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ショートショート劇場    :約3000文字

作者: 雉白書屋
掲載日:2026/07/19

 チャラチャラ チャチャチャ チャラチャラ チャチャチャ……。

(チャチャラ チャラチャラ チャンチャンチャン)




1.【成績】


 夜、とある家のリビング。父親は食卓の椅子に腰掛け、息子の通信簿を目の前に広げていた。読み進めるにつれ、その表情はみるみる険しくなっていった。


「まったく、なんなんだこの成績は。もっとちゃんとやりなさい。成績を上げて上げて上げまくるんだ!」


 苛立ちを抑えきれなくなった父親は、通信簿をテーブルに叩きつけるように置いた。

 テーブルの脇に立っていた息子は後ろで手を組み、肩をすぼめてうつむいていた。

 だが、やがて小さく息を吸って、ゆっくりと顔を上げた。


「……でも、パパ」


「なんだ?」


「パパは支持率が下がったね」


「……ぬ、でも税収は上がったぞ」


「でも、僕のお小遣いは上がらないんだね」



2.【最新のAI】


 とある会社に最新型のAIが導入された。どんな質問にも答えられるという触れ込み。

 導入初日の朝。社員たちは、オフィスの中央に据えられた自動販売機ほどの大きさのコンピューターをぐるりと取り囲んだ。彼らの表情は、新しいおもちゃを与えられた子供のように期待に満ちていた。

 試しに一人の社員がおずおずと手を挙げ、簡単な質問を投げかけた。するとAIは一秒も経たないうちに答えを返した。その反応速度に室内は「おおーっ」とどよめきに包まれた。

 それを皮切りにして、社員たちは次々と質問を投げかけた。業務上の相談、歴史、雑学、なぞなぞ――どんな問いにもAIは即答し、そのたびに周囲から感嘆の声が上がった。


「じゃあ、おれの欠点は? わかる?」


 ある社員が冗談半分で尋ねた。

 AIは即座に答えた。


『人の話を鵜呑みにすることです』


 一瞬の沈黙ののち、当人を含めた社員全員が、やはり「おおー」と感嘆の声を上げた。



 3.【支持率】


 とある総理大臣。支持率は下がり続け、ついには七パーセントにまで落ち込んでいた。

 執務室には重苦しい空気が漂い、秘書は資料の束を胸に抱えたまま立ち尽くし、何度も口を開きかけては閉じ、言葉を選びあぐねていた。


「総理……」


 ようやく絞り出した声はかすれていた。

 しかし、そんな秘書とは対照的に、総理は椅子の背にもたれ、喉の奥でくっくっと笑った。


「総理……?」


「なーに。まだ九十三パーセントの人間が政治家を支持しているということだろう? みんな似たり寄ったりだというのにな」


 総理は肩をすくめて笑い、気楽な調子で続けた。


「総理の座を降りても議員はまだまだ続けられるさ」



 4.【問題ない】


「先生、記者たちが待ち構えています。こちらを……」


 秘書は緊張した面持ちで原稿を差し出した。しかし、政治家はそれを一瞥しただけで手のひらで軽く押し下げた。


「……原稿など必要ない。前と同じことを言えばいいんだろう」


「おお、覚えていらっしゃるんですね」


「ああ」


 政治家は小さく頷いた。


「“記憶にございません”だったな」



 5.【公約】


「子供手当五万円! 高速道路無料化! 消費税ゼロ! すべて、わたくしにお任せください! 本日はありがとうございました!」


 とある駅前。候補者が力強く拳を掲げると、集まった聴衆から一斉に拍手が湧き起こった。

 演説を終えた候補者は「ありがとう、ありがとう……!」と何度も頷きながら選挙カーへ戻っていった。ドアが閉まったあとも外からは拍手と声援がしばらく聞こえ続けていた。

 シートに深く腰を沈めた候補者は、ネクタイを緩めながら大きく息を吐いた。


「……先生。お疲れさまです」


「はいはい、お疲れ。明日の選挙区はどこだっけ……ん? どうしたの、浮かない顔して」


 秘書はためらうように何度か小さく首を傾げたあと、口を開いた。


「いえ、ただその……公約は本当に守れるのかな、と」


 候補者は一瞬きょとんとしたが、すぐに肩をすくめて笑った。


「ああ……“嘘をつかない”とは公約に書いてないでしょ」



 6.【裏金】


「ですから、裏金などというものには、私は一切関与しておりません」


 記者会見場。無数のフラッシュが瞬き、記者たちのざわめきが渦を巻く中、総理は落ち着いた表情で答えた。


「総理! ですが、名簿にはあなたの名前が記載されていたんですよ!」


「いいえ、ありません」


「総理!」


「だってほら、名字が違うでしょ?」


 選択的夫婦別姓法案がついに可決された。その記念すべき改姓第一号は、総理であった。



 7.【貧困調査】


A「あの議員の人、生理用品を無料配布するとか言っているけど、不倫したくせにどうしてあんなに女性の味方って顔ができるんだろう」


B「女性のことをよく知っているからだよ」



 8.【クリーンな政党】


「うちはクリーンな政党ですからねえ。ははは!」


 とある政党の代表は、集まった記者たちを前に胸を張り、自信満々にそう言い切った。

 一人の記者がおずおずと手を挙げた。


「ですが代表。不祥事を起こした秘書が先月自殺した件については、どのようにお考えでしょうか」


 代表はすっと笑みを消し、無言で窓際へ歩み寄った。そして窓を大きく開け放ち、くるりと振り返った。


「なに、風通しがいいだけですよ。はははは!」



 9.【人権大事】


「うちは人権を大切にしています!」


 とある政党の代表は、集まった記者たちの前で堂々と胸を張った。

 一人の記者がおずおずと手を挙げた。


「ですが……表で抗議に集まっている人々の中に、あなたの元秘書の姿があるようですが……」


 代表はすっと真顔になった。しかし、すぐに満面の笑みを浮かべた。


「でしょ? 人権を大切にしている証拠ですよ」



 10.【宗教団体との関係】


 ある党首が記者会見で力強く断言した。


「宗教団体との関係ですか? 一切ございません!」


 しかしその直後、記者たちが次々と声を上げた。


「ですが、あなたの選挙活動に特定の宗教団体の信者が動員されたという証言があります」

「票の取りまとめにも関与していたとの話も出ていますが」


 党首は少しも動じることなく、にっこりと笑った。


「彼らはわたくしのファンです」


「ファン……?」


「ええ。もし宗教団体の信者であるなら、おかしいでしょう。件の団体は一神教ですからね」




 チャラチャラ チャチャチャ チャラチャラ チャチャチャ……。

(チャチャラ チャラチャラ チャンチャンチャン)





 現代。人々にはもはや政策を読み込み、選挙演説に耳を傾ける力はなかった。

 タイムパフォーマンスという言葉がもてはやされていたが、その実態は理解力や集中力の衰退に他ならなかった。数秒でオチがつくようなショート動画が流行し、人々は画面を見つめながら指先を滑らせ、口元をわずかに緩めるだけの、まるで反射的に動く昆虫のような存在になっていた。

 その変化に目をつけない政党はなかった。

 各党はこぞって資金を投じ、SNSや動画サイトに大量の宣伝動画を流し込んだ。

 公約の実現など二の次。中身よりも目立つことが優先され、実績よりも演出が重視された。嘘で塗り固めた武勇伝や耳障りの良い言葉だけが切り抜かれ、何万回、何十万回と拡散されていった。

 ある党首は金色の扇子を振り回して滑稽な踊りを披露し、ある党首はこめかみに青筋を立てて陰謀論を熱く語り、またある党首は『無条件、無条件』という奇妙なリズムに合わせ、切れのあるダンスを踊った。

 もはやどれだけ人目を引くパフォーマンスができるかが、選挙の勝敗を左右する時代になっていたのだ。


 だが……そんな政党には『ノー』を突きつけるべきである。

 あなたは賢い。あなたは他の人とは違う。あなたこそこの国を救えるのだ。

 さあ、今こそ心進党に投票し、あなたの手で悪党どもを地獄へ突き落としてやろう!

 この動画に『イイネ』を押し、友達にも共有しよう!

 あなたと私で心を一つにし、新たな道へ進む!

 心進党! 心進党! 心進党! 心進党! 心進党!

 心進党! 心進党! 心進党! 心進党! 心進党!

 心進党! 心進党! 心進党! 心進党! 心進党!

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