表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある旅人の話  作者:
2/2

#クロ

 

  とある路地裏で、

 少女は、旅人に出会いました。


 旅人は黒いレザーパンツに、黒いYシャツをきっちり着込んで帽子もブーツも真っ黒でした。


 旅人は、薄黒い壁に寄りかかって、足元を見ながらタバコをくゆらせているようでした。

 ようでしたというのは、旅人の前髪が目元と顔の半分を覆い隠しているからです。


 生まれて一度も日を浴びたことがないのかと思うほど白い肌に、

 本で見るようなブロンドの旅人に少女はちかよりました。


「どこから来たの?」



 旅人は、顔も向けずに答えます。


「この町から来たんだよ」


 少女は言いました。


「そう、旅人さん、あたしのお兄ちゃんにそっくりね」



 旅人は、やっと少女に目を向けました。

 その瞳は、たった今も建物の隙間からのぞく、青空にそっくりでした。


「お兄ちゃんは目も髪も黒かったけどね」


「お兄さんの……名前は?」



「……忘れちゃったわ」

「……そう、残念だね」


「10年位したら、思い出すかもしれないけれど」


「……」


 旅人は、ふっと笑ってまた下のようにタバコの煙を吐き出しました。

 まるで、記憶を入れ替えるみたいに。



「それじゃあ、僕と町を出ようか。君が思い出したら、君を殺すことにしよう」


「町から出るの」


「そう、町から出るんだ」



 先日10歳を迎えたばかりの少女は、少しも迷うことなく旅人に返事をしました。


「そうね、思い出すまで旅人さんと旅をするわ」



「そう? それはよかった、ところで、君の名前は?」


ヘイよ」


「……奇遇だね、僕も、ヘイっていうんだよ」



 少女と旅人はしばし沈黙しました。



「困ったね」


「……それじゃあ、あたしがヘイで、あなたがクロでいいじゃない」


「それじゃあ、僕が猫みたいじゃないか」


「あら、そんなの偏見だわ。クロって名前の人に失礼よ。それに、

 あたしの家の猫はシロだわ」



 旅人は、前に出会った人間のことを思い出しました。



 ――彼も、僕のいうことなんて、ひとつも聞いちゃくれなかったなあ。



 旅人が、その人間のことを思い出すのは、とても久しぶりでした。





 旅人は、影みたいな格好のまま、

 真っ黒な長い髪をなびかせる少女と路地出ました。


 明るい路地にでても、旅人は影みたいなままでした。



 この街では、昔から茶髪と茶色の瞳をもった人が普通でしたから、

 旅人と少女はいささか目立ちます。


「これをかぶってるといい」

 旅人は、自分のかぶっていた黒い帽子を少女にかぶせようとしましたが。

 ふと思うことがあり、帽子を深くかぶり直しました。


「どうしたの?」


「いや、僕が目立っちゃうなと思って。」


 帽子をかぶっていても、旅人の格好と、帽子からのぞく金色の髪は目立ちましたが、少女はそれを言いませんでした。


「それに、この帽子を脱ぐと死んじゃうんだ。」


「……? どうして?」


「前にこの帽子をかぶってた人がそうだったからだよ」



 それだけ言うと、こんどこそ旅人と少女は

 街を出るまで無言でした。







「だいたい、お兄ちゃんがいけないのよ。まったく、あなたも大変だったわね」


 旅を始めてから、何年か経ったある日、少女が旅人に言いましたが。


「お兄ちゃんの最期は、どんなだった?」



 ……それはまた、


 別のお話で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ