ある少年の物語
第二章「無いものと有るもの 4」読了推奨。
(さらに第三章のくろの騎士シリーズまで読了していると登場人物が分かりやすいです。)
本編の中ではすでに終わっていた、シメオン少年が登場するまでに至った諸々の騒動の話です。
ざっくりした内容ですが、通常の二話分くらいの長さがあります。
ファムさんも精霊もほぼ関わってこないのでわりとシリアスです。
でも第一章や第三章や出てきた人物も少しだけでてきます。
要するに、本編の補足的なものです。
2018/02/28:文言に少し手入れをしました。内容に変化はありません。
僕がライナが行方不明だと知ったのは彼女がいなくなってから三日も経ってからだった。いつものように寄宿学校からライナとサヴァ兄ちゃんの住む家に行こうとしたら、先生に引き止められて、教えられた。
「どうして黙っていたんですか」
「言えばこうして探しに行こうとするからだ。今は騎士団にいるあの子の兄が探している」
「サヴァ兄ちゃんはいつも騎士団の仕事が忙しくて中々家に帰れてないはずです。なのに動いてるってことはライナが本当に危ないからじゃないんですか」
僕は縄で縛られて教員室に転がされながら、先生を見上げた。
「大丈夫だ。彼女はきっと見つかる。だから君は学院に入ることに集中するんだ。いいね。しばらくそこで自分を落ち着けなさい」
先生はそう言うと僕を残して教員室の鍵を閉め、どこかへ行ってしまった。
僕は目を閉じて深呼吸をする。
震えそうになる身体を出来る限り落ち着かせて、薄級の精霊を呼び出し“探知”と“遠耳”の精霊術を発動させる。
校舎内で教師が集まっている部屋を探した。さらに集中して、耳をすませると、声が聞こえてきた。
「おお、戻ってきたか。どうだったシメオン君は」
「あの子があんなに錯乱するなんて初めてだ。いやはや、一晩で落ち着いてくれるといいんだが」
「あの青嶺国の学院に入れそうな一番の有望株だからな。このまま頑張ってもらいたいものだ」
「いなくなったのはあの変な病を抱えた子でしょう? きっと例の団体に目を付けられたんじゃない? 可愛そうにねぇ」
「どうも兄も行方不明になっちまったらしいぞ」
「あの騎士の兄さんがか。仲の良い兄妹だったんだがなあ。うちの生徒はまだ被害がでてないんだろ? 早く騎士団が捕まえてくれると願うしか無いな」
もう役に立ちそうな情報はないな。
精霊術を切ると縄をほどいて扉の施錠の法術を解いて出た。そのままサヴァ兄ちゃんが働いている騎士団駐在所に向かう。
何人か知っている顔の騎士の人たちがいて、その中心にうずくまるようにして座るサヴァ兄ちゃんがいた。
「兄ちゃん!!」
いつもは厚着をして肌を隠しているのに、薄着で、土と傷だらけになっていた。
そして、その腕の中には塵まみれの毛布にくるまれたライナがいた。
「ライナ!」
人ごみをかき分けて必死に触れた。ライナの力なく垂れた手は水のように冷たかった。
「シメオンか。学校はどうした」
「もう放課後だよ! ライナと兄ちゃんが行方不明ってきいて来たんだ」
「大丈夫だ。無事だ」
ライナの顔は青白い。意識もない。
「ライナはどうしたの? ねえサヴァ兄ちゃん、ライナはどうして起きないの!」
「落ち着けシメオン。ライナには治療が必要だ。俺達はこれから青嶺国へ行く。あちらの方が医療も進んでいるから絶対に治る。だからおまえは勉強に集中するんだ。いいな」
僕は返事をしたのだろうか。めったに見ない兄ちゃんの必死な顔つきと、目を覚まさないライナの姿が頭の中でぐるぐるまわって、気がついたら兄ちゃんたちはいなくなっていた。
「竜槍め、潜入作戦とは危険なことをする。あとでうちが睨まれたらどうするんだ」
「あそこに関してはもう国も放置している状態だからな」
ぼうっとしていたらふと冷たかったライナの手を思い出して、震えが止まらなくなってきた。しばらく経って落ち着いてきて兄ちゃんたちを追おうとしたら、騎士団の人たちに止められた。
「先ほど国全土に緊急警報がでた。しばらく国外に出ることは禁止だ」
ライナを助けるために兄ちゃんと仲間の騎士達が秘密組織に潜入して、犯罪の証拠を見つけることができた。けど上からの圧力がかかって逮捕できないので、騎士団はしかたなく国境を封鎖することで逃げ道を塞ぐ手段に出たらしい。兄ちゃんの同僚の騎士の人がそう教えてくれた。
サヴァ兄ちゃんはそうなる直前に検問を突破して、最後は騎竜のゲオルギに乗って強引に国境を越えたらしい。
「あいつは剣を返したらしい。あれだけの腕があったってのに、惜しいな」
騎士が剣を返す。つまりは騎士を辞めるということ。
「青嶺国の大空騎士団の知り合いを頼ったらしいから、悪いことにはならないだろう。お前も学校へ戻れ」
騎士団の人に促されて戻ろうとしたけれど、学校の門のあたりから進めなくなってしまった。
地面も街も空もなにもかもがぐしゃぐしゃで、何が何だかわからない。
気がつくと僕は学校の医務室に運ばれていた。倒れていたのを発見されて運び込まれたらしい。
寝台に寝かされて、眠れないけれど起き上がることもできない。
することがなくて、僕は眼を閉じてライナのことを考える。
ライナが居なくなる前、最後に会った時にした会話はなんだったか。確か僕はまた小言を言われていたんだっけ。
「シメオン! 大丈夫なの? また勉強に夢中でご飯食べてないでしょ。今度忘れたら十日間ピーマンだからね。前みたいにゲオルギの所に持って行ったら、三倍の量なんだからね!」
君の方が大丈夫じゃないじゃないか。
また体調を崩しているのに、僕の事心配してばかりで!
「兄さんは丈夫だから放っておいても平気だけど、シメオンは心配になるから」
君の身体、治療法が無いんだよ?
「あと夜食用にマフィン沢山作ったから、持って帰って寄宿学校で食べてね」
彼女はいつも僕の心配ばかりしていた。
僕は孤児だ。
気がつけばライナとサヴァ兄ちゃんと同じ村にいて、孤児院で暮らしていた。その頃から身体の弱かったライナと年の近い仲間がいなかった僕は他に遊び相手を見つけられなくて、いつも一緒に遊んでいた。
村が襲われた時も一緒だった。
孤児院の先生も仲間たちもライナの家族も、間に合わなくて結局誰も助けられなかったけれど、僕はライナを守ることができた。
そしてライナは僕を守ってくれた。最後まで、僕が血まみれになってもライナはずっと一緒にいてくれた。
村を逃げ出したあとは森の奥の洞窟にずっと二人で隠れていた。サヴァ兄ちゃんが騎士団の人と助けに来てくれるまで、ずっと。
サヴァ兄ちゃんはライナと一緒に僕も引きとってくれた。
兄ちゃんが村に帰省するたびに会っていたし、僕が兄ちゃんを恐れないと知ってよく遊んでくれたから、家族のように思ってくれたのかもしれないし、僕がライナから離れなかったのもあるかもしれない。
村での体験の記憶で僕らの心身はおかしくなった。ライナは言葉を話せなくなって、僕は体の感覚と自分の感情を忘れてしまった。
ライナは毎日暗い顔をしていたし、僕は僕でずっとふわふわとした霧の中で生活しているようだった。苦しくはなかったけど、自分が何なのかもわからなくなっていたし、わずかに働く正常な部分でなんとか生きている状態だった。けれど、触覚や味覚や喜怒哀楽を忘れてしまっても、僕はライナの傍にいる事には変わりなかった。
あの時、街のサヴァ兄ちゃんの家に住むようになって半年ほどたって、少しずつ言葉を使えるようになっていたライナが僕に言った。
「あのね、シメオンが、いつも手を繋いで、安心させてくれるから、私、また言葉を使えるように、なったんだよ。だから、私、シメオンの心が、元気になるまで、ずっと、傍にいるから。大丈夫なんだから」
僕が初めて取り戻したのは、繋いでいたライナの手の柔らかさだった。
言葉は取り戻したけれど、ライナの体調は年々酷くなっていった。彼女の身体が消えかける奇病は誰もが原因がわからないと言い、どの医者に見せても諦められてしまった。
僕は時々寝込むライナの看病をした。
ライナの消えかけた部分は麻痺したような感覚になるらしい。そして理由もわからず体が消えかけるという不安と恐怖。時には痛みもあるらしい。
彼女はそれに黙って耐える。唇をかみしめて寝台の上でじっとしている。身体の半分が透けているのを見られて窓の外から石を投げられた時も、欠けた部分を包帯で隠して外に出て奇異の目で見られた時も、ライナはじっと耐えていた。
サヴァ兄ちゃんは騎士団の仕事が忙しくて、月に数える程度しか家に帰ってこない。騎士団の中でも特に危ない仕事が多い部署にいるらしい。
それでもサヴァ兄ちゃんが家にいるとライナは安心して、とても喜ぶ。兄ちゃんもライナが寝込んでいるときはなるべく家に帰ってくるし、ずっと傍にいる。
あの二人の間に僕が入ることは出来ないけれど、二人は僕を受け入れてくれているから、それで満足だった。兄ちゃんがいないと、ライナの笑顔は時々どこか無理をしたものになるから。
ライナを元気づけたくて、もっと笑顔になって欲しくて、僕は必死になって笑顔を思い出した。僕が笑うことでライナが笑ってくれて、そして僕は嬉しいという気持ちを取り戻し、涙を流すライナのために怒りと悲しみの気持ちを持てるようになった。
僕はライナの傍でしか泣かなくなった。
どんな目にあって何を言われても、嬉しくても悲しくても悔しくても、ライナの傍以外では決して涙は出てこない。どうしてだかは気にならない。ライナの隣にいられるのなら、僕はそれでいい。
ライナは髪を褒めると一番喜んでくれる。
「私この綺麗な髪があるから身体のこと言われても平気。父さんと母さんが褒めてくれた自慢の髪だから」
ライナの自慢は髪だった。腰まである長い髪は綺麗な緑色をしていて、いつもは濃い緑なのに昼間の光でみるとちょっと黄色がかって見えたり、朝の光だと薄青くかがやいて見えたりする。不思議な色の髪。
彼女の強がりなのかもしれない、僕を安心させるための方便かもしれない。でもライナは毎日髪を大切に手入れしていた。
体調が悪くて起き上がれない時は僕が手入れをしている。最初は断られたけど、何度か頼んだら触らせてくれるようになった。僕が櫛ですくと、ときどきくすぐったそうに笑うんだ。
街の女の子がしている三つ編みを頭に巻き付ける髪型をしてあげた時は、何度も鏡をみて、照れくさそうに笑ってくれた。ライナにはいつも笑って欲しい。
でもライナの体の病気は年々酷くなって、笑顔も減っていった。
僕は試験を受けて街の学校に通うようになった。
勉強は面白くって、夢中になっていたら国一番の寄宿学校に通えるようになった。学費も援助金が出た。そこでたくさんの事を知って、僕には目標ができた。そのためになら三人で一緒に暮らすことができなくなって、三日に一度しかライナに逢えなくなっても我慢できた。
ライナの体を元気にしたい。
隣国の青嶺国の王立学院にいけば、そういった事を研究できると大人たちが言っていた。そして頑張れば、僕はそこに行けるかもしれないと。
このまま順調にいけば、なんの問題もなかった。
「おいシメオン、学校はどうした」
「抜けてきました」
「お前な。青嶺の学院入試はそろそろなんだろ? あそこに行けば身分は保障されるし、身寄りのないお前でもいい仕事に就けるんだぞ」
「ライナがどうなったのか心配なんです」
兄ちゃんの友達の騎士の人はため息をついて、暗い顔で僕を見た。
「仕方ない。口止めされていたんだが……教えよう。彼女はもう助からないらしい」
ここで気を失っては駄目だ。指に力を入れて、手のひらの肉に爪を食い込ませて意識を保たせる。
「……そう言えば僕が大人しくなると?」
「違うんだ。サヴァから手紙が来たんだが、攫われていた間にかなり病状が悪化したらしい。青嶺国でもいまだに治療が見つからないそうだ。サヴァは諦めないつもりらしいが、正直、もう治療法が発見されても間に合うかどうか分からない状況らしい。周りはもう駄目だと思っているよ」
世界から音が消えたように感じた。
何がライナを連れて行こうとしている?
目の前の人間たち?
攫った組織?
「いいかシメオン、これは事実だ。受け止めろ。そして自分の未来に集中するんだ」
ライナがいない未来ってなんだ? そこにいったい何の喜びがあるんだ?
僕は走った。
がむしゃらに走りに走って、いつの間にか見慣れない路地裏にたどりついて、思い出したように荒い呼吸をしていると、物影で緑色の外套を着た集団が女の子を捕まえて袋につめているのを見た。
気がついた時にはそいつらを叩きのめしていた。
それからそいつらの脳を法術で覗いて組織の施設の場所を聞き出すと、片っ端から潰していった。潰した先からまた別の施設の情報が出てきたので、それも潰し、連鎖的にいろんな部署を探し出して潰しては情報を得て、また次の部署を潰していった。
簡単だった。単純作業のくりかえしだ。気に食わなければ徹底的に破壊したし、めんどくさくなればそのまま最寄りの騎士団の駐屯地に放り込んだ。以前本で読んで知った、周囲の気脈や自分の命脈を体力や筋力にかえる方法を使って、ほとんど休むことなく動きまわれた。
ライナを捕まえていた奴らもみつけた。なんだかしらない研究の、意味もわからない実験記録も見つけた。
見た瞬間、破壊した。何もかも。
僕からライナをうばうものは全て消す。
『消して消して、消してもライナは戻ってこないんだぞ』
そうささやきかける僕と
『なら全てを消してしまえばいい』
と、暴れまわる僕がいた。
彼女がいないと、僕は世界を感じられなくなる。それは純粋な恐怖だった。足元に穴があいて、いつ自分がそこに落ちてしまうかわからない。落ちればきっと二度と戻る事はない。だけどその時は戻れなくなっても構わないと思っていた。
ライナがいないのなら、何もかもに意味はない。
あらかた組織を潰しまわって、ついでに邪魔だった貴族とかの癒着も、国家間の裏の関係も、全部引っ張り出せるだけ引きずりだして、やることがなくなると、すべてがどうでもよくなってしまって、青嶺国から来た派遣部隊に投降した。
僕は危険人物として拘束され、そして牢に入ってようやく国の状態を知った。
その頃には追い詰められた秘密組織がなりふり構わず表立って活動していて、国の騎士団が他国と協力してそれを鎮圧するために正面衝突をしていて、さらにその中で僕が好き勝手に暴れたから、収集がつかない状態になっていたらしい。
僕は取り調べを受ける中で人間じゃないとか、生きた災厄だとか色々言われたけれど、もう色々どうでも良かった。けれど、そこで青嶺国に行ったサヴァ兄ちゃんが、ライナを助けるために海の向こうへ旅立っていたことを知った。
部隊の中にいた紺色の髪の騎士が教えてくれた。
「あの男からの伝言だ『心配するな』だとよ、坊主」
サヴァ兄ちゃんはいつも言葉が足りないんだ。情報が足りなくて何をどう心配したら良いかわからないんだよ。
なによりライナがどんな状態なのか分からないなんて、心配するしかないじゃないか。もしかしたら今もどこかで苦しんでじっと耐えているかもしれない。そう思うと落ち着かなくなって、僕はまた暴れた。
牢の中で暴れていたら、部隊を率いてきた青嶺国の王子と一緒にいた、白金色の髪を持つ凄腕の法術師がどうしてだか牢にやってきて根気よく話を聴いてくれた。
なんでも法術師にはずっと探している人がいて、緑閑国の秘密組織にいるかもしれないから調べにきたのだという。結局その探している人は見つけられなかったらしいけど、力を貸してくれて、処刑される寸前だった僕を国外追放措置にして、生き延びさせてくれた。
そしてどこからともなく一匹で帰って来た竜のゲオルギを登録抹消扱いにしてくれて、僕につけてくれるよう緑閑国に働きかけてくれたのも彼と青嶺国の王子だった。
「あいつがここまで赤の他人に気を配るのは珍しい。お前に似たものを感じて同情したのかもな」
青嶺国の王子はそう言っていた。
あとでその法術師は白箔国の王だと教えてもらった。王様だけど、忙しい仕事の合間をぬってわざわざ、というか無理やり緑閑国まで来たらしい。
彼は別れ際に指の先くらいの小さな金色の石ころのようなものを渡して来た。発動した場所を記録して、あらかじめ設定した場所まで飛んで行くという、簡単だけれどかなり精密なつくりをした人工精霊だ。
「これを持って行ってください。そしてもし、くろやみ国、もしくは闇の国にたどり着いたら空へ放りなげてください。それで発動します」
「お前まだ例の国の事諦めてなかったのか」
彼の隣に立っていた青嶺国の王子が驚いたように言った。
「たどれる手は何でも使いますから」
彼の目は兄ちゃんの目に似て力強かった。
「いいよ。もしたどり着けたとして、詳しく調べなくていいの?」
それくらいの恩がえしをしたいくらい、この人達には助けられた。
「ええ。あとは自分でやります。あの人を失ったのは私の責任ですから」
そう言って彼は水平線の向こうを見た。
「会えると良いね」
「君も」
ゲオルギの好きなように海の上を飛んでいると、案の定兄ちゃん達のところにたどり着くことができた。思ったとおりだった。だってゲオルギは元気いっぱいで、とても楽しそうにまっすぐひとつの方向をみて飛んでいたんだもの。
荒野しか無い島の、荒れ果てた港を目指すと、元気なライナがいた。笑顔で駆けてくるライナが!
あの毛布の中で冷たい身体でいたライナが、血色の良い肌で、しかも満面の笑顔でこちらに向かって手を振っていたので、僕は一瞬、自分がゲオルギから墜落して、気がつかないうちに死んでしまったのではないかと思った。でも僕の知らない人や、見たことのない上級精霊もいたし、僕が国でやったことを知ったサヴァ兄ちゃんに無茶をするなと怒られたので、現実だとわかった。
ライナや兄ちゃんたちがいたのは彼が言っていた国だった。そこの女王さまはとても優しい人で、陽だまりのようにあったかい人だった。彼の探し人はもしかしたらと思ったけど、どうやらどちらにも事情がありそうだし、ライナの恩がある国だから深くは探らないことにした。
身体が元気になっても、ライナは傷だらけだった。
純白の羽根はとても綺麗だし、小さな銀色の角は可愛い。ライナも気に入っていると言っていた。
でも彼女の長い髪はばっさりとなくなっていた。あれだけ大事にしていた自慢の髪が。ライナはなんともなさそうな顔で邪魔だから切ったと言ったけど、僕は組織の研究資料庫で彼女の髪を見ていた。番号が書かれた麻紐でくくられて、無造作に棚の中に置かれていた。
僕の知らない所できっと沢山泣いたに違いない。それがとてつもなく悔しかった。
「確かにあそこで勝手に切られた時はとても悲しかったけど、もういいの」
ライナの瞳は一瞬陰り、それからきらきらと輝きだした。
「シメオン、私この国で頑張って生きてく。この身体、ファムさまに助けられたんだよ。見て、こんなに元気になったんだから!」
そう言ってライナは僕の両手を握る。とてもあったかくって、力強い。
僕はずっと伝えられなかった言葉を、顔が赤くなるのを感じながら意を決して言った。
「ライナ、君がこの島国で暮らすなら、僕も一緒だ。僕、ライナが大好きだ。ずっと一緒にいよう」
離れ離れになって思い知らされた。僕はライナのことが好きでたまらないんだ。
ライナは握ったままの手を握手するように振りながら答える。
「うん。私もシメオンの事大好きだよ。兄さん達と一緒にファムさまを支えていこうね」
「ギュー」
僕達の横からゲオルギが顔を突っ込んで鼻先をライナになでつける。
「くすぐったいよゲオルギ。もちろんゲオルギのことだって大好き! ずっと一緒だからね」
そう言ってライナは笑ってゲオルギの固い皮膚で覆われた顔をぐりぐりとなでた。こんなに明るく笑うライナは初めて見た。
……うん。
ずっと一緒にいて、もうちょっと大きくなってから、分かってもらおう。
今はこれで、十分に幸せだ。
余談:紺色の髪の人は第三章の闘技場でサヴァ兄さんと槍で闘ってたケセルです。実は顔見知りだった。
余談2:裏のタイトルは「某王様が頑張ってる姿をチラ見せ」