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3 初任務

夜のショッピングモールは、死んだみたいに静まり返っていた。


電気は落ちていて、非常灯だけが薄く赤い光を落としている。


鬼の捜索と討伐。


それが今回の任務だ。


門倉が低く言う。


「館内は広い。分担する。紅羽は2階を捜索しろ。桃矢もだ」


「了解」


紅羽さんが返事をする。


僕も続く。


紅羽さんのほかに、鬼狩りが二人。


若い男が坂本。


年配の女が立花というらしい。


「紅羽さん達の足引っ張るなよ」


別れぎわに蓮が言った。


いちいちうるさいな。


僕は無視して、紅羽さんを追った。


止まったエスカレーターを、一段ずつのぼる。


ギシ、ギシ、と足音が響く。


紅羽さんを先頭に、僕、坂本さん、立花さんと続く。


2階は衣服店が並んでいた。


ガラス越しに、マネキンが立っている。


一瞬、人影に見えて心臓がはねた。


「……紛らわしいな」


坂本さんが小さくつぶやく。


「集中して」


紅羽さんが言う。


淡々としていて、落ち着いている。


その横顔を見ると、少しだけほっとした。


「こちら二階C区画、異常なし。これより奥へ進みます」


紅羽さんが無線で報告する。


『了解』


門倉の短い返答。


通信が切れると、また静寂が戻る。


しばらく進んだときだった。


ぬるり。


靴の裏に、いやな感触。


視線を落とす。


赤い。


血だ。


まだ乾いていない。


喉がひくりと鳴る。


鉄の匂いが、鼻をさす。


「警戒」


紅羽さんの声が、すっと落ちる。


刀に手をかける音。


僕もそれにならい、通路の奥へと進む。


一歩進むごとに、鉄と生臭さが濃くなっていく。


そして、シャッターが半分降りた店の前。


倒れている人影。


人間だ。


目が開いたまま、天井を見ている。


腹は裂け、血が広がっている。


その死体からは内臓がごっそりとくり抜かれていた。


「ひどい」


立花さんが息を飲む。


坂本さんが膝をついて確認する。


「死亡。時間は……それほど経っていません」


まだ、温かいのかもしれない。


僕は呼吸が荒くなる。


姉さんの最期が脳裏にうかんだ。


だめだ。


目をそらすな。


そう思って視線を落とすと、赤いしずくが点々と続いているのが見えた。


ぽた、ぽた、と奥へ。


鬼がいる。


間違いない。


「行くわよ」


紅羽さんは動揺しない。


獲物を追う目。


「……うん」


僕らは血の跡を追った。



血の跡は、大型スポーツ用品店へと続いていた。


シャッターは壊れ、入口が裂けている。


「慎重に」


紅羽さんの小さな声。


足を踏み入れた瞬間、また血の感触。


量が増えている。


そのとき、視界の端で影が動いた。


僕は反射的にあとを追った。


「待って」


立花さんの声がかかる。


「別行動は危ないわ」


わかってる。


それでも、消える前に追わなきゃいけない気がした。


「生きている人がいるかもしれない」


僕はそう言って、速足であとを追う。


立花さんは一瞬迷ったけど、ついてくるようだった。


店内の奥。


テント売り場。


そこに、うずくまっている影があった。


若い女だ。


キャップ帽をかぶり、顔が隠れている。


肩から血が流れている。


「……痛い」


かすれた声。


「……助けて」


涙がポロポロと床に落ちる。


「鬼が、鬼が襲ってきたの」


立花さんが小さく息を吐く。


「生存者だわ。負傷している。すぐに手当てをしなくちゃ」


刀をおさめて、近づく。


「……ありがとう」


女は弱々しく震えていた。


でも違う。


匂いが違うんだ。


懐かしくて、嫌というほど知っている匂い。


「待って」


僕は立花さんを止める。


「どうしたの?」


立花さんが振りむく。


そのとき、女の口元がわずかにゆがんだ。


――笑った!


本能が危険だと告げる。


僕は刀を抜きながら、叫ぶ。


「はなれろ! そいつは鬼だ!」


女の顔が裂けた。


口がありえない角度まで広がる。


「くく」


女鬼の爪が立花さんへのびる。


「っ!」


飛びこんで、刀ではじく。


同時に天井から影が落ちた。


棚の上。


吊られたテントの中。


三体、四体。


牙をむいた鬼が落ちてくる。


――まずい!


そう思ったとき、黒い影が横切る。


気づいたときには、鬼の腕が宙を舞っていた。


血が噴き上がる。


紅羽さんだ。


一太刀。


二太刀。


鬼の首が落ちる。


胴体が崩れる。


踏み込み、斬り、抜ける。


目が追いつかない。


紅羽さんの視線は、ただ次の標的を探して動く。


息が乱れていない。


足音もほとんどしない。


ただ、鬼だけが倒れていく。


まるで、鬼を斬るために作られた機械みたいだ。


あっという間に、残りは女鬼だけになった。


女鬼が後ずさる。


今度は演技じゃない。


足がもつれて、尻もちをつく。


「ま、待って、お願い、まだ死にたくない」


刀がふるわれる。


首がふわりと宙に舞う。


ごとり。


転がる。


店内に静けさが戻る。


僕らの荒い呼吸だけが残った。


紅羽さんは刀を払う。


「もう大丈夫だよ、桃矢君」


紅羽さんの優しい声。


その声を聞いた瞬間、僕は動けなかった。


鬼を斬る者。


もし、僕の正体が知られたら?


きっと、あの刀は――


僕ははじめて、ほんの少しだけ、紅羽さんを怖いと思ってしまった。


毎日一話書いていこうと思います。

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最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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