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数億年後の君へ  作者: 櫛名
第二章
35/37

全てが終わった後に


啓示派の拠点から帰ってきた翌日、律は小隊長室でルージュと共に報告書を書いていた。


啓示派の掃討が終わったとたんに報告書というのは少し堪えるものがあるが、今回の指揮官は律であるため軍規に基づきどちらにせよ書く必要がある。そのため文句を言いつつも啓示派との戦闘や目撃した装備などを殴り書きしていたのだが、ふと今回の収穫に疑念がよぎった。


「なぁ、今回収穫あったか?ロス博士の裏切りと司教の拘束以外なくないか?」

「いいや、割とあったそうだぞ」


ルージュは紅茶を片手に返事をする。


「まずはさっきお前が言ったがロス博士の裏切り、そして司教の捕獲だな。追加された収穫は、東門地下の件あっただろ?あれ司教を尋問したら監督者とグルだということが分かった。確実に軍法会議行きだな。」

「なんとまぁ......」


かなり大胆な裏切り行為である。バレないとでも思ったのだろうか。それともそれを承知の上でやる価値があると惑わせる報酬があったのか。まぁ今は何も分からないが後々、軍法会議の判決で分かるだろう。


律はクッキーを一口かみ砕き報告書にペンを立てる。


「そしてあいつらの技術拠点がある場所などもありがたいことに吐いてくれた。そこを潰せばあいつらは中世まで後退するだろう。」

「そんな重要な情報持ってた司教だったのかあいつ」


技術拠点は通常トップシークレットだ。それを知っている重要人物を何故あの程度の護衛で守っているのか、啓示派もよく分からない組織である。


「あれ知らないのか律」


何をだろうか。とルージュに振り向き顔を見る。


「あぁ......」


ルージュは呆れたような律の目を見て何か納得した様子を見せ、無言で数回頷く。


彼が何を察したのか、表情からはでは読み取れなかったが、いつものふざけた様子はなくむしろ真剣に、情報部としての顔で目利きをしているようだった。


「まぁお前なら問題ないだろう。情報へのアクセスライセンスもどうせ持ってるだろうしな、この場で教えてやる。」


筆を一旦隅に浸し、ルージュは律の方を向き目を細めた。


「啓示派は総大司教をトップにしていることは知ってるな」

「そりゃ旧時代の宗教団体が合わさった奴だからな」


啓示派の起源は初代皇帝が当時の宗教を危険と判断したのが始まりだ。


しかし弱い人類には宗教は必要であった、何か安心できる材料が必要だったのだ。そこで当時の皇帝は無形な信仰対象ではなく、存在している神霊種を信仰の対象にしろと勅命を出した。


その結果、皇帝に反発した無形の存在を信仰対象としていた派閥が集まり、その全てが信仰の対象であるとしてまとまったのが啓示派である。


「そうだな。そしてここからがお前の知らなかった情報だと思うが、総大司教の下は大司教と司教で、その階位は合わせても大体10名くらいしかいないらしい」

「......もしや意外と大物だったのか?」


律は目を見開き、呆けた顔をしてしまった。開いた口が塞がらないとはまさにこのことだろう。


かなり長い年数帝国に向けて妨害工作をしている組織なだけあって、上層部はもっと分割しているのかと思っていたのだが。今のルージュの内容が真実なら案外中央集権体制なのかもしれない。


「そうだぞ。だから大人しく引いたんじゃないか。できる事なら司教もグレネードでぶっ飛ばしたいぞ俺は」


独り言のように呟き、ペンをカリカリと立てながら少し苛立つような素振りを見せる。どうやら相当やりたかったらしい。


「まぁ、お前基本的に管理者しか相手しないもんな。話されてなくて当然か」

「一応肩書は防衛大臣直下対管理者用特殊部隊、隊長だからな」

「何回聞いても名前いかついよな」

「個人的にはこの長ったらしい名前。いい加減何とかしてほしいんだがな」


覚えやすい名前ではあるが、所属名を聞かれた場合は非常にめんどくさい。律ですら億劫に思うのだ、それよりも多く所属を聞かれる小隊員はもっとだろう。


「まぁいいじゃないか。優秀な人たちの贅沢な悩みと言う奴だよ」

「本当にそう思ってるのか......?」

「まぁ半分は思ってるさ」


目をつぶり肩をすくめている姿を見るに思っていなさそうではあるが、まぁ今更だろう。


「そういやお前に苦情が一つ上がってたぞ」

「俺に?何かしたっけ」

「拠点に攻め込む前、魔道砲の攻撃切っただろ?あれ新兵になんも参考にならんし、それどころか悪影響かもしれないから次からは気を付けるように、だそうだ」

「あれ切らなきゃ俺ら死んでたよな」

「そうだな。だから事前に注意しろってことじゃないのか?」

「めんどくさいな。まぁ、分かったとだけ苦情を入れた奴に返しておいてくれ」

「あいよ。......所で話は変わるが。お前今日なんかあるのか?」


何故か予定を急に聞き出すルージュ。何かおかしなことでもあったのだろうか。


「今日はないがどうした?」

「いや報告書、書くスピードがいつもより早いからな。何か予定でもあるのかなと」

「偶然だろ、予定って言っても明日の仕事終わりにあるくらいだし」

「あぁ、いつもと同じ人か?」

「......何故」


ルージュには一度しか話したことが無いはずであるが、何故感づかれているのだろうか。


涼しい顔で報告書を書きながらそう言ったルージュを疑う視線で見ると、彼はペンを置きこちらに視線を合わせてくる。


「何故か、まぁ長年の勘とお前は滅多なことでは家に人を入れない。つまり十中八九前に話してくれた人と夕飯の食卓を囲んでいるんだろ?一度入れた人ならお前も特に抵抗しないだろうしな」


律から視線を外し書類を持ち上げ二枚目を取り出すルージュ。


言動から察するに長年の経験ですべて見透かされているようだ。本当に人を良く見ている、厄介なほどに。


「まぁそんなところだ」

「面白そうな人物なら俺にも紹介してくれよ。お前と気が合うなら楽しいだろうし」

「そうだな。ただ機会があればだな軍の人間ではないし」

「......そうか。ではその機会を待つとするか」

「あぁ、そうしてくれ」


もし、この場でその人物が前に話していた化け物と知ったら、一体どんな表情をするのか。個人的には非常に気になったが、それ以上に彼女のことがばれたら相当大事になりそうだ。それは彼女も望むことではないだろう。室内では本を読んでいるだけの普通の少女なのだから。


「さて、こんな薄い紙きれさっさと終わらせようぜ......」

「それもそうだな。これが終わらなければ何もできんし、何もさせてくれないからな」


なんとも厄介な決まりではあるが、甘んじて受け入れるしかない。それが軍規なのだから。


「あ、そういえばお前。その報告書提出したら正式に少将に昇進らしいぞ、良かったな」

「は?聞いてないぞ」

「そりゃ帝国三大臣と皇帝がうっきうきで決めてたからな。今朝」

「......訳が分からんが、どうせ皇帝の悪乗りだな?」

「それは......そうだなうん」


腕を組みながら何回も頷くルージュ。その姿を見ながら律は机に肘をつき今にも倒れそうな頭を支える。


(あの気分屋(皇帝)が、これ以上地位なんていらんと何度言ったら分かるんだ)


まったく厄介この上ない。下手な嫌がらせよりも、こういった公私混同が野心の大きい将校の憎悪を逆撫ですると何故分からないのか。


「まぁいいじゃないか。それに時間の問題だったと思うぞ、お前の戦果的に」

「そうであってもだ」


年齢を考えれば、最低あと数年は大佐にしてその後上げれば割と平和的に終わるのだ。なのになぜそれをしないのか、まったく意味が分からない。あの皇帝は何が見えているというのか、それとも何も見えていないのか......。


うなだれる律をルージュは報告書を書きながら笑い「まぁまぁ」と宥める。


「まぁ諦めろ。すでに確定している事実だ」

「ルージュお前が代わりに少将やらないか?」

「それは無理な話だな、俺じゃ武の力が足りない」


目線で諦めたまえとルージュに言われてしまい。律は机に突っ伏す。


(あの野郎今度こそ許さん)


次皇帝にあったら絶対その場で文句を言ってやると心に決め、ため息を着きつつも律は書類に向き直る。


軍に居る以上、上からの命令は絶対だ。それがたとえ理不尽の極みであろうとも。それを拒否は出来ない。


「まぁ気やすめだろうが安心しろ。後ろは守ってやるからよ」


ルージュはそう優しい視線で諭してくる。どうやら彼は少将という地位にも耐えられると信じているようだ。実際のところこいつが後ろを守ってくれるならば大抵のことは大丈夫だろう。そう確信できる。彼は気休めと言ったが謙遜も甚だしい、それだけの律にはない力が彼にはあるのだから。


「......そうだな。頼りにしている」

「おう、それならさっさと終わらせるんだな」



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