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第2話

 病院からの帰り。

 僕は、裏山の芝生の上で、寝転がっていた。

 この場所は、僕が小さい頃から良く来ていた場所で、とても居心地が良い場所だ。

 僕は、学校の帰りや休日等、暇があればいつもここに来る。

 人も全く来ないし、風通りは良いし、芝生は気持ち良いし、そして何より、ここから見える町景色が良い。

 ただ、1つ欠点があるとすれば…

「アオアオアオアオ!」

 犬である。

 こいつは、ここまでも付いて来る。

 本当、僕の何が好きなんだろうな、こいつ…。

 僕には、何も無いと思うけどな。

 しかし、こいつも裏山に来ると、何故か大人しくなるようで、僕の隣で『おすわり』をしながら景色を眺めている。

「…はぁ、それにしても今日は、色々あって疲れたな…」

 僕の独白を聞いてかどうかは分からないが、犬がこちらに顔を向けた。

 全身茶色の、ミニチュアダックスフント。

 本当、何でこんなのが野良犬なんだろう。

 鳴き声が変だから、捨てられたのかな?

 しかし思えば、こいつのお陰で僕はコレを手に入れられた様なものだ。

 ふむ、そこはしっかり、感謝させてもらおう。

 …。

 ……。

 チートツールを手に取る。

 せっかくこんな広々とした空間にいるのだから、良い機会だし、色々と試してみるか。

 よし…まずは『Flower』。

 フラワー?花?

 まぁいいや…、ポチっとな。

 …。


 ぽん、と。


 僕の目の前に、ぽん、と花が咲いた。


 それだけ。

 …うん、一応補足説明をさせて貰うと、この花は牡丹と言って美しい…って何だよこのチート!

 何だよ、花が咲くだけって!一体、何の意味が!?

 それとも、まさかこれは幻の花…!?

 …。

 いや、普通に牡丹だし。

 うん、普通の花だわ。

 

 気を取り直して、次は『Stand』。

 スタンド…胸が高鳴る響きだな、やっぱりスター○ラチナとかザ・ワー○ドとか…!

 ふふ、これは期待できそうだ。

 よし、ポチっとな!

 心を躍らせて、意気揚々とボタンを押した。

 …。


 がこっ、と。

 

 僕の目の前に、がこっ、と電気スタンドが落ちてきた。

 

 …うん、補足説明をさせて貰うと、このスタンドは電気スタンド、勉強をする時とかに…って、何だよこのチート!

 何だよ電気スタンドって!一体、何の意味が!?

 それとも、これは伝説のスタンド…!?

 …。

 いや、普通に電気スタンドだし。

 うん、一応貰っておこう。

 コホン。

 次のチートはこれ!『SecretArea』!

 シークレットエリア…、秘密の場所…。

 秘密。

 の場所。

 誰も足を踏み入れたことの無い、僕だけが知る前人未踏も秘密のエリア!

 …やるしかないな!ポチっとな!

 …

 ひゅん、と。


 紫色の空。

 そびえ立つ山々。

 禍々しい洞窟。

 淀んだ空気。

 見たこともない巨大な鳥が群れを作り空を飛んでいる。

 そう、ここはまるで別世界、言うなれば魔界。

 なるほど!シークレットエリアとは魔界のことなのか!

 いやぁ、魔界に瞬間移動するチートだなんて、すげぇや!

 まさに、魑魅魍魎!

 まさに、前人未踏!

 まさに、空前絶後!

 まさに、前代未聞!

 愉快愉快、愉悦愉悦、魔界へのピクニック!



 即座にオフにした。

 いやいや、怖すぎるって。

 もう2度とこのチートは使わない。

 はぁ…、さて、次の1個をやって、終わりにするか。

 これ以上無闇にチートを使って、地雷を踏むのも嫌だしな。

 魔界とかもそうだし、他には魔界とかあるし、まぁ魔界とかもあるな。

 要するに、もう魔界はトラウマです。

 次。


 『Ba☆na☆na』。


 目に見えていた。


 地雷臭がプンプンするわ!

 バ☆ナ☆ナじゃねーよ!

 バナナじゃねーよ!

 誰が使うか、こんなチート!

 

 

 使った。

 …。


 つるん、と。


 突然僕の足元にバナナの皮が現れ、僕は滑って頭を思いっきり打った。


 …『DefenseMAX』がオンになっているから良かったものの…!!

 再び深いため息をついた後、『SpeedMAX』(速さを最高にするチート)をオンにして、家に帰った。


 そして、次の日の朝。

「あれ…?チートがオフになってる…?何でだろ…?」

 確か、昨日はチートをオンにしたまま寝たはずだが…。

 …まぁいいか。

 試してみた所、またオンにすれば異常なく(異常なのだが)効果を発揮するので、特に問題では無いだろう。

 結局オフになった理由は分からないが、正常に使えるというのならそれで良い。


 僕はこの時、特に深く考えるようなことはしなかった。

 


 今日もまた、とても良い天気で、とても晴れ晴れとしていた。

 こういう天気の良い日は何か良いことが起こるだろう。

 が。

 しかし。

「アオアオアオアオアオ!!」

 …ちっ。

 やれやれ…、今日も来たか…、本当に物好きな犬だなぁ。

 だが、ふふ。

 見てろよ犬め…、今日の僕は、速さが違うぜ、速さが!!

 『SpeedMAX』をオンにする。

 瞬間、景色が高速移動を始め、犬を置き去りにする。

 ただ歩いているだけなのに、自転車を追い抜き、車を追い抜く。

 まだ試したことは無いが、全力で走ったら相当の速さが出ることだろう。

 というか、他の人から見たら、高速移動中の俺ってどういった風に見えてるのだろうか…。

 目の錯覚とでも思うのだろうか?

 それとも、『高速移動する人間』として噂で広まってたりして。

 学校に到着。

 この間、わずか20秒。速すぎる。


 昼休み。

 またまた例の如く、僕は自分の席で、一人で昼食をとっていた。

 高速移動の件については、特に噂は広まっていない様だった。

 残念なような、安心したというような…。

 …。

 黙々と箸を進めていると、ふと、昨日病院で出会った少女のことが頭に浮かんだ。

 今頃どうしているだろうか。

 元気にしているだろうか。

 それとももう、退院しているというのもあるかもしれない。

 うーん、気になってきた。

 放課後、病院へ寄ってみるか。

 


 そして、放課後、病院。

 

 僕は、冷や汗を掻いていた。

 呼吸が乱れている。

 心臓が高鳴っている。

 かなりの早歩きで、受付で聞いたとおり、手術室へ向かう。

 手術室の前に用意されている椅子に、1人の女性が座っている。

 昨日出会った、少女の母親である。

 かなりやつれていて、今にも死にそうな顔をしていた。

 こちらに気付いていない様だったので、「あの…」と声をかけると、彼女は肩をビクッとふるわせて、こちらを向いた。

「あ…昨日の…学生さん…」

 今にも消え入りそうな、か細い、うめき声とも取れてしまう様な、そんな声だった。

 僕は彼女の隣に腰をかけて、状況を聞いた。

 彼女は、答える。

「昨日…、手術の前検査で…、突然『異常無し』と診断されたんです…。私もレントゲン写真は見たんですけど…、腫瘍は確かに消えていて…」

 僕は、懸命に耳を傾ける。

「お医者さんも…、とても不思議がっていて…、『とりあえず1日様子を見てみましょう』とお医者さんは仰って…、でも、急に、今日の朝、家に『緊急事態だ』と電話がきて…」

 僕は。

 そんな、僕は。

 確かに、そんな。

「すぐ家を飛び出て…、病院に着いたら娘は手術中で…、お医者さんに聞いたら、癌が突然再発したらしくてっ…!」

 段々と、語尾が強くなっていっているのが分かる。

 彼女の目には、涙がたまっている。

「癌はかなり進行してたみたいで…!!お医者さんは『覚悟をしておいてください』って…!!私はもう、わけが分からなくてっ…!!!」

 彼女はそう言って、声を上げて泣き始めてしまった。

 …。

 ……。

 そんな。

 確かに、僕は、確かに僕は、昨日、チートを使って、少女を、僕は、確かに、僕は。

 再発…?

 突然…?

 癌…?

 手術…?

 覚悟…?



 チート…?


 僕は確かに少女にチートを使わせた事実少女の癌は一時的に消えた一時的だとずっと消えるんじゃないのか突然癌が再発したチートの効力が消えたのかいや消えたのは癌のはずだが実際少女の癌は再発した僕が余計なこ

とを中途半端に軽い気持ちで後先考えずにしたから普通に治療していれば恐らく治っていたそんな僕はそんなつもりじゃ僕は悪くない僕は何もしていない僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は

僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は


 僕は……。

 ………。

 ……。

 …。

 …そうだ。

 そうだ、チートを使えばそんなもの、一発で解決じゃないか。

 そうだよ、今からこの手術室に入って、チートを使えばそれで万事解決じゃないか。

 そうだった、昨日確認したチートの中に、他人のHPをMAXにするチートがあったじゃないか。

 そうと決まれば、うん、手術室に入らないと…。

 手術室の前に立つ。

 

 その時。

 突然、手術室の扉が開いた。

 中からは、白衣を纏った、1人の医者が出てきた。

 医者は、僕を押しのけて、少女の母親の前に立った。

 そして医者は、こう告げた。



「残念ですが…」



 しばらくの沈黙の後、少女の母親は、医者に掴みかかって、何かを言っている。

 聞こえない。

 僕にはもう、何も聞こえない。

 頭が真っ白。

 僕は無意識のまま、病院をあとにした。


誤字脱字等がありましたら、ご指摘いただけると幸いです。

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