故か崇はドキドキしていた。返信がなかったらどうしようなどと、柄にもなく弱気になってしまう。自分らしくないと、モヤモヤした気持ちを振り払おうとするが、中々出て行ってくれない。
(昇にでもメールしてみるか・・。あいつまた寝てねーだろーな。)
再び携帯を取り出したその時、携帯にメール受信があった。
ドキドキしながら送信者欄をみると、そこには七海の名前があった。
<バイトお疲れさま!今日はメールこないかと思ってたから、すごい嬉しいよ!ありがと♪帰ってから勉
強するの?>
思っていたより好感触の返信が届き、崇は思わずにやけてしまった。すぐに返信を出す。
<確認程度かな!ちょっとやったら酒飲んで寝るよ!勉強中?>
こんなに早く返信するのも崇にしてはかなり珍しいことだ。
崇は送信後、携帯をしまわず手に握ったまま七海からの返信を待った。
2分ほどで七海から返信が届く。
<普段から勉強してる証拠だね!一応勉強中だよー!私も確認程度だけどね☆明日は何限から?>
すぐに返信を出す。
<明日は二限から!七海は?>
このメールを送る際、いきなり下の名前で呼んで平気かどーか、崇はかなり迷った。
普段から崇は基本的に男女関係なく下の名前で呼ぶことにしているため、いつもならこんなことで悩んだりしないのだが、今回はやはりおかしい。数分に渡り悩み続けた結果、名前で呼ぶことにしたのだ。そして送信後、ドキドキしながら返信を待つ。
その間に崇は自分の駅に到着した。
「もう着いたのか・・。」
こんなに電車に乗っている時間が短いと感じたことはなかった。崇は改札を出ると、つまみになりそうなものを買いにコンビニに入った。柿ピーとタン塩を購入し、コンビニを出ると、携帯が鳴った。七海からだ。
<二限ってことは、もしかして日本史??>
その場で足を止めすぐさま返信。
<そうだよ!もしかして一緒?>
帰宅するのも忘れ、崇はコンビニの前で返信を待った。すぐに七海からの返信が届く。
<一緒ー♪♪ねー、よかったら一緒に受けない??私その授業一人なんだよね>
(マ、マジかよ・・!)
鼓動が高鳴るのを感じながら、崇はメールを返す。
<いいよ!ちょうど俺も一人だし!>
送信後、ようやく崇は家に向かって歩き出した。片手につまみ、もう一方に携帯を握ったまま。歩き出
してからすぐに七海から返信が届く。
<やったーー♪じゃあ二人分の席とっておくね!>
崇はそのメールを見て、小さくガッツポーズをとった。
<頼んだよ!だいたい何時頃に寝てるの?>
この際だからもっといろんな話をしたいと崇は思った。1日のタイムリミットが分かれば、この後の自分の行動も取りやすくなる。崇はやや早歩きで家路を急いだ。
家に着く手前で七海からの返信がきた。
<だいたい0時くらいかなー。今日はもう少し起きてるかも!崇は??>
メールを見て崇は思わず飛び上がりそうだった。
(名前で呼んでくれた・・!!)
気付くと、もう家の目の前に来ていた。
<俺もだいたいそんなもんかな!明日は二限からだしもうちょっと遅いと思う!そして今帰宅!>
メールを打ってから崇は家の玄関を開けた。
「ただいまー!」
「お帰り。どうした?にやけた顔して。いいことでもあったのか?」
リビングで晩酌していた賢吾に速攻で見破られる。さすがは父親だ。
「べ、別に!店長からビール貰ったからさ。」
「ビールねー。」
疑いの眼差しが崇に浴びせられた。これ以上ここにいてはまずいと思い、ビールを冷蔵庫にしまってそそくさと自分の部屋へと戻った。その間に七海から返信が来ていた。
<お帰り♪♪まずはお風呂かな??>
ここまで来ると全てのメールでにやけてしまう。
<そうだね!ちゃっちゃっと入ってくるから勉強してて!>
返信後すぐに風呂に入ろうかと思ったが、七海の反応が気になり、とりあえず返信を待つ事にした。
<いってらっしゃい♪待ってるねー!>
メールを見て即行で風呂に入る。ものの10分程度で風呂から上がり、メールを返した。
<ただいまー!>
返信後、とりあえずビールを我慢し、先に明日の試験の範囲をざっと見直すことにした。
七海の言う通り、崇は普段から真面目に授業に取り組み、復習もきちんとやるタイプなので、試験前に
詰め込むというようなことはしなくて済む。
七海とのメールを楽しみながらでも充分頭に入っている。
ノートを広げると、七海からの返信が届いた。
<お帰りーー!早かったね!さすがは男の子♪お風呂上りにビール?>
<いや、先にざっと見直ししちゃうよ!そんなにかからないし!>
<そっか!私はそろそろ終わるよー♪>
終わるというフレーズに、このメールの終わりをリンクさせ、少しテンションが落ちる。
<早いな!もう寝る準備?>
<ううん!崇とメールする体勢作り♪あ、でも見直しの邪魔になっちゃうかな??>
落ちたテンションが急激に舞い戻ってきた。
<全然平気♪俺ももう終わりにするから!>
試験勉強もそこそこに崇もメールに全身全霊を込める。
<完璧??>
<八割方ね!よし、ビールにするかな♪>
崇はメールを打つと急いでリビングに行き、店長からもらったビールを持って部屋へと戻る。
<召し上がれ♪お酒好きなの?>
ビール片手にテレビも付けず、崇は七海の質問に集中していた。
<毎晩飲んでるね!たぶん親父の影響かな。七海は飲めるの?>
それとなく、自分との相性を確認してみる。
<結構強いよ!家じゃ飲まないけど。試験終わったら飲みいこーよ♪>
いきなりの飲みの誘いに崇のテンションは最高潮に達した。
<いいねー♪行こう行こう!>
この後も、二人はたわいもない話しや、お互いの事を色々と話した。
こんなに長くメールするのはもちろん初めてだ。
気付くと二時間以上メールしていた。
<じゃあそろそろ寝るね!今日はメールありがと♪明日頑張ろうね!おやすみ、崇☆>
<おやすみ、七海☆>
まるで付き合いたてのカップルのようなやり取りに少し恥ずかしさを感じたが、それ以上にとても幸せな気持ちになれた。崇は残りのビールを飲み干し、夢心地のまま眠りについた。
翌日。崇はいつもより少しだけ早く起き、少しだけ早く家を出て、少しだけ早く大学に到着した。いつもより少しだけ早く喫煙所で一服し、早々に試験会場の教室に向かう。
日本史の会場は一限の試験では使用されなかったため、いつでも入ることができる。
教室に着くと、まだ一限の試験中ということもあり、あまり生徒の数は多くない。
入り口で七海を探していると、
『崇ー!こっちこっち!』
自分にだけしか聞こえない七海の声がし、その方向を向くと、七海は手を振って崇を呼んでいた。崇は照れくさそうに軽く手を上げて、七海のもとへと向かう。
『おはよう!ギリギリにくるかと思ったのけど早かったね!』
「いつもより早く目が覚めちゃってさ。やることもないから来たんだよ!七海はいつもこんな早いのか?」
崇はカバンから筆記用具やら学生証やらを出しながら会話を膨らませていく。
『うん!だいたいこんくらいかな♪教室が開いてない時はラウンジとか園庭とかで暇つぶしてる!』
「そっか!でさ、今日ここに来るまでに考えたんだけど・・。」
『何を??』
辺りを気にしながら崇は少し声のトーンを下げて話し出した。
「うん。七海の声って俺にしか聞こえないだろ?ということは、はたから見たら俺が一人で喋ってることになるよな?」
『まぁそうだね・・。あ・・、おかしいよね・・?』
「おかしいと思う・・。そこでだ!二人の時以外は手話を使おうと思うんだけど。」
崇の提案に驚いた表情を見せる七海。
『崇手話できるの!?』
「昨年授業でやってさ!少し自分でも勉強してみたんだよ!日常会話くらいなら問題なくいける!どうかな?」
真っ直ぐに七海を見つめながら崇は返事を待つ。
『崇が手話できるならその方がいいかもね!仲の良い子とは手話で会話してるし!』
「そっか!じゃあそうしよう!難しいやつは教えてくれな!」
『うん!任せて♪』
こうして二人の時以外(といってもまだ二人っきりになったことなどないが・・)は手話を使って(正確には使うフリをして)会話をすることになった。
『ねー、終わったらお昼一緒に食べない?崇も午後試験あるでしょ?』
「あぁ!じゃあ学食でいいか?」
『うん!』
二人は試験が開始されるまで、手話を使いながらお喋りを楽しんだ。
予鈴と共に試験教官が教室に入ってくる。
「お、きたな。じゃあ頑張ろうな!」
『うん!』
試験が開始され、二人は順調に問題を解いていく。そして60分後。試験が終了し、二人は食堂へと向かった。
『どうだった?』
「まぁぼちぼちだな!問題ないだろ。七海は?」
『私もまぁまぁ出来たかな!』
二人は食堂に向かいながらお互いの成果を報告しあった。
そして会話はお互いの友人へと移っていった。
「七海は普段誰と一緒にいるんだ?」
『同じ商業部の友達かなー。仲がいい友達が二人いてね!だいたいその二人と一緒にいるよ!二人とも手話できるし!』
「そうなんだ!今日は来ないの?」
『午後からくると思うよ!崇は?』
「俺もだいたい仲のいい奴二人と一緒だな。二人とも午後にはくると思う!」
『そうなんだ!じゃあ今度皆で遊ぼうよ!』
この誘いには少し返答が遅れてしまう崇。
「あぁ。俺はいいんだけど、連れにちょっと問題が・・。」
崇は少し困った表情を見せる。問題とはもちろん悠樹のことだ。
『問題??』
目をクリクリさせながら首をかしげる七海。
「いや、そのなんと言うか・・、手癖が悪いというか・・女の敵というか・・。」
なんとかぼかして伝えようとするが、どうしてもストレートな表現になってしまう。
『チャラ男ってこと??』
七海が曇りのない眼で直球を投げ返してきた。
「ま、まぁ一言で言うとそうなるかな・・。いい奴なんだけどさ!」
なんとかカバーしようとするが、事実が事実なだけに如何ともし難い。
『そうなんだー。崇もそうなの??』
疑いの眼差しではなく、あくまで透き通った目線で崇の顔を見つめる七海。
「そう見えるか?」
言葉とは裏腹にどこか自信のある声で七海に問う。
『ううん!見えない!』
とびっきりの笑顔で答える七海。
「よかった!まぁそのうち会うことになると思うよ!」
『いろんな意味で楽しみだね!』
「そう思ってくれると助かる。さて、何食べるか。」
食堂に到着した二人は今日のメニューを確認する。
『私はAランチにする!』
「じゃあ俺もそれにするか。まとめて頼んできちゃうから、七海は席を確保してくれ!」
『了解☆』
崇は二人分の食券を購入し、厨房のおばちゃんに渡した。
大学の食堂は美味いと中々の評判で、昼時になるといつも混雑している。席を確保するのも一苦労だ。
列に並んで出来上がりを待っていると、七海からメールが入った。
<席確保!テラス側の一番奥ね☆>
すぐに返信する。
<了解!>
それから10分ほど待っていると、ようやく二人のAランチが出来上がった。
かばんを肩にかけ、両手に二人分のAランチをもち、慎重に七海の待つ席に向かう。
テラス側の一番奥へとゆっくり向かっていくと、七海の姿が確認できた。
『崇ー♪こっちこっち!』
七海が手を振って待っている。
(いや、出来れば取りに来て欲しいんだけど・・。)
しかしそこは男のプライドに掛けて意地でもこのまま持っていくと心に誓った。
慎重に慎重に七海のもとに向かう。
そしてようやくたどり着き、これまた慎重にAランチをテーブルに置く。
「お、お待ちどう・・!」
『ありがと♪おいしそうー!』
「よし、じゃあいただきます!」
今日のAランチのメインはロースカツだ。
学食とは思えない大きさで、衣はサクサク、中はジューシーなロースがぎっしり詰まっている。それにご飯と味噌汁、それにお新香が付く。
二人は食べながら手話をするのが面倒で、人ごみの中にも関わらず、普通に会話することにした。逆に
これだけ人がいれば二人のことを気にする人などそうはいないだろうという見解だ。
『んーーおいしい!崇はいつも学食??』
「まぁたいていそうだな!たまに外にラーメン食いいったりするけど♪」
『ラーメンってもしかしてとんがら亭!?』
「あぁ!七海も行ったことあんの?」
『ううん、行きたいの!ずっと行ってみたかったんだけど、ほら、店長さんの顔が怖いじゃない・・?なんか入りずらくって・・。』
店長の顔を思い浮かべた七海は顔を歪ませる。
「まぁたしかに般若みたいな顔してるからな!でもとってもいいおじさんだぞ!今度連れてってやるよ!」
『ホントにっ!?約束だよ!?』
七海は持っていた箸をテーブルに勢いよく叩きつけ、前のめりになって崇にその愛くるしい顔を近づける。
突然目の前に七海の顔が押し寄せ、思わず顔が熱くなるのを感じた。
「あぁ!約束だ!」
『やったぁーー!!』
ラーメン屋一つでこんなにも無邪気に喜ぶ七海がとてつもなく可愛く見えた。
崇はうすうす気付いていた。自分の七海に対する特別な感情に。
しかし、いまだかつてこんな気持ちになったことがない崇は本当に合っているのか確信が持てなかった。
まだ知り合ってから二日しかたっていないし、そもそも自分にそんな感情が芽生えることがあるのだろうかと。
〔好き〕という感情が。
『どうしたの?崇?』
七海を見つめながらつい自分の世界に入り込んでしまった崇は七海の声によって引き戻された。
「ん?いや、なんでもない!七海午後の試験はなんなんだ?」
『商業学部の必修だよ!崇は?』
「俺も学部の必修だよ!じゃあ午後は別々だな。」
少し残念そうな表情を浮かべる崇。七海もまた同じように少しだけ表情が曇る。
『そうだねー。ねぇ今日もバイト?』
「いや、今日はバイトは入れてないよ!」
『そっか!今日は何限まで?』
「えーっと、四限までだな。」
次々に飛んでくる質問の意図がいまいち分からない崇。当の七海は返ってきた答えに一つ一つうなずき
ながら反応し、何か言いたそうでなかなか言えないような様子だ。
「どうかしたか?」
とりあえず崇のほうから切り出してみた。すると七海は何か覚悟を決めたように崇をと視線を合わせてきた。
『その、よかったら一緒に帰らない?私も四限までだからさ。』
思わぬ誘いに崇の鼓動は急激に速度を増す。
「あ、あぁ。いいよ!俺車だから送ってく!」
『ホントに!?友達とか大丈夫?』
確かにこのあと昇と悠樹には会うし、いつもの流れならそのまま飯に行くくらいのことはするだろうが、この時の崇の頭の中からはあの二人は完全に消え失せていた。
「あぁ!あいつらは別にいつでも遊べるからな!七海こそ友達大丈夫なのか?」
『全然平気!!』
なんの躊躇もなく七海は即答してみせた。
「そ、そっか・・!じゃあ終わったら連絡して!」
『うん!分かったー!』
嬉しそうな顔をしてまた食事に戻る七海。もしかして七海も自分と同じ気持ちでいてくれてるんだろうか。それとも、奇跡的に出会えた話し相手に食いついてるだけか。
崇はそれを確かめる術を全く持っていない。ここはやはりあの二人の助けを借りるべきだろうか。しかしどうも気が引ける。特に悠樹の力を借りるのは・・・。
あれこれ考えていると、二人の携帯が同時に鳴り、崇には昇から、七海には学部内で仲が良いと言っていた一人の吉木 美香からそれぞれメールが入った。
『あ、友達がもう着いたみたい・・。』
七海は今日一番の残念顔を見せた。
「俺も一人着いたって。じゃあ一回解散するか。」
『そうだね。じゃあ終わったら連絡する!』
「あぁ!試験頑張れよ!」
『崇もね!』
二人は試験後に再会する約束をし、それぞれの友人のもとに向かった。
七海と別れたあと、崇は園庭で待つ昇と合流した。
「崇飯食っちゃったのか?一緒に食おうと思ったのにー!」
昇が大げさに落胆してみせる。
「あれだけ時間があったら食うだろ普通。お前こそ来るのはえーじゃん!」
「昨日また早く寝ちまったからさ!その分早く目覚めたんだ!」
「自信満々に言うことか・・。」
いつもの事ながら呆れた様子の崇。
「うっさい!てか一人で食堂で食ってたのか?珍しいなー!」
一人と言われ、思わずギクッとした崇だったが、特に隠す理由もない。
「いや、一人ってわけじゃなかったんだけどな・・。」
「えぇ!?も、もしかして昨日言ってた子か!?」
こういう時の昇は妙に勘が鋭くなる。
「ま、まぁな・・。」
「おーー、順調なんじゃねーかー!よかったなー崇ー!俺にも紹介しろよー!」
昇は嬉しそうに笑顔を浮かべながら崇の肩をバンバン叩く。
「まぁそのうちな・・。悠はまだなのか?」
「あぁ、まだ会ってないな!どうせ女のとこだろー。」
「試験中とか関係ないもんな。」
「誰の話をしてるのかなー??」
二人の後ろから悠樹が突然顔を出した。
「うわっ!急に出てくんなよ悠!!」
ニヤ付いた悠樹がしてやったりと言わんばかりの笑みを浮かべている。
「どーせまた人の悪口言ってたんでしょ?」
「いや、今までのお前の行動をもとに正確に分析した結果を話してただけだ。」
「で、その分析結果は??」
崇と昇はせーので分析結果を告げた。
「女のとこ!」
「正解☆」
二人は正解に喜ぶわけもなく、同時に深いため息を吐いた。
「まったく。とりあえず俺は喫煙所に行く。お前ら飯食ってこいよ!」
「なんだ崇は食べちゃったのか。」
悠樹も昇ほどではないが、落胆の色をみせる。二人とも崇のことが本当に好きなのだ。
「昨日言ってた女の子とな!」
「昇・・。漏らすのが早い。」
「いいじゃねーか!」
昇は当然のことのように悠樹に報告した。昇は真っ直ぐな性格のため、仲間うちでの隠しごとを嫌う傾向にある。
「そーなの!?崇もついに本気モードなんだね!」
自分でも整理がついていないため、否定も肯定も出来ずに困る崇。
「いや、まだよくわかんねーよ。」
この様子に悠樹と昇は敏感にアンテナを働かせた。
「これはじっくり話しを聞く必要がありそうでなー!悠さん!」
「そのようですなー!」
「お前らなー・・。」
と言ってみたものの、正直話を聞いて欲しいと思っていた。
「じゃあ試験が終わったら集まりますか!」
悠樹がノリノリで集まりを提案してきた。
「いや、悪いけど今日は無理だ。その、送っていく約束してるから・・。」
「マジでか!?」
「思ってたより進んでるねー・・!」
昇と悠樹は自分たちがこれまで見てきた崇から予想できないほど関係が進行していたため、驚きを隠せない。
「あ、あぁ。」
「試験終わったらちゃんと話すからさ・・!」
「うんうん!俺たちはいつでも待ってるからな!崇!」
二人は崇の肩をポンポンと叩き、それ以上は何も言わず、食堂へと歩いていった。
この二人のスタンスに崇は心の中で感謝した。まだ自分の中で整理が出来ていないこの気持ちを、どう表現したらいいのか崇自身がわかっていない。それでは二人に話しをしたところで意味はない。せめて、もう少し自分の中で確信が欲しかった。二人はそのことがわかっていたから、あえて多くを聞くことはなかった。崇もそれがわかっている。
(サンキュ・・!もうちょい待ってくれな・・!)
心の中で二人そうつぶやき、崇は喫煙所に向かって歩き出した。
一方のその頃。
「七海ー!」
ラウンジで手を振っている美香のもとへ七海は笑顔で歩いていく。
『早かったね!』
といつもの調子で手話を送る七海。
「うん!思ったより早く着いちゃって!七海ご飯食べちゃったんでしょ?」
『うん!』
「一人で食べるならメールくれればよかったのにー!」
『一人じゃないよ!』
「え!?一人じゃないって誰と一緒だったの!?」
基本的に七海は自分たち以外と行動しないことを知っている美香は、当然今日の七海は一人で過ごしていたと思い込んでいた。それゆえ一人ではなかったという言葉に驚きと好奇心が同時に舞い込んできたようだった。
(やばっ!つい口が滑っちゃった・・!)
質問にどきまぎしている七海を見て美香はすぐに感づいた。
「もしかして男の人!?」
(ど、どうしよう・・!)
顔を赤らめて困っている七海をみて美香は確信した。
そして嬉しそうに笑うと、七海を力いっぱい抱きしめた。
「ちょっとー誰よ誰よー!よかったねー七海ー!!」
抱きしめられている七海には美香がなんと言っているかは聞こえていないが、とても喜んでくれていることは伝わった。
「なーに二人して抱き合ってんの?」
そこにもう一人の友人。霧島 恭子が現れた。
恭子は高校を卒業後、一年間イギリスに留学していたため、七海や美香たちよりも一つ年上である。
一つだけしか変わらないが、恭子はとても落ち着きがあり、大人の女の色気を醸し出している。170近い長身にスレンダーなボディー。大学中の男どもの憧れのまとである。
一方美香は小柄な身体に幼さを残す顔立ちだが、上手にメイクされており、今時のとても可愛らしい子である。
それに七海が加わった三人もまた、崇たち同様学部を越えて有名だった。
「聞いてよ恭子ー!七海がさっきまで男とランチしてたんだってー!」
七海が慌てて美香を制すがもう遅い。
「何ですって!?どういうことなの七海!?」
恭子は七海を溺愛しており、まるで自分の娘のような感情さえ芽生えている。
その可愛い七海が自分に黙って男とランチをするなど言語道断なのである。
必死にとりつくろうとするが、テンパっている七海は思うようにいかず、しかも手話でなければならないため、うまく伝えることが出来ない。
「ちょっとこっちきて座りなさい七海!」
恭子は七海の手を引き、ラウンジの奥へと消えていった。
「あちゃー。ちょっと刺激が強かったかな・・。」
美香はちょっとだけ申し訳なさを感じながら、二人の後を追っていった。
「それで!どういうことなのかちゃんと説明してちょうだい!私に黙って男とランチなんて・・!」
ラウンジの奥で七海を座らせ、恭子の追及、いや取調べが始まった。
『食堂でお昼一緒に食べただけだよー・・。』
「立派なランチじゃない!どこの誰なの!?」
はたから見ると交際を見られた女子高生がスパルタママに説教を受けているようにしかみえない。
『人間総合学部の人・・。』
七海はドンドン小さくなっていき、逆に恭子の声のトーンはドンドン上がっていく。
「名前は!?どこでどうしてそうなったの!?」
「ちょっと恭子・・。落ち着いて・・。」
見かねた美香が間に入るが恭子の興奮は一向に冷めない。
「これが落ち着いていられる!?もし変な奴だったら・・」
『そんなことない!!』
七海は力強く否定してみせた。
こんなに自分の意見をはっきり言う七海を見たのは初めてだった。思わず言葉を失う。
「七海・・。」
『彼は・・ちゃんとしてる人だよ・・。』
恭子は冷静さを取り戻し、落ち着いた口調で質問を続けた。
「それで、名前はなんていうの?」
「名前は、黒崎 崇君。昨日日本文学の試験で知り合ったの・・。」
「昨日!?昨日知り合ってもうお昼一緒にしたの!?七海が!?」
『うん。昨日の夜メールでいろいろ話して、今日同じ試験だったからお昼でもどうかなって・・。』
「七海から誘ったの!?」
美香も黙ってられず恭子の問いに乗っかる。
『うん。』
自分たちが知っている七海では考えられないほど積極的な行動をとっていることに、二人は言葉を失った。
これまでの七海は男性に対して積極的に行動するなど皆無だった。
もともと耳が聞こえず、手話が出来なければろくに会話もすることが出来ないため、寄ってくる男性は極端に少ない。
さらに引っ込み思案な七海の性格上男性と進展があることは今まで一度もなかった。
大学内で授業でのディスカッション等以外で七海が男性と話しているのを見たことがない。
それが、昨日知り合った男性とメールを交換し、翌日にはランチを一緒にするなど、二人にとっては天変地異にも似た事件だったのだ。
『そ、そんなに驚かなくても・・。』
「いや、驚くでしょ・・!七海が積極的に男と関わりを持つなんて・・!」
「試験で知り合ったって具体的に何があったの!?」
七海は迷った。声が聞こえたからなどと言っても信じてもらえないだろう。
でも二人に嘘をつきたくはない。言うべきだろうか。
崇が協力してくれたら声が聞こえるということが証明できる。でも・・。
『席が隣同士になって、素敵な人だなーって思って話しかけただけだよ・・。』
七海は今はまだ話すときではないと思い、二人には秘密にすることにした。
心の中でごめんと呟く。
「驚きの連続だねー!七海にもそんな勇気があったんだねー!」
「まったくよ・・。開いた口がふさがらないわ・・。」
『私だって、男の子に興味くらいあるよ・・!』
七海は精一杯の虚勢を張ってみた。元来嘘が下手な七海はなんとか二人に秘密がばれないように頑張った。すでに天変地異クラスの現象が起こっているため、恭子と美香が七海の嘘を突いてくることはなく、すぐに話しは次の段階に入っていた。
「ちゃんと私たちにも紹介しなさい!」
『ま、まだ紹介するような関係じゃないし・・。』
七海はバタバタと手を振りながら懸命に恭子の猛追を回避しようとする。
「そういうことじゃないの!もしもこの先のことを考えてるんだったら、私たちがしっかりチェックしとかなきゃいけないんだから!」
『なんでそうなるの・・?』
「なんでも!」
最早理屈ではなかった。恭子は強引に七海を納得させる。
『わかったよー。』
「あ、恭子!そろそろ試験始まっちゃうよ!」
「え、もうそんな時間!?七海、この話はまたあとでするからね!」
(助かったー・・。)
三人は一旦話を止め、試験へと向かった。
そして四限が終了し、崇は七海にメールを打った。
<こっちは終わったよ!準備が出来たら駐車場に来て!>
いそいそと帰り支度をしている崇に昇と悠樹が声をかける。
「じゃあ、頑張れよ!崇!」
昇と悠樹は笑顔で激励し、先に帰っていった。
(頑張れといわれてもなー・・。)
崇は帰り支度を済ませ、駐車場へと向かう。歩いている途中で七海から返信が届いた。
<了解☆今から向かうね!>
崇がそのメールを見てからすぐに後ろから七海の声がした。
『崇ー!』
恭子と美香の追及をなんとか回避した七海が小走りで崇のもとへとかけてくる。
「同じタイミングだったな。」
『うん!試験どうだった?』
「余裕だな!七海は?」
『私もバッチリ!』
この二人のやり取りを恭子と美香は影からまるでストーカーのように観察していた。
そして一つの疑問にぶち当たる。まず美香がその疑問を指摘した。
「ねぇ、あの二人手話使わずに会話してるよね・・?」
「た、確かに使ってないわね・・。どういうことかしら・・?」
二人は疑問を抱えたまま二人の後をつけていく。そんな二人には全く気づかず、崇と七海は駐車場に向かう間手話なしで会話を続けた。
「そういや七海の家ってどこなんだ?」
『上新町だよ!』
「結構遠くから通ってんだなー!いつもは電車?」
『うん!一時間半くらいかなー。崇は?』
「俺は国川!」
『じゃあうちとは反対なんだねー。送ってもらっちゃっていいの??』
「大丈夫だよ!大学経由しなければ一時間くらいで着くし!」
『ありがと☆』
駐車場についた二人は崇の車に乗り込み、七海の自宅に向けて発進した。
残された恭子と美香は七海があんなに楽しそうに男性と話をしているのを目の当たりにし、
なんとも言えないモヤモヤしたものを感じていた。そして一番気にかかることは・・。
「やっぱり手話使ってなかった・・。」
「うん・・。」
二人が手話を使わずに会話をしていたこと。何を話していたかまでは分からなかったが、二人は確かに会話をしていた。一見すると崇が一人で喋っているようにも見えるが、七海の表情から明らかに会話が成立しているように見えた。いったいどういうことなのか。
この時の二人には、七海がどこか遠くに行ってしまうのではないかという不安が募っていた。
七海の住む上新町は、大学から車で一時間ほどの場所にある閑静な住宅街である。
大学を中心に、崇と七海の家はちょうど三角形を描くような位置関係になっている。
よってお互いの家までの所要時間も1時間程度である。
七海は車内で今日あった恭子と美香とのことを話した。
「愛されてんだなー・・。というかなんか小姑みてーだ・・。」
話を聞いた崇は苦笑いを浮かべる。
『今までこういうことなかったから・・。まさかここまでとは思ってなくて・・。』
「だろーな!ハハハっ!」
『笑いことじゃないよー!恭子は怒るとすっごい怖いんだからねー!』
つい先ほどまで説教を食らっていた七海にとっては笑い事じゃない。
「話聞いてるだけでなんとなくわかるよ!実は俺の方も似たようなことだあったんだ。
まぁあいつらはそっちみたくしつこく聞いてくるような奴らじゃないから助かってるけど。」
『そうだったんだ。どうする?いっそのこと試験終わりで顔合わせしとく?』
「まぁ一度で済むなら手っ取り早くていいかもな!ただ試験終わりはちょっとな・・。」
明らかに何か含みのある受け答えをする崇。当然七海もその様子に気付いく。
『なんか予定入ってる?バイトとか?』
「いや、そうじゃなくて。その、もし出来たら、試験終わったあと二人で飲みに行きたいなーって・・。」
『えっ!?』
車内が一瞬にして緊張に包まれる。
「いや、無理ならいいんだけど・・!」
場の空気を感じとった崇はすぐに一歩引く。
『ダメじゃない!私も出来れば二人の方がいい・・。』
心の声とはいえ、自分でも驚くほど反射的に大きな声が出てしまった七海は顔を赤らめ、そのまま下を向いてしまった。崇も思わぬリアクションに言葉を詰まらせ、二人の間に淡い沈黙が流れた。時間にすると数十秒、二人の時計に合わせると数分間の沈黙の後、意を決して崇が切り出した。
「そ、そしたら夏休みに皆で集まることにしようか!予定も合わせ易いだろうし!」
『そ、そうだね!明日二人に言ってみる!』
「俺も言っとくよ!」
『うん!』
これ以上の沈黙は身体に悪いと思ったのと、出来るだけ早く話を進めたいと思った崇は、間髪入れずに二人の初デートの話題に入っていった。
「飲みはどこがいい?七海の家の近くの方がいいよな?」
『でもうちの回り住宅街だから何にもないよ?』
「じゃあ隣の駅にしようか!中新町ならいろいろあるだろ!」
『そうだね!私その日は三限で終わりなんだけど、崇は何限まであるの?』
「俺は四限まであるんだ。先に行ってるか?」
『ううん!崇が終わるの待ってるから一緒に行こ♪』
「わかった!じゃあ終わったら連絡するよ!」
『了解ー☆あー、早く試験終わらないかなー!!』
二人はその後も七海の家に着くまでいろいろな話しをした。七海は兄弟はいず、両親との三人暮らしということだった。幼い頃から耳が聞こえない七海を心配して、過保護になる面もあるが、それでは本人のためにならないと、最近ではいちいち何かを言ってくることはないそうだ。おかげで結構のびのびと出来ているらしい。渋滞もなかったため、予定通り1時間ほどで七海の家に到着した。
『送ってくれてありがと!』
「あぁ!明日も頑張れよ!」
『うん!夜メールしてもいい?』
上目遣いで何かお願いや頼みごとをしてくる七海は特別可愛い。崇は高鳴る鼓動を必死に抑えて平常心を装ったが、込み上げる感情を押さえつけることは不可能だった。
「もちろん!待ってるよ!」
最高の笑顔で返答する。
『じゃああとでね!気をつけて帰って!』
「あぁ!んじゃな!」
崇はナビを自宅へとセットして車を発進させた。夜、約束通り七海からメールがきた。
明日も朝から試験があるため、今日は早めに寝るということだった。
二人は何通かやりとりし、明日に備えて崇も0時過ぎには床についた。
翌日、崇と七海はそれぞれの友人に夏休みに集まらないかと提案した。
皆もちろん快諾し、後日日程の調整をすることになった。
恭子と美香は昨日の二人のやり取りが気になっていたが、尾行していた手前聞くに聞けず、夏休みの集まりで真相を確かめようと思った。
この日崇と七海はお互いの友人と1日を過ごし、会うことはなかったが、この会わないたった1日の時間が、二人の気持ちを大きく発展させることになった。
明日はいよいよ試験最終日。初めてのデートが待っている。
この夜も二人はメールのやり取りをしていたが、メールが終わってからもなかなか寝付く事が出来なかった。
そして試験最終日。
この日二人は同じ試験がなかったため、昼食を一緒に摂ろうということになった。
七海の提案で、前に言っていた大学近くにあるとんがら亭というラーメン屋に行く事になった。二限の授業が終了後、二人は正門前で待ち合わせをし、歩いて五分ほどの所にあるとんがら亭に向かった。
『なんか緊張してきた・・。』
「ラーメン屋行くのになんで緊張するんだよ!」
『だ、だってさー・・!』
七海は緊張からみるみる顔がこわばっていく。
これからラーメンを食べようというのに七海の胃はキリキリと悲鳴を上げる寸前だった。
そんな七海が面白くて仕方ない崇。
七海の心の準備が出来ないまま、とんがら亭がすぐ目の前に姿を現した。
「大丈夫だって!ほら見えてきたぞ!」
大学を出て、一本路地に入ったところにとんがら亭はある。
カウンター席が10席、店の外にテーブル席が二つといったこじんまりとした佇まいだ。
クセの無いとんこつ醤油のラーメンで、王道の味を崩さず懐かしい味わいである。
崇たちは入学当初から通っており、今ではすっかり名前も覚えられ、常連となっていた。
12時を過ぎたばかりであったため、まだ席は空いている。
「ういっすおやっさん!」
崇は慣れた様子で暖簾をくぐり、店長に挨拶をする。
「おー、崇!今日はずいぶん可愛い子連れてきたじゃねーか!彼女か?」
「そんなんじゃないよ!同じ大学の子で倉石 七海だ!」
照れくさそうに七海を店長に紹介する。
七海もペコっと頭を下げるが、強面の店主を目の前にして緊張はピークのようだ。
「よろしくねー!七海ちゃん!」
二人はカウンター席に座り、ラーメンを注文した。
七海は興味深深の様子でラーメンの工程を眺めている。
5,6分で出来上がり、出されたラーメンを見ると、全部のせのスペシャルラーメンになっていた。
「これスペシャルじゃん!いいの?」
「あぁ!お前たちにはひいきにしてもらってるしな!それに七海ちゃんが可愛いからよー!」
「サンキュー!いただきます!」
(七海が可愛いからだってさ!)
食べる前に七海にこそっと伝える。七海は顔を火照らせ店主にペコっと頭を下げた。
二人は店長のご好意がたっぷり入ったスペシャルラーメンを腹いっぱい堪能した。
七海には少し量が多かったが、せっかくサービスしてくれたからと、頑張って完食した。
「ごちそうさま!ありがとね、おやっさん!」
『ごちそうさまでした!』
七海も心の中でお礼を言う。
「おう!また来てくれなー!」
二人は店主にお礼をいい、店を後にした。
「どうだった?」
『すっごい美味しかったー!店長さんもいい人だったし!』
「言った通りだったろ?」
『うん!やっぱり人は見かけじゃないね!でもお腹パンパン!』
七海はお腹をさすりながらやや苦しそうな表情を浮かべる。
「よく食べれたなー!」
『頑張っちゃった!頭働くかなー・・!』
「眠くなりそうだな!」
二人は大学へ戻るわずかな帰り道でも会話を弾ませ、大学に戻ってからも、試験ギリギリまで会話を楽しみ、それぞれの試験会場へと分かれていった。
今日の三限、四限は共に昇、悠樹と同じ試験だ。
三人はいつものように固まって試験を受け、そして四限の試験の終了と共に、前期の全日程が終了した。
学生たちはそれぞれ皆思い思いの表情を浮かべている。
「あーやっと終わったー!!」
「昇はどーせ補講があるでしょ?」
試験が終わった開放感に浸り、おもいっきり伸びをする昇に、悠樹がニヤニヤとふっかける。
「うっせー!まだそうと決まったわけじゃねー!」
「いや、今のうちから覚悟しときなって!」
「いちいちうっさいんだよお前はー!」
二人がじゃれている中、崇は七海にメールを打った。
<終わったー!どこにいる?>
荷物をカバンに入れながら返信を待っていると、すぐに七海から返信がきた。
<お疲れさま☆今はラウンジにいるよ!どこ待ち合わせにしよっか?>
<ラウンジに行くから待ってて☆>
七海に返信を済ませ、カバンを手に取る。
「じゃあ俺行くは・・!」
昇と悠樹には今日七海と飲むことを伝えてある。
「おぅ!頑張れよ!」
「しっかりね!」
二人からの激励に感謝しつつ、崇は小走りでラウンジへと向かった。
崇の後姿を昇と悠樹は感慨深げに見つめる。
「さてどうなるかね。」
「上手くいくよきっと!昇も今夜空けといてよ!多分呼び出しがあるから。」
「わかってるよ!」
走り去る崇に二人は無言でエールを送った。ラウンジに到着すると、七海が手を振って待っていた。崇はすっきりした笑顔で七海のもとへ歩いていく。
「お待たせ!」
『お疲れさま!どうする?ちょっと早いけど。』
二人が同時に時計を確認すると、時刻は午後4時半を回ったところだった。
「んー、でも電車で1時間くらいかかるから行っちゃって大丈夫じゃないか?」
『それもそうだね!じゃあいこっか♪』
「あぁ!」
二人は駅に向かって歩き出した。大学から駅までは歩いて10分ほどの距離にある。そこから中新町までは一度乗り換えて約1時間で到着する。
電車に乗り込み、ちょうど二人分空いている席に座るととりあえず中新町にある店を調べることにした。
隣同士に座り、崇の携帯で店を調べていたため、自然と二人の電車が揺れるたびに身体が触れ合う。七海の身体が自分に触れるだびに、崇の鼓動は高鳴った。意識し過ぎだと自分に言い聞かせるが、直接的な触れ合いは否が応でも意識してしまう。
『あ、この店なんかいいんじゃない?』
「ん、あぁそうだな!」
何故か普段よりも七海の声はクリアーに聞こえていたが、それどころではなかった。
店を決めると早々に携帯をしまい、話題を切り替える。
「七海は普段何呑むんだ?」
『サワーとかカクテルが多いかな!ワインも好きだけど!崇は?』
「俺はビールと日本酒だな!」
『日本酒好きなんだー!じゃあ相当強いんだね!』
まるで尊敬するかのように崇を見つめる七海。
「まぁそこそこな!」
まんざらでもない崇は余裕の笑みを浮かべた。楽しい会話が弾んでいるときは時間が経つのが早い。あっという間に目的地である中新町に到着した。
二人は電車の中で決めておいた「アラカルト」という店に向かった。
中新町の駅から10分ほど歩き、裏通りに入ったところにあるこの店は、リーズナブルな値段に加え、酒の種類が豊富であり、日本酒、焼酎、ワイン、各種サワー、カクテル等あらゆる酒が置いてあるのが自慢だ。時刻はちょうど午後6時に指しかかろうとしていた。開店時間が6時であるため、二人は本日最初の客であった。
薄暗い照明に、ムードのある音楽が流れ、大人の雰囲気が漂うこの店は、隠れ家的な要素を意識して作られている。そのため、ネット上でも口コミしか載せられていなかった。
広さもそれほどなく、カウンター席が10席、その奥に個室に区切られたテーブル席が3つしかない。この時間でなければすぐにいっぱいになってしまうのだろう。
二人は店の奥の個室に通された。
『いい雰囲気のお店だね!』
「そうだな!悪くない」
「先にお飲み物お決まりでしたらお伺いします」
店員に促され、七海は慌ててメニューを開く。
「俺は生で。七海は?」
『んとー、生グレープフルーツサワー!』
七海はメニューを指差す。崇はそれを見るフリをして注文する。
「かしこまりました」
他に客がいないため、注文した飲みものはすぐに到着した。
崇は七海のグレープフルーツを絞り、サワーに入れてあげた。七海は嬉しそうにその様子を眺めている。
『ありがと!』
「さ、じゃあとりあえず乾杯するか!」
『うん!』
『「カンパーイ!」』
二人のグラスが甲高い音を立てて優しく響く。
『おいしー☆』
崇はジョッキの半分を夏の乾きと試験が終了した開放感と共に一気に飲み干す。
「生き返るー・・。」
『崇おじさんくさいー!』
言葉とは裏腹に、七海は崇のなんとも言えない表情をみてどこか幸せな気分になれた。
「ほっとけ!何食べる?あんま腹空いてないだろ?」
『お昼がっつりだったからねー。おつまみになるもの適当に頼もうか!』
「そうだな!じゃあボタン押してくれ!」
『はーい!』
崇は店員を呼び、サラダやら軟骨のから揚げやら串焼きやらを適当に注文した。
料理はどれも一工夫されており、見た目も味も満足のいくものだった。
酒も入っているせいか、二人の会話もいつも以上に弾んでいる。
話題は明日からやってくる夏休みへとシフトしていった。
「七海は夏休みどうするんだ?」
『恭子たちと海に行く約束してる!』
「七海たちも行くのか!俺たちも海行くんだよ!」
『そうだんだ!でもまだ水着買ってないんだよねー。』
一瞬で崇は七海の水着姿を想像した。
透き通るような白い肌を太陽の光が燦々と降り注ぐ綺麗な姿。大き過ぎず小さすぎない胸が水着によって持ち上げられ、溢れんばかりに谷間を作り、長くしなやかな足に引き締まったウエスト。まるで空から舞い降りた天使のようだ。
『崇??』
思わずにやけそうになったところを七海本人の声によって現実に引き戻される。
「ん?あ、いやなんでもない・・。」
『もしかして今私の水着姿とか想像してなかった・・??』
「ま、まさか・・!」
否定はしてみたが、バレバレである。
『崇のエッチー!』
「お、俺はただ可愛いんだろーなーって思っただけだよ・・!」
思わず普通に本音が出てしまった。七海にもそれが伝わったようで、急に顔を赤らめる。
『あ、ありがと・・。』
「いや、どういたしました・・。」
訳のわからない会話になってしまい、一瞬の沈黙が流れる。次の瞬間目を合わした二人は噴出して笑っていた。
「で、海にはいつ行くんだ?」
『8月の11日だよ!恭子が車出してくれるの!』
七海がウキウキした表情で予定を語る。それを聞いた崇の表情に変化があった。
「11日!?場所は!?」
『ちょっと遠出して下田の方まで行ってみようってことになってるけど。どうして?』
「俺たちも同じ日に下田に行くんだよ!」
崇は声のトーンを上げ、目を丸くして自分たちの予定を告げた。
『ホントにー!?わぁー、すっごい偶然だね☆』
「まったくだ・・。」
少し怖いくらいに二人の予定が重なっていた。そして七海から更なる驚きの提案が出される。
『ねー、どうせなら一緒に行かない??』
「え!?」
突然のことに思わず聞き返してしまった。流れで言っているだけかと思ったが、七海の表情はマジだ。しかし、崇たちは現地にある悠樹の別荘に一泊する予定である。さすがにそれは無理だろうと思った崇だが、正直七海と泊りがけで海に行けるかもしれないという機会をミスミス失うというのも気が引ける。とりあえずこちらは泊りであるということを伝えて、リアクションを見ることにした。
「いや、でも俺ら泊まりだぞ・・?」
『そうなんだ。泊りかー。私たちは日帰りなんだよねー。』
案の定落胆の表情を見せる七海。しかし、ここからが七海の本領発揮だった。
『民宿かなにかに泊まるの?』
崇が悠樹の別荘に泊まるということを告げる。
『すごーい!恭子もお金持ちだけど、下田に別荘は持ってなかったなー。』
そしてこの後、七海はひたすら羨ましい、私も行きたい、崇連れてってオーラを出し続けた。本人的には意識してやっていることじゃない。心に思っていることをそのまま素直に表現しているだけだが、崇に対してこの攻撃は何よりも効果絶大だった。
「ダメもとで聞いてみたら?こっちとしては来てもらっても構わないと思うから。」
崇は七海の思いに誘導させられるように歩みよっていく。そのチャンスを七海も見逃さない。
『ホントに!?でも大勢でいって迷惑にならない?』
「部屋は有り余ってるから大丈夫だよ!」
『そうなんだ!じゃあ、二人に聞いてみるね!』
七海の思惑通り、崇側のOKをいただき、あとは二人に託す形となった。
崇もまんざらでもない様子で、昇と悠樹のことなど初めから頭になく、まぁ大丈夫だろうと楽観視していた。そして動き出した七海の本領は更に加速していった。
『そうだ!ねぇ崇!お願いがあるんだけど・・。』
「なんだ急に?」
七海は急に姿勢を正したかと思うと、崇から一瞬目線を反らし、あの上目使いを発動させた。
『一緒に水着買いに行ってくれない?』
「はぁー!?」
突然の爆弾発言に思わずむせこんでしまった。
「い、いきなり何言ってんだ!友達と買いに行けよ・・!」
『そのつもりだったんだけど、もし一緒に海行くなら崇に選んで欲しいなって・・。ダメかな・・??』
崇はこのおねだりモードの七海に完全に掌握されている。しかも今日の七海はアルコールが入っているせいか色気まで放っており、拒否という二文字は跡形も無く消滅した。
「い、いや。別にダメじゃないけど・・。俺でいいのか・・?」
『うん!崇に選んで欲しい!』
普段ならこのような大胆なことを言えない七海だが、今日はアルコールも入っており、二人きりという
特別なシチュエーションも手伝って何の躊躇もなくはっきりと自分の思っていることを伝えることが出来た。
そして今の崇はなすがまま、受け入れることしか出来なかった。
「わ、わかったよ。付き合います。」
『ホントに!?ありがとー☆』
七海は目をキラキラさせ、両手を胸の前で組み、全力で喜びを表現した。
「海に着ていくんだから急がないとなー。いつ空いてる?」
『私はいつでも大丈夫だよ!バイトもしてないし!崇の予定に合わせる!』
「じゃあ明後日は?」
『うん!大丈夫!』
「じゃあそうしよう。」
『はーい☆あ、せっかくだからこの日に皆で集まれないかな?』
「どーだろーなー。」
次から次へと先の予定をねじ込んでくる七海。さすがの崇も急すぎる予定に難色を示す。
『聞くだけ聞いてみようよ!今メールしちゃうね!』
「あ、あぁ。じゃあ俺も・・。」
七海に流されるまま、崇は慌てて携帯を取り出す。崇と七海はそれぞれの友人にメールを送ると、全員5分以内にメールの返信が帰ってきた。皆この二人の動向にアンテナを張っていたため、異常に返信が早い。答えは全員OKである。
こうして明後日お互いの友人を交えた飲み会が開催されることになった。傍から見れば完全に合コンである。
「こんなに話がスムーズに進むとは・・。」
『ホントだね!じゃあ私たちは水着を買ってからそのまま行く感じでいいよね?』
「あぁ。そうだな。」
『なんか急に緊張してきちゃった・・。』
「どんな評価が下るかかなりこえーな・・。」
自分たちがセッティングしたにも関わらず、二人共々先行きの不安にややテンションが落ちてしまった。しかし、その落ちたテンションも七海の一言ですぐに元に戻った。
『でも、先に予定があると楽しくなるね☆』
「そうだな!」
二人はその後も時間を忘れて飲み、食べ、お互いのことを話した。確実に二人の距離は縮まり、崇は自分の気持ちに答えを出すことが出来た。あっという間に3時間が過ぎ、七海のことも考え、この日はこれで帰ることにした。二人は会計を済ますと、駅に向かって歩き出した。崇はまだまだ余裕だったが、七海の方はかなり酔いが回っているようで、フラフラと崇のあとを付いていく。
「大丈夫か七海?」
『ウン☆ダイジョウブだよー☆』
「片言になってるじゃねーか・・。」
『キモチイイねータカシー♪』
七海は腕ヒラヒラさせ、クルクルと周りながら歩いてくる。
「おいあんまりフラフラ歩くなよ!危ないぞ!」
『ダイジョウブ、ダイジョウブー☆キャッ・・!』
「危ないっ・・!」
言ってるそばから七海はよろけて転びそうになった。咄嗟に崇は七海を抱きとめる。
初めて触れた七海は思っていたよりも軽く、そして温かかった。
「だ、大丈夫か・・?」
目の前に七海の顔が迫る。赤らんだ七海の顔は月に照らされとても綺麗だった。
『う、うん・・。ありがと・・。』
今ので一気に酔いが薄れた七海だが、無意識に崇の服を掴んでいた。
「だ、だから気をつけろっていったんだ・・!」
『ご、ごめんなさい・・。』
「ほら、つかまって。」
『う、うん・・。』
七海は崇の腕を掴み、そのまま歩き出した。
二人の間に会話はなかったが、二人の周りには幸せな空気が流れていた。
崇は七海を自宅近くまで送っていった。
『送ってくれてありがと。明後日楽しみにしてるね!』
「あぁ。それじゃ。」
崇はとぼとぼと駅まで歩きながら、携帯を取り出し、悠樹に電話をかけた。
<もしもし?どうしたの崇?>
「あ、あぁ。今七海を家まで送ってきたとこなんだ。」
<そっか。お疲れ様!どうだった?>
「あぁ。今から出てこれるか?」
こうなることを予想していた悠樹は、事前に昇にも連絡をとり、すでに二人は一緒にいた。
崇の現在地を聞き、昇と二人で車に乗り込み、崇のもとへと急ぐ。40分後、悠樹と昇が上新町に到着し、崇と合流した。
「悪いな。こんな時間に。」
崇は神妙な面持ちで二人の前に立つ。
「気にするなって!で、話って!?」
「あぁ。俺・・、七海が好きだ。どうしたらいい?」
二人は嬉しそうな笑みを浮かべる。
「OK!とりあえずうちに行こうか!飲みながらゆっくり話そう!」
「賛成!!」
「頼む・・!!」
三人は悠樹の家に向けて車を発進させた。
その頃、七海もまた、恭子、美香を呼び出していた。
「どうしたの七海?こんな時間に?」
「あの人のこと?えっと、崇君だっけ?」
『うん。私・・、崇のことが好きなの。どうしたらいいかな??』
二人は七海の真っ直ぐな告白に正直驚いたが、七海の真剣な表情に決意を固めた。
「任せなさい!私たちが力になるから!」
「うん!どーんと構えてなって♪」
『ありがと・・。』
お互いの気持ちを知らぬまま、響き合うように二人の想いは走り出した。