銀色のものがたり (第一章読了推奨)
本編 第一章を読了後に読む事をお勧めします。
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ワタシが生まれたとき、すでにこの国には人間がほとんどいませんでした。そしてワタシの成長が落ち着く頃には、精霊もほとんどいない状況になっていました。
そしてとうとうこの大地にはワタシと、今はベウォルクトという名になった闇の精霊が残ったのです。
ワタシは人間の定義の仕方では特級と言うタイプなのですが、特級精霊は生まれてしばらくは誰とも会わず、ひっそりと世界を学ぶのです。どう学ぶのか、ファムさまにわかるようにうまく言葉では説明が難しいのですが、精霊の世界というのがあって、そこで大きくなるまで過ごすのです。
そして成長した特級精霊は、たいていどこかの国に所属します。これは精霊の世界での決まりで……ええそうです。ベウォルクトも特級精霊ですよ。
ああ、先日助けてくれた大地の精霊は一等級の精霊です。
人に似た姿をしているのは一等級以上、
それ以外の姿で意思疎通が出来るものが二等級、
さらに意思疎通が難しいものが三等級、
そして姿も形も不確かなものを薄級といいます。
ちなみにすべて人間側が決めた定義ですから、ワタシやベウォルクトは全ての精霊と意思疎通ができます。
成長してから過ごした数百年は、あまり記憶に残っていません。ベウォルクトと会話した回数もそうないし、お互い城のどこかで過ごして数十年会わないなんてのもよくあることでした。会話する用事がなかったのです。
ベウォルクトは、ワタシより遥かに長い年月を過ごし、この国に沢山の人がいた頃の事も知っています。ですが全ては過去の事。過去の情報はワタシも『生まれた時からすでに知っています』ので、ワタシはベウォルクトに昔話をせがむ事などありませんでした。
あの頃の事は……そうですね、すぐに思い出せる範囲ですと、城の設備の点検や、国に生えている涸草を数えて過ごしていましたね。
それからまた時が経ち、気がむくと世界中の精霊達からくる情報を眺めていたワタシは、ふと、この国の王をよそから連れてくる事を思いつきました。
何かを思いつくなんて久しぶりの事でした。もしかしたら、生まれて初めてだったのかもしれません。
ワタシはその思いつきに興奮し、さっそくベウォルクトに相談しました。ベウォルクトもワタシの考えに同意し、どのような人物がふさわしいか話してくれました。
そしてワタシはベウォルクトに国の管理を頼み、生まれて初めて国の外に出て、王になってくれる人を探しました。
すべて手探り状態からでした。
知っているのと実際に見てみる事はまったくの別物でした。人間のたくさんいる街に驚き、闇の属性を持つ人を見つけては声をかけようとしましたが、緊張してしまい、落ち着いて声をかけられるようになるまで百五十年ほどかかりました。それからその土地の言葉で話しかけることに気がつくまでに五十年。会話が成立するまでに二百年ほどかかりました。
いやあの、ずっと立ちっぱなしという訳ではないですよ。
定期的に国に戻っていましたし、適正に合った人が生まれるまで待つ事もありました。
闇属性で、気脈を扱えるというだけでも数十年に一度生まれるかどうか分かりませんし、かつ元気のある方で、この国の王になってくれそうな人物というのは、本当になかなか見つかりませんでした。
そしてようやく、ファムさまに出会う事が出来たのです!
ファムさまはとても素敵な方です。
ワタシに新しい姿をくれましたし、身体もあったかくてやわらか……わっ!
「枕投げないで下さいよ」
「アンタが変な事言出すからよ! そして避けないでよ!」
「ファムさまが昔話をしろと言ったんじゃないですか」
「もう、寝るわ!」
そう言ってファムさまは毛布を引き上げ、しばらくすると本当に寝入ってしまった。
ワタシは床に落ちた枕を拾い、ベッド脇のテーブルにそっと置いた。
「本当に、来てくれてありがとうございます、ファムさま」
あなたがいなくなるという事に対して、ワタシは恐怖を覚えるようになりました。
治療中に装置が誤作動を起こした時も、今回も……
実は、ベウォルクトと話し合った結果、体内がすっかり落ち着くまであえてずっと眠ってもらっていたのですよ。
こんなことは、もう二度とあってほしくないですから。
あの男は邪魔です。ファムさまの心を、意思を乱します。できれば消してしまいたいです。
白箔国のが守っていますが、頑張ればワタシひとりでも対処できるでしょう。
けれど……消せばファムさまはワタシを許さないでしょうね。きっと枕を投げるどころでなく怒るのでしょう。
ベウォルクトにも軽率だと注意されました。
ワタシは眠るファムさまに触れた。
肌に触れると、呼吸している、生きている事がわかる。
ワタシの声に答えてくれた人。願いを受け止めてくれた人。
人間の命は、とてももろい。
ワタシのすべてをかけて守ります。
どうか、幸せになってください。
ワタシのたったひとりの王なのだから。
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ちょっと設定の補完っぽい内容なので番外編に分けてみました。
例によって詳しい後書きは活動報告ページに書いてます。