星空の下で
「ようやく見つけましたよ。セリフィア様」
丘の上、空は雲一つなく、風も吹いていない。まるで時間そのものが止まっているような、満点の星空の下。紅茶の入ったカップを傾け、優雅に楽しむセリフィアの横に現れた、若い女性が言う。
「見つかってしまいましたか」
「えぇ。大変でしたよ、探すのは」
セリフィアはやはり振り向かない。しかしそれは、声だけでそこに居るのが誰かは、初めから分かっているという証明でもあるのだろう。
「そろそろ何処にいるかくらいは話してもらわないと困るのですが......」
「忘れてました」
「そうだろうと思ってはいましたが......」
「見つけられたのです。それでいいでしょう?ミルシー」
何もよくはないと喉まで出かかったが、ミルシーは飲み込んだ。その代わりにこちらの苦労も少しは知ってくれと視線を飛ばすが、セリフィアはその視線を受けても紅茶を飲むことをやめない。
「まぁ......もういいです。ところで、何を見ているのですか」
「貴方も見ますか?」
「えぇ」
セリフィアが指を鳴らす。直後、空間が揺れ、投影されたのは二人の青年の様子であった。
「この二人は、人類ですよね?」
「そう」
「......今度は何をするのですか」
ミルシーは頭に手を当て、うつむいた。いつも突拍子の無い事で振り回されるため、ある程度、慣れてはいるがそれでも自重してほしい。
「いいえ、特には。ただ、隠れていても彼に声をかけられたので」
「え......」
そう静かに笑うセリフィア。その様子を見て、ミルシーは頭痛にも近い感覚を感じる。
「お願いですから、軽率な行動は慎んでください」
「分かってます」
返事をしてくれたのなら、多少は効力がある。そう信じて、ミルシーは何も言わなかった。
「ねぇ」
「なんでしょう?」
「君は、この二人のような関係の子はいるの?」
「ここまで仲のいい人物はいませんね」
「そう」
セリフィアの瞳が一瞬、揺れた。淡く、脆いものを見るように揺らいでいた。
その光景は表面だけ見れば、静かに紅茶を飲む少女という、何処にでもありそうな光景、しかし淡いその目は見た目以上に距離があるように思えた。
しばらくして、人類は一人になり寝室で眠りについた。その男性が風邪をひいていた事を見ていたセリフィアは、「これくらいは、しないといけませんよね」と言い、指を回す。
「本来であれば、あまり特別視をしてはいけませんよ」
「ええ、分かっています。これは私からのお茶会のお礼と謝罪です」
こういう事なら文句はないでしょう?と告げられ、青年に目を向ける。
青年は先ほどまで息が少し荒かったが、今は軽い寝息に変わっていた。
その様子を見てセリフィアは安堵したような素振りを見せ、投影を解除し、お茶菓子に手を伸ばした。
紅茶を飲み、星空を見るセリフィアを見て、ミルシーはセリフィアに一礼し、紅葉の葉が落ちるその場を立ち去ることにした。セリフィアの捜索は最優先ではあるが、他にもやることがあるのだ。
セリフィアに背を向け数歩、歩きだす。その背後でセリフィアの「一人のために魔法を使ったのは、いつ以来でしょうね」という独り言を聞いて、もう一度釘を刺しておいた方が良いのでは?と、後ろを振り返る。
しかし彼女は何も答えるつもりも、聞くつもりもないのか紅茶を机の上に置き、夜空を見上げながら目を閉じていた。




